参加者による報告

生命の起源に魅了されて  

久城哲夫
明治大学農学部 准教授
  当時、宇宙研におられた清水幹夫先生には、私が小学生の頃に一度お会いしたことがありました。その後、清水先生のお名前を再び目にしましたのは、私が大学院修士課程に在籍中に、ふと新聞で先生のお名前を見つけた時でした。宇宙の研究をされているものとばかり思っていましたが、新聞に書かれていた記事には、生命の起源、特に遺伝暗号の起源に関する研究のことが掲載されていました。これはちょうど、文部省の研究班、「RNAの世界」、の公開シンポジウムに合わせた記事でありましたが、早速、このシンポジウムに参加することにしました。それまで、漠然と生命の起源について関心は持っていたものの、このとき始めて、生命の起源が具体的な研究対象となりうること、そして化学の言葉で語れるのだということを強く認識しました。特に、遺伝暗号の鍵を握るtRNAに関する化学的または生化学的な研究には大変興味を抱き、tRNAを突き詰めれば遺伝暗号がなぜ、どのように成立したかが分かるだろうと感じました。
  その後、この時の経験が元となり、アメリカでのポスドクを考えていた私は、tRNAの研究で著名なスクリプス研究所のPaul Schimmel研究室を選ぶことになりました。人の縁は大変不思議で、Schimmel研に偶然にも清水先生のお弟子さんである田村浩二先生が在籍しておられたことには大変びっくり致しました。以来、田村先生とは清水先生の話や、遺伝暗号も含めた生命の起源全般に関する議論をたくさんして参りました。
  今回、夏の学校には、清水先生だけでなく、渡辺公綱先生や大島泰郎先生のお弟子さんの方々も多く参加されており、先人の先生方の研究が脈々と受け継がれている様子を伺えてとても嬉しく感じました。生命の起源の研究には様々な次元があり、その範疇は大変広いものであります。一つの専門領域に捕われることなく、幅広い視点に立った研究が求められていると感じます。夏の学校が、コミュニティーの一層の拡大、そして複合領域的な研究を生み出す場になることを願っております。