ORIGIN OF THE PEPTIDE-FORMING FUNCTION IN THE RIBOSOME

Koji Tamura1,2,3
1Department of Biological Science and Technology, and 2Research Institute for Science and Technology, Tokyo University of Science, 2641 Yamazaki, Noda, Chiba 278-8510, Japan 3PRESTO, Japan Science and Technology Agency, 4-1-8 Honcho, Kawaguchi, Saitama 332-0012, Japan
E-mail: koji@rs.tus.ac.jp
(Received July 12, 2011; Accepted September 13, 2011)

(Abstract)

Peptide bond formation catalyzed on the ribosome is a crucial event in the life on earth. The ribosome is a supercomplex of ribonucleoprotein particles containing both RNAs and proteins, and the peptide bond is produced on the peptidyl transferase center (PTC) of the large subunit of the ribosome. The high-resolution structures of the ribosome showed that the PTC is composed of only RNA. Although the ribosome seems to be a ribozyme, the foundation of the PTC and the evolutionary route of the ribosome are not clear. In this study, a possible evolutionary pathway for ribosome formation has been presented by combining a model experiment and the structural analysis of the ribosome. The current ribosome-catalyzed reaction could have evolved from a primitive system in the RNA world comprising proto-tRNA molecules like the minihelix. The missing link in the evolutionary route of the modern ribosome can be solved by considering tRNAs as primordial molecules comprising proto-ribosomes and proto-tRNAs, which form a symmetrical RNA dimer to constitute the PTC.

(Keywords)
ribosome; peptide bond formation; proto-tRNA; minihelix; RNA dimer; evolution

リボソームにおけるペプチド生成機構の起源

田村浩二1,2,3
1東京理科大学 基礎工学部 生物工学科
2東京理科大学 総合研究機構 〒278-8510 千葉県野田市山崎2641
3科学技術振興機構 さきがけ
〒332-0012 埼玉県川口市本町4-1-8
E-mail: koji@rs.tus.ac.jp

1.はじめに

   タンパク質の存在抜きにして地球上の生命は語れない.DNAの塩基の配列に刻まれた情報の解読は,3つ組の塩基が1つのアミノ酸を指定し,そのアミノ酸が順次結合することで最終的にタンパク質が生成されることによって完遂される [1].タンパク質の生成はリボソーム上で行われる.リボソームは50種以上のタンパク質と少なくとも3種類のRNAから構成される超複合体である [2].タンパク質はアミノ酸がアミド結合(ペプチド結合)を介して繋がっており,リボソーム上で合成される天然タンパク質はL-アミノ酸のみから構成されている.化学進化の過程でどのようにしてL-アミノ酸が選択されたのかを解明する試みについては他の文献を参照されたい [3-10].タンパク質は,通常,20種類の側鎖から構成されており,その化学的・構造的多様性により生命活動に多岐の能力を付与している.アミノ酸個々の性質からは計り知れないような効果が,アミノ酸が繋がって様々な構造を構成することにより,生み出されているのである.従って,生命の起源と進化の観点から,タンパク質がどのように生成されるようになったのかを解明することは,生命の本質にも迫ることになる.技術の発展により,ある程度の長さを持つペプチドですら化学的に合成できる時代になってはいるが,生命の本質と進化を理解する上では,原始地球上で生命体がどのようにタンパク質を合成し始め,リボソームを用いる現在のタンパク質の合成機構がどのように生み出されてきたのかを明らかにすることが肝要である.
     リボソームは大小2つのサブユニットから構成されており,大きく役割分担がされている.ぺプチド結合の生成はリボソームの大サブユニットで行われる.大サブユニット中のペプチジルトランスフェラーゼ中心(Peptidyl Transferase Center, PTC)という場所で,ぺプチド結合は生成される (Fig. 1) [11].リボソームにはアミノ酸を付加されたtRNA(アミノアシルtRNA)が運ばれて来るが,いわゆるL字型の構造を持つtRNAの片方の腕に相当するアミノ酸結合部位を含むヘリックス(ミニヘリックス)がリボソームの大サブユニットと相互作用することで,ぺプチド結合生成に寄与しているのに対し,L字型のもう一方の腕に相当するアンチコドンを含むヘリックスの部分がmRNA上のコドンと相互作用することで,遺伝暗号表に記された遺伝情報の正確な伝達に寄与している [12].大サブユニットで起こるぺプチド結合の生成は,コドン・アンチコドン対合のようにアミノ酸特異的なものではなく,アミノ酸の種類に関わらず起こることであり,化学進化あるいは生物進化の過程で,大サブユニットは小サブユニットに先んじて出現したと考えられている [12-14].



Figure 1. Structure of the large ribosomal subunit from Haloarcula marismortui (PDB ID 1JJ2) together with that of yeast tRNAPhe (PDB ID 1EHZ) in the same scale (rendered using PyMOL). RNAs are shown in yellow, and proteins are shown in blue. The minihelix is composed of one arm of the L in tRNA with the CCA end, and the anticodon is located on the other arm of the L. The minihelix is thought to have evolved prior to the other parts of the tRNA.

2.リボソームでのぺプチド結合生成メカニズム

   リボソームの高分解能立体構造解析が,近年,急速に発展し,リボソームの大小サブユニットそれぞれ,更には,大小サブユニット双方から構成されるリボソームの全体構造や,リボソームと他のタンパク質因子との複合体の構造まで明らかになってきた [15-21].2009年には,これらの業績に対し,Ramakrishnan,Steitz,Yonathの3氏にノーベル化学賞も授与されている.特に,ぺプチド結合生成の場である大サブユニットの構造は,生物のタンパク質合成機構の解明に大きな視点を与えた.好塩菌Haloarcula marismortuiのリボソームの大サブユニットの構造がSteitzらによって示され,PTC付近の構造が明らかになったが,驚いたことに,PTCはすべてRNAのみから構成されており,PTCから一番近い位置にあるタンパク質ですら,18Åも離れたところに配置されていることが明らかになった [15,16].リボソームを構成するRNAのうち,23S rRNAのドメインVを中心としてPTCが構成され,アミノ酸を運んできたtRNAのCCA末端付近は,リボソームのこの領域と相互作用することにより,ぺプチド結合を生成することが明らかになってきた.リボソームはRNAとタンパク質の複合体ではあるが,ぺプチド結合反応を触媒する部位には,RNAしか存在していないという事実から,「リボソームはリボザイムである(The ribosome is a ribozyme.)」[22]ということが示唆されてきた.これは,かつて存在したであろうRNAワールドの有力な証拠の1つであると考えられている.
     PTCの構造が明らかになったものの,実際のぺプチド結合生成のメカニズムに関しては,今日に至るまで,まだ決着は得られていない.アミノアシルtRNAが有するカルボキシルエステル結合は,タンパク質の持つアミド結合(ぺプチド結合)よりも,自由エネルギー的な観点からは高エネルギーであり,加水分解によるアミノ酸の離脱を回避できれば,ぺプチド結合の生成は自発的に起こる反応である (Fig. 2a).その意味で,リボソームは,単に,2つのアミノアシルtRNAのアミノ酸を近づけるための足場に過ぎないという考えもあるが,しかし,それだけではリボソームが持つ触媒活性の高さを説明できないであろう.
     立体構造を解析することで,2904ヌクレオチドから構成される23S rRNA(大腸菌の場合)の2451番目のアデニン(A2451)がPTCに最も近い位置に存在する塩基であることが明らかになった.この事実から,A2451のアデニン環のN1かN3がアミノ酸のアミノ基からプロトンを引き抜くことにより,このアミノ基の求核性を高めているのではないかということが考えられたが (Fig. 2b) [16],A2451を他の塩基に置換したRNAを用いてもペプチド結合生成能が大きく変化しないことから,その可能性は低いことが明らかになってきた [23-25].一方で,A2451のリボースの2′-OHを介した水素結合のネットワークがアミノ酸のアミノ基の求核性の向上に寄与しているモデルも提唱されている (Fig. 2c) [26,27].また,中性子回折を用いた実験では,リボソームの全体(70S)においては,大サブユニットだけ(50S)の場合と比べて,リボソームタンパク質の位置が30Åも大きく動くことが示唆されており,ペプチド結合生成というイベントに,RNAのみならず,タンパク質が寄与している可能性を示唆する報告もある [28].リボソームの大サブユニットを構成するタンパク質の1つであるL2タンパク質中のヒスチジン残基は,古くからの生化学的な実験でも,その重要性が示唆されてきており [29],今後,このようなダイナミクスをも考慮したメカニズムの解明が待たれる.



Figure 2. Chemical reactions on the ribosome in the process of peptide bond formation. The peptidyl residue is shown in blue, and the aminoacyl residue, in red. (a) A general reaction scheme of the peptide bond formation on the ribosome. The lone pair on the nitrogen atom of the amino group attacks the carbonyl carbon of peptidyl-tRNA and a peptide bond is formed. (b) The possible role of N3 of A2451 from 23S rRNA as a general base that abstracts a proton from the amino group, which increases the nucleophilicity of the nitrogen atom. Only positions 2′ and 3′ of the ribose ring of peptidyl-tRNA are shown. (c) A possible “proton shuttle” mechanism occurring within the hydrogen bond network around the 2′-OH of A2451 from 23S rRNA. Cleavage of the ester bond of the peptidyl-tRNA causes the transfer of a proton from the 2′-OH group, which receives a proton from the α-amino group of the aminoacyl-tRNA.

3.ぺプチド結合生成の起源とRNAワールド

   化学的には,活性化したアミノ酸の縮合が起これば,ペプチド結合の生成は可能であり,アミノ酸を活性化するために考えられる経路はさまざま存在する.おそらく,原始地球においては,地球が持つエネルギー(地熱,圧力,熱水噴出孔など)や太陽の光エネルギーを利用してアミノ酸を活性化し,ペプチド結合が生成されていた可能性がある.また,現存する生物の中には,抗生物質などを生成する際に,リボソームによらないペプチド生成(non-ribosomal peptide synthesis)の経路を利用するものが知られており,それらも化学進化の経路を想像する参考になるだろう.そこでは,チオエステルという形でアミノ酸を活性化し,ぺプチドの生成を行っている.ちなみに,これらのぺプチドの中にはD-アミノ酸を含むものも含まれている.de Duveは,このように,チオエステルがRNAワールドに先立った可能性を指摘しており(「チオエステルワールド」) [30],鉄や硫黄からなる世界が独立栄養性の代謝系を構成したであろうとするWächtershäuserの「鉄・硫黄ワールド」 [31] と共に,原始生命形態の在り方に独自の提言をしている.アミノ酸によるぺプチドの重合に関しては,高温や乾燥を利用した原田やFoxによる取り組み [32] をはじめ,粘土を足場にして活性化したアミノ酸をつなげるさまざまな試みも見逃せないだろう [33].
   しかしながら,生命系の進化の連続性を考えれば,現在のペプチド生成系に類似したプロトタイプのペプチド生成系から現在の系が化学進化,あるいは生物進化したと考えるのが自然であり,その意味で,現在のリボソームをベースとしたペプチド結合生成系の起源は,間違いなく,原始tRNAを基盤としたぺプチド生成系の存在であろう.tRNAはL字型の構造を有するが,先述の通り,ミニへリックス部分にアンチコドンを含むヘリックスの部分が進化的に付け加わることにより現在のtRNAが生成されたものと考えられる.
   ぺプチド生成の進化過程において,まずはアミノ酸が繋がるのが先決であり,コドンの情報に基づいた厳密なアミノ酸特異性の獲得は後で起こったものと考えられる.20種類のアミノ酸がすべて,原始地球において初めから存在していたとは考えられず,タンパク質合成系は,厳密な情報に基づかないミニヘリックスのアミノアシル化とリボソームの大サブユニット上でのペプチド結合の生成から進化し,アンチコドンを有するtRNAと,アミノアシルtRNA合成酵素や(小サブユニットの付加も伴った)リボソームとの相互作用の精密化によって,遺伝暗号の厳密な解読という機能を獲得していったものと考えられる.実際,アミノ酸が付加したミニヘリックスは,リボソームの大サブユニットの基質になり,ペプチド結合を生成することが知られている [34].このように,さまざまな証拠から,ミニへリックスが原始のtRNAの形態であると考えられている [13,14].CechとAltmanによるリボザイムの発見により [35,36],「RNAワールド」の存在が示唆され [37],それはリボソームの立体構造の解明で,更に確からしいものとなった.そこで,ミニへリックスをもとにした原始ペプチド生成系を想定すると,RNAワールドからペプチド合成系の化学進化のシナリオを描くことができる.RNAワールドからタンパク質合成系へといかにして発展したかという問題は,このようなシナリオを描けば解決可能であると思われる.一方,RNAワールド以前の世界から,いかにしてRNAワールドが生まれたのかという問題は,非常に難問であり,Orgelがその晩年をこの問題の解明に捧げたにもかかわらず,未だに謎のままである [38].本論文では,ミニヘリックスをもとにしたペプチド結合生成系の出現とリボソームへの進化のみに言及し,RNAワールド以前の世界については,今後の研究に期待したい.

4.ミニヘリックスをベースとしたぺプチド結合生成モデル

   RNAワールド仮説の提唱以来,人工的に活性を持ったRNAを試験管内で選択して来ようという試みが行われ,さまざまな人工RNAが得られてきた [39,40].これらの方法はSELEX(Systematic Evolution of Ligands by EXponential enrichment)法と呼ばれ,今後のRNA創薬の可能性も含め,数々のアプタマーと呼ばれる,特定の分子と特異的に結合するRNAの創成が行われている.アプタマーという名はラテン語のaptus(英語のfitに相当)に由来している.ぺプチド結合生成を触媒するリボザイムもSELEX法を用いて取られてはいるが,196ヌクレオチドもの長さを持つRNAである [41].SELEX法を用いれば,原理的には,特定の機能と長さを持つRNAの創成が可能である.しかし,この方法にはタンパク質合成系の産物である耐熱性のDNAポリメラーゼが用いられており,原理はともかく,タンパク質合成系がいかにして成立できるかを考える原始的な段階で,このような方法が出現できたかについては大きな疑問が残る.そういった意味で,ぺプチド結合生成を触媒するリボザイムが創成されたとは言っても,196ヌクレオチドの長さのRNAが生命の初期に,その順番の配列を持って生み出されたとは非常に考えにくい.
   SELEX法のようなRNAの化学進化モデルが実際に存在できれば,確率的な困難さに関する矛盾は解消できるが,単に原始環境でのランダムな過程を考えれば,75程度の長さのヌクレオチドから構成される現在のtRNA [42]でも,伸長の過程ですべての可能性(475)を網羅するとすれば,全地球の1/100ほどの質量が必要になる.しかし,ミニヘリックスはtRNAの半分程度の長さであり,伸長の過程ですべての可能性を網羅できる可能性は低くない.このようなことを念頭におき,tRNAと同様にミニヘリックスにも存在する一本鎖のCCA配列とリボソームとの相互作用も考慮したモデルが考案されている.
   リボソーム上では,tRNAのCCA配列が23S rRNAと相互作用をすることによって,ぺプチド結合生成を確かなものにしている [16,43,44].特に,CCA中のCCと23S rRNA中のGGとは,明確なワトソン・クリック結合を介して相互作用することが,X線によるリボソームと基質アナログ(CCdA-p-Puro)との複合体の構造からも明らかにされている [16].従って,このtRNAのCCA配列と23S rRNAとの相互作用のエッセンスだけを残し,他のリボソームの成分(RNAのみならずタンパク質もすべて)を取り除いた概念的モデル系が構築された [45].
   23S rRNAの特徴とアミノアシルtRNAの特徴の双方を兼ね備えた分子として,UGGUの5′末端にピューロマイシン(Pm)を,5′-5′ホスホジエステル結合を介して繋げた(Pm-UGGU).Pmは,その構造が3′-L-チロシル-アデノシンに類似しており,このモデル分子を用いることで,リボソーム上の23S rRNAに近接しているアミノアシルtRNAを模擬していることになる.一方,もう1つのアミノ酸の供給源であるペプチジルtRNAのアナログとしては,ミニへリックスをL-アラニンでアミノアシル化した後,アミノ基をアセチル化することにより調製した(N-Ac-L-Ala-ミニヘリックス).ミニヘリックスが持つACCAとPm-UGGU中のUGGUが相互作用することにより,両分子が近接し,PmのO-メチル-L-チロシン部分のアミノ基のローンペアが,N-Ac-L-Ala-ミニヘリックスのカルボニル炭素を求核攻撃することにより,目的のペプチド結合が生成されるかどうかを調べた (Fig. 3) [45].
   驚いたことに,リボソームのような超複合体の存在なしで,このような単純なモデル系において,ぺプチド結合が生成されることが明らかになった.また,この実験でACCAとUGGUの相互作用による近接効果が重要であることが改めて示された.さらに,反応溶液中にイミダゾールを加えるとぺプチド結合生成が促進されることを示唆する結果が得られた.イミダゾールの共役酸のpKaは6.99であり,中性付近の反応系においてイミダゾールのN原子がアミノ基のプロトン引き抜きを促進した可能性が考えられる.
   上述の23S rRNA(A2451)のリボースの2′-OHを介した水素結合のネットワークモデルが提唱する触媒効果や中性子回折像が示すリボソームタンパク質のダイナミックな動きを,このセクションで取り上げたPm-UGGUとミニへリックスを用いたモデル実験の結果と,合わせて捉えると,リボソームの起源を考える上で,近接効果と触媒効果をどのように実現するかが,今後の課題である.


Figure 3. A simplified model that reflects the essence of peptide bond formation on the ribosomal process. Puromycin possesses a structure similar to that of L-tyrosyl-tRNA and UGGU contains the essential sequence found in the PTC of 23S rRNA. By combining these two parts via the 5′-5′ phosphodiester bond, the puromycin-containing oligonucleotides (Pm-UGGU) have the characteristics both of aminoacyl-tRNA and 23S rRNA. Acetylation of the amino group of the L-alanyl-minihelix produces N-acetyl-L-alanyl-minihelix, which has the characteristics of peptidyl-tRNA. dmA denotes N,N-dimethyladenosine, which is contained in puromycin.

5.おわりに〜リボソームへの道

   前のセクションで示したモデル実験では,リボソームやタンパク質を一切使用していないが,モデル作成の概念として,単純化した中にも,現在のリボソームとtRNAとの相互作用に見られるエッセンスだけを抽出することを含めた.それらが,アセチルアラニル化されたミニヘリックス(ペプチジルtRNAに相当)であり,Pm-UGGU(rRNAの重要配列とアミノアシルtRNAの特徴を併有)であった.ミニヘリックスのようなRNAが,タンパク質の存在なしでぺプチド結合生成を促進した可能性は示せたが,これがいかにして,現在の成熟したリボソームにつながったのかについては,依然として不明である.
   この点に迫るために,改めて,リボソームのPTCの構造に注目する必要があろう.さまざまな種類の生物のリボソームの構造が明らかにされてきたが,強い放射線耐性を示す細菌であるDeinococcus radioduransの大サブユニットの構造を詳細に調べることによって,PTCがいかにして単純なRNAから生成されてきたのかについて考えるための重要なパースペクティブが得られた [46,47].この構造において,L字型をしたRNAの二量体が対称的に配置されてPTCを構成していることが明らかになった.しかも,対称的に配置されているRNAのサイズ(ヌクレオチド長)はtRNAと同じ程度であり,現在の厳密に組織化されたL字型のtRNAの前駆体とも言える初期のL字型tRNA(Proto-tRNA)が二量体を形成することで,初期のPTCを形成したシナリオが考えられる.つまり,現在の仕組みへの化学進化の連続性の立場から,例えば,まずはL字型を有するtRNA様分子の一対が,原始のリボソームのPTCを構成した可能性が示唆されよう.
   tRNAは2つのヘアピン状RNAが繋がったような形状をしているので,可能性の1つとして,ミニへリックスのような半tRNA状分子が重複して,初期のL字型tRNA様分子を生成したことが考えられる [48].このようなRNAダイマーは原始リボソームのPTCを構成すると同時に,2つのアミノアシルtRNAとしても作用したのかもしれない.同一起源であるtRNA様のL字型RNAのうち,或るものは,PTCを形成し,2つのアミノアシルtRNAをぺプチド結合が生成するのにふさわしい空間配置を可能にするように進化し,また或るものは,現在のtRNAに進化して行ったと考えると,現在の系とミニへリックスに基づく化学進化系が矛盾なく繋がるように見える (Fig. 4).
   これはまったく新しい見方であり,今後,この可能性を検証する実験が行われると期待している.このような原始リボソームは,RNAワールドで出現し,現在のリボソームへ進化したかもしれない.現在のリボソームには,多くのタンパク質因子が関与しており,特に,ぺプチド鎖解離因子はタンパク質でありながら,tRNAと同様にmRNAのコドン(終止コドン)をしっかりと認識する.興味深いことに,ぺプチド鎖解離因子はtRNAと非常に良く似た立体構造をしていることが明らかになっており,過去にtRNAがこのような役割をしていたのかについて,また,似た構造を持つタンパク質が進化の過程でRNAに置き換わって機能し始めたのかについて,さまざまな可能性も含め,分子擬態という概念はリボソームの進化を語る上で非常に重要になるであろう [49,50].
   タンパク質の機能は生命現象の根幹であるのみならず,タンパク質の生成機構の進化の解明は,生命そのものの理解のために避けては通れないものである.様々な分野の研究を総合することにより,本質的な解明が待たれる.人間の想像力に期待したい.


Figure 4. A possible representation of the symmmetrical proto-PTC that could have existed in the first stage of the evolution of life. The symmetrical structure is actually found in the PTC of the ribosome of Deinococcus radiodurans [46,47]. Each region is composed of RNA that is similar in size to modern tRNA. tRNA can be formed in the duplication of a half-sized hairpin RNA like a minihelix [48]. L-shaped proto-tRNA dimer could have constituted a scaffold for the peptide bond formation between the two aminoacyl-tRNAs.

謝辞

   東京大学の伊藤耕一博士には,本論文の内容について,多くのディスカッションをしていただいた.また,科学技術振興機構・さきがけ(RNAと生体機能),日本学術振興会・科学研究費助成事業(科学研究費補助金),および,文部科学省・私立大学戦略的研究基盤形成支援事業による助成をいただいた.ここに感謝の意を表したい.

引用文献

1. Tamura, K. and Alexander, R. W. Peptide synthesis through evolution, Cell. Mol. Life Sci. 61, 1317-1330 (2004).
2. Moore, P. B. Ribosomes, Curr. Opin. Struct. Biol. 1, 258-263 (1991).
3. Tamura, K. and Schimmel, P. Chiral-selective aminoacylation of an RNA minihelix, Science 305, 1253 (2004).
4. Tamura, K. and Schimmel, P. R. Chiral-selective aminoacylation of an RNA minihelix: Mechanistic features and chiral suppression, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 103, 13750-13752 (2006).
5. Tamura, K. Origin of amino acid homochirality: Relationship with the RNA world and origin of tRNA aminoacylation, Biosystems 92, 91-98 (2008).
6. Tamura, K. Molecular handedness of life: Significance of RNA aminoacylation, J. Biosci. 34, 991-994 (2009).
7. Tamura, K. Amino acid homochirality and the RNA world: Necessities for life on Earth, J. Cosmol. 5, 883-889 (2010).
8. Tamura, K. RNA-directed molecular asymmetry of amino acids, Viva Origino 38, 18-22 (2010).
9. Tamura, K. Mechanistic features of RNA-directed molecular asymmetry of amino acids. Viva Origino, in press.
10. Tamura, K. Molecular Basis for Chiral Selection in RNA Aminoacylation, Int. J. Mol. Sci. 12, 4745-4757 (2011).
11. Noller, H. F. On the origin of the ribosome: Coevolution of subdomains of tRNA and rRNA, pp. 137-156, in Gesteland, R. F. Eds., The RNA World, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Plainview, New York, 1993.
12. Schimmel, P. and Alexander, R. W. All you need is RNA, Science 281, 658-659 (1998).
13. Schimmel, P., Giegé, R., Moras, D. and Yokoyama, S. An operational RNA code for amino acids and possible relationship to genetic code, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90, 8763-8768 (1993).
14. Schimmel, P. and Ribas de Pouplana, L. Transfer RNA: from minihelix to genetic code, Cell 81, 983-986 (1995).
15. Ban, N., Nissen, P., Hansen, J., Moore, P. B. and Steitz, T. A. The complete atomic structure of the large ribosomal subunit at 2.4 Å resolution, Science 289, 905-920 (2000).
16. Nissen, P., Hansen, J., Ban, N., Moore, P. B. and Steitz, T. A. The structural basis of ribosome activity in peptide bond synthesis, Science 289, 920-930 (2000).
17. Schluenzen, F., Tocilj, A., Zarivach, R., Harms, J., Gluehmann, M., Janell, D., Bashan, A., Bartels, H., Agmon, I., Franceschi, F. and Yonath, A. Structure of functionally activated small ribosomal subunit at 3.3 angstroms resolution, Cell 102, 615-623 (2000).
18. Wimberly, B. T., Brodersen, D. E., Clemons, W. M. Jr., Morgan-Warren, R. J., Carter, A. P., Vonrhein, C., Hartsch, T. and Ramakrishnan, V. Structure of the 30S ribosomal subunit, Nature 407, 327-339 (2000).
19. Korostelev, A. and Noller, H. F. The ribosome in focus: new structures bring new insights, Trends Biochem. Sci. 32, 434-441 (2007).
20. Ramakrishnan, V. What we have learned from ribosome structures, Biochem. Soc. Trans. 36, 567-574 (2008).
21. Steitz, T. A. A structural understanding of the dynamic ribosome machine, Nat. Rev. Mol. Cell. Biol. 9, 242-253 (2008).
22. Noller, H. F., Hoffarth, V. and Zimniak, L. Unusual resistance of peptidyl transferase to protein extraction procedures, Science 256, 1416-1419 (1992).
23. Polacek, N., Gaynor, M., Yassin, A. and Mankin, A. S. Ribosomal peptidyl transferase can withstand mutations at the putative catalytic nucleotide, Nature 411, 498-501 (2001).
24. Thompson, J., Kim, D. F., O'Connor, M., Lieberman, K. R., Bayfield, M. A., Gregory, S. T., Green, R., Noller, H. F. and Dahlberg, A. E. Analysis of mutations at residues A2451 and G2447 of 23S rRNA in the peptidyltransferase active site of the 50S ribosomal subunit, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 98, 9002-9007 (2001).
25. Bieling, P., Beringer, M., Adio, S. and Rodnina, M. V. Peptide bond formation does not involve acid-base catalysis by ribosomal residues, Nat. Struct. Mol. Biol. 13, 423-428 (2006).
26. Erlacher, M. D. and Polacek, N. Ribosomal catalysis: the evolution of mechanistic concepts for peptide bond formation and peptidyl-tRNA hydrolysis, RNA Biol. 5, 5-12 (2008).
27. Pech, M. and Nierhaus, K. H. Ribosomal peptide-bond formation, Chem. Biol. 15, 417-419 (2008).
28. Willumeit, R., Forthmann, S., Beckmann, J., Diedrich, G., Ratering, R., Stuhrmann, H. B. and Nierhaus, K. H. Localization of the protein L2 in the 50 S subunit and the 70 S E. coli ribosome, J. Mol. Biol. 305, 167-177 (2001).
29. Cooperman, B. S., Wooten, T., Romero, D. P. and Traut, R. R. Histidine 229 in protein L2 is apparently essential for 50S peptidyl transferase activity, Biochem. Cell Biol. 73, 1087-1094 (1995).
30. de Duve, C. Vital dust: Life as a cosmic imperative, Basic Books, New York, 1995.
31. Wächtershäuser, G. Groundworks for an evolutionary biochemistry: the iron-sulphur world, Prog. Biophys. Mol. Biol. 58, 85-201 (1992).
32. Fox, S. W. and Harada, K. Thermal copolymerization of amino acids to a product resembling protein, Science 128, 1214 (1958).
33. Paecht-Horowitz, M., Berger, J. and Katchalsky, A. Prebiotic synthesis of polypeptides by heterogeneous polycondensation of amino-acid adenylates, Nature 228, 636-639 (1970).
34. Sardesai, N. Y., Green, R. and Schimmel, P. Efficient 50S Ribosome-catalyzed peptide bond synthesis with an aminoacyl helix, Biochemistry 38, 12080-12088 (1999).
35. Kruger, K., Grabowski, P. J., Zaug, A. J., Sands, J., Gottschling, D. E. and Cech, T. R. Self-splicing RNA: autoexcision and autocyclization of the ribosomal RNA intervening sequence of Tetrahymena, Cell 31, 147-157 (1982).
36. Guerrier-Takada, C., Gardiner, K., Marsh, T., Pace, N. and Altman, S. The RNA moiety of ribonuclease P is the catalytic subunit of the enzyme, Cell 35, 849-857 (1983).
37. Gilbert, W. The RNA world, Nature 319, 618 (1986).
38. Orgel, L. E. Prebiotic chemistry and the origin of the RNA world, Crit. Rev. Biochem. Mol. Biol. 39, 99-123 (2004).
39. Tuerk, C. and Gold, L. Systematic evolution of ligands by exponential enrichment: RNA ligands to bacteriophage T4 DNA polymerase, Science 249, 505-510 (1990).
40. Ellington, A. D. and Szostak, J. W. In vitro selection of RNA molecules that bind specific ligands, Nature 346, 818-822 (1990).
41. Zhang, B. and Cech, T. R. Peptide bond formation by in vitro selected ribozymes, Nature 390, 96-100 (1997).
42. Jühling, F., Mörl, M., Hartmann, R. K., Sprinzl, M., Stadler, P. F. and Pütz, J. tRNAdb 2009: compilation of tRNA sequences and tRNA genes, Nucleic Acids Res. 37(Database-Issue), 159-162 (2009).
43. Moazed, D. and Noller, H. F. Sites of interaction of the CCA end of peptidyl-tRNA with 23S rRNA, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 88, 3725-3728 (1991).
44. Tamura, K. The role of the CCA sequence of tRNA in the peptidyl transfer reaction, FEBS Lett. 353, 173-176 (1994).
45. Tamura, K. and Schimmel, P. Oligonucleotide-directed peptide synthesis in a ribosome- and ribozyme-free system, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 98, 1393-1397 (2001).
46. Agmon, I. The dimeric proto-ribosome: Structural details and possible implications on the origin of life, Int. J. Mol. Sci. 10, 2921-2934 (2009).
47. Agmon, I., Bashan, A., Zarivach, R. and Yonath, A. Symmetry at the active site of the ribosome: structural and functional implications, Biol. Chem. 386, 833-844 (2005).
48. Tanaka, T. and Kikuchi, Y. Origin of the cloverleaf shape of transfer RNA-the double-hairpin model: implication for the role of tRNA intro and the long extra loop, Viva Origino 29, 134-142 (2001).
49. Ito, K., Ebihara, K., Uno, M. and Nakamura, Y. Conserved motifs in prokaryotic and eukaryotic polypeptide release factors: tRNA-protein mimicry hypothesis, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93, 5443-5448 (1996).
50. Ito, K., Uno, M. and Nakamura, Y. A tripeptide 'anticodon' deciphers stop codons in messenger RNA, Nature 403, 680-684 (2000).

Return to Japanese Contents

Return to English Contents