THERMAL HETEROCOMPLEX MOLECULES AS REACTION FIELD OF CHEMICAL EVOLUTION

Mihoko Kunita
Graduate School of Systems Information Science, Future University-Hakodate, Kamedanankano116-2, Hakodate, Hokkaido 041-8655, Japan
E-mail: g3106004@fun.ac.jp
(Received July 31, 2008; Accepted August 8, 2008)

(Abstract)

Thermal heterocomplex molecules formed by heating a mixture of amino acids could have been one of the reaction fields for different chemical reactions on the primitive earth. The thermal heterocomplex molecules have a characteristic of thermal hysteresis. Microspherical particles formed from the thermal heterocomplex molecules can be transformed into microcapsules in aqueous solutions with increasing pH. In addition, nucleoside and phosphoric acid can be adsorbed on the surface of the microspherical particles. According to these facts, it is plausible that thermal heterocomplex molecules and their microspherical particles could have important roles for the organization or functionalization of prebiotic molecules.

(Keywords)

thermal heterocomplex molecules, nonequilibrium state, reaction field, condensation, chemical evolution

化学進化の反応場としてのアミノ酸熱重合物

國田 美穂子
公立はこだて未来大学大学院システム情報科学研究科
〒041-8655 北海道函館市亀田中野町116番地2
E-mail: g3106004@fun.ac.jp

1. はじめに

     地球上の全ての生命は, 原始地球環境下で進行した化学進化によって出現した原始生命から進化したと考えられている. 化学進化では, 低分子量の分子が種々のエネルギー供給を受けることで現在の生物を構成する高分子有機化合物やその類似物質を生じ, それらの高分子有機化合物が膜などの様々な構造体を形成してそれらを部品として原始生命に至ったと考えられている. この化学進化では, 有機化合物などがその相互作用によってより高次の構造体を形成するような組織化あるいは機能化というキーワードを用いて理解できる現象が化学進化の段階を越えて認められる. そのため, 生命の起源の研究では, 物質の生成反応だけでなく, 組織化や機能化の過程について研究することが重要であると考えられる. また, それらの過程は外部から種々のエネルギー供給を受ける非平衡環境下で進行するので, 非平衡環境下での物質間相互作用について調べることが必要とされる.
      そこで私は, アミノ酸を加熱重合して得られるアミノ酸熱重合物の物性や非平衡環境下でのアミノ酸熱重合物の構造形成を調べてきた. ここではこれまでの研究をふまえて, 原始地球環境下でアミノ酸熱重合物のような高分子有機化合物が形成されるまでの過程と, アミノ酸熱重合物の種々の物性およびアミノ酸熱重合物が非平衡環境下で化学進化に寄与した可能性について述べる.

2. 分子から高分子有機化合物の形成

     アミノ酸熱重合物は前生物的化学進化の過程で生成し得た物質であり, 現存する生物の生体を構成するタンパク質と類似する物質である. これに関連するアミノ酸やその熱重合物の生成過程についてはこれまでに多く調べられており, その多くは外部からのエネルギー供給によって物質が生成される過程を実験的に示したものである.
      1953年にMillerは, 還元大気モデルのガス混合物への火花放電によってアミノ酸や核酸塩基が生成されることを示した[1,2]. この結果は, 原始地球環境下でアミノ酸や核酸塩基などの生体を構成する重要な低分子有機化合物が非生物的に生成されたことを支持する. この実験によってそれ以降は, 生命が自然発生したとする自然発生説にかわり化学進化説が一般に認められるようになった点で意義がある. また1999年に松野らは, 海底熱水噴出孔を模したフローリアクターで,グリシンからオリゴグリシンが生成されることを示した[3]. この結果は, 局所的熱勾配がある空間でアミノ酸が重合したことを示唆し, 化学進化における非平衡環境の重要性を強調した. しかしながらこれらの実験では, 外部からのエネルギー供給が高すぎるために, 高分子有機化合物は分解しやすくなるため生成したとしても検出されなかったと考えられる. 従って, 低分子有機化合物から高分子有機化合物が効率良く生成する経路として他の過程を考える必要がある.  
     1958年にFox, 原田らは, 数種のアミノ酸の加熱重合によってタンパク質様物質(プロテイノイド)を得た[4]. また, このプロテイノドが希薄な塩溶液に加熱溶解した後, 球状の滴粒であるプロテイノイドミクロスフィアを形成することを示した[5,6]. 1980年に柳川と江上は, アミノ酸を含む修飾海水の長時間過熱で袋状の構造物(マリソーム)およびその内部が充填した球状の構造物(マリグラヌール)が形成されることを示した[7,8]. さらに, 柳川らは, 海底熱水噴出孔を模した静的な高温高圧環境下でアミノ酸の加熱によって膜構造を持つ微小球が形成されることを示した[9]. またこれらの物質と類似の物質として, 1992年に松野らは, 無水環境下で数種のアミノ酸の混合物が脱水重縮合することによって熱重合物を調製し, さらにその微小球を得た[10]. これらの結果は, 低分子有機化合物が生成する場合と比べて, 低いエネルギーの供給によって模擬原始地球環境下で高分子有機化合物が生成することを示す. またこの結果は, その種の高分子有機化合物が構造体を形成し, かつ化学進化の反応場となり得る微小閉空間を提供することを示した点で重要である.

3. アミノ酸熱重合物の構造物形成

     これまでのアミノ酸熱重合物の物性に関する研究によって, アミノ酸熱重合物が化学進化に寄与した可能性が示唆されてきた. ここでは, これまでに調べられたアミノ酸熱重合物の物性を紹介する.
     アミノ酸熱重合物は, 数種類のアミノ酸を任意のモル比で混合した原料を200℃, 空気雰囲気下で3時間加熱して得られるコポリマーである. このアミノ酸熱重合物にアミノ酸総重量の10倍の超純水を加えて加熱・冷却することで, Figure 1に示すような直径数μmの微小球を含む懸濁液が得られる. ここで, 等モル比のアスパラギン酸とプロリンの混合物から得られるアミノ酸重合物をDP1, その微小球をDP1msと呼ぶ. DP1は, アスパラギン酸由来のカルボキシル基を含む弱酸性のコポリマーである.
     櫻沢らは, DP1が温度ヒステリシスを示すことを明らかにした[11]. また, DP1msの析出温度は溶液中のDP1の濃度に依存し, また微小球の大きさが不連続に増大することを明らかにした.これらの性質は, DP1の構造が温度の変化に対してゆっくりとした緩和過程を含むこと, つまり外部から与えられた熱緩和に対してDP1が構造変化する過程でエネルギーをすぐに放出せずに少しずつ放出することを示唆する. もしこの過程が化学反応に利用可能であるならば, この結果はアミノ酸熱重合物が化学進化の過程で物質生成を促すエネルギーを供給した可能性を示す.
     また櫻沢らは, DP1ms懸濁液に塩基性溶液を加えたときに, Figure 2に示すように内部空間を持つ微小球ともとの微小球の10分の1以下の大きさのマイクロカプセルが形成されることを示した[12,13]. このマイクロカプセルは, 溶液のpH上昇によってDP1ms表面からDP1成分が溶出し, これによって微小球近傍のpHが下降しDP1ms表面にナノオーダのDP1msが再析出することで形成されると説明された. これは, DP1がpH上昇を緩和する過程で非平衡環境が作られ, それによって準安定な構造物であるマイクロカプセルが形成されたと考えられる.
     アスパラギン酸(D)とプロリン(P)とバリン(V)とからなる酸熱重合物(DPV)の微小球の形態がpHを上昇させるとどのように変化を調べた. その結果, アスパラギン酸含有量が高いDPVではマイクロカプセルのみが形成されたが, アスパラギン酸含有量が低いDPVではマイクロカプセルと元の微小球とは内部密度が異なる球状構造物が形成された. この結果は, 同一条件下でも局所環境の僅かな違いによって多様な構造物が形成され得ることを示す.
     これらの内部空間をもつアミノ酸熱重合物は, 特定の物質を内部空間に吸着し, その内部表面でより高度な化学進化を導いた反応場となり得たかも知れない.



Figure 1. Scanning electron microscope image of a microsphere of thermal heterocomplex molecules.




Figure 2. Scanning electron microscope image of a microcapsule transformed from the microsphere.

4. アミノ酸熱重合物と非平衡環境

     化学進化過程で核酸やタンパク質などの機能性高分子が生成するためには, 原料や生成物の濃縮や, それらの重合や構造形成に必要なエネルギーを効率的供給し反応促進するための非平衡環境が必要であると考えられる. 我々の研究によると, アミノ酸熱重合物から生成する微小球はそのような反応場の一つになり得たと考えられる. 本多らはヌクレオシドや塩基性アミノ酸はアミノ酸熱重合物微小球に吸着することを示した[14].
     一方私は, アミノ酸熱重合物がDNAやRNAを構成するヌクレオチドを生成する反応場になる可能性を調べる第一ステップとして, リン酸カリウム(KPi)の吸着挙動を調べた. アミノ酸熱重合物微小球DP1msの懸濁液とKPiとを混合し24時間静置した. この混合液を遠心分離して上澄み液を回収しフィルターでろ過した. この操作の後に溶液に含まれるリン酸濃度をマラカイトグリーン法(検出波長:650 nm)によって測定した. その結果, Figure 3に示すように, DP1msはリン酸濃度に依存してリン酸を吸着することが示された.
     以上の結果は, アミノ酸熱重合物の微小球内に反応物質を濃縮することが可能であることを示す. さらに, アミノ酸熱重合物の微小球からマイクロカプセルが形成されることによって, 微小球上に濃縮された物質がマイクロカプセル内に閉じ込められる可能性もある. 例えば, ヌクレオシドとリン酸がこのカプセルに閉じ込められアミノ酸熱重合物がもつエネルギーによってヌクレオチドが生成するというシナリオも描ける.



Figure 3. Adsorption of phosphate on DP1 microspherical structures. Measurement of the amount of phosphate adsorbed on DP1 microspherical structures has been done for 24 h after the specimen was prepared and kept at room temperature.

5. おわりに

     アミノ酸熱重合物の微小球がマイクロカプセルに形態変化する現象について述べた. また, アミノ酸熱重合物がヌクレオシドやリン酸などの物質を吸着し, 濃縮することを示した. これらの事実は, 原始地球環境下でアミノ酸熱重合物が種々の生体分子の重合などの良い反応場となり化学進化に寄与した可能性を示唆する.  
     これらの研究を通じて,生物を構成した最初の物質は何かという問題とともに, 物質が化学進化によって組織化・機能化される過程の根底にある意味は何かという問題に取り組みたいと考えている.

参考文献

1. Miller, S. L., A production of amino acids under possible primitive earth conditions, Science 117, 528-529 (1953).
2. Miller, S. L., Production of some organic compounds under possible primitive earth conditions, J. American. Chem. Soc. 77, 2351-2361 (1955).
3. Imai, E., Honda, H., Hatori, K., Brack, A., and Matsuno, K., Elongation of oligopeptides in a simulated submarine hydrothermal system., Science 283, 831-833 (1999).
4. Fox, S. W. and Harada, K., Thermal copolymerization of amino acids to a product resembling protein, Science 128, 1214 (1958).
5. Fox, S. W. and Harada, K., The thermal copolymerization of amino acids common to protein, J. American. Chem. Soc. 82, 3745-3753 (1960).
6. Fox, S.W. and Dose, K, Molecular Evolution and the origin of Life, Marcel Dekker Inc., (1977).
7. Yanagawa, H. and Egami, F., Formation of organized particles mariguranules and marisomes from amino acids in a modified sea medium, Biosystems 12, 147-154 (1980).
8. Yanagawa, H., Kobayashi, Y., and Egami, F., Characterization of mariguranules and marisomes organized particles with elastin-like structures., J. Biochem. 87, 855-869 (1980).
9. Yanagawa, H. and Kojima, K., Thermophilic microspheres of peptide-like polymers and silicates formed at 250℃, J. Biochem. 97, 1521-1524 (1985).
10. Imai, E., Shirasawa, J., Honda, H., and Matsuno, K., Contribution of temperature gradient to aggregation of thermal heterocopolymers of amino acids in aqueous milieu, Origins of Life and Evolution of the Biosphere 21, 243-249 (1992).
11. Sakurazawa, S., Honda, H., Imai, E., and Matsuno, K., The hysteric growth of microspherical particles consisting of thermal heterocomplex molecules from amino acids, Viva Origino 22, 81-88 (1994).
12. Sakurazawa, S., Imai, E., Honda, H., and Matsuno, K., Microcapsule formation in self assembly of thermal heterocomplex molecules from amino acids, Colloid and Polymer Science 274, 899-903 (1996).
13. Sakurazawa, S., Ishimori, T., Honda, H., and Matsuno, K., Diffusion controlled formation of husk-like microcapsules, Colloid and Polymer Science 275, 502-505 (1997).
14. Honda, H., Sakurazawa, S., Kimura, H., Imai, E., and Matsuno, K., Adsorption of monomers on microspherical structures of thermal heterocomplex molecules from amino acids, Origins of Life and Evolution of the Biosphere 25, 443-455 (1996).


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