HELICAL STRUCTURES OF HETEROCHIRAL DNA DIMERS AND COMPARISON WITH RNA DIMERS

Hidehito Urata*, Yoshihiro Hirata, Takako Toji, Ikumi Ochiai and Masao Akagi
Osaka University of Pharmaceutical Sciences, 4-20-1 Nasahara, Takatsuki, Osaka 569-1094, Japan
Kitashirakawa Oiwake-cho, Sakyo-ku, Kyoto, Japan 606-8502
Email: urata@gly.oups.ac.jp
(Received October 8, 2011; Accepted November 30, 2011)

(Abstract)

   We synthesized four diastereomeric isomers [D-d(ApA), d(ADpAL), d(ALpAD), L-d(ApA)] of 2’-deoxyadenylyl-(3’-5’)-2’-deoxyadenosine and investigated the chemical and helical structures of the dimers by means of enzymatic digestion, circular dichroism (CD) and UV melting experiments of their complexes with poly(U). The results of enzymatic digestion experiments with nuclease P1 and snake venom phosphodiesterase (SVPD) confirmed the chemical structures of the dimers. The CD spectra of the dimers suggested that heterochiral d(ALpAD) has a right-handed helical sense as well as natural D-d(ApA), whereas d(ADpAL) has a left-handed helical sense as well as L-d(ApA), an unnatural enantiomer of D-d(ApA). The right-handed helix-forming ability of the dimers in the presence of the complementary strand was also investigated by UV melting experiments of the triple helices formed by the dimers with D-poly(U). The results showed that D-(ApA), d(ALpAD) and d(ADpAL) form relatively stable triple helices with poly(U), whereas L-d(ApA) is unable to hybridize with poly(U). Thus, the propensities of D-(ApA), d(ALpAD) and d(ADpAL) to form the right-handed helical structure with complementary strands are not much different from each other, in contrast, that of L-d(ApA) is quite low. On the basis of these results, the chemical evolution of RNA and the origin of the homochirality of RNA were discussed

(Keywords)
homochirality of nucleic acid, 2’-deoxyadenylyl-(3’→5’)-2’-deoxyadenosine [d(ApA)], structure of heterochiral DNA, chemical evolution of RNA, RNA world

ヘテロキラルDNAダイマーの右巻きらせん形成能およびRNAダイマーとの比較

浦田秀仁*,平田好宏,田路貴子,落合郁美,赤木昌夫
大阪薬科大学 機能分子創製化学研究室
〒569-1094大阪府高槻市奈佐原4-20-1

要旨
    自己複製分子のホモキラリティーの確立とRNAワールド仮説との関連を考察する一環として,2’-deoxyadenylyl-(3’-5’)-2’-deoxyadenosine [d(ApA)]の4種の光学異性体 [D-d(ApA), d(ADpAL), d(ALpAD), L-d(ApA)]を合成し,それらの右巻きらせん形成能について検討を行った.円二色性 (CD) スペクトルからD-d(ApA)とd(ALpAD)は右巻きらせんを,L-d(ApA)とd(ADpAL)は左巻きらせんを形成することが明らかになったが,これらのpoly(U)との三重鎖形成能を指標とした右巻きらせん形成能を評価したところ,ヘテロキラルなd(ALpAD)およびd(ADpAL)の右巻きらせん性に大きな差違はなく,また,D-d(ApA)のそれとも顕著な差がないことが明らかになった.以上の結果から,DNAダイマーの3’-末端側残基のキラリティーがpoly(U)との三重鎖形成能に及ぼす効果はRNAダイマーの場合ほど強くないことが明らかになった.今回得られた知見を基に,RNAの化学進化とホモキラリティーの起源について考察した.

1. 緒言

RNAに触媒作用が見出されて以来、RNAが生命の前駆物質であったとするRNAワールド仮説が支持されてきた[1].しかし,このRNAワールド仮説にも,(1) 触媒活性を持つような比較的長鎖のRNAがどのようにして生成したか,(2) RNAの高次構造形成や触媒活性の獲得に不可欠とされているホモキラリティーがどうのようにして達成されたかといった問題が残されている.糖やアミノ酸は不斉炭素原子を有し,D型とL型の2種の光学異性体が存在可能で,原始地球上で酵素のようなキラル触媒なしに生成したであろう生体分子は,D型とL型の1:1の混合物であるラセミ体として生成したと考えられる.核酸はD-(デオキシ)リボースを構成糖としたD-ヌクレオチドが重合したポリマーでD-ホモキラリティーを有している.このD-ホモキラリティーは核酸の高次構造形成や機能発現に不可欠なものと考えられており,ホモキラリティーの確立なしに現在の生命システムの出現はあり得なかったと考えられる.つまり,RNAワールド仮説を検証していく上で,ラセミ体ヌクレオチドからどのようにしてD-ホモキラルな核酸が生成したかというhomochiral selectionの問題は避けて通れない.
     JoyceらはRNAを鋳型に用いたラセミ体モノヌクレオチドの非酵素的重合反応を検討し[2],同様にD型モノヌクレオチドを重合させた場合と比べ,その重合効率が極端に低下することを報告している[3].この「エナンチオ交叉阻害」の問題は核酸の化学進化を考える上で,また核酸のホモキラリティーの成立を考える上でも最も大きな問題の1つである.著者らはラセミ体モノヌクレオチドの非酵素的重合反応に着目し,粘土鉱物を触媒に用いてラセミ体モノマーの重合反応を行ったところ,様々な結合異性体とともに,ホモキラルなオリゴマーとD-ヌクレオチドとL-ヌクレオチドが混在するヘテロキラルなオリゴマーが生成することを明らかにした[4,5].このようにRNAの化学進化の過程で存在したであろうヘテロキラルなRNAオリゴマーとホモキラルなRNAオリゴマーの構造化学的性質の相違が,ラセミ体モノヌクレオチドからD-ホモキラルなRNAへの化学進化に寄与した可能性を検証する目的で,ホモキラルおよびヘテロキラルなRNAダイマーのらせん形成能を比較検討し報告してきた[6,7].天然型アデニル酸の二量体であるadenylyl(3’-5’)adenosine[以下D-(ApA)]は右巻きらせんを形成し,そのエナンチオマーであるL-(ApA)は左巻きらせんを形成することはTazawaらにより報告されているが[8],著者らはヘテロキラルなALpAD,ADpALではその3’末端側残基のキラリティーがらせんの巻き方を決定していることを明らかにし,このことが鋳型を用いたラセミ体モノヌクレオチドの非酵素的重合反応に及ぼす影響について考察した[7].
    今回,RNAが,RNAワールドの主役として鋳型活性を持つ自己複製分子として,また触媒作用を持つリボザイムとして化学進化を遂げてきた背景に,その構造化学的性質がDNAとはどのように相違しているかを調べる目的で,DNAダイマーであるd(ApA)の4種の光学異性体[D-d(ApA), d(ADpAL), d(ALpAD), L-d(ApA)]を合成し,それらの構造化学的性質について以下の検討を行った.

2. 実験

2.1. 試薬
    Nuclease P1およびsnake venom phosphodiesterase (SVPD) はそれぞれヤマサ醤油,ベーリンガー社製を用いた.Poly(U)はアマシャムファルマシア社製を用いた.2’-デオキシ-L-アデノシンは著者らが開発した方法により合成し[9],また,各d(ApA)光学異性体[D-(ApA), シアデノシン,L-デオキシアデノシンを出発原料としてリン酸トリエステル法[10]により合成した.

2.2. 核酸分解酵素による分解反応
(a) Nuclease P1による分解
     凍結乾燥した各d(ApA)異性体(1 OD unit)にMilliQ水10 μl, 0.2 M 酢酸アンモニウム (pH 5.0) 4 μlを加え,nuclease P1 (1 mg/ml) 2 μlを加え,37°Cで3h反応させた後,30 mM EDTA 4 μlを加えた.
(b) Snake venom phosphodiestrase (SVPD) による分解
     凍結乾燥した各d(ApA)異性体(1 OD unit)に10 mM MgCl2, 50 mM Tris-HCl (pH 8.0) 14 μlを加え,SVPD (0.5 mg/ml) 1 μlを加え,37 °Cで3h反応させた後,30 mM EDTA 4 μlを加えた.
     以上の酵素分解物をMillipore社製Ultrafree-MC (10,000 NMWL) を用いて限外ろ過後,島津製作所製LC-10Aシステムを用いた高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により分析した.カラムはWaters製μBondasphere 5C18 100Å (Φ3.9 x 150 mm)を用い,溶出は50 mM KH2PO4 (pH 4.0)を含むアセトニトリルの直線濃度勾配(0-10%/20min)で行った.

2.3. d(ApA)異性体のモル吸光係数の測定
     L-d(ApA)以外の各d(ApA)異性体について,6本のポリプロピレン製試験管に正確に2.5 OD unitsずつ凍結乾燥し,そのうち3本は上記と同様にnuclease P1あるいは SVPDによる酵素反応に付し,デオキシアデノシンと5’-dAMPに完全分解した.残りの3本は酵素を加えないこと以外はまったく同様に操作し,反応後0.1 M NaCl, 10 mM NaH2PO4 (pH 7.0) 3 mlに溶解し,260 nmにおける25 °Cでの吸光度を測定した.デオキシアデノシンと5’-dAMPのモル吸光係数に,分解によって生じるhyperchromicityを考慮して各ダイマーのモル吸光係数を求めた.D-d(ApA)およびd(ALpAD)はnuclease P1,d(ADpAL)はSVPDにより分解反応を行ったが,いずれの酵素にも完全分解されないL-d(ApA)のモル吸光係数はD-d(ApA)と同一と仮定した.各d(ApA)異性体のモル吸光係数はD-d(ApA); 25,700, d(ADpAL); 26,800, d(ALpAD); 27,200, L-d(ApA); 25,700 [L/mol•cm]であった.

2.4. CDスペクトルの測定
     凍結乾燥した各d(ApA)異性体に0.1 M NaCl, 10 mM NaH2PO4 (pH 7.0) を加え,ダイマー濃度40 mMとしたサンプル溶液を光路長1cmのセルを用いて0 °Cで測定した.測定は日本分光社製J-820円二色性分散計により行った.

2.5. UV混合曲線
     総ヌクレオチド残基濃度が120 μMとなるように各d(ApA)異性体とpoly(U)を混合比0 %から100 %の範囲で適宜混合したサンプルを10 mM MgCl2, 10 mM Tris-HCl (pH 7.5)に溶解し,光路長1cmのセルを用いて0 °Cで260 nmにおける吸光度を測定した.測定は日本分光社製Ubest-55分光光度計により行った.

2.6. 融解曲線の測定
     ヌクレオチド残基濃度がApA 40 μM, poly(U) 80 μMとなるよう10 mM MgCl2, 10 mM Tris-HCl (pH 7.5) に溶解したサンプルを光路長1cmのセルに加え,温度コントロールユニットを装着した日本分光社製Ubest-55分光光度計により行った.温度は0 °Cから30 °Cまで0.5 °C /minの速度で昇温し,0.2 °C毎に260 nmにおける吸光度を測定した.融解温度(Tm値)は得られた融解曲線を1次微分して求めた.

3. 結果および考察

3.1. 各d(ApA)異性体に対する核酸分解酵素の反応性
     合成した各d(ApA)異性体の構造を確認する目的で,nuclease P1およびSVPDによる分解反応を行った (Fig. 1).天然型のD-d(ApA)はいずれの酵素によっても完全に分解され,対応するデオキシアデノシンおよび5’-dAMPを与えたが(Fig. 1A),その鏡像体であるL-(ApA)はいずれの酵素に対してもほぼ完全な抵抗性を示した(Fig. 1B).一方,ヘテロキラルなダイマーのうちd(ADpAL)はnuclease P1により完全に分解されたが,SVPDには抵抗し(Fig. 1C),その鏡像体であるd(ALpAD)は逆にSVPDにのみ分解された(Fig. 1D).この結果はRNAダイマーであるApA異性体の酵素分解実験と同様の傾向を示しており,3’-exonucleaseであるSVPDは3’-末端側のヌクレオチド残基を認識してd(ALpAD)を分解するものの,3’-末端側のヌクレオチド残基がL型であるd(ADpAL)を認識できないことを反映している.また,endonucleaseであるnuclease P1がd(ADpAL)を分解したことは,この酵素が加水分解するリン酸ジエステル結合の5’-末端側のヌクレオチド残基を認識していることを示している.以上の結果は各核酸分解酵素のRNAダイマーに対する基質認識特性と同様で[7],合成した各d(ApA)異性体の化学構造を確認することができた.



Figure 1. Reversed-phase HPLC analyses of D-d(ApA) (A), L-d(ApA) (B), d(ADpAL) (C) and d(ALpAD) (D) and their reactions with nuclease P1 and snake venom phosphodiesterase (SVPD). Elution was carried out on a column of φυBondasphere C18-100Å (Waters) with a linear gradient of CH3CN (0-10%) for 20 min in 50 mM KH2PO4, pH 4.0.

3.2. 各d(ApA)異性体のらせん構造
    上述のようにRNAダイマーであるApAは単独でらせん様構造を形成し,CDスペクトルからD-(ApA)は右巻きの,L-(ApA)は左巻きのらせん構造をそれぞれ形成すること,ヘテロキラルなApAについてはその3’末端側残基のキラリティーがらせんの巻き方を規定しており,ALpADは右巻き,ADpALは左巻きのらせん構造をそれぞれ形成することが明らかになっている[6,7].そこで,DNAダイマーであるd(ApA)の各異性体のCDスペクトルを測定したところ (Fig. 2),D-d(ApA)では269 nmと250 nmにそれぞれ正と負に分裂したほぼ同強度のCotton bandを示し,d(ALpAD)もやや強度は低下しているものの基本的には同様のスペクトルを示したことから,これらは右巻きのらせん構造をとっていることが示された.一方,L-d(ApA)とd(ADpAL)はそれぞれD-d(ApA)やd(ALpAD)と対称的なスペクトルを示しており,これらは左巻きのらせんを形成していることが確認できた.このように,DNAダイマーであるd(ApA)の各異性体のスペクトルは対応するRNAダイマーであるApAの各異性体のそれと類似しており,DNAの場合にも3’末端側残基のキラリティーがダイマーのらせんの巻き方を規定していることが明らかになった.



Figure 2. CD spectra of homochiral D- (solid line) and L-d(ApA) (dotted line) (A), and heterochiral d(ALpAD) (solid line) and d(ADpAL) (dotted line) (B). Concentration of dimers is 40 μM in 0.1 M NaCl, 10 mM sodium phosphate, pH 7.0. Measurements were carried out at 0 °C.

3.3. 各d(ApA)異性体のpoly(U)との三重鎖形成能
     RNAダイマーであるApAの各異性体はpoly(U)と三重らせん構造を形成することを既に報告したが[6,7],DNAダイマーであるd(ApA)の各異性体が相補鎖と複合体を形成するかをチミジル酸の20量体 (dT20) を用いて検討したが複合体の形成は認められなかったため,より安定に複合体を形成することが期待できるpoly(U)を用いて検討を行った.Fig. 3は各d(ApA)異性体とpoly(U)とのUV混合曲線を示している.核酸は二重鎖や三重鎖などの二次構造を形成するとUV吸収強度が低下する淡色化が認められる.d(ApA)の各異性体を様々な割合でpoly(U)と混合すると,D-d(ApA), d(ADpAL)およびd(ALpAD)についてはAとUの残基モル比が約1 : 2のところで吸光度の極小値(淡色率の極大値)が認められ(Fig. 3A, B and C),三重鎖を形成していることがわかる.一方,同じ条件でL-d(ApA)の場合には極小値は認められず,poly(U)との間で二重鎖や三重鎖の形成はないことがわかった (Fig. 3D).



Figure 3. UV-mixing curves of D-d(ApA) (A), ALpAD (B), ADpAL (C) and L-(ApA) (D) with poly(U) in 10 mM MgCl2, 10 mM Tris-HCl, pH 7.5 at 0 °C. Total nucleotide concentration is 120 μM.

     次に,これらの三重鎖の熱安定性を評価したのがFig. 4で,各三重鎖の熱による融解に伴う吸光度変化を示している.また,この融解曲線から求めた融解温度(Tm値)をFig. 5Aに示している.この中でD-d(ApA)・2poly(U)は有意に高い熱安定性を示しており (Tm値16.2 °C),次いで d(ALpAD)・2poly(U)とd(ADpAL)・2poly(U)が類似のTm値(13.2 °C, 11.8 °C)を示し,L-d(ApA)はpoly(U)との間で高次構造は形成せず,poly(U)単独での融解と一致する融解曲線が得られたのみであった (Fig. 4, open triangles).
     一方で,以前著者らが報告したようにRNAダイマーではD-(ApA)・2poly(U)とALpAD・2poly(U)がほぼ同等の高い安定性を有し (Tm; 14.7 °C, 13.7 °C),ADpAL・2poly(U)とL-(ApA)・2poly(U)はともに安定性が大きく低下(Tm; 6.6 °C, 5.7 °C)していたことから (Fig. 5B) [6,7],d(ApA)各異性体の右巻きらせん形成能について次のように考察できる.D-d(ApA)・2poly(U)は最も高い安定性を示したことから,D-d(ApA)は最も高い右巻きらせん形成能を有しており,次いでd(ALpAD)・2poly(U)とd(ADpAL)・2poly(U)が同等の安定性を示した.このことからd(ALpAD)とd(ADpAL)は,これら単独ではそれぞれ右巻き,左巻きのらせんを形成しているが,poly(U)存在下ではD-d(ApA)にはやや劣るもののほぼ同程度の右巻きらせん形成能を有していることがわかる.これに対して三重鎖を形成しなかったL-d(ApA)は他の異性体と比べ右巻きらせん形成能が著しく低下しているためにpoly(U)と高次構造を形成できなかったと考えられる.Fig. 5に示しているように,今回のDNAダイマーでの結果は,ヘテロキラルな2種のダイマー[d(ALpAD),d(ADpAL)]のpoly(U)との三重鎖成能が類似しているが (Fig. 5A),ヘテロキラルなRNAダイマー[ALpAD,ADpAL]のそれは顕著に異なっている (Fig. 5B) 点で興味深い.



Figure 4. UV-melting profiles of the triplexes of D-d(ApA) (closed circles), ALpAD (open circles), ADpAL (closed triangles), and L-(ApA) (open triangles) with poly(U). Nucleotide concentration is 40 μM for dimers and 80 μM for poly(U) in 10 mM MgCl2, 10 mM Tris-HCl, pH 7.5. The Tm values in the text and Figure 5 were determined from the first-derivative plots of the profiles.



Figure 5. Histogram of melting temperatures of the triplexes formed by each isomer of DNA dimer (A) and RNA dimer (B) with poly(U).

3.4. 各d(ApA)異性体のらせん構造と自己複製分子の化学進化に関する考察
     現存生物のDNAやRNAの生合成反応は5’→3’方向に鎖の伸長が行われており,生命誕生以前の自己複製分子の化学進化も同様の方向に鋳型指示重合反応が起こったと考えると,今回の結果から次のような考察が可能であろう.DNAとRNAを比較すると,RNAのほうが鋳型指示重合反応が効率よく進行するとされているが[11],homochiral selectionの観点からは単に重合反応効率だけでなく,同種のキラリティーを持つモノマーやオリゴマー間での反応効率と,異種のキラリティーを持つそれらの間での反応効率との比が重要になってくる.
     鋳型指示重合反応は鋳型上にモノヌクレオチドが整列して重合が進行するが,ダイマーの生成速度がより長鎖のオリゴマーの生成に重要であるとの報告がある[12].このことは,ダイマーが鋳型指示重合反応において“核”となり,これを足場にしてより長鎖のオリゴマーへ成長していくことを示唆している.このような,ダイマーが“核”として重合反応に適した性質(プライマー活性)を有するか否かが,鋳型指示重合反応の効率を左右すると考えることができる.上述のように,各RNAダイマーとpoly(U)の三重鎖の安定性から,3’-末端側にL型のアデノシンをもつL-(ApA)およびADpALでは相補鎖RNAとの三重鎖が非常に不安定になる.従って,鋳型指示重合反応で生成する3’-末端にL型ヌクレオチドを持つダイマーは鋳型鎖との複合体形成に大きく不利に働き,プライマー活性が乏しく,それ以降の伸長反応がほとんど期待できない.逆に,3’-末端側にD型のアデノシンをもつD-(ApA)およびALpADでは相補鎖RNAとの三重鎖が安定なため,プライマー活性が高く,それ以降の重合もプライマー末端と立体適合性の良いD型のモノマーが取り込まれやすくなりhomochiral selectivityが発現しやすいと考えられる.
     一方,今回の各DNAダイマーとpoly(U)との三重鎖の安定性は,D-d(ApA)の場合に最も高かったが,ついでヘテロキラルなd(ALpAD)とd(ADpAL)が同程度の安定性を示したが,これら2種のヘテロキラルダイマーのpoly(U)との三重鎖形成能はD-d(ApA)のそれと比べてやや劣るものの顕著な差はなく,この3種のダイマーは基本的に同レベルのプライマー活性を有すると考えられる.従って、プライマー活性をもつダイマーとして,3’-末端側ヌクレオチド残基のキラリティーが異なるものが混在するため,DNAの場合にはRNAと比べhomochiral selectionの観点で不利になると考えられる.以上の結果は,自己複製分子の化学進化を考える上で,重合効率,触媒活性獲得能の点以外にhomochiral selectionの点においてもDNAよりRNAが優れている可能性があったことを示すもので,酵素の存在しなかった原始地球上ではこうしたRNAの性質が,その自己複製分子としての化学進化の方向を方向付ける上で不可欠であったかもしれない.

4. 結論

    d(ApA)の4種の光学異性体のらせん構造をCDスペクトルにより解析し,さらにpoly(U)との三重鎖の熱安定性の比較により各d(ApA)異性体の右巻きらせん性を評価した.この結果から,モノヌクレオチドの鋳型指示重合反応におけるhomochiral selectionの問題を考えると,自己複製分子としてDNAよりむしろRNAに優位性があり,こうした側面からもRNAが生命の前駆物質として化学進化したとするRNAワールド仮説の合理性が支持された.

参考文献

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