CAPTURE AND EXPOSURE OF EXTRATERRESTRIAL ORGANIC COMPOUNDS BY UTILIZING INTERNATIONAL SPACE STATION

Kensei Kobayashi
Graduate School of Engineering, Yokohama National University 79-5 Tokiwadai, Hodogaya-ku, Yokohama 240-8501, Japan
(Received February 9, 2009; Accepted February 20, 2009)
kkensei@ynu.ac.jp

(Abstract)

     A great number of experiments have been done to examine possible prebiotic formation of bioorganic compounds such as amino acids in possible primitive environments. There are two scenario of prebiotic formation of bioorganic compounds: An endogenous formation scenario and an exogenous formation scenario. The latter scenario was supported by the facts that a wide variety of organic compounds were detected in meteorites and comets. It is now suggested that organic compounds in extraterrestrial bodies were originally formed in extremely cold environments such as in molecular clouds. Laboratory experiments showed that complex precursors of amino acids could be formed from simulated interstellar media by irradiation with high-energy particles. It was suggested that such extraterrestrial organic compounds were delivered mainly by cosmic dusts. We have, however, very limited information on organic compounds in cosmic dusts since they are captured within terrestrial environments. We proposed a novel astrobiology mission “Tanpopo” by utilizing the international space station. In the mission, cosmic dusts will be collected with ultra-low-density aerogel, and organic compounds in them will be analyzed. In the mission, organic compounds simulating extraterrestrial organics will be directly exposed to solar ultraviolet light and cosmic rays at the same time to study the fate of organic compounds in cosmic dusts near the Earth orbit.

(Keywords)

International space station, space dusts, extraterrestrial organic compounds, ultraviolet light, cosmic rays, panspermia

国際宇宙ステーションを用いた地球外有機物の捕集・曝露実験

小林憲正
横浜国立大学大学院工学研究院
〒240-8501 横浜市保土ヶ谷区常盤台79-5

1. はじめに

     生命の起源は人類に遺された最大の謎のひとつである.1920年代,ロシアのオパーリンとイギリスのホールデンは,物質の進化により生命が誕生したとする「化学進化仮説」を提唱した.しかし,その検証が本格的に始まったのは20世紀後半になってからである.1953年,ミラーは,メタン・アンモニア・水素・水の混合気体の中で火花放電を行い,その生成物中にアミノ酸を検出した[1].これ以降,数多くの化学進化模擬実験が行われるようになった.一方,地球外にも種々の有機物の存在が認められるようになり,それらの有機物と地球生命誕生との関係が議論されている
.      ここでは,地球外での有機物生成から生命の誕生にいたるシナリオを提案し,その検証のための宇宙実験計画を紹介する.

2.原始地球大気中での生体有機物生成

     生命の誕生以前に生体有機物の存在は必須である.すなわち無生物的に生体有機物が合成されなければならない.無生物的な生体有機物(アミノ酸など)の生成の場としては,原始地球大気がまず考えられる.ミラーの実験では,原始大気として,メタン・アンモニア・水素・水混合物という非常に還元的な混合気体が用いられた.この場合,エネルギー源としては,ミラーの実験で用いられた放電をはじめとして,火山の熱,太陽からの紫外線などが考えられた.原始地球大気が「強還元型」であった場合,これらのエネルギーで多量のアミノ酸が生成することが室内実験で示されてきた.
     しかし,近年,生命誕生時の地球の大気は強還元型ではなく,二酸化炭素・一酸化炭素・窒素などを含む弱還元的なものであったと考えられるようになった.この場合,アミノ酸などの生体有機物は放電,熱,紫外線などでは生成しにくいことが報告されている.われわれは,従来,原始地球上でのエネルギーとして無視されてきた,宇宙線などの放射線や隕石衝突の影響による有機物の生成を実験的に検討した[2].種々の組成比の二酸化炭素,一酸化炭素,窒素,水の混合気体に,宇宙線の効果を模して,加速器からの陽子線などの粒子線を照射し,生成物を加水分解したところ,多種類のアミノ酸が検出された[3].一酸化炭素と窒素の等モル混合物を用いた場合に最も多くのアミノ酸が生成し,エネルギー収率(G値:吸収エネルギー100 eVあたりの生成分子数)は,最も多く生成するグリシンで0.02 という高い値であった.この値は,粒子の種類や粒子当たりのエネルギー値には依存しなかった.紫外線・真空紫外線(λ>120 nm)ではアミノ酸はほとんど生成しなかったが,シンクロトロンからのX線 (1-2 keV)を照射した場合は,アミノ酸の生成が確認された[4].これは,一酸化炭素・窒素の解離やイオン化に10 eVを超えるエネルギーが必要なためと考えられる.
     しかし,宇宙線や隕石衝突のエネルギーフラックスは,放電や紫外線などのエネルギーフラックスよりも小さく,生成する有機物量は原始大気の組成によっては限定的と考えられる.

3. 星間塵上でのアミノ酸前駆体の生成

     原始大気中での有機物の生成が従来考えられていたほどには見込めないことから,地球外からの有機物の供給が注目されるようになった.
     原始地球には現在よりもはるかに多い頻度で隕石や彗星が衝突したとされる.炭素を多く含む隕石「炭素質コンドライト」の抽出物からはGC/MSなどで数十種類のアミノ酸や,核酸塩基などが検出されている[5].ハレー彗星のダストの質量分析[6]や,スターダスト計画によるヴィルト第2彗星からのダストの採取・分析[7]により,彗星中にも複雑な有機物が含まれることが確認されている.
     隕石や彗星中の有機物はどこでどのようにしてできたのだろうか.タギッシュレーク隕石やスターダスト計画で持ち帰られた彗星ダスト中の有機物の同位体分析などから,隕石・彗星中の有機物は極めて低温で,すなわち太陽系ができる前に生成したことが強く示唆されている.星間での有機物生成機構は数多く提案されているが,代表的なものに以下のような「グリーンバーグ・モデル[8]」がある.
     分子雲中は恒星の光が入り込めず低温(10-20 K程度)のため,星間塵上には水や一酸化炭素,メタノール,メタン,アンモニアなどが凍結して「アイスマントル」を作っている.これに宇宙線や,宇宙線と物質との相互作用で生じた紫外線などが作用して有機物が生成した可能性が考えられる.分子雲での有機物の生成を検証するために,様々な模擬実験が行われた.
     高真空に保ったクライオスタット中に置かれた金属基板に出発材料(例えば一酸化炭素・アンモニア・水蒸気の混合気体)を吹き付け,氷をつくる.これに重水素ランプなどからの紫外線,もしくは加速器からの高エネルギー陽子線を照射する.照射後,基板上の生成物を取り出し,そのまま,あるいは酸加水分解後にアミノ酸分析を行う.このような実験により,紫外線照射や陽子線照射により凍結した模擬星間物質からアミノ酸前駆体(加水分解によりアミノ酸が生じる物質)が生成することが報告された[9-13].

4.星間塵上での複雑有機物の生成

     従来の実験では一酸化炭素を炭素源として用いたため,作ることのできる氷の量が制限され,加水分解前の「アミノ酸前駆体」に関する考察が困難であった.われわれは,模擬星間塵有機物としてメタノール・アンモニア・水の混合物(液相・固相)を用い,これに宇宙線の効果を模擬するため,放射線医学総合研究所の重粒子加速器HIMACからの高エネルギー重粒子線(例えば290 MeV/uの炭素イオン線)を照射した.酸加水分解後にイオン交換クロマトグラフィーやGC/MS分析の結果,グリシン,β-アラニンなどの種々のアミノ酸を生じることがわかった[14].最も生成量の多いグリシンのエネルギー収率(G値)は,室温(液相)での照射時が0.014であるのに対し,液体窒素温度(固相)では約50 %の0.007であった.つまり,低温の固体への照射においても液体への照射時と遜色のない収率でアミノ酸が生成することがわかった.このことは,星間塵アイスマントルのような固相環境下でも,宇宙線照射により十分にアミノ酸前駆体が生成することが期待できる.
     また,これまでの実験では,加水分解によりアミノ酸が生成することは報告されていても,加水分解前にどのような分子が生成するのか,つまりアミノ酸前駆体が何かはわからなかった.重粒子線照射生成物を加水分解しないでゲルろ過クロマトグラフィーを行ったところ,生成した分子は,固相照射,液体照射のいずれの場合も推定平均分子量約2300であることがわかった.また,熱分解GC/MS分析により,この分子は含窒素複素環化合物など多様な残基を有することが示された.つまり,分子雲中で,宇宙線により高分子状の複雑な構造を有するアミノ酸前駆体がすでに生成していることが強く示唆された.

5.星間でのアミノ酸不斉の創生

     アミノ酸は光学活性な分子で,D-アミノ酸とL-アミノ酸があるが,地球生命が用いているのは基本的にL-アミノ酸のみである.D-体,L-体の混じったラセミ体では高次構造を有するタンパク質が形成できない.では,なぜ,D-体ではなく,L-体を用いるようになったのだろうか.この光学活性の起源の問題に対して多くの仮説が提唱されてきた.統計的ゆらぎや,水晶などの光学活性鉱物への吸着などに対掌体の一方の過剰(エナンチオ過剰)の原因をもとめる偶然説に対し,分子に対して働く物理化学的な相互作用に非対称性の原因を求める必然説もいくつか提唱されている[15].
     1997年,Croninらは,マーチソン隕石中の一部のアミノ酸にL-体の過剰が認められることを報告した[16].それ以前にも隕石中のアミノ酸にL-体優位が存在するという報告は存在したが,L-体の過剰は地球環境からの混入による可能性が排除しきれなかった.Croninらの分析結果では,多くのアミノ酸にはL-体の過剰がみられない(混入の可能性が低い)にもかかわらず,特殊なアミノ酸,例えばイソバリンなどにおいて有意のL-体の過剰が得られたところに意味がある.イソバリンはα位に水素を持たないアミノ酸で,このようなアミノ酸はラセミ化速度が遅い.つまり,40億年前にはタンパク質構成アミノ酸を含む多くのアミノ酸にL-体の過剰があったのが,ラセミ化が進み,現在ではラセミ化速度の遅い一部のアミノ酸のみにL-体過剰が検出されたとの仮説が成り立つ.では,なぜ,隕石中のアミノ酸にL-体の過剰が見られたのだろうか.宇宙に何か不斉の原因があるのだろうか.
     宇宙における不斉の要因として,以前より注目されてきたのは,円偏光によるアミノ酸の不斉分解である.光学活性なアミノ酸は,円二色性を示し,円偏光により,D-体もしくはL-体の一方が他方よりも分解されやすいことが期待される.円偏光の起源としては,超新星爆発の後に形成された中性子星が最も有力視されてきた.中性子星のまわりを高速で電子が回転するため,シンクロトロン効果により放射光が生じるが,これは赤道方向には直線偏光,極方向には円偏光となる.隕石のもとになった星間塵がこの円偏光に曝露され,アミノ酸のエナンチオ過剰が生じた,というのが円偏光説のシナリオである.実際に,Baileyらは,宇宙空間で赤外領域の円偏光が存在するのを観測している[17].
     これまで,遊離のアミノ酸をターゲットに用い,その大部分を分解することにより不斉の創生が試みられてきた.しかし,実際に星間でできるのは複雑な「アミノ酸前駆体」と考えられる.そこで,アミノ酸前駆体に円偏光紫外線を照射して不斉が創生されるかどうかを調べた.アミノ酸前駆体としては先に述べたのと同じ,一酸化炭素・アンモニア・水混合物に陽子線照射して合成したもの(CAW)を用いた.この溶液に,シンクロトロン(NTT)からの右または左円偏光を照射した後,酸加水分解し,D-, L-アミノ酸の分析を行った.その結果,右円偏光を照射した時にはD-アラニンが,左円偏光を照射した時にはL-アラニンの過剰が観測された.この場合,遊離のアミノ酸を用いた場合とは異なり,アミノ酸量の減少はなく,むしろ微増した.つまり,星間の高分子状のアミノ酸前駆体に円偏光が照射されることにより,アミノ酸を分解することなく不斉を創生しうることが示唆された[18].  不斉創生の別の可能性としてはパリティ非保存則に基づく説が提唱されている.これまでに,パリティ非保存に基づくL-アミノ酸の選択を実験的に確かめる試みもなされてきたが,その差があまりにも小さいため,これまでに有意の結果は得られなかった.われわれは,Snezhinsk(ロシア)で強力な90Srと90Yの線源から生じる偏極β線を用いる不斉合成実験を現在試みている[19, 20].

6.地球外有機物から生命へのシナリオ

     分子雲中で宇宙線等の作用により,分子量数千のアミノ酸等の前駆体となる複雑な有機物が生成する可能性が強く示唆された.この複雑有機物態のアミノ酸は,遊離アミノ酸と比べて放射線や熱に対して安定であり,また,宇宙で円偏光紫外線などによりアミノ酸の不斉が生じた可能性も示唆された.このような有機物が,隕石や彗星,さらにはこれらから放出されたダスト(惑星間塵もしくは微隕石)により原始地球に届けられた可能性は高い.また,原始大気中でも宇宙線などの作用により,アミノ酸や核酸の前駆体を含む複雑有機物が生成する.これらは,原始海洋にとけ込み,地球生命の素材となったと考えられる.
     地球外からの有機物の供給については,特にダスト(惑星間塵・微隕石)が重要と考えられる.これは,ダストは地球突入時の分解の可能性が低く,また,隕石や彗星よりも多くの有機物を供給したと考えられるからである.ChybaとSaganは,原始地球への有機物供給に関し,隕石(小惑星)や彗星よりもダストの寄与が遙かに多いと試算している[21].しかし,彼らは地球外有機物の供給を有機炭素の量としてのみ評価しており,それらが生命の誕生に有用か否かについては議論していない.ダスト中の有機物についての知見は隕石や彗星中の有機物に較べ,遙かに少ない.このようなダストは南極の氷中や,深海底から採取されたり,航空機により高層大気中で採取されたりしてきた.前者は微隕石(MM),後者は惑星間塵(IDP)とよばれることが多い.しかし,これらは地球生物圏中で捕集されたものでありダスト固有の有機物,とりわけ生体関連有機物の分析は極めて困難であった.また,ダストは彗星や隕石・小惑星由来と考えられているが,微小であるため,地球周辺では太陽からの強い紫外線や宇宙線に直接曝露されており,そのような環境下で隕石や彗星有機物がどのような変成を受けるかを知る必要がある(Fig. 1参照).
     星間での有機物の生成や変成を調べるためには,実際の宇宙環境下での実験が有効と考えられる.われわれは,国際宇宙ステーション日本実験モジュール(JEM)暴露部での実験(たんぽぽ計画)を準備中である[22].たんぽぽ計画では,微生物の惑星間移動を検証するため,低密度エアロゲルを用いてダストを捕集し,微生物の検証を行うが,それに加えて,ダスト中の有機物を評価すること,隕石関連有機物などを実際の宇宙環境に暴露し,その安定性を調べることなども計画している.このような実験により,地球生命が地球外からもたらされた可能性,生命のもととなる有機物が地球外から供給された可能性などが検証されることになる.タンポポ計画の詳細を述べる前に,有機物の宇宙環境下での変成等を調べるために行われたこれまでの宇宙実験を紹介する.



Fig. 1 Formation and Alteration of organic compounds in space

7.これまでのアストロバイオロジー宇宙実験[23]

     宇宙開発の進展とともに,人工衛星,スペースシャトル,宇宙ステーションなどを用いた宇宙実験が可能になると,アストロバイオロジー実験を実際の宇宙環境で行うこころみもなされるようになった.その多くは(i) 宇宙紫外線・放射線による有機物の変成,(ii) 宇宙紫外線・放射線による微生物や生体高分子の安定性,(iii) 宇宙環境下での閉鎖生態系の挙動に関連するテーマである.
     上記のうちの(i)に関するものとしては,Greenbergらによるもの[24, 25]が挙げられる.Greenbergらは,まず,室内実験で,模擬星間物質(水・一酸化炭素・アンモニア・アセチレンの混合物)に紫外線を照射して「模擬星間有機物」を合成した.これは分子雲内での反応を模したものである.これをEURECA衛星を用いて実際の宇宙環境において6ヶ月間,宇宙紫外線に曝露することにより,星間塵に特徴的な波長3.4 mmに吸収極大を有する赤外スペクトルを示すようになったことを報告している.
     これまで最も数多くなされてきたのは,(ii)に関するものである.20世紀に行われた主な微生物等の曝露実験をTable 1に示す。1972年のアポロ16号で枯草菌胞子を曝露したのを皮切りに,スペースラブ1,D2,LEDF,EURECA,BIOPANなどのミッションが利用され,最長6年間(LDEFの場合)の曝露実験が行われた[26, 27].これらの実験では枯草菌の胞子,放射線耐性菌(Deinococcus radiodurans),DNAなどを宇宙空間に曝露して,その生存可能性,変異,誘導などが調べられてきた.胞子等が用いられているのは,他の惑星で誕生した生命の胚種が宇宙空間を漂った後,地球にたどりついて地球生命のもとになった,とする「パンスペルミア説」の検証を目的としているためである. S. Arrheniusがこのパンスペルミア説を提唱した20世紀初頭では,微生物が長時間宇宙で生存できるはずがない,という批判が多かった.これらの実験により,隕石粉末など適当なもので覆われていれば,微生物が長時間,真空の宇宙環境で生存可能であることが示された.また,BIOPANミッションはFOTON衛星を用いたもので,1994年のBIOPAN Iを皮切りに,2005年のBIOPAN Vまで行われ,各2週間程度,種々の微生物や有機物(多環芳香族炭化水素など)の曝露が行われている.Table 1に,衛星等を利用したこれまでの主なアストロバイオロジー宇宙実験をまとめた.BIOPANミッションの最新のものはBIOPAN VIで,2007年9月14日に打ち上げられ,種々の試料が11.8日間,宇宙環境に曝露された[27].
    国際宇宙ステーションは,アメリカ,ロシア,ヨーロッパ,日本,カナダなどが協力し,2010年完成をめざして建設中であるが,これを利用したアストロバイオロジー宇宙実験もスタートしている.これは,ヨーロッパとロシアの研究者を中心としたEXPOSEとよばれる実験であり,宇宙ステーションの欧州実験モジュールColumbusと,ロシア実験モジュールの曝露部を利用したものである[27].EXPOSE-Eと呼ばれる前者は,2008年2月7日に打ち上げられ,2月15日に船外にColumbusに取りつけられた後,2月20日から曝露が始まった.曝露されたものは,LIFE, ADAPT, PROTECT, SEEDSなどとよばれる微生物や植物の種子が中心であるが,PROCESSとよばれる有機物曝露実験が含まれている.代表研究者(PI)はH. Cottinであり,約1年半の曝露の予定である.
    ロシア実験モジュールを利用するEXPOSE-Rは2008年11月28日に打ち上げられ,約1年の曝露が予定されている.その中にAMINOと呼ばれる有機物曝露実験が含まれている.
    UVolution, EXPOSE-E, EXP0SE-Rで曝露された有機物は,次のようなものが含まれている[28].
1) タイタン関連:メタンガス,メタン・窒素混合ガス,ソーリン(メタン・窒素から放電などで作られた固体有機物).
2) 彗星・隕石関連:ポリオキシメチレン,ヘキサメチレンテトラミン,HCNポリマー,C3O2ポリマー,グリシンなどのアミノ酸(単独,または隕石粉末との混合物),アデニンなどの核酸塩基,尿素など.
3) 火星関連:フタル酸,メリット酸,火星土壌類似物.




8.たんぽぽ計画

     われわれは,平成16年度以来,宇宙環境利用科学委員会地球周回軌道におけるアストロバイオロジー実験研究班WGを組織し,国際宇宙ステーションなどを用いたアストロバイオロジー実験テーマについて議論を行ってきた[18-21].その議論の中から,宇宙ステーション上での微粒子の採取と微生物・有機物・鉱物探査や宇宙空間での微生物の生存可能性を調べる実験を「たんぽぽ計画」として国際宇宙ステーション曝露部利用の候補課題として提案し,現在,その検討が進められている.
     たんぽぽ計画の目的を一言でいえば,パンスペルミアの検証である.パンスペルミアは,地球外で誕生した生命が宇宙空間を移動し,地球に到達して地球生命のもとになったとする説であり,20世紀初頭にS. Arrheniusにより名付けられた.たんぽぽ計画において微生物の惑星間移動は,宇宙ステーション曝露部で採集したダスト中の微生物の検出と,微生物の宇宙環境への曝露により検証が試みられる.詳細は山岸ほかの解説[29]を参照してほしい.
     これと同時に,生命誕生前の地球に地球外で生成した有機物が供給され,それをもとに地球生命が誕生した,とする考え方は,「化学パンスペルミア」ともいえる.その検証のため,地球外環境で直接捕集したダスト中の有機物を分析し,原始地球にどのような形で有機物が届けられたかを調べる「有機物捕集実験」と地球近傍での有機物の変成を調べる「有機物曝露実験」もたんぽぽ計画の中で行われる.
     有機物曝露実験で用いる有機物としては,宇宙塵により地球に運び込まれた可能性の高い有機物を選択する予定である.模擬星間環境実験により,アミノ酸前駆体を含む複雑有機物が生成したことを述べたが,そのような複雑有機物や,隕石から抽出した有機物がまず候補となる.これらは,地上実験において,遊離のアミノ酸よりも放射線や紫外線に対して安定であることが示唆されている.対照試料として,遊離のアミノ酸やタンパク質などの曝露も必要であろう.これらの有機物は,単独で,あるいは粘土や隕石粉末などの鉱物マトリックスとともに曝露され,鉱物マトリックスの影響も評価される予定である.

謝辞

     本解説における議論は,JAXA宇宙環境科学委員会のサポートによる「地球周回軌道におけるアストロバイオロジー実験研究班WG」および「たんぽぽ研究班WG」における議論を多く含む.WGメンバーおよびJAXAに感謝する.EXPOSE-E, EXOPOSE-Rについては,パリ大学のHerve Cottin博士から情報をいただいたので感謝する.また,紹介した地上実験の一部に関しては,文部科学省科学研究費補助金(No. 170204050, No. 19654084)によるものである.

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