MAGIC 20 AND THE ORIGINS OF LIFE

Tairo Oshima
Institute of Environmental Microbiology, Kyowa-kako, Machida, Tokyo 194-0035, Japan
Tel: 042-791-2117
E-mail: tairo.oshima@kyowa-kako.co.jp
(Received July 29, 2011; Accepted August 26, 2011)

(Abstract)

     Twenty amino acids used for protein synthesis during the translation processes, are often called as Magic 20. When and how members of the magic 20 are selected are fundamental subjects for the studies on origins of life. The magic 20 shares three common chemical features; (1) all are so-to-speak "alpha amino acids", that is, the alpha carbon atom is combined with one each of amino group and carboxyl group, (2) the alpha carbon atom of all members is also combined with a hydrogen atom and this hydrogen atom is seated at the specific site of the alpha carbon given raise to L-amino acids if the last position is occupied with any atoms or groups other than hydrogen, and (3) the last position remained at the alpha carbon is substituted with either hydrogen atom or methyl or substituted methyl groups. At moment, any chemical evolution experiment so far carried out could not explain the origin of these unique features of chemical structure. The selection of side chain structures seems to be fortuitous or fitful since no rational basis can be found. The author encourages artificial life-synthesis studies rather than simulated primitive-earth experiments to understand the origins of the magic 20.

This article is dedicated to the memory of Dr. Kaoru Harada.

(Keywords)
protein amino acid, synthesis of artificial life, translation, archaea, membrane lipid


Magic 20と生命の起原

大島泰郎
共和化工・環境微生物学研究所
〒194-0035東京都町田市忠生二丁目15
Tel: 042-791-2117
E-mail: tairo.oshima@kyowa-kako.co.jp

要旨

    マジック20,すなわち20種のタンパク性アミノ酸がいかにして選ばれたかは,生命の起原研究にとって根元的な課題である.マジック20は精緻な選択を受けて選ばれたのではないと思われる.この問題の有効な研究法として,生命合成的な実験研究を提案する.

1. Magic 20 アミノ酸

    たんぱく質の構成成分となる20種のアミノ酸を「Magic 20」と呼びはじめたのはCrickとされている[1].厳密には,普遍暗号によりコードされる20種類のアミノ酸のことであり,生体のたんぱく質の構成アミノ酸は,翻訳後修飾を受けるので,はるかに多い種類である.おそらく生物界で見出されるたんぱく質の構成アミノ酸が何種類になるかは誰も知らないであろう.Magic 20以外のアミノ酸は量も少ないと思いがちであるが,コラーゲン中のオキシプロリンは,コラーゲン繊維中の数十パーセントを占め,高等動物ではコラーゲンは最も大量に存在するたんぱく質であるから,Magic 20以外のアミノ酸の働きや代謝は無視できない.
      さらに厳密にいうと,普遍暗号によりコードされ,翻訳過程でポリペプチド鎖に取り込まれるアミノ酸の総数はセレノシステイン[2]と古細菌に限られるがピロリシン[3]が加わるので,総数は20でなく22である.ここでは,厳密な数値は問題でないので,Magic 20 あるいは20種のタンパク性アミノ酸と表現する.
    また,Crickの論文はガモフが紹介者となって,Proc. Nat. Acad. Sci. U.S.A. に掲載されたもので,論文中ではMagic 20 でなく,the magic number 20 と記載されているが,今ではMagic 20 と表記される.Crickは,DNA中の4種のヌクレオチドが,どのようにして20のアミノ酸に対応するか,コドンの構造を論じているが,紹介者がガモフのためか,論文は「物理学」のセクションに掲載されている(この時点ではトリプレットコドンはまったく分かっていなかった).生物系の学者には,この論文のおもしろさや価値は理解を超えていたのかも知れない.いずれにせよ,これらのアミノ酸がなぜ,どうして選ばれたかは全くの謎,マジックである.もちろんMagic 20 がどのようにして選ばれたかは,生命の起原にかかわる根元的な課題である.しかし,これを正面に据えた研究はほとんどない.

2. Magic 20 に共通する化学

    化学構造の上からは,Magic 20 には共通の特長がある(Fig. 1参照).第一に,プロリンを除いて,すべてαアミノ酸である.有機化学的には「αアミノ酸」は,今では死語であるが,便利なので生化学の分野では今も使う.要するに,ある炭素原子にアミノ基とカルボキシル基が結合している.「プロリンを除いて」と書いたが,プロリンではカルボキシル基が結合している炭素原子にアミノ基に代わりイミノ基がついているので,仲間はずれというわけではない.
    第二は,さらにその炭素原子には,必ず水素原子が結合している.こうして2位の(古い表現ではα位の)炭素原子の4本の手のうち,3本まではアミノ基,カルボキシル基,水素原子に占められ,残る最後の結合に水素またはメチル基が結合し,そのメチル基にどんな原子団が来るかによって19種類のアミノ酸が決まる.第4の結合は,水素か炭素に限られていて,その他の原子が結合することはない.いいかえると,グリシン以外のMagic 20 のメンバーはすべてアラニンの誘導体である.たとえば,システインの同族体でより単純なCOOH(NH2)CHSHはあってもよさそうであるが,生物界では用いられない.タンパク性アミノ酸のこのような構造上の特長に気づいていない研究者もいるようであるが,不思議な性質である.
    第三の共通点は,「グリシンを除いてL型アミノ酸である」(D, Lも死語.しかし,SR表記をとると生体のアミノ酸は統一した表現ができないので,生化学の世界では今もD, Lを使う).生体のアミノ酸がL型であることはよく知られているが,化学構造上の特性は第二の特長として述べた水素原子が,「2位の炭素の立体的に決められた位置に結合している」ということである(グリシンを例外とする必要はない).すなわち,机の上にMagic 20のメンバーのどれかのアミノ酸を置き,2位の炭素に結合しているカルボキシル基を手前,アミノ基を遠く離れた位置で机上に固定すると,2位の炭素原子は両者の中間,机の表面から少し浮いた位置をとる.このとき,前項で述べた第二の特長の水素原子は,必ず炭素の右側に結合する.必然的に,残る水素またはメチル基は左側に位置するので,光学活性はL型となる.
    これらの化学構造上の特性がなぜ選ばれてきたかを説明できる唯一の仮説は,赤堀四郎先生の「ポリグリシン」説である.赤堀説はいわゆる発想の逆転である.原始地球上で,アミノ酸が生まれ,ポリペプチドが生まれたのでなく,メタンやアンモニアからできるアミノニトリルがまず重合して,ポリグリシンができ,そこへいろいろな側鎖が導入され,ポリペプチドになり,それが加水分解されてアミノ酸ができたという.この説では,2位の炭素には必ず水素原子が結合する.さらに,ポリグリシンが,粘土などの表面に吸着された状態で,側鎖の導入が一方の側からのみ行われれば,立体的にすべて同じ側のアミノ酸ができる.D型となるかL型かは五分五分である.
    赤堀先生は阪大時代の原田 薫さんの先生である.ついでに,大学は違うが私の卒研の指導教官も赤堀四郎先生である(当時,赤堀先生は複数の大学の多くの研究室を兼任されていた).私は,赤堀先生のポリグリシン説の証明実験をやってみたことがある.ポリグリシンは,安定な化合物で,簡単には側鎖の導入はできない.温度を上げたり,過酷な条件にすると,ペプチド基の方が反応性が高いから,そちらに側鎖が入ってしまう.結局,論文にもならず徒労であった.のちに,同じ赤堀先生の弟子の一人,花房先生もむかし試みたが,同じように末端やペプチド鎖が修飾される結果だったと聞いたことがある.残念ながらポリグリシン説は,原始地球上のアミノ酸の起原を説明する説とはなりそうにない.

3. 不合理なMagic 20

    本論文で主張したいことは,「Magic 20 は選び抜かれた数でなく,かなりでたらめに決まった組み合わせで,論理性はない」ということである.
    メンバーには,グルタミン酸とアスパラギン酸,グルタミンとアスパラギンというようにメチレン基一つの違いのアミノ酸がある(Fig. 2参照).しかし,多くの酵素で違う生物種間のアミノ酸配列の比較をすると,しばしばこれらの間の置換が見られ,また,人工的に置換してみても活性に影響しない例が多く見られる.これらはどちらか一つで十分だったのではないか?
    メチレン基一つの違いは,おおよそ5-7 Åの違いである.いいかえると,たんぱく質の立体構造の上で,カルボキシル基をその程度だけ位置をずらすに過ぎない.しかし,そのような微妙な配置が酵素触媒にとって決定的で,そのためにグルタミン酸とアスパラギン酸が共に選ばれたと主張したいなら,反対の極性基を持つ塩基性アミノ酸の選び方が説明できなくなる.
    リシンはグルタミン酸やアスパラギン酸と同じように直鎖のアミノ酸で,カルボキシル基の代わりに塩基性のアミノ基を末端に持つ.グルタミン酸に対するアスパラギン酸と同様に,メチレン基を減らすとオルニチンというアミノ酸になるが,これはMagic 20 には含まれない.オルニチンは,生体内の代謝で作りにくいのでやむを得ず,20のメンバーに入れなかったという説明は成立しない.オルニチンが尿素回路のメンバーであることから容易に想像できるように,このアミノ酸は生体に一番多く存在するアミノ酸の一つである.たくさんあるのに,蛋白質を合成するときのメンバーに入れていないのは,メンバーはいい加減に選んだことの証拠の一つである.
    このような不合理性は,疎水性アミノ酸の構造にも見られる.要するに,Magic 20 は気まぐれに選ばれたメンバーであって,選択の合理性はないように見える.



Figure 1. Magic 20 に共通する化学構造.2位の炭素原子に結合する水素原子の立体的な位置に関しては本文の説明を参照のこと.



Figure 2. グルタミン酸とアスパラギン酸,およびリシンとオルニチンの構造比較.

4. 生命を合成しよう

    私の提案は,Urey-Miller型の原始地球模擬実験をしていても,この課題は解決しないから,生命合成実験をしようというものである.Magic 19,いやMagic 12くらいの生物を合成して,20に意味はないことを証明してはどうかというものである.Venterらの人工細菌の合成[4]はこのような実験が,可能となったことを示している.
    Magic 19 の系はやや不完全であるが,すでに自然が作っている.高温下で好気的環境下では,C-S結合が壊れるので,好気性高度好熱菌の作るたんぱく質はしばしばシステインを一つも含まない[5,6].この場合,生物体でなくたんぱく質であるが,十分な活性を持つ酵素が19種のアミノ酸で作れる.すなわち,たんぱく質のレベルでは,Magic 19 は可能であることが示されている.好気性高度好熱菌の酵素でもシステインを含む場合があるが,システインは分子内部で,しかも疎水環境中に埋め込まれている.これらのシステインをメチオニンやセリンに替えても(活性は落ちるにしても)機能するのではないだろうか.生育はかなり悪くなるだろうが,Magic 19 生物は作れるような気がする.
    Magic 12 はどう選んだらよいだろうか.グルタミン酸とアスパラギン酸,グルタミンとアスパラギンはそれぞれどちらか一つ,トレオニンとセリンはセリンだけ,疎水性アミノ酸バリン,ロイシン,イソロイシンからはバリンだけ,フェニルアラニンとチロシンはチロシンだけ残し,好熱菌の例にならいシステインを除くとMagic 12 の生物ができそうである.

5. 生体分子の禁制律

    アミノ酸に限らず,生体分子は無数の可能な構造のうちのごく少数の分子に限定している.核酸は4種の塩基に限定している.これがどう選ばれてきたかも謎である.単糖のなかでは,核酸はD型のリボースかその誘導体しか使わない.
    最大の謎は,膜脂質の化学構造であろう(Fig. 3参照).原始生命は,成立するやいなや,古細菌と真正細菌という二つの異なる系統に分岐した.しかし,両者の膜脂質はまったく異なっている[7].共にグリセロール骨格に極性基と2個の炭化水素鎖を持っていることまでは共通である.まず,光学活性が違う.真正細菌はl(エル)型の,古細菌はd型のグリセロール(グリセロールは対称性のある分子で,そのものに光学活性はないが誘導基がつくと光学活性が誘起される),炭化水素鎖は古細菌がイソプレノイド型の骨格(=代謝経路上はメバロン酸の縮合産物),真正細菌は基本的に長鎖の脂肪酸(=代謝上は酢酸から生じるマルニル基の縮合産物),さらに炭化水素鎖とグリセロールとの結合が古細菌ではエーテル結合,真正細菌ではエステル結合である.一体,原始生命の細胞膜はどちらだったのだろうか?両者の脂質は,部分的には混在可能であるが,半々に近い組成で二重膜の形成はできるだろうか?

    これらの設問は,生命の起原研究にとって不可避のものである.



Figure 3. エーテル脂質とエステル脂質の構造比較.

References

1. Crick, F. H. C., Griffith, J. S. and L. E. Orgel, L. E. Codes without commas, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 43, 416-421, 1957.
2. Stadtman T. C. Selenocysteine, Annu Rev Biochem. 65, 83-100, 1996.
3. Theobald-Dietrich, A., Giege, R. and Rudinger-Thirion, J. Evidence for the existence in mRNAs of a hairpin element responsible for ribosome dependent pyrrolysine insertion into proteins, Biochimie. 87, 813?7, 2005.
4. Gibson, D. G. Glass, J. I., Lartigue, C., Noskov, V. N., Chuang, R. Y., Algire, M. A., Benders, G. A., Montague, M. G., Ma, L., Moodie, M. M., Merryman, C., Vashee, S., Krishnakumar, R., Assad-Garcia, N., Andrews-Pfannkoch, C., Denisova, E. A., Young, L., Qi, Z. Q., Segall-Shapiro, T. H., Calvey, C. H., Parmar, P. P., Hutchison, C. A., Smith, H. O. and Venter, J. C. Creation of a bacterial cell controlled by a chemically synthesized genome, Science 329, 52-56, 2010.
5. Kagawa, Y., Nojima, H., Nukiwa, N., Ishizuka, M., Nakajima, T., Yasuhara, T., Tanaka, T. and Oshima, T. High guanine plus cytosine content in the third letter of codons of an extreme thermophile: DNA sequence of the isopropylmalate dehydrogenase of Thermus thermophilus. J. Biol. Chem., 259, 2956-2960, 1984.
6. Ohnuma, M., Ganbe, T., Terui, Y., Niitsu, M., Sato, T., Tanaka, N., Tamakoshil, M., Samejima, K., Kumasaka, T. and Oshima, T. Crystal structure and enzymatic properties of a triamine/agmatine aminopropyltransferase from Thermus thermophilus, J. Mol. Biol. 408, 971-986, 2011.
7. Langworthy, T. L. Lipids of Archaebacteria, pp. 459-470, in Woese C. R. and Wolfe, R. S. Eds., The Bacteria Vol. 8, Academic Press, New York, 1985.

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