一般講演14

酵素非存在環境におけるRNA分子のポリマー化

根本 遼平
東京理科大学大学院 基礎工学研究科 生物工学専攻
  地球上の生物は、遺伝情報としてDNAやRNA、生体反応の触媒としてタンパク質を利用して生命としての活動を維持しています。しかし、生命が出現した瞬間から、そのような複雑なシステムが存在したとは考えられません。そこで、生命の起原として現在もっとも有力視されているのが、RNAワールド仮説です。これは、初期生命が、遺伝情報および生体触媒としてRNAを利用していたとする説で、この仮説によれば、その後、システムにDNAやタンパク質が取り入れられたことで、現在のような生命の形が生まれたとされています。
  一方で、RNAワールド仮説には一般に指摘されている問題点の他に、大きな問題が存在します。すなわち、遺伝情報や触媒活性を有したRNAが原始地球上でどのように生成したのか、という疑問です。たった4種類の塩基からなるRNAが遺伝情報を担ったり、触媒としての機能を有するには、ポリヌクレオチドが必要になるであろう事は想像に難くありません。しかし、RNAのモノマーから、各機能を有したRNAポリマーが生成する反応は非常に起こりにくいものであり、この反応をいかに進行させるかが、生命の起原の探求において重要なステップであると考えられます。
  t現在の生命システムにおいては、RNAポリメラーゼ等の酵素により、モノマーからポリマーの合成反応が触媒されています。本研究は、その酵素と同様の働きを有し、かつ酵素のような複雑な構造を持たない物質が生命出現以前から存在し、RNAポリマー合成に際して触媒として働いたのであろうと想像する立場から、その触媒物質の探索を通して初期生命の出現モデルの構築を目指しています。
  tRNAのモノマーとして、AMPの5’末端に2-メチルイミダゾールを付加して求核性を高めた2-MeImpAと呼ばれる物質を使用し、選択した触媒物質を反応系に添加して、ポリマー化反応が酵素非依存的に進行するかを観察しました。クロマトグラフィーと質量分析を使用した解析により、現在までに、2分子および3分子からなるオリゴヌクレオチドが、ある物質を添加した際に合成されることを確認しています。今後、その物質の類似体を使用し、その物質のどこが触媒として働くのに重要であるのかを検討したいと考えています。