DESCENT WITH MODIFICATION - GENERATIVE GRAMMAR AND THE UNIVERSALITY/DIVERSITY OF HUMAN LANGUAGE -

Koji Fujita

Graduate School of Human and Environmental Studies, Kyoto University
Nihonmatsu-cho, Yoshida, Sakyo-ku, Kyoto 606-8501, Japan
Phone & Fax: +81-75-753-6643
E-mail: k.fuj i ta@ fx 4.e cs.k yo to- u. a c .j p
(Received July 23 2007; Accepted August 1 2007)

(Abstract)

   In sharp contrast to the highly modular theory of grammar advanced by Generative Grammar in the past, current Minimalist Program seeks to minimize the genetic component of the human language faculty, known as Universal Grammar. This radical shift of research strategy has the effect of placing the topic of the origins and evolution of language in the proper domain of evolutionary biology, by reducing the domain-specific, and therefore evolutionarily inexplicable part of the language faculty to the bare minimum. Through a detailed review of the development of phrase structure theory, this paper illustrates the tight connection between grammatical theorizing and evolutionary studies. The emerging picture is that language evolution is a good example of what Charles Darwin once called “descent with modification.”

(Keywords)

minimalist program, logical problem of language evolution, modularity, merge, bare phrase structure theory, instantaneous model of language evolution, faculty of language in the narrow sense

変化を伴う由来 - 生成文法による言語の普遍と多様の解読 -

藤田 耕司

京都大学大学院 人間・環境学研究科
606-8501 京都市左京区吉田二本松町
075-753-6643 (Phone & Fax)
k. fu ji ta @ f x4 .ec s .ky ot o- u . a c. j p

1. 言語進化の論理的問題

   われわれの言語能力という新しい資質がヒト化への筋道においてどのように発生・定立するにいたったかは,今回のシンポジウムの「新しい質の成立経緯」というテーマに照らしても,非常に興味深いテーマであろう.言語はヒトのみが持つ種固有の心的能力であり,他の一般認知能力には還元し尽くせない領域固有の特性を備えている.それゆえに,生成文法(Generative Grammar)では,この言語能力の解明をとおして,人間の思考や心,知性,さらに人間としての本性(human nature)の一端に迫ることが目標の一つに掲げられている.すでに半世紀に渡り,生成文法はこの言語機構(Language Faculty),ないし言語器官(Language Organ)をめぐって,(A) そのデザインとファンクション,(B) その個人における発達(母語獲得,個体発生),を中心に刺激的な探求を深めてきた.現在の研究戦略である「ミニマリスト・プログラム」においては,加えて(C) 言語機構の種における発達(起源と進化,系統発生)の問題が,重要課題として急浮上するに至っている[1].
    初期の生成文法は,「言語獲得の論理的問題」(Logical Problem of Language Acquisition),すなわち幼児の母語獲得において入力(各個体が生後に経験する言語刺激)を遙かに超える出力(各個体の脳内に発生する文法知識)がなぜ可能なのか,という問題を設定し,個体の経験を脳内文法に写像する生得的認知基盤としての普遍文法(Universal Grammar, UG)によって,その解決を図ろうとするものであった.普遍文法はすべてのヒトが,そしてヒトのみが有する生物学的形質であり,この普遍文法を研究対象とする生成文法は,生物学の一分野として位置づけられる.人間の言語能力の根幹がわれわれの生物学的資質にあるという主張はもちろん,生成文法が独占するところではない.しかし言語学の内部において早くからその立場を宣言し,脳神経科学や遺伝学との交流を積極的に行ってきた点で,生成文法は,近年一層の隆盛を見せる生物言語学(Biolinguistics)の流れに先鞭をつけるものだったのであり,この学際的分野において理論言語学が果たすべき役割,なすべき貢献を体現している[2].
    個体レベルの言語発達のみならず,種レベルでの言語の起源・進化にも視野を拡げ,この二つを緊密な関係に位置づけて統合的に解明しようとする点で,ミニマリスト・プログラムの展開は,生物学における進化・発生生物学(evolutionary developmental biology; Evo-Devo)の進展と呼応する.もとより,幼児の言語発達は,ピジン・クレオール語や種々の言語失陥,あるいは動物コミュニケーションなどと並んで,言語の起源・進化を探る上での重要な手掛かりを提供すると期待されてきた.しかしながら,文字どおりに個体発生が系統発生を再現するわけでもなく,とりわけ言語に関しては,人類が言語を持たない状態から持つ状態へどのように推移したのかは,すでに普遍文法を有する幼児が,完成された人間言語を操る集団の中でどのように母語を獲得するのかとは,同次元で論じることができないことは明白である.筆者は言語獲得の論理的問題に倣い,言語の起源・進化にまつわる問題を「言語進化の論理的問題」(Logical Problem of Language Evolution)と呼ぶが,問題の深刻さは,こちらのほうが飛躍的に大きい.ここでは,普遍文法はすでに説明装置ではなく,その成立と特性が生物進化の観点から説明されるべき被説明項に転化するのであるが,その説明は,言語が種固有・領域固有であればあるほど,困難なものとなる.
   本稿では,この言語進化の論理的問題を検討する上で,ミニマリスト・プログラムの進展がどのようなメリットをもたらすのか,について解説を試みる.一般に生物進化においては,何もないところから突如,新しいものが生じるのではなく,新形質は旧形質の新配列・再結合の結果として実現されるのが常である.それは言語という新形質の由来についても同じであるはずであり,言語の特異性は,特異でない基本要因の組み合わせから生じるのだと期待できる.ミニマリスト・プログラムは,これまで言語の領域固有特性を捉えるものと考えられてきた多くの理論装置を徹底的に解体し,言語,少なくともその中核部分がいかに簡潔なシステムであるかを示そうとするものである.その研究指針は,言語として結晶する以前の各要因がどのようなものであったかを理解する上で,大いに資するところがあると言える.
   ミニマリスト・プログラムは重要な意味で,普遍文法そのものの最小化の企てである.過去の生成文法が多様な言語現象の精緻な分析を通して,普遍文法がいかに複雑で豊かな内部構造を含んでいるかに焦点を当てていたのとは対照的に,ミニマリスト・プログラムでは理論の最適化・最大簡潔化(形式論的極小主義)のみならず,普遍文法の内実自体の最大簡潔化(実質論的極小主義)が大きなテーマとなっている.これは,単にこれまでの研究経緯からそのような可能性が窺えるようになったというだけではなく,普遍文法の特性も生物進化や自然法則の観点から説明されなければならないという問題意識の推移・深化によって,強く動機づけられている方法論的転換である.普遍文法が種固有・言語固有の内容を多く持つほど,言語の起源・進化の解明は困難にならざるを得ない.チョムスキーの発言を借りれば,「生物体の発達を決定する上で,遺伝情報に帰せられる部分が少ないほど,その進化研究は実行可能なものとなる」のである[3].
   ダーウィンは生物多様性が生じる過程(=進化)を,共通の祖先からの「変化を伴う由来」(descent with modification)と呼んだ.人間言語の発生もその一例に他ならないことを,ミニマリスト・プログラムの展開を通して理解することが,本稿の狙いである.

2. 反適応的モジュール文法

   フォーダー(J. Fodor)の先駆的著作以来,心のモジュール性(modularity of the mind)は現代の認知科学,神経心理学の基準線となってきた[4]. 心のモジュール性とは,言語を含む心的諸機能も,生物の身体諸器官・諸機構と同じように,全体として単一の汎用組織なのではなく,それぞれが独立した仕組みと機能を有する多数の自律的下位組織(モジュール)の集積として実現されるという考え方である.フォーダーは心のすべてをモジュール的としたのではなく,周縁的な入力システムについてのみ,そのモジュール性を主張した.モジュールの主要な特性としては,領域固有性,自律性,情報カプセル化(informational encapsulation),生得性,計算処理の高速性,強制力,神経機構の局在性およびその帰結としての選択的な病理的失陥(典型的に二重乖離)の存在などを指摘している.これらの特性は,モジュールの必要条件や診断法的特性ではなく,モジュールに見られる特徴として列挙されているに過ぎない[5].このことが,各特性についての理解が研究者間で一様でないこととも相まって,モジュール性についてのこれまでの議論をやや混乱させてきた一因となっている[6].
   旧来の生成文法,とりわけ1980年代前半に原理・媒介変数アプローチ(Principles and Parameters Approach)の下で展開された統率・束縛理論(Government and Binding Theory, GB理論)では,文法知識について強いモジュール性が主張されていた[7].そこでは,言語が他の認知能力とは異なる自律性を持つのみならず,文法は音声部門,意味部門,および両者を繋ぐ統語部門(シンタクス),の各モジュールから構成され,また統語モジュール内部にも,それぞれが自律的で領域固有かつ生得的な原理を含むサブ・モジュール群―θ理論(θ-Theory),格理論(Case Theory),束縛理論(Binding Theory),コントロール理論(Control Theory),境界理論(Bounding Theory),統率理論(Government Theory)など―が存在する,と考えられた.われわれの文法知識はこれらサブ・モジュール間の相互作用によって実現される,という提案である.
簡単な例を示す.


目的語に再帰代名詞 himself をとる(1a)とは異なり,Johnを目的語位置から主語位置へ移動して得られる(1b),および目的語に音形を持たない空代名詞PROが生起する(1c)は,いずれも非文法的である.当時の分析では,(1b)では,移動によって形成される連鎖(John, t)が二つの格標示を受けるため,格フィルター(Case Filter)の違反として排除された.またこの連鎖は,主語位置と目的語位置それぞれに付与される二つの主題役割(θ-role)を同時に担うため,θ規準(θ-Criterion)にも抵触する.(1c)では,JohnとPROは独立した連鎖を構成するため,θ規準や格フィルターの違反は回避されるが,代わりにPROが束縛原理(B)に抵触することになる.(束縛理論から導かれる「PROは統率される位置に生起できない」という旨のPRO定理(PRO theorem)によって,PROの分布を直接規制することもできる.)
   これらとは対照的に,受動文(1d)では,動詞の格付与能力を吸収する受動形態素の作用により,連鎖(John, t)が格フィルターに抵触することなく,θ規準も満たしており,かつ痕跡 t は束縛原理Aを充足するため,文法的である.対してJohnを移動する代わりに主語位置に虚辞itを挿入して得られる(1e)は,θ規準は充足するものの,連鎖(John)が格標示を受けておらず格フィルターによって排除される.ここで言及したそれぞれのサブ・モジュールや原理の詳細に立ち入らずとも,母語話者の言語知識が,それぞれに領域固有の複雑な文法制約の相関の上に成り立っているという考え方であったことは,理解いただけるであろう.
   上の素描からも,生成文法における文法のモジュール性(チョムスキー型モジュール)が,フォーダー型モジュールとは大きく異なるものであることは,簡単に見てとれるであろう[8].まず,フォーダーが言語を含めた入力システムについてのみモジュール性を主張し,中央システムは非モジュール的で内部構造を持たないとしたのに対し,生成文法の立場では,言語は出力システムでもあり,かつ中央システムでもあって,それらすべてがモジュール性を備えていることになる.モジュール型入力システムと非モジュール型中央システム,という対比は明確に否定される.
   また,シンタクスと意味部門・音声部門双方の間の写像関係はもちろん,シンタクス内各サブ・モジュール間にも緊密な相互作用が要請される以上,フォーダーの主張する「情報カプセル化」の概念に対しても,柔軟で弱い解釈が必要となる.情報カプセル化とは,周縁システムにとって中央システムで処理される情報はアクセス不可能であり,入力モジュールはその影響を受けることなく作動する,という特性を指す.しかし今見たような各文法モジュールの相関性は,このカプセル化が完全な情報遮断性を意味するものではないことを示している.
   同様の但し書きは,自律性や領域固有性についても必要である.言語の自律性については,これを統語論の自律性(Autonomy of Syntax; AutoSyn),言語知識の自律性(Autonomy of Knowledge of Language; AutoKnow),文法の自律性(Autonomy of Grammar; AutoGram),の三つに分けて考えることができる[9].このうち統語論の自律性は,最初期の生成文法以来,繰り返し指摘されてきた特性であり,シンタクスが制御する文の構造的適正性(文法性)は,その文の持つ意味解釈とは独立して決定されるという特性を指す.チョムスキーの往年の有名な例文, Colorless green ideas sleep furiously. は,このことを端的に示すものであり,意味的にいかにナンセンスで逸脱したものであっても,構造自体は完全に文法的であって,これを生成できない文法モデルは妥当性を欠く.逆に意味的にはまったく自然な文であっても,構造としては許されず,生成不可能なケース(前出の(1b, c, e)もこれに含まれる)も,統語論の自律性を示すものである.
   統語論の自律性は人間言語の重要な特性の一つであり,これを捉えることができない言語理論(たとえば「認知言語学」と称するもの)は,致命的な欠陥を持つと言わざるを得ない.しかしまた,統語論と意味論は完全に孤立したシステムではあり得ず,両者間にインターフェイスが成立し情報の受け渡しが行われるからこそ,統語構造・意味構造の双方向の写像が可能なのであり,言語の本質はまさにこの写像関係のあり方にあるとも言える.自律したモジュールとは,閉鎖系・孤立系を意味してはおらず,それぞれが独自の作動様式に従って領域固有の計算作業を行いつつも,その計算結果は他のモジュールにとって利用可能な形式に変換可能でなければならない.この問題認識は,ミニマリスト・プログラムにおいては一層明確化してきており,シンタクスの特性を,意味・音声システムとのインターフェイスに課せられる「可読性条件」の観点から説明する試みが精力的に行われている.
   他の自律性についても,事情は同じである.「言語知識の自律性」は,言語知識・文法能力そのもの(言語能力 competence)の特性は,その言語知識が実際にどう使用されるか(言語運用 performance)の問題とは独立して成立していることを指す.また,「文法の自律性」は,統語論の自律性の拡充であり,言語固有の構造特性や原理・法則が,シンタクスのみならず,文法の他の部門にも一貫して成立しており,言語は全体として他の諸認知機構とは独立して作動するということを指す.しかしいずれの自律性も,完全な孤立性・閉鎖性を意味するものではない,ということに留意する必要がある.
   言語知識の自律性は,言語研究に対する形式主義的アプローチと機能主義的アプローチの対立が鮮明になる論点でもある.形式主義の立場からは,少なくとも現在の言語の主要な機能として,情報伝達やコミュニケーション(またはその言語を理解しない部外者を排除する手段としての反コミュニケーション)があることは明白ながら,言語にはそういった機能からは説明不可能な形式的特性が存在するという点が,とりわけ重要である.しばしば指摘されることであるが,シンタクスに作用する原理や制約は,コミュニケーションという目的にとってはむしろ機能不全的な特徴を示す.



(2a)は関係節内の主語をWh移動によって摘出した場合であり,完全に非文法的である.「きみは誰が書いた本を買ったの」という日本語訳がまったく自然であり,また同じ文意は(2b)のような迂回的な表現を用いて正しく伝えることができることからも分かるように,(2a)は意味に関しては何ら問題がなく,もっぱら構造上の理由で排除されるものである.この非文法性は,GB理論では境界理論の下接条件(Subjacency Condition)によって説明されていたものであるが,その正しい分析が何であれ,そのような複雑な制約を備え,この文を生成しない(正しい)文法が,生成する(誤った)文法に比べて,コミュニケーション上,より優れたものになっていると考えるべき理由は見当たらない.
   シンタクスがコミュニケーションに関して反機能的であるという観察は,言語の起源・進化研究にとって特に重要である.言語が自然選択(や性選択)による適応であるか否かを巡っては,生成文法の内外で論争が継続しているが,チョムスキーが言語は自然選択では説明できないとして,適応主義を厳しく批判する立場を一貫して採っていることはよく知られている.シンタクスの各サブ・モジュールはまったく適応的だとは言えず,たとえば上記の下接条件を備えた文法が,いかなる意味で個体の生存や繁殖を有利にするのか不明である以上,言語のすべてを適応論で片づけてしまうわけにはいかないのである.これは,言語の起源・進化を説明するためには,言語が成立したためにそれを利用して生じた新しい機能(たとえばコミュニケーション)ではなく,言語が成立するためにあらかじめ必要であった旧い機能をこそ,明らかにする必要があるという意味でもある.言語の現在の有用性(current utility)ではなく,言語を構成する各モジュールが,前言語的に果たしていた本来の機能(original function)は何であったかを突き止めることが,言語の起源・進化の理解には求められる.適応主義の立場から提起される,言語の起源・進化に関する様々な仮説は,言語が結果的に担うことになった機能を指摘しているに過ぎない.言語が可能にしたものと,言語を可能にしたものを混同し,因果関係をとり違えた擬似説明が多いのである.
   生物進化においては,ある器官や構造が本来果たしていたものとは別の目的に転用されたり,時には本来は何の機能も担わなかったものが後ほどある機能を担うようになることが起きる.トリの翼,昆虫の羽,魚の浮き袋などがその典型的な例である.前適応(preadaptation)[10],または外適応(exaptation)[11]と呼ばれるこういった現象は,言語の起源・進化についてもあてはまり,結果的には言語能力の各モジュールを構成することになる諸機能は,もともと言語やコミュニケーションとは無関係なところで,それぞれが適応進化してきたのだと推定できる.だとすると,言語の前駆体を明らかにする上では,比較の対象を動物のコミュニケーションや言語らしき能力に限定することは賢明ではなく,より広範な身体・認知能力全般に渡って可能性を探っていかなければならない.
   ではGB理論が主張した各統語モジュールについて,そのような前駆体の存在を想定できるかといえば,それは非常に困難だということになってしまう.これらは極めて領域固有性の高い原理群であり,たとえば「音形を有する名詞句は格標示されていなければならない」(格フィルター)というシンタクス固有の概念に言及する制約が,言語成立以前に,言語とは関係のないところで何らかの適応価を有していたと想定することは,はなはだ不自然である.言語が存在しないところに格フィルターだけがあっても,一体どういうメリットがあるのか,ということである.これらのモジュール群は,(いわば時計の歯車のように)それぞれ単独では何の役にも立たず,あたかも最初から言語専用の部品としてすべてがうまく噛み合うように設計された,と思われるような特性を持っている.従って,その起源・進化を自然選択のみで説明することは不可能であり,他の機能の進化に付随して偶然生じたという可能性(言語スパンドレル説)などが示唆されるに至るのである.このようにして,高度にモジュール化された文法モデルは,言語の起源・進化を,他の生物進化から大きく引き離されるべき「特殊問題」にしてきた.
   言語を含めた心のモジュール性の説明を適応進化に求めない点で,チョムスキー型モジュールは進化心理学におけるそれと対照的である.進化心理学もまた,心が領域一般的な単一の組織ではなく,それぞれが個別の問題解決に特化した非常に多数の領域固有の下位組織からなるという考え方(Massive Modularity Hypothesis)を採用しているが,そこでは,そのような心のモジュール性はまさに適応進化の産物に他ならないとされる(ダーウィン型モジュール)[12].それは第一に,適応上の多様な,そしてしばしば衝突し合う問題を解決するためには,それぞれに対して専門化された認知機構によって処理するほうが効率的であるからであり,また,領域一般的な認知機構のみでは適応的行動が不可能であり,そのようなものが進化する余地がそもそもないからだとされる.しかしこの論法は,統語モジュールについては当てはまりそうもない.すでに見たとおり,これらのモジュールが処理しているのは,適応上の問題ではまったくないのである.
   言語に固有の豊かな生得的文法モジュールという考え方は,「言語獲得の論理的問題」を解決する上では優れた仮説であった.しかし,その文法モジュール自体はどのように進化し得たか,という「言語進化の論理的問題」を視野に入れた時,それはむしろ多くの問題を棚上げにしたままの,最悪のシナリオに変貌すると言わざるを得ない.はじめに普遍文法ありき,ではなく,普遍文法自体の起源・進化を問う段階へ生成文法が進展を遂げつつある現在,早急に求められるのは,このようなモジュール文法のモデルを,進化生物学の知見と整合する形に再編成することである.文法の最大簡潔化を推進するミニマリスト・プログラムが,言語の起源・進化研究にとっても有望なフレームワークとなり得るのは,こういった理由による.

3. 普遍文法の最小化:句構造理論の場合

   モジュール文法の最大簡潔化は,主に二つのアプローチの共同作業によって実現可能であると考えられる.一つは,仮定された各モジュールを可能な限り統合することであり,いま一つは,言語固有のモジュールに帰せられていた言語の特性を,言語固有ではない,さらに普遍性・一般性の高い自然法則・原理から導出し,当該のモジュール自体を破棄することである.またこの二つのアプローチは独立したものではなく,前者を通じて最終的には後者に至るべく,連続性を持つものと考えるのが妥当である.ミニマリスト・プログラムで標榜される「強い極小主義者の命題」(Strong Minimalist Thesis)とは,言語が音声と意味を繋ぐシステムとして最大限に簡潔化された最適設計を持つことを指すものであるが,言語の起源・進化研究との関係においては,より原理的な説明がつかない言語固有の特性,言語だけに成り立つ特殊な事情は(ほぼ)存在しない,という意味を持つ.普遍文法の実体が空集合であるという作業仮説から出発し,最低限,普遍文法として認めざるを得ないものは何であるのかを見極めようとするのが,ミニマリスト・プログラムの思考法であり,その点では従来の生成文法とは正反対のベクトルを持つ研究プログラムである.
   文法モジュールの統合という作業自体は,ミニマリスト・プログラム登場以前から積極的に行われていたものである.複数のモジュール間に存在する余剰性を指摘し,その余剰性をいずれかのモジュールを他のモジュールに包摂して解消すること,それによってより簡潔な文法モデルを目指すことは,GB理論当時の主要な研究テーマでもあった.たとえば上出の例文(1b)の非文法性は,そこでも触れたように,格理論,θ理論いずれによっても説明可能であり,このような観察に基づき,格標示をθ標示のために必要な可視性条件(Visibility Condition)とすることで,この余剰性を排除しようという提案があった[13].筆者自身も先行研究において,束縛原理(A),空範疇原理(Empty Category Principle)内の先行詞統率(Antecedent Government)条件,および下接条件の三原理の間に余剰性を指摘し,これを解消するための統合的な分析を提示したという経緯がある[14].こういった流れは,ミニマリスト・プログラムにおいてはさらに加速されており,一例としては,コントロール・モジュールを全廃して移動理論に取り込む提案をめぐって,賛否両論が激しく交わされているといった現状がある[15].ここでは句構造理論の進展を通して,モジュール理論の最大簡潔化の試みが具体的にどう推進されてきたか,概観することにしよう.

3.1. 句構造規則,Xバー理論
   人間言語が持ち得る統語構造(句構造)を余すところなく明示的に定義することは,生成文法の最初期から,記述的に正しい文法理論を構築する上での主要な作業の一つとなってきた.際限なく複雑・多様に見える言語の構造が,実は単純な規則の繰り返し適用によってすべて生成可能である,という直観を捉えるものとして,最初に採用されたのが句構造規則(Phrase Structure (PS) Rules)であり,また句構造規則の不備を補うために導入されたのが,異なる表示レベル(深層構造・表層構造)間の写像変換を行う変形規則(Transformational Rules)であった.
   句構造規則は,たとえば(3a-c)のような書き換え規則の集合として定義されるものである.



規則(3a)は,文(S)が主語である名詞句(NP)と述部である動詞句(VP)に書き換え(展開)可能であることを示しており,また(3b)は,VPが動詞(V),動詞+名詞句,動詞+前置詞句(PP),のいずれの記号列にも書き換え可能であることを述べている.この二つの規則から,(4a-c)の文の「骨格」が得られ,これに適切な語彙挿入を適用することで,それぞれ(   )内のような文の基本構造が定義される.



また句構造規則(3c)は(5a, b)を生成するものである.



ここで注目すべきは,(3c)の右辺には(3a)の左辺項であるSが含まれており,これらの規則を繰り返し適用することで,(6a, b)のように無限に長い句構造が得られるということである.



   このようにある範疇内部に同一範疇が繰り返し生じる特性を,回帰性ないし再帰性・再起性(recursiveness)と呼ぶ.この回帰(recursion)という形式特性を示すことが,人間言語の際立った統語的特性である.統語構造の回帰性は,言語に自然数と同じ離散的無限性(discrete infinity)の性質を与え,そのために,「一番長い文などというものは存在しない」のである.回帰は単に線条的に記号を付け足したり繰り返したりすることではなく,階層構造上の無限埋め込みを指す.たとえば記号列ABを繰り返す方法として,ABを繰り返し並べていく場合(7a)と,ABの内部に同じABを埋め込んでいく場合(7b)の二つを区別することができるが,回帰性は(7b)についてのみ成立する特性である.



   形式文法理論では,(7a)型の記号列を生成する文法を有限状態文法(finite state grammar),(7b)型の記号列を生成する文法を文脈自由型句構造文法(context-free phrase structure grammar),と呼んで区別するのが慣例である.句構造規則の回帰的適用により,たとえば(8)のような,実用不可能な関係節の中央埋め込み構造も自由に生成されることになり,それゆえ,回帰的シンタクスは人間言語,少なくともシンタクスの反機能的側面を理解する上でも特に重要なものである.



   句構造文法自体は,その後の生成文法の進展(少なくともチョムスキーの理論展開)において,完全に破棄されることになる.しかし,言語の複雑な構造パターンが単純な規則の繰り返しによって生じるということを明確に表し,言語を含めた自然物の「かたち」の数理的法則性に着目した点では,言語学と生物学,特に形態学との接点や共通性を早くから示唆するものであったとも言える.実際,たとえばハンガリーの生物学者・リンデンマイアー(A. Lindenmayer)が着想し,後にプルシンキービッツ(P. Prusinkiewicz)が発展させた「Lシステム」(L-system)は,植物の成長過程をとらえる「句構造文法」に他ならない.有名なドーキンズ(R. Dawkins)の「バイオモーフ」(Biomorph)もまた,規則に支配された生物の形態的多様性の進化を示して見せるシミュレーション・プログラムである.[16] こういった形態学への数理的アプローチに先鞭をつけたものとしては,トムソン(D’Arcy Thompson)による先駆的研究がある[17].自然選択による適応に優先する要因として,言語の「かたち」やデザインを決定する最適化原理・自然法則の作用がある,というミニマリスト・プログラムの着想は,このトムソンの洞察に由来すると言っても差し支えない.
   生成文法における句構造規則は,1970~80年代にかけて展開された「Xバー理論」(X-bar Theory)によって取って代わられ,さらに一般性の高い句構造理論が構築されることになる.句構造規則がSやVPなど,特定の統語範疇に個別に言及した書き換え規則であったのに対し,Xバー理論はすべての範疇に共通する句構造の基本型を,(9)のようなスキーマとして与えるものであった.



ここでX0 (=X)はV,N,P,Aなど任意の主要部(head)であり,補部(Complement)を従えることでX'(シングル・バー)レベルに投射,さらに指定部(Specifier, Spec)をとってX"(ダブル・バー)レベルまで投射する.X"は投射の上限であり,Xの最大投射(maximal projection)と呼ばれ,通常XPと表記される.たとえばVPとは,Vを主要部とする最大投射を指す.
   このXバーの式型に従えば,例文(10a)の句構造は(10b)のように示すことができる.



   ここで主語Johnは,最初VPの指定部に基底生成され,TP(時制句)指定部へ移動する.VP指定部には移動したJohnの痕跡が残されている.Vの補部は[ Mary’s report on the incident ]というDP(限定詞句)全体であり,またこのDPの主要部Dは,その指定部に別のDPであるMaryを,補部に[ on the incident ]というPP(前置詞句)を,それぞれとっている.
   Xバー理論は,どの範疇についても同じ投射パターンが存在することを明示的に述べることで,句構造についての範疇横断的な一般化を可能にした.また,各投射は主要部を中心とする内心性(endocentricity)を持つこと,文全体はそれを構成する各成分と同じ投射構造をしており,言語はある種の自己相似性を持つフラクタル構造をなすこと,など,人間言語の根幹的形式特性に関する重要な洞察をうまく捉えていた点で,Xバー理論は句構造規則よりはるかに優れた分析であった.また統語構造の回帰性は,句構造規則では規則の中に直接表現されていたが,Xバー理論では,主要部Xが選択する補部YPの内部にXと同一範疇の主要部Z(Y=Zでもよい)が生じ得ることの,自動的な帰結となる.一方で,Xバー式型に従って組み立てられた骨格に,改めて語彙挿入を適用するという,二段構えの句構造理論である点では,Xバー理論も句構造規則と変わるところがない.
   Xバー理論は句構造の一般式型を示しているだけであり,実際にどのような句構造が投射されるのかは,個々の具体的な主要部の語彙特性によってしか決まらない,ということが,このXバー理論の最大の難点でもあった.たとえばVPの内部構造として [VP Spec [V' V Complement ]] という布置があらかじめ与えられたとしても,指定部(主語)や補部(目的語)をとるのか否か,また補部の数はいくつなのか,といった事項は,Xバー理論ではなく,個々の動詞の持つ「項構造」(Argument Structure)の管轄である.句構造の正確な記述という目標に関する限り,このような語彙情報とは別に,Xバーの基本式型を与えておくことのメリットはむしろ小さいと言わざるを得ない.これを動詞の分類との関係で確認しよう.
   動詞には,いわゆる自動詞・他動詞の別に加えて,自動詞の下位区分として非対格動詞(unaccusative verb)・非能格動詞(unergative verb)の別を立てることができる.非対格動詞は項として補部(目的語)のみをとり,非能格動詞は指定部(主語)のみをとる動詞である.他動詞が主語・目的語の両方をとるのに対し,非対格動詞と非能格動詞はその一方ずつを分け合っている関係にある.また,非対格動詞が目的語に対格を付与しないタイプであるのに対し,通常の他動詞は対格付与が可能な対格動詞だと言うことができる.



非対格動詞の内項(目的語)と非能格動詞の外項(主語)は,VP内の布置が異なる一方,いずれもが文主語位置であるTP指定部に移動するため,表面的にはどちらも主語のみをとる自動詞に見える.また非対格動詞を,非能格動詞との対比で能格動詞(ergative verb)と称することもあるが,両者を用法上区別し,(12)のように他動詞との交替を許す場合を能格動詞,(13)のように自動詞としてのみ用いられる場合を非対格動詞,と呼ぶ場合が多い.



   この動詞の三分類,とりわけ非対格動詞と非能格動詞の別は,(11)の各構造標識に示されるように,指定部と補部を階層的に峻別するXバー式型の有用性を示すと同時に,またその式型だけでは具体的な構造の決定ができないという弱点をも明らかにしているのである.

3.2. 素句構造理論とマージ
   「素句構造理論」(Bare Phrase Structure Theory)は,1990年代中頃以降,ミニマリスト・プログラムにおいて採用された新しい句構造理論であって,文法モデルとして最低限備えていなければならない理論装置とは何か,という「仮想上の概念的必然性」(Virtual Conceptual Necessity)を問う,理論の最大簡潔化の企ての中から生じたものである.この素句構造理論によりXバー理論も全廃されることになるが,これは結果的には,上で述べたXバー式型の有用性を残し,かつその弱点を克服する分析を可能にするものであった.‘bare’とは,VPやVなどの範疇表記を持たず,各語彙項目が直接に統語操作の対象となって投射構造を定義されるような,「むき出し」の構造を指す.
   素句構造はXバー理論や句構造規則におけるような二段構えの句構造構築ではなく,レキシコン(語彙部門,脳内辞書)から選び出した個々の語彙項目どうしを最初から組み合わせることによって,それらの語彙特性を遵守した正しい句構造のみが導出されることを保証する仕組みである.たとえばXバー理論では(14a)のように表記されるDPの内部構造は,素句構造理論では(14b)のような簡潔なものに改められる.



(14b)には,(14a)に見られるような範疇ラベル,とりわけ分岐しない節点は一切存在しない.(便宜上,以下では範疇表記を継続して用いる.)
   このようなミニマルな句構造を定義する上で必要となる統語操作として,ミニマリスト・プログラムでは「マージ」(Merge,併合)のみを採用している.マージはただ二つの語彙項目,ないし語彙項目から組み立てられた句構造を適用対象とし,それらを組み合わせて無順序集合を定義するだけの,最大限に簡潔化された操作である.



たとえば(14b)は,Merge (the, boy) の結果として生じるが,これは,theが有している選択特性がboyを引きつけた結果であり,theが全体の中心要素(=主要部)となっている.これはtheを構成する素性(feature)によって駆動された,自律的で無意識レベルの結合過程なのであり,言語使用者が意図的に適用する操作ではないことは,従来の生成文法において提案されたすべての統語操作や原理・制約がそうでないのと同じである.
   素句構造理論では,句構造規則やXバー式型という雛形がなくとも,各語彙項目の統語素性(形式素性)のみが与えられれば,言語構造は自発的に生じることになる.これは統語構造の構築過程(統語派生)を,一種の自己組織化として見ることに等しく,自然界に見られる他の自己組織化現象と同じようにして,言語構造も理解することが可能であることを示唆する.マージ操作,およびマージを誘発する統語素性を除いては,統語構造を定義する上での言語固有の要因は原則,何もないことになり,言語に観察される種々の統語特性は,ある構造体が自律的に発生する際に作用する,一般的な構造組織化原理まで遡って説明され得るという可能性も生じる.普遍文法内に統語構造の特性に関する領域固有の原理は存在せず,従って言語の起源・進化を説明する際にも,統語構造の定立に関して考慮すべき特別な事項を取り除くことができることになる.結果的に人間言語の統語構造は言語固有のものであったとしても,その由来,それを生み出す原理や法則性は,言語固有である必要はないわけである.
   また初期のミニマリスト・プログラムでは,「ムーヴ」(Move,移動)を,マージとは独立した,より複雑でコストの高い統語操作として仮定していたが,現在の理解ではムーヴはマージが同一句構造内部で適用した場合に過ぎず(内的併合,Internal Merge),それ以上の特別なステータスは与えられていない.ムーヴは,文中のある要素が,意味解釈と音声解釈を異なる位置で受けるという,人間言語の転位特性(displacement property)をとらえるための理論装置であった.しかしムーヴがマージの一形態として包摂されるのであれば,言語の起源・進化についても,ムーヴ操作の発生経緯を巡る特殊な考察は不要なものとなる.このようにして,文法理論の最大簡潔化は,言語の起源・進化研究にとって大きな方法論的・発見法的利点をもたらすのである.「変化を伴う由来」は,進化において,領域一般の共通要因の重ね合わせや微細な変動から,領域固有の多様性が生じるという考え方であるが,人間言語の中核的生成エンジンであるシンタクスもまた,この意味での「変化を伴う由来」であることが強く示唆される.
   人間言語の統語操作として二項マージしか存在しないことから,統語構造は常に二項分岐型であり,三項以上に枝分かれする構造は存在しないことになる.その特殊例として,Xバー理論では許されていた一項分岐,つまり非分岐構造も直ちに排除される.では(11a-c)に見た動詞の下位区分は,素句構造理論ではどのように峻別されるであろうか.ここでは一見,非対格動詞(11b)と非能格動詞(11c)の構造上の相違は,失われてしまうように思われる.いずれも,動詞とその唯一の項がマージするだけであり,(16b, c)が示すとおり,外項と内項の階層的違いを保証する手段がなくなるからである.



   この問題は,語彙的動詞(V)自体が統語的複合体であり,v (small V),Vの二つの独立した主要部から構成されるという,分裂動詞句(split VP)構造を採用することで解決される.これに従えば,たとえば他動詞文(12b) John broke the car. の動詞句構造は次のようになる.



ここでは具体的な他動詞breakは,上位にある抽象的使役動詞 v (=CAUSE) と,その補部となる被使役事象にあたるVPの主要部動詞V (=BREAK)の融合として実現される.この構造から,他動詞breakの持つ意味が,概略 CAUSE-BREAKに相当するものであることが明示的に示される.この点で,分裂動詞句は,統語構造と意味構造・概念構造がある種の同型性を持つことを主張しており,シンタクスと概念・意味部門のインターフェイスの最適化の観点からしても,重要な帰結をもたらす優れた分析であると考えられる[18].
   (17)におけるvは使役の意味を担うが,一般にvは動詞という語彙範疇を実現する要素(verbalizer,動詞化子)としての機能も果たしており,使役他動詞に限らず,すべての動詞形成に関与するものである.たとえば非対格動詞におけるvの意味機能は状態変化を表すBECOMEに該当し,非能格動詞のそれは意図的動作を表すDOに該当する,と考えるのが自然である.このことから,非対格動詞と非能格動詞の構造上の差異も,次のように分裂動詞句内で自然にとらえることができる.



非対格動詞の内項とは下位Vが選択する項であり,非能格動詞の外項は上位vの項であるから,両者の階層的差違もこれに従い,Xバー式型を用いずとも正しく説明される.同じようにして,Xバー理論がトップ・ダウン形式で構造を定義することで与えてきた様々な統語的振る舞いが,素句構造理論では,より根源的に,その句構造がボトム・アップ式に構築されるプロセスに照らした説明を与えられることになる[19].
   素句構造理論に組み込まれた分裂動詞句の理論的帰結は,非常に大きい.語彙的動詞がこのようにして統語派生の中で生成されるのであれば,動詞という語彙範疇が(ひいては語彙範疇すべてが),これまでの語彙主義(Lexicalism)において当然視されてきたように,シンタクスに先行する形で独立した文法モジュール(レキシコン)の中で与えられているのではないことになる.さらに言えば,語彙範疇は生得的言語知識ではなく,普遍文法内に存在してはいないこと、また最終的には,レキシコンというモジュールそのものが解体・破棄し得るものであることも,このアプローチは示唆しているのである.生産力に富む豊潤な語彙は,シンタクスと並んで人間言語の大きな特長であることは間違いない.しかし,それをそのまま生得的な言語能力として措定すると,その語彙能力の起源・進化を,シンタクスのそれとは独立して説明しなければならない.文法モジュールの最大簡潔化を通して言語の起源・進化研究の推進に寄与するという目的にとっては,レキシコン自体が回帰的シンタクスに由来するという新しい「反語彙主義」(Anti-Lexicalism)の考え方こそが,有効な研究指針を提供するのだと思われる[20].

4. 瞬時モデルと回帰的シンタクス

   文法モデルの最大簡潔化の試みは,単なる理論的経済性を超越して,言語の起源・進化研究にとっての被説明項の最小化という重要な貢献をもたらす.この方法論をさらに洗練させたものとして,言語機構を狭義のもの(Faculty of Language in the narrow sense, FLN)と広義のもの(Faculty of Language in the broad sense, FLB)に大きく振り分けようという提案が,チョムスキーらによってなされている[21].
   FLNは言語を構成するコンポーネントの内,ヒトおよび人間言語に固有の部分を指し,FLBはそれ以外の部分,程度の差は別にして他の生物種と共有されている部分を指す.言語は音声と意味を統語構造を介して繋ぐシステムであるが,FLBに属すると考えられるのは,この内,音声と意味に関わる各能力,すなわち構音・知覚に要請される感覚・運動システム(Sensory-Motor System, S-M system)と意味・指示に要請される概念・意図システム(Conceptual-Intentional System, C-I System)である.一方,FLNの候補は,統語計算能力,特にそれが示す回帰性のみであり,これは人間言語以外には見られない特性だというのが,そこでのチョムスキーらの主張である.提唱者の名をとって,この回帰性のみが言語固有であるという仮説をここではHCF仮説と呼ぶ.
   HCF仮説によれば,言語の起源は,すでに独立した適応価をもってそれぞれが進化を遂げたFLBが前駆体となり,それに言語固有の回帰が加わってこれらを結びつけたことに求められる.言語進化についてしばしば指摘される,不連続性や創発性,ある種の跳躍性は,すべてが突然に出現したということではなく,インターフェイスを介した旧形質の回帰的組み合わせが,全体としてまったく新たな質=言語を急速に立ち上がらせた,ということを指している.このような言語進化観を,「言語獲得の瞬時モデル」になぞらえ,「言語進化の瞬時モデル」と呼ぶことにする.



ここにおいて,言語起源を解明する上での主要課題は,主に次の二点に絞られることになる.すなわち,(i)言語能力の各コンポーネント,とりわけ FLNである回帰的シンタクスはどのように進化したか,(ii)FLN-FLB間の連結はどのように起こったか(インターフェイスの成立経緯),である.
   先に見たように,ミニマリスト・プログラムでは,唯一の統語操作として二項マージを想定しており,回帰的シンタクスの本体は,このマージの際限ない適用可能性である(無限マージ unbounded Merge).ではマージの起源なり前駆体はどこに求められるであろうか.統語操作としてのマージに関する限り,それが無限化するに先立って,まず有限マージ(bounded Merge)が存在すると考えるのが自然だと思われるが,チョムスキーはその可能性を明確に否定している[22].たとえば幼児の言語発達において,二語文や三語文のみが生成される初期段階は有限マージによるように思われるのだが,そうだとすると,そこからどのようにして無限マージへの質的推移が生じるのかという,新たな問題が生じ,それについては,有限マージを前駆体として想定しても説明にはならない,とチョムスキーは指摘する.つまり,最初に言語が成立した段階で,すでにマージ操作は無限化していたと考えるほうが,理に適っていることになる.
   しかしこのことから,マージがFLNとして言語に組み込まれる以前の段階においても,言語以外の機能を有する何らかの前駆体がまったく存在しなかった,ということにはならない.そのような前言語的な機能が何であったかをめぐっては,これまで様々な提案がなされてきている.たとえばFLBとの直接的な関係を示唆するものとしては,音節構造や歌・音楽,項構造や概念構造などが示唆され,あるいは心の理論(Theory of Mind, ToM)や互恵利他主義(reciprocal altruism),またはマキャベリ的知性(Machiavellian intelligence)を含む社会的知能や,数計算能力,採餌活動,航路探査,などがその候補として議論されている.
    筆者自身はこれまで何度かにわたって,道具使用などに見られる階層的な物体操作能力,神経心理学者・グリーンフィールド(P. Greenfield)が指摘するところの「行動の文法」(Action Grammar)が,マージ前駆体としての可能性が高いという見解を表明してきた[23].重複を避けるため詳細には立ち入らないが,ここではとりわけ,「部分部品組み立て方式」(Subassembly Method)の物体組み合わせ方法,たとえば大きさの異なる複数のカップ(A, B, C)を入れ子状態にして一つにする場合に,(i)AをBに入れ,(ii)そのAごとBをさらにCに入れる,という操作が,ヒト(や集中的な言語訓練を受けたチンパンジー)にしか見られないものであるらしいこと,また,この部分部品組み立て方式と形式的にパラレルなマージ操作が,言語の統語派生においても非常に重要な役割を果たしていること,に注目しておきたい[24].
   統語派生における部分部品組み立て式のマージは,たとえば(20a)のような関係節構造や(20b)のような付加節の形成において顕著に見られる.しかし実際には,(21)のような非常にシンプルな構造の派生においても,頻繁に援用されるものである.



(20a,b)では,関係節CPや副詞節CPが独立して組み立てられ,それら全体が一つの部品として,別個に形成したDPやTPとマージされなければならない.しかし同じことは,(21)の派生についても言える.まず(21a)の属格表現の派生では,先に[ Mary’s mother ]というDPを生成し,次にそれ全体をcarとマージすることが求められる.また(21b)では,主語DP [ John’s father ] をvP指定部に基底生成し,その後,これをTP指定部に移動しなければならないが,このDP自体を(22a)のようにマージによって別個に作ることができなければ,(22b)で平行して組み立てたvP とこのDPを,(22c)のようにマージすることもできない.



さらに,(22d)で完成したvPをTとマージした後,今度はそこからDPを取り出して(22e)のようにTPに再度マージしなければならないが,このムーヴの操作は,既に部分部品として他の構造内に組み込んだ下位構造が,その構造内で依然,独立した単位として操作可能な状態にとどまっていることを要請している.
   一方,行動文法に関して,より単純な「ポット方式」(Pot Method)から部分部品組み立て方式への推移を可能にしたのは,操作の可逆性(reversibility)ではないかという指摘がある[25].ポット方式では(i)BをCに入れ、(ii)AをC内のBに入れる、という手順を踏むが、ここで操作を逆転させBをCから取り出すことができたなら、それは自動的にAとBからなる部分部品を操作することになる,というのである.筆者の理解する限り,この意味での可逆的操作に該当する統語操作を言語に見出すことは困難なのであるが(Cと順次マージしたBとAは、たとえば多重指定部(multiple Spec)を形成しており、一つの構成素をなさない),ステップ(22e)のムーヴ操作は,一度マージしたものを再度マージするという点では可逆的だと見ることもできる.前述のように,現在の理解では,マージとムーヴは原理的に区別されない同一の操作として扱われているが,実際に狭義のマージがどのようにしてムーヴをも保証するのか,不明な点が残るのも事実である.ここでもし,行動文法の部分部品組み立て方式がすでに操作の可逆性を前提にしているのであれば,それが言語のシンタクスに転用・拡張された際にも,その可逆性は保持されたはずであり,それがムーヴの基盤となった,と推測できる.
   現在のミニマリスト・プログラムでは,一つの文の派生を「フェイズ」(phase)と呼ばれる下位ユニットに分割し,フェイズ毎にC-IシステムおよびS-Mシステムに転送するような,より動的な派生モデルを想定することが多い[26].このフェイズ単位の派生も,部分部品組み立ての一例に他ならい.これまでシンタクス固有の独立した原理だと考えられてきた様々な制約が,実はこうした派生情報のチャンク化に起因するものであり,普遍文法の領域にはないものだという可能性が,そこから見えてくる.たとえば(20)で見た関係節や付加節は,典型的に Wh移動による摘出を阻止する「障壁」であり(→(23)),(21)の属格名詞句や主語名詞句についても同様である(→(24)).


これらを特定の統語的階層関係に言及して説明していたのがGB理論のモジュールであったが,すべてに共通するのは,摘出が不可能な領域とは,派生上,一つの部分部品としてユニット化される構成素だということである.(23)のような移動制約は,現在ではフェイズ内部へのアクセスを禁じる「フェイズ不可侵条件」(Phase Impenetrability Condition, PIC)によって分析されることが多いが,これ自体は特定の統語範疇に関わる言語固有の制約だと言わざるを得ない.起源・進化の観点から,そういった制約の背後に,どのような言語固有でない原理が働いているのか,までを考える際,今述べたことは大きな意味を持つものと思われる.    現状では確証を得ることは困難であるが,言語における抽象的な記号操作の進化的前駆体として,行動文法のような具象物操作に関わる認知・身体的能力があったという可能性は,十分検討に値するものであろう.言語の進化と道具の使用・作製の間の関係性は,これまでもしばしば指摘されるところであった.道具の使用・作製に求められる計画性や先見性は,言語能力によって大きく賄われる一方,部品を階層的に組み合わせて機能に合った構造をデザインする能力は,語を組み合わせて意味ある文を組み立てる統語派生にも投影されていると思われる.

5. 「変化を伴う由来」としての言語

   生成文法では長らく,人間言語のシンタクスの作動様式は普遍的なものであってバリエーションを許さないと考えられ,表出するいっさいの多様性(共時的・通時的・発達的)は,シンタクス以外の領域,たとえばシンタクスへの入力となる語彙項目,特に「機能範疇」(functional categories)を構成する素性のパラメータ的変異や,シンタクスの出力に対する形態・音韻解釈の可変性・恣意性に帰せられてきた.しかしその普遍的シンタクスの起源・進化については,先に見たとおり,従来の生成文法のモデルでは,そこに複雑で領域固有の原理や条件が多く詰め込まれていたため,建設的な研究が許されない状況があった.今,行動文法とシンタクスの関係について行った進化的考察は,統語操作の複雑さを二項マージという極めてシンプルな操作にまで絞り込むことにより,初めて可能になったものである.マージの行動文法起源説が正しいか否かはさておき,重要なのは,そういった考察や提案を,精緻な文法理論に立脚して,生成文法の側から発信する態勢が整いつつあるという現状なのである.生物言語学という学際的な企ての中で,理論言語学が果たすべき大きな役割の一つはこういったところにある,と筆者は考えている.
    言語というヒト種固有の新しい質の成立経緯は,種固有でない多様な形質の変容と結合,再編成の繰り返しの中にある.それは先のHCF仮説によれば唯一のFLN,人間言語に固有なコンポーネントとされる回帰的シンタクスについても同様なのだと期待できる.言語の進化が紛れもない「変化を伴う由来」の一つであることが,今や強く支持される.かつてジャコブ(F. Jacob)は,進化が手元に利用できるものを何でも使って問題を解決する修繕屋(tinkerer)のようなものであると述べ,To create is to recombine. という卓見を示した.[27] 言語の成立もまさにそのような経緯をたどったのであろう.

[引用文献・註]

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10. 前適応という用語が,通常言われるようにダーウィンによるものであったかどうかは,筆者の知る限り不明である.マイアによれば,この用語はフランスの生物学者・キュエノ(L. Cuénot)による造語であるが,その意味は現在のものとは異なり,跳躍進化説の文脈で使われていた.すなわち,「有望な怪物」は時として新しいニッチに対して「前適応」し得る,というように.Mayr, E. The emergence of evolutionary novelties, pp. 349-380, in Tax, S. Ed., The Evolution of Life, University of Chicago Press, Chicago, 1959, revised and reprinted in Mayr, E. pp. 88-113, in Evolution and the Diversity of Life: Selected Essays, Belknap Press, Cambridge, MA, 1976; Mayr, E. The Growth of Biological Thought: Diversity, Evolution, and Inheritance, Belknap Press, Cambridge, MA, 1982.
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18. このような語彙的動詞の統語分析は語彙分解(lexical decomposition)と呼ばれ,元々は1960年代,当時のチョムスキー型標準理論と対立していた生成意味論(Generative Semantics)が採用していた分析方法である.生成意味論は統語論の自律性を認めず,統語構造と意味構造の同型性を強く求め過ぎた結果,それを実現する統語操作に破綻をきたして直ちに崩壊することとなる.ここで主張しているのは,そういった生成意味論の過ちを繰り返すことなく,自律した統語部門・意味部門間の写像関係を規定する上で,語彙分解の利点を活用することが可能であるということであり,生成意味論の復活を示唆するものでは決してない.
19. たとえば名詞句の内部構造に関して,Xバー理論ではNの直接補部とN' に付加された要素を区別することが慣例となっている.
     i) 日本からの数学の先生
     cf. a teacher of math from Japan
     ii) *数学の日本からの先生
      cf. * a teacher from Japan of math
   「数学の」は「先生」の補部であるが,「日本からの」はそれより上位に生じる付加部であるから,この階層性に反する(ii)は非文法的になる,という分析である.
     iii) [NP [N' [N' [N teacher ] [PP of math ]] [PP from Japan ]]]
N'のような中間投射レベルの存在しない素句構造では,この分析をそのまま保持することはできない.しかし「先生」という名詞が二つの独立した抽象的主要部の組み合わせからなるのであれば(この点,英語のteacherは形態的にもteach+erであり,明快である),一方を下位Nの,他方を上位nの項として,両者を正しく峻別することができる.
     iv) [nP n [NP N [PP of math ]] [PP from Japan ]]
20. 藤田耕司・松本マスミ『語彙範疇 (I) 動詞』研究社,東京,2005. 特に第1章.反語彙主義に基づく動詞分析の具体例についても,同書を参照.
21. Hauser, M. D., Chomsky, N., and Fitch, W. T. The faculty of language: What is it, who has it, and how did it evolve? Science 298, 1569-1579 (2002); Fitch, W. T., Hauser, M. D., and Chomsky, N. The evolution of the language faculty: Clarifications and implications, Cognition 97, 179-210 (2005); また反論としてPinker, S., and Jackendoff, R. The faculty of language: What’s special about it? Cognition 95, 201-236 (2005); Jackendoff, R., and Pinker, S. The nature of the language faculty and its implications for evolution of language, Cognition 97, 211-225 (2005).
22. “... for both evolution and development, there seems to be little reason to suppose that there were precursors to unbounded Merge.” Chomsky, N. Some simple evo-devo theses: How true might they be for language? 2005 Stony Brook Symposium, forthcoming.
23. Greenfield, P. M. Language, tools, and brain: The development and evolution of hierarchically organized sequential behavior, Behavioral and Brain Sciences 14, 531-595 (1991); Greenfield, P. M. Language, tools, and brain revisited, Behavioral and Brain Sciences 21, 159-163 (1998); Maynard Smith, J., and Szathmáry, E. The Major Transitions in Evolution, Oxford University Press, Oxford, 1995; 松沢哲朗. 『チンパンジーの心』 岩波書店,東京,2000.; 藤田耕司. 「言語進化とミニマリスト・プログラム」KLS 26, 362-372 (2006); Fujita, K. Facing the logical problem of language evolution, English Linguistics 24, 78-108 (2007).
24. 竹下秀子氏(個人談)によれば,野生のチンパンジーでも稀に部分部品組み立てを行うことが観察されるらしい.すると潜在的な能力としては,部分部品組み立て自体はヒト固有ではなく,ただそれを発揮する環境がヒト固有である,と考えることもできる.もちろん,この能力を言語というヒト固有の「環境」において,マージという抽象的な記号操作能力に拡張し,無限化したのはヒトだけである.
25. Tokimoto, N., and Okanoya, K. Spontaneous construction of “Chinese boxes” by Degus (Octodon degu): A rudiment of recursive intelligence? Japanese Psychological Research 46, 255-261 (2004).
26. Chomsky, N. Derivation by phase, pp. 1-52, in Kenstowicz, M. Ed., Ken Hale: A Life in Language, MIT Press, Cambridge, MA, 2001.
27. Jacob, F. Evolution and tinkering, Science 196, 1161-66 (1977).

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