ROLE OF THE ARCHEAN SUBMARINE HYDROTHERMAL ACTIVITIES ON EVOLUTION OF THE EARLY BIOSPHERE: REPORT FROM MASSIVE SULFIDE ORES AT SULFUR SPRINGS IN PILBARA, AUSTRALIA

Takeshi Kakegawa
Graduate School of Science, Tohoku University
402 Geosciences Building, Aramaki 6-3, Sendai City, 980-8578, Japan
kakegawa@m.tohoku.ac.jp
(Received September 15, 2010; Accepted December 4, 2010)

(Abstract)

   Anciet submarine hydrothermal environments have been considered as important locations where the first life flourished. On the other hand, many experimental results postulate if submarine hydrothermal environments were suitable for the chemical evolution for origin of life. Geological records of Archean submarine hydrothermal ore deposits are present allover the world. Those ore deposits often accompany with carbonaceous sediments, suggesting high microbial activities around the discharging hydrothermal fluids. Such carbonaceous sediments may provide an opportunity to examine evolution of early life in submarine hydrothermal environments. Here I present the evidence of high microbial activities at ca. 3.2-billion-years-old submarine hydrothermal fields of Sulfur Springs in Australia. It is found that examine samples associated with the ore deposit were rich in organic carbon. Relatively high Mo concentrations were found in those organic matter. Such Mo behavior implies direct microbial mediation of bio-essential elements from submarine hydrothermal fluids. Microscopic occurrence of organic carbon is often closely associated with sulfide minerals forming onion- or stromatolite-like structures. Such structures imply biologically induced sulfide mineralization in submarine hydrothermal environments. Stable isotope analyses indicate high activities of methanogens and methanotrophs with sulfate reducers only around the hydrothermal discharging zone. Those results indicate that ancient submarine hydrothermal fields were important for early ecosystem not only for metabolic energy usage but also uptake of bio-essential elements. However, the total energy flux from interior of the early Earth is known to be small. Such small energy flux constraints the extents of submarine hydrothermal activities on the early ocean floor and further suggests that biomass around the ancient submarine hydrothermal environments was also small. Therefore it is still an open question as to if ancient submarine hydrothermal environments were major geological fields for evolution of early life.

(Keywords)
submarine hydrothermal vent, Archaean era, sulfur spring deposit, chemical evolution, early life, sulfide mineral, Pilbara region

初期地球の海底熱水活動は生命進化の場として重要であったか?: オーストラリア・サルファースプリングス鉱床からの報告

掛川武
東北大学大学院理学研究科
〒980-8578仙台市青葉区荒巻字青葉6−3
fax: 022-795-6660
kakegawa@m.tohoku.ac.jp

1.  緒論

   初期球の海底熱水活動域が生命起源の場および初期生命進化の場として多くの研究者に注目されている[1, 2].そうした中,生命起源の可能性を追求すべく,初期地球の海底熱水活動域を模擬した有機合成実験が行われている[3, 4, 5].これら一連の実験では,生体必須有機分子やペプチド生成に成功しているが,いずれのケースも初期地球の海底熱水活動を正しく模擬しているのか疑問が残る.またペプチドを含めた生成分子の寿命は著しく短く,海底熱水系で本当に化学進化が起こりえるかは,まだまだ検証の余地を残す [6].特に初期地球環境の海底熱水活動の地質学的性格をより詳細に研究し,それを化学進化模擬実験に反映させる必要は不可避であろう.しかし,現段階では初期地球海底熱水系の地質学的情報が十分あるとは言えない.
   また,初期地球海底熱水域に微生物活動があったことは,地質学的事実である[7, 8].しかし,海底熱水場のみが注目され,他の地質環境はあまり注目されていないのが現状である.また初期地球環境全生態系の中で海底熱水が,どれだけ重要な場であったかは定量的には評価されていない.そこで,本論文では,32億年前の海底で形成されたオーストラリア・ピルバラ地域のサルファースプリングス鉱床を例として,初期地球の海底熱水活動の特徴と微生物活動の関連を論じる.

2. 地質と試料

   パノラマ地域(Panorama district)は西オーストラリア,ピルバラ地塊の中に位置している [9].サルファースプリングス層群(Sulfur Springs Group)はパノラマ地域に分布し,特定の層準に海底熱水鉱床が介在する(Fig.1).海底熱水鉱床は,カンガルーケイブ層の最上部に位置し,「マーカーチャート」と呼ばれる珪化された堆積岩によって覆われている.鉱床前後の火成岩中ジルコン結晶を使った年代測定により,32.40〜32.35億年という年代が報告されている [10].




Figure 1. Map of studied area.
Sulfur Springs is located approximately 50 km west from Marble Bar in Pilbara Craton in Western Australia. Ca. 3.2 billion-years-old volcanogenic massive sulfide ores are present at the Sulfur Springs area .

   本研究では,オーストラリアの鉱山会社によって採集された掘削試料(ドリルコア番号SSD82)を分析に用いた.Fig.2に掘削試料の柱状図を示す.この試料ではコア深度130mから153mが鉱床帯 (図中のmassive sulfide ore)に相当している.鉱床を構成する鉱石は主に黄鉄鉱(FeS2)からなり,黄銅鉱(CuFeS2)と閃亜鉛鉱(ZnS)が局所的に濃集している.鉱床帯は熱水変質作用を受けた玄武岩を覆っていおり,玄武岩中を移動した熱水脈のネットワーク(ストリンガー鉱石脈)も顕著に見られる.この熱水脈も鉱石で充填され周辺には黒色チャートを伴うこともある.ストリンガー鉱石脈を含んだ岩石には,熱水変質特有の2次鉱物の分布パターンと酸素同位体組成のゾーンニングが認められる[11].これら鉱物学的・地球化学的データは熱水が海底下を数kmにわたり循環し形成されたことを示す.
   サルファースプリングス鉱床上部には有機炭素濃集帯(Fig.2中Organic carbon rich layer)が存在する.このゾーンの有機炭素含有量は0.1~10.0 wt%Cであり,現世の海底堆積物以上に有機炭素が濃集していることが分かった(Fig.2).有機炭素濃集帯のほとんどの場合は,鉱石と黒色頁岩が混在した岩石に相当する (Fig.3-1).部分的に有機炭素と黄鉄鉱がサブミクロン単位で交互に出現しタマネギ状構造やストロマトライト状構造を形成することがある(Fig.3-4).タマネギ状構造やストロマトライト構造は無機的に形成するのは難しく,構造形成に対して微生物活動の役割が期待される.仮に,そうである場合は,Fig3-3とFig3-4で示した組織は海底熱水噴出孔近傍でのバイオミネラライゼーション痕跡と言うことになる.この有機炭素濃集帯に相当する部分からフィラメント状物質が報告されて,海底熱水環境で生息していた32億年前の微生物痕跡と考えられている[7].有機炭素濃集帯はさらにマーカーチャートに覆われている (Fig.2).このマーカーチャートの有機炭素含有量は1.0~1.5 wt %であった.





Figure 2. Geological stratigraphy of examined drill core samples (SSD82) at Sulfur Springs.
Concentrations of organic carbon (Corg) and sulfide sulfur (Ssulfide) are shown with lithology of examined rocks. Organic matter are extremely rare in footwall basalts and lower parts of ores.





Figure 3. Sulfide textures in organic carbon rich layer.
Length of white bar in each figure is 1 cm. Organic matter and pyrite are mixed in those samples ((1) and (2)), suggesting co-sedimentation of organic matter and sulfide ores. Onion- or stromatolite-like structures are found in examined samples ((3) and (4)).





Figure 4. Age distribution of major Archean ore deposits formed by submarine hydrothermal activities.
This figure is modified by Groves and Barley (1994). Thickness of each black line indicates the relative abundance of each ore deposit. Banded iron formations, which also associated with submarine hydrothermal activities in some extent, are not included in this figure.

3. 方法

   標準的な岩石記載を行った試料に対して,卓上エックス線顕微鏡(HORIBA XGT 2000)を用いて岩石片もしくは岩石薄片(1 cm x 1 cm)に対する元素分布マップを作成した.50kVの加速電圧で生成されたX線を100μm径のガイドチューブでフォーカスした.およそ100回(約2日間)連続面分析を行い,X線(Kα)のカウント数積分値を相対的X線強度として図示化した.
  安定同位体分析に際しては,およそ0.5から5.0 mgの粉末試料を錫カプセルに封入し元素分析計オートサンプラーに設置された.それぞれの試料は純酸素存在下で1000 ºCで燃焼され,全ガスはHeキャリアガスによって分離カラムに導入された.分離カラム内で分離されたCO2とSO2ガスは,インターフェース(ConfloIII, Thermo社)を経由し,別々に質量分析計 (MAT 252, Thermo electron) に導入された.この手法での分析誤差は±0.2パーミルである.硫黄同位体組成(δ34S) はCDT (Canyon Diablo troilite) 標準試料で,炭素同位体組成(δ13C) はPDB (Pee Dee Belemnite) 標準試料で規格化した.

4. 結果と討論

4.1. サルファースプリングス鉱床の地質学的位置付け
   海底熱水活動に伴って形成された太古代硫化物鉱床の報告は複数ある (Fig.4; [12]).その中には,日本の黒鉱鉱床に類似した火山性塊状硫化物鉱床(黒鉱型鉱床)も含まれる.黒鉱型鉱床は玄武岩やデイサイトなどの海底火山岩を伴い,Cu-Zn-Pbの硫化鉱物が主要鉱物である.コマチアイトと呼ばれる太古代に特徴的に出現する海底火山溶岩も塊状硫化物鉱床を伴うことがある.コマチアイトに伴う鉱床はNi硫化物が多量に含まれるなど黒鉱型鉱床とは大きく異なる.また硫酸塩鉱物の濃集帯も比較的温度の低い海底熱水活動の産物と考えられているが,大規模に出現するのは34〜32億年前の地層に限定される.鉱石を伴わない小規模な海底熱水鉱床の痕跡は,Fig.4には含まれていない.
   一般的に黒鉱型鉱床は300度を超えるブラックスモーカーを介して形成される.世界最古の黒鉱型鉱床はオーストラリアのピルバラ地域に見られるビッグスタビー鉱山である.今回,研究対象にしたサルファースプリングス鉱床は,それに準ずる古さを有する.有機炭素に富んだ層を広範囲に伴う特徴は,ビッグスタビー鉱山には見られない.サルファースプリングス鉱床は黒鉱型海底熱水活動と微生物活動の関連を調査できる最古の海底熱水鉱床と言える[7].
   Fig.4中の鉱床時代分布を示した黒線の太さが相対的な鉱床の規模を表す.サルファースプリングス鉱床の規模(埋蔵硫化物の総量)は,日本の黒鉱鉱床に比べたら格段に小さい.黒鉱鉱床に相当する大規模な黒鉱型鉱床は27億年前にはじめて出現する [13].カナダのキッドクリーク鉱山では鉱床自身が有機炭素に富んだ地層で覆われており,ここでも熱水活動に依存した生態系が指摘されている.27億年よりも前の時代は,大規模な黒色頁岩を伴う黒鉱型鉱床が出現しないことは,27億年前の地層が大規模に失われたか,27億年以前は海底熱水活動が活発でなかったためなのか,海底熱水活動の活動様式が異なっていたのか判定できる材料はない.

4.2. サルファースプリングでの微生物活動
   サルファースプリングス鉱床を厚く覆うマーカーチャートの有機炭素安定同位体組成は-30~-26パーミルほどであった.X線分析および顕微鏡観察の結果,有機物の石墨化は進行していないので,ここでの炭素同位体組成も初生値から大きくずれていないと思われる.この炭素同位体組成幅は,カルビン・ベンソンサイクルによって,大気CO2を炭素固定する生物の特徴を有する[14].一般的に,光合成微生物を一次生産者とする生態系が存在すると,これに類似した炭素同位体組成を持った有機物が堆積物に固定される.マーカーチャートには鉱石は含まれておらず,高温の海底熱水活動の影響も見いだされず,海洋中に浮遊していた光合成微生物の痕跡が見出されても不思議ではない.
   サルファースプリングス鉱石中および有機物濃集帯にフィラメント状物質やケロジェン状の有機物が多量に見つかる.このことは,鉱床形成時に微生物活動が活発であったことを示す.これら微生物活動でもたらされた有機物炭素同位体組成は-33~-26パーミルの値を示す.マーカーチャートの値よりも低めの値であり,これは炭素源としてメタンを用いる微生物が生態系に加わった時に生じる特徴である[14].一般的には,メタン生成菌とメタン酸化菌の活動が顕著になり,光合成微生物による炭素固定量よりも多くの炭素を固定すると,-30パーミルよりも優位に低い炭素同位体組成の組成が堆積物に見られるようになる.有機炭素の炭素同位体組成が-33パーミル以下になる特徴がマーカーチャートなどに見られず,鉱床形成場に限定されていることを考えると,サルファースプリングスではメタン生成/酸化菌が活動的であったが,その活動は海底熱水活動近傍に限られていたことを示している.
   一般に熱水由来H2Sを硫黄源として無機的に硫化物が形成されるとδ34S値は-5から+5パーミル近傍の値をとる.実際に,コア深度130m以下の試料は,-5から+5パーミルの範囲にプロットされ,産出状態からも無機的に熱水から沈殿したと結論付けられる.
   地質時代の海洋堆積物中では硫酸還元菌の活動により黄鉄鉱が形成される.硫酸還元菌によって作られた黄鉄鉱は,動的同位体分別効果により,硫酸イオンに比べ32Sに著しく富む特徴がある.その一方で堆積物中で硫酸還元が継続すると硫酸イオン自身の硫黄同位体組成が34Sに富むようになる.こうした硫酸イオンをもとに黄鉄鉱が形成されると32S ではなく34Sに富む黄鉄鉱が形成される[15].以上の一連のプロセスで,32S に富んだ黄鉄鉱から34Sに富んだ黄鉄鉱が同一堆積物中に出現することになる.逆にこうした組成幅を持った黄鉄鉱は硫酸還元菌の活動を示す指標になる.
   サルファースプリングス鉱床とその上部の有機炭素濃集帯の中の黄鉄鉱に関しては,32Sに富んだ組成は見られなかった(Fig.5).その一方で,+10パーミルという34Sに富んだ組成は見られた.こうした値は,無機的に形成された硫化鉱物の硫黄同位体組成と大きく異なる.34Sに富んだ黄鉄鉱が見つかったのが有機炭素に富んだ岩石であることを考えると,硫化鉱物形成に硫酸還元菌が深く関わったことを示している.すなわち,32億年前のサルファースプリングス鉱床が形成されている場で,メタン生成,メタン酸化に加え硫酸還元菌の活動が活発であったことを示す.Fig.5に示した硫黄同位体組成の解釈として,有機炭素を還元剤とした無機的硫酸還元の可能性も考慮する必要がある.ただし無機的硫酸還元を起こすには200~300℃以上の温度条件が必要である.今回使用した試料には200~300℃の高温にさらされた痕跡は見つからないので,無機的硫酸還元ではなく,硫酸還元菌によって黄鉄鉱形成が行われたと結論するのに矛盾はない.





Figure 5. Carbon isotope compositions of organic matter and sulfur isotope compositions of sulfide in SSD82 core samples.

4.3. 生体必須元素供給源としての海底熱水活動
   Fig.6に卓上エックス線分析顕微鏡で得られた元素マッピングの結果例を示す.ここでは有機炭素濃集帯の試料を用い,硫黄とモリブデンのKα線の結果を示している.この岩石片には熱水由来黄鉄鉱と有機炭素に富んだ黒色頁岩帯の両方が含まれている.この分析手法では相対的濃度分布が表示され,絶対値は分からないが,Fig.6上で明るく見える部分が高濃度部分である.卓上エックス線分析顕微鏡分析によって有機炭素分布域にMoが相対的に多く濃集していることが認められた.ただしMoの存在形態は不明で,微細鉱物に取り込まれているのか,有機化合物を作っているのかは不明である.Moは本来,硫化鉱物に分配されやすい元素である.にもかかわらず熱水性硫化鉱物にMoが分配されないのは,一見矛盾する.Moは生体必須微量元素の一つで酵素活動の活性化に用いられるので,32億年前の微生物活動によってMoがいったん微生物に取り込まれ,最終的に有機炭素層に濃集されたと考えると説明可能である.
   大陸環境では4価など価数の低いMoが岩石中に微量元素として存在しているが,酸素を含んだ雨水で風化作用を被ると,Moの価数が上がり水溶性となる.そうしたMoが河川水経由で海洋に注ぎ込まれる[13].現在の海洋環境では,海水中にMoが6価のイオンとして90 nmol/l程度存在している.現在の海洋環境では溶存酸素が豊富にあるためにMoは6価の状態を維持し,溶存した状態で存在できる.逆に地球表層部に遊離酸素がないと,海洋にMoを濃集させることはできない.32億年以前では大陸の存在や酸化的風化の存在が疑われており,海洋に広くMoを濃集させることはできなかったであろう [16].
   その一方で,海底熱水活動ではMoを海底岩石から溶脱させ,海洋に供給できる.仮に,32億年前に大陸がMoを海洋に供給できなかった場合,海底熱水活動は重要なMoの供給源となる.ただし,海底熱水からのMoフラックスは大陸風化からのフラックスに比べて低いので海洋に溶存できる量も低かったと思われる.逆に海底熱水噴出孔近傍は,Moに代表される様々な生態必須元素濃度が局所的に高く微生物が生態必須元素を得やすい場であった可能性がある.本研究で見いだされたサルファースプリングス鉱床の有機炭素濃集帯へのMoの選択的濃集は,熱水から微生物への直接的な元素の流れを見ていると仮説付けられる.





Figure 6. Elemental maps of the representative samples obtained by X-ray scanning microscope.
X-ray map (Kα) of S and Mo are shown with rock chip photographs. Rock samples contain pyrite and organic matter with other silicates (see left figures). Bright areas are high concentration areas for both S and Mo (see middle and right figures). High S areas are roughly corresponded to pyrite.

4.4. 初期地球海底熱水系は進化の場として適切であったか?
   海底熱水を想定した有機分子合成および重合実験が世界的に行われてきている.しかし,アミノ酸,糖,核酸塩基など本質的な有機分子生成成功例は極めて少ない[5, 17].酸性高温のブラックスモーカーを想定したペプチドの重合実験では,ペプチド自身の寿命が数秒〜数分と極めて短時間である [3].そのような環境で,実際の化学進化が起こったか疑問は存在する.
   初期地球環境における海底熱水活動は,Moなどの生体必須元素の供給源であり,メタン菌などの独立栄養化学合成微生物の重要な生息場であったであり特定の微生物進化の場としては重要であったと思われる.しかし,全地球規模で海底熱水活動が供給できるエネルギー量は極めて限られており,太陽からもたらされるエネルギー量に比べて圧倒的に少ない [18]. 約40億年前の太陽からのエネルギーフラックスが,250W/m2に対して,地球内部からの熱エネルギーフラックスは0.087 W/m2である.ここでいう地球内部からの熱エネルギーのほとんどは,火山活動に関連したエネルギーで,0.087W/m2の一部が海底熱水活動に関連したエネルギーとなる.仮に初期地球の海底熱水活動からのエネルギーフラックスが,現在のものに比べて100倍以上あったとしても,現在の生態系を支えるのに必要な総エネルギーを海底熱水系からは得られない.このことは,仮に海底熱水場が初期生命進化の場であった場合,初期生命体のバイオマス量は極めて限られたものであったことを意味する.太古代では100度前後の海底熱水系が広く存在し,そこでも微生物活動が行われていた証拠が報告されている [19, 8].しかし,ここでのエネルギーフラックする量も極めて少ない上に,それら岩石は黒色頁岩を伴うことはなく,100度前後の海底熱水系に関連した生物生産量は不明である.逆に,初期地球海底熱水系以外で初期生命体の進化が起こった場合は,上記エネルギーパラドックス問題を克服できる可能性がある.そうした観点で初期生命進化を議論した研究例は少なく,今後の検討に値する.

5. まとめ

   太古代海底熱水鉱床はサルファースプリングス鉱床の例のように黒色頁岩を伴うことが多く,メタン生成/酸化菌など海底熱水活動に依存した生態系が存在したことも確かである.大陸の酸化的風化が期待できない初期太古代において,海底熱水活動はMoなど生体必須元素の重要な供給源であった.そこでは,微生物活動がMoを直接取り込んだと思われる痕跡や微生物活動を介した鉱物形成の痕跡も見出された.ただしブラクスモーカーを伴うような高温酸性熱水活動の地質学的記録は著しく限定されており,海底熱水系に依存した生態系が太古代に主要なものであったかは判定できる材料は存在しない.また太古代海底熱水系に多くの微生物活動の痕跡は見出され,独立栄養化学合成細菌など特定生物の進化にとって重要な場であっただろうが,全生物の共通の進化の場であったかは,まだまだ検討を要する.

謝辞

本研究は日本学術振興会基盤研究B(海外)17403011および21403009によって支援され推進された.

References

1. Martin, W., Baross, J., Kelley, D. and Russell, M. J. Hydrothermal vents and the origin of life, Nature Rev. Microb. 6, 805-814 (2008).
2. Takai, K., Nakamura, K., Toki, T., Tsunogai, U., Miyazaki, M., Miyazaki, J., Hirayama, H., Nakagawa, S., Nunoura, T. and Horikoshi, K. Cell proliferation at 122 degree C and isotopically heavy CH4 production by a hyperthermophilic methanogen under high-pressure cultivation, Proc. Nat. Aca. Sci. 105, 10949-10954 (2008).
3. Imai, E., Honda, H., Hatori, K., Brack, A. and Matsuno, K. Elongation of oligopeptides in a simulated submarine hydrothermal system, Science 283, 831-833 (1999).
4. Kawamura, K., Nishi, T. and Sakiyama, T. Consecutive elongation of alanine oligopeptides at the second time range under hydrothermal condition using a micro flow reactor system, J. Am. Chem. Soc. 127, 522-523 (2005).
5. Huber, C. and Wachtershauser, G. α-hydroxy and a-amino acids under possible Hadean, volcanic origin of life conditions, Science 314, 630-632 (2006).
6. Miller, S. L. and Bada, J. L. Submarine hot springs and the origin of life, Nature 334, 609-611 (1988).
7. Rasmussen, B. Filamentous microfossils in a 3,235-million-year-old volcanogenic massive sulfide deposit, Nature 405, 676-679 (2000).
8. Ueno, Y., Yamada, K., Yoshida, N., Maruyama, S. and Isozaki, Y. Evidence from fluid inclusions for microbial methanogenesis in the early Archaean era, Nature 440, 516-519 (2006).
9. Van Kronendonk, M. J. and Morant, P. Revised Archean stratigraphy of the North Shaw 1:100,000 sheet, Pilbara Craton, Geol. Sur. West. Austr. Ann. Rev. 1997-1998, 55-62 (1988).
10. Buick, R., Brauhart, C. W., Morant, P., Thornett, J. R., Maniw, J. G., Archibald, N. J., Dopel, M. G., Fletcher, I. R., Pickard, A. L., Smith, J. B., Barley, M. E., McNaughton, N. J. and Grove, D. I. Geochronology and stratigraphic relationships of the Sulphur Springs Group and Strelley Granite: a temporally distinct igneous province in the Archaean Pilbara Craton, Australia, Prec. Res. 114, 87-120 (2002).
11. Brauhart, C. W., Huston, D. L., Groves, D. I., Mikucki, E. J. and Gardoll, S. J. Geochemical mass-transfer patterns as indicators of the architecture of a complete volcanic-hosted massive sulfide hydrothermal alteration system, Panorama District, Pilbara, Western Australia, Eco. Geo. 96, 1263-1278 (2001).
12. Groves, D. I. and Barley, M. E. Archean Mineralization, pp. 461-503, in Condie, K. C. Eds., Archean Crustal Evolution, Elsevier, Amsterdam, 1994. 13. Kakegawa, T., Noda, M. and Nanri, H. Geochemical Cycles of Bio-essential elements on the early Earth and their relationships to origin of life, Res. Geol. 52, 83-89 (2002).
14. Schidlowski, M. A 3800-million-year isotopic record of life from carbon in sedimentary rocks, Nature 333, 313-318 (1988).
15. Kakegawa, T., Kawai H. and Ohmoto, H. Origins of pyrites in the 2.5 Ga Mt. McRae Shale, the Hamersley district, Western Australia, Geochim. Cosmochim. Act. 62, 3205-3220 (1998).
16. Bekker, A., Holland, H. D., Wang, P-L., Rumble, D. III, Stein, H. J., Hannah, J. L., Coetzee, L.L. and Beukes, N. J. Dating the rise of atmospheric oxygen, Nature 427, 117-120 (2004).
17. Proskurowski, G., Lilley, M. D., Seewald, J. S., Fruh-Green, G. L., Olson, E. J., Lupton, J. E., Sylva, S. P. and Kelley, D. S. Abiotic hydrocarbon production at lost city hydrothermal field, Science 319, 604-607 (2008).
18. Rosing, M. T., Bird, D. K., Sleep, N. H., Glassley, W. and Albarede, F. The rise of continents-an essay on the geologic consequences of photosynthesis. Paleogeogr., Paleoclim. and Paleoeco. 232, 99-113, (2006).
19. Tice, M. M. and Lowe, D. R. Photosynthetic microbial mats in the 3416-Myr-old ocean, Nature 431, 549-552 (2004).

Return to Japanese Contents

Return to English Contents