INTEGRATION OF SENSING MECHANISM IN HUMAN BRAIN

Mitsuo Tonoike

Dep. of Medical System Engineering, Graduate School of Engineering, Chiba University
FAX: 043-290-3263
tonoike@faculty.chiba-u.jp
(Received August 6, 2007; Accepted November 7, 2007)

(Abstract)

Purpose of this study;
We may find the relation between sensing organs and our brain through the evolution and development in human. Our five senses are considerable to integrate their sensual information in the associated area in human brain. Richard C. Cytowic have shown an actual existence for “Synesthesia” and their characteristic type. From this investigation, we get the important hint of the study of integration mechanism between the various complex senses in human brain.
Experiments using MEG and fMRI;
In this study we have tried to measure the human senses using magnetoencephalography(MEG) and functional magnetic resonance imaging(fMRI). The first experiment is the study of the complex sensing mechanism between vision and audition. We used visual-spatial/audio-spatial task in this MEG experiment, and analyzed the effects on the selective attention for audio/visual task. From the results we found the effects of modification on neural activities in the higher visual area by the selective attention. On the other hand, the second complex sensing study between olfaction and taste was done using MEG and fMRI. From odd-ball paradigm we get source localization for the cognitive response evoked by the odorant pulse stimulation. And also from taste experiment the second neural center was found in the orbito-frontal area with the late latency about 1150ms.. The common active brain areas were found both taste stimuli and olfactory stimuli by using fMRI experiment.
Future development of this study;
Recently, E.T. Rolls showed an integration model, such as “Gate theory for five sensing mechanism”. We will study the development of new measurements and more effective techniques of the analysis for integration of sensing mechanism in human brain.

(Keywords)

integration of sensing, evolution of brain, Synesthesia, MEG, functional MRI, attention, cognition, five senses

脳における感覚の統合

外 池  光 雄

千葉大学・大学院・工学研究科・メディカルシステムコース
〒263-8522 千葉県千葉市稲毛区弥生町1-33 千葉大学大学院工学研究科
FAX: 043-290-3263 E-mail: tonoike@faculty.chiba-u.jp

1.緒論

   人間の「感覚器官と脳」の関係は,生物の進化と発生の過程から追ってみると,神経細胞の進化と発生の中にその発達の経緯を見ることができる.例えば,単細胞生物のアメーバでも,既に走光性や走化性を有し,また下等な動物では脳神経系が未発達ながら,その脳の大部分が嗅脳(匂いや味を識別する脳)と呼ばれている部分を占めていることが明らかとなっている.これは,生物が生命を維持し生存していく上において感覚器官が極めて重要な役割を担っていることを示している.また,動物の脳神経系は,これに対応して獲得した感覚情報を最も効果的に処理するための情報処理器官として,進化を遂げてきたものと考えられる.我々の五感(視覚・聴覚・嗅覚・味覚・体性感覚)の感覚は,これまでの神経科学や脳科学の研究から,それぞれの感覚器官で捉えられた感覚情報が,各感覚神経を通じて,大脳の各一次感覚野に送られ,その対応する脳部位で処理され,感覚が知覚されることを明らかにしてきた.言わば,これまでの脳科学では,それぞれ個別の感覚が脳のどこで処理され,個別の感覚情報が如何にその部位で知覚されるかを分析的に解明してきた,と言えるであろう.
   しかしながら,下記に述べるような「共感覚者」(Synesthesia)が現実に実在しているという事実がある[1-3].この事実は,これまでの分析的,個別的な脳科学研究だけでは到底説明することができず,また,我々が種々の外部感覚情報を脳内神経系で如何に並列的に同時情報処理しているかについても,単一の感覚情報のみを個別的に扱っていたのでは,その全体の機能を解明することができない.これは,これまでの研究に対する方法論に問題があるのではないかと考えられる.
   分析的,個別的に現象を孤立化して,切り離す(isolation)研究手法は,一見,合理的で,結果がわかり易いという利点を持つように思われる.しかし,その一方で,現実に行われている状態を理想化するために,現実に即さない非現実主義的な誤りに陥るものと考えられる.その結果,生体の統合的な機能を無視するなど,現実の生体が有している全体的な意味や役割の本質を明らかにすることができなくなっている.
問題提起:共感覚者(Synesthesia)の存在とそのメカニズム解明の課題    最近,五感の中の幾つかの複数感覚を同時に感じる「共感覚」の持ち主の存在が明らかとなった.ある共感覚者の実例では,例えば「音を聞くと,音に色が着いて見え,ある種の味がする」というような具合である.この共感覚者は単に感覚が異常なのでなく,生まれながらにしてそのような超感覚の神経系を持っているのである.このような共感覚者の実在は,人の感覚と脳内の情報処理のメカニズムの今後の解明に一つの新しい研究方向を示唆しているものと思われるTable 1は,Richard E. Cytowicによって調査された共感覚者の実態を表した結果である[1-3].
   共感覚者の感覚共通化の存在は,脳神経系におけるメカニズムの幾つかの特徴を明瞭に示している.それは,まず脳の皮質下に感覚神経系の神経ネットワークが存在していることを表している.また,それはヒト脳の構造が脳の進化過程を経たものであることを明瞭に示している.すなわち,脳の新皮質に至るまでの旧皮質部位での神経路が存在すること,さらに脳の辺縁系等で感覚神経間の相互作用が見られることなど,共感覚者にはこれらの特徴を認めることができるのである.

Table 1  A type of complex senses and populations in synesthesia
共感覚者(Synesthesia)の複合的感覚のタイプと出現頻度


2.進化の過程に見られるヒト脳の構造

   Paul MacLeanの分類によるとFig. 1に示すように我々の大脳は辺縁系―皮質(limbic system – cortex)における脳の極性として,3段階の進化の過程に分けることができる[1-2].一番古い脳は脳の最も中心部にあり,爬虫類の脳(reptilian)と呼ばれている.爬虫類の脳は動物の最も初歩的な脳の構造と機能を有しており,動物の本能的な特性を有している.
   次の段階は,進化の過程でこの爬虫類の脳を取り巻くようにして脳が発達して脳の容積が大きく拡大した,第2段階の哺乳類 (paleomammalian)の脳(辺縁系: limbic system)である.この脳の部分は,動物が爬虫類から進化して初めて哺乳類が誕生した時に進化・発達した部分であるため,この脳の部分は一般に辺縁系と呼ばれている部位であり,現在のヒトが誕生してくる前の脳である.従ってこの第2段階の脳の機能は哺乳類の中でも,下等な哺乳類の脳の特性を持ったものである.
   第3番目の脳は,ヒトが誕生したことによって動物の中で最も発達した脳の部分であり,内部の脳を取り巻くように,さらに新しい脳が外側に大きく発達 ・進化してきた新哺乳類の脳(neomammalian)である.この脳の部位は,一般に,新皮質と呼ばれている部位であり,ヒトに特異な機能を持ったものである.通常の感覚領は,この新皮質の脳部位に局在して存在している.我々が,いろんな感覚を知覚できるのも,実はこの第3番目の脳(新皮質)の部位で感覚情報の中枢処理が行われているからである.この脳部位での感覚の反応は,我々が通常,知覚しているそれぞれの感覚そのものである.
   このように我々の脳が,進化の過程を経て形成されたこのような3段階の極性を有する脳であることを踏まえて,脳における感覚の統合に対する以下の実験と考察を行った.



Fig. 1 The structure of human brain was developed through an evolution
進化の過程に見られるヒト脳の構造(Richard E.Cytowicより引用,一部改編)

3.実験の方法

   我々は,多チャンネルのSQUID素子を有する脳磁界計測装置(脳磁計と呼ばれている)を用いて,通常の感覚特性を持つ一般の人の脳から観測される局所的な脳神経磁界応答を非侵襲に計測する脳磁図(MEG)実験を行った [4].Fig. 2に我々が実験に用いた122チャンネルのSQUID素子を有する全頭型脳磁計(産業技術総合研究所関西センター,Neuromag-122)の装置の写真とその構造を示す.
この研究では,緒言で述べたように従来のように感覚を個別に単一に扱うのでなく,複数の感覚を同時に刺激する実験を行い,この時の脳応答を計測・解析する研究を行った.このような同時複数感覚の研究は,まだ例数が少なく現在でもほとんど実施されていない状態である.
   本論文では,以下のような同時複数感覚刺激に対する注意(attention)の分割の研究や[5],認知[6],およびfMRI実験[7]とそれらの解析を行った.

3. 1.視覚と聴覚の同時感覚刺激に対する注意の分割の研究

    視覚と聴覚の同時感覚刺激に対して,我々の脳がどのような処理を行っているのかについて,これまでの研究では十分には解明されていなかった.そこで我々は,一般の感覚特性を持った被験者に,視覚刺激としてFig. 3に示すように,磁気シールドルーム内の被験者の眼の前(約1m)に置かれたスクリーン上の右側,あるいは左側に赤色,あるいは緑色の発光ダイオードLEDの光がランダムに点滅するような光刺激を用いた.また,同時に刺激する聴覚刺激は,右の耳,あるいは左の耳に1000 Hz,あるいは2000 Hzの純音をランダムに用いた.この視覚と聴覚の同時感覚刺激実験では,被験者には視覚か聴覚かどちらかの感覚刺激に,自分の注意を向けることを義務付けた[5].このような複数感覚の同時刺激時に,注意がどちらかの感覚に向いている場合に,脳内で如何なる感覚情報処理が行われているかについて解析を行った.



Fig. 2 122-channel whole-head SQUID gradiometer and its structure
122チャンネルの全頭型脳磁計とその構造図(産業技術総合研究所関西センター,Neuromag-122)





Fig. 3 MEG study of selective attention for audio/visual simultaneous stimuli
視覚と聴覚同時刺激に対する注意の分割の研究(脳の部位i, ii. iiiにおける各応答時間での視覚/聴覚の選択的注意の強さの変化状態を示している.)(岩木より引用)

     

3.2.匂いと味の刺激による食物に対する認知機能の研究

   我々が食物に接する時,「五感の感覚を総て動員して食物を認識しているのであろう」ということは,一般に言われていることである.しかしながら,このことを脳科学の側面から実際に具体的に明らかにした研究は少ない.そこで我々は,まず食物に最も関係が深い感覚である嗅覚と味覚双方の関連についての研究を行った[8-9].
嗅覚や味覚の研究も,これまでそれぞれ個別に研究は進められてきているが,現状ではまだこれらの感覚の相互作用や,複合した感覚間の関係を客観的・科学的に考察した研究は殆んど取り組まれていないのが現状である.    そこでまず我々は匂いや味の刺激装置をそれぞれ独自に製作して,実験に適した刺激装置を用いながら一般の被験者に対して,脳磁図(MEG)実験,および機能的MRI(fMRI)実験による嗅覚と味覚の実験を実施した.この研究では匂いと味に関する種々のMEG実験[6]と,fMRI実験[7]とをそれぞれ個別に行いながら,匂いと味の相互作用の関係,感覚間の相互作用の分析を実施し,検討を行った.

4. 実験結果と解析

   複数感覚間の相互作用,複数同時感覚刺激に対する種々の感覚の脳内における統合機能を調べるために,ここでは,一般の感覚特性を持った被験者に対して,これまで我々が行ってきたMEG実験,およびfMRI実験の結果と解析について,上記の視覚と聴覚の同時刺激に対する注意の分割,選択的注意の課題と,匂いと味刺激による食物に対する認知機能の課題の解析結果について述べる.

4.1.複数感覚刺激の脳磁図(MEG)計測と解析

Fig. 3は一般の感覚特性を持った被験者に音刺激と発光ダイオードによる光の視覚刺激とを同時に与えて,その時の脳活動応答を記録し,解析した結果であり,視覚/聴覚同時感覚刺激に対する脳活動を明らかにしたものである[5].    さらにFig. 4は,この視覚/聴覚同時刺激実験において,一般の感覚特性を持った被験者にどちらかの感覚に自分の注意を選択的に向けさせる課題(例えば,視覚にのみ注意を向けるとか,あるいは聴覚にのみ注意を向けるような課題)を実行させ,その時の注意の分割の割合によって,脳活動応答が如何に変化するかを調べた結果である.この注意の分割結果によると,視覚のみに注意を向けた時と聴覚にのみ注意を向けた時で,選択的注意による脳の活動の状態が明らかに異なっていることが証明された 結果を示す[5].
   また,この視覚/聴覚同時刺激実験のMEG計測結果を用いて,岩木らは視覚・聴覚同時刺激の注意実験による脳内の高次視覚野の神経活動における修飾作用について以下のような解析を行った.それは,Fig. 5に示すように「視聴覚間での選択的注意により,高次視覚野において,情報処理に必要とされる刺激特徴に依存した神経活動の修飾が生じる.」という結果である[5].この解析結果をまとめると,Fig. 6のように表すことができる.
   これは,すなわち,脳内の高次神経情報処理においては,入力の信号が視覚系の情報であろうと聴覚系の情報であろうと,その入力感覚刺激のモダリティにはよらず,脳内の神経系の情報処理の際には,それらの感覚情報が新たに「空間的な情報成分」と,「非空間的な情報成分」の異なる成分に分けられ,それぞれモダリティの異なる感覚刺激の情報が,脳内で新たに統合化される情報処理が行われていることを意味している.




Fig. 4 Effects on the selective attention for audio/visual MEG experiments
視覚/聴覚同時刺激実験による選択的注意の影響(応答波形の違い)(岩木,外池より引用)



Fig. 5 Effects of modification on neural activities in the higher visual area by the selective attention between vision and audition
視聴覚間での選択的注意による高次視覚野での神経活動の修飾



Fig. 6 Transduction and integration to the information of senses in the brain
脳内における感覚情報の変換と統合

4.2.匂い刺激と味刺激に関する脳磁図(MEG)とfMRI計測と解析

   Fig. 7は提示確率の異なる2種類の匂い刺激をランダムに,一般の感覚特性を持った被験者の鼻腔に刺激する匂いパルスのオドボール課題実験を行った時のMEG脳応答の計測・解析結果である[6].この結果,希な確率で提示される匂い刺激にのみ注意を向けた脳応答に,いわゆる認知応答と呼ばれているP300mの匂い応答成分が,初めて検出され,この応答成分の信号源が上側頭部の周辺に推定された.このことから,従来,匂いの感覚中枢応答部位とは異なる新たな連合野の部位に,匂いの認知機能に関わる中枢部の存在の可能性が明らかにされた[6].また,味溶液による舌の味覚MEG刺激実験の結果,Fig. 8に示すように,従来から味覚の中枢部位として推定されている側頭葉深部の島皮質(insula)に味覚中枢部位の信号源が推定されるとともに,より遅い応答潜時(約1000 ms~1100 ms)で前頭眼窩野部(orbito-frontal area)に2次の味覚応答の信号源が推定される結果を得た[10].これは,味覚の1次感覚中枢での情報処理の後,さらに味の情報が,感覚の統合的連合野と考えられている前頭眼窩野に送られている可能性を示唆するものであった.
   また,我々は一般の感覚特性を持った被験者に対して,味と匂いを用いたfMRI(東京電機大学,1.5T Magnes日立製作所製)実験を行い,味刺激,匂い刺激それぞれの刺激に対するEPI(echo planar imaging: MRIにおいて,一回の励起パルスで画像再構成のためのすべてのデータを取得できる超高速スキャン)によるブロックデザインによって,50秒毎に刺激とコントロールを連続して繰り返すタスクで刺激を行った[7].そしてこれらのfMRI信号の応答をSPM統計的ソフトで解析し,脳血流が高く賦活される脳部位を比較・検討した.この結果,Fig. 9に示すように,今回の味刺激によるfMRI実験では,従来から匂い応答部位や味応答部位の中枢と言われている部位の他に,基礎的な味刺激によっても,匂い刺激で賦活された時と共通の脳部位が新たに賦活される結果を初めて観測することができた[7].これは,一般の感覚特性を持った被験者において,味と匂いの情報が脳内の部位で共通に処理されている部位の存在を示唆する結果であった[7].
   以上,我々が今回行ってきたこれらのMEG実験やfMRI実験における被験者は,すべて一般の感覚特性を有する通常の被験者であったが,以上の実験と解析から一般の通常感覚の被験者においても,複数感覚間の相互作用や,モダリティの異なる種々の感覚の統合が現実に脳内で行われていることを明瞭に示唆する結果であった.



Fig. 7 Source localization for the cognitive P300m response on the odd-ball experiment evoked by odorant pulse stimulation(Estimated area : superior temporal region)
匂いパルス刺激のオドボール課題実験による認知応答P300mの脳内信号源推定(上側頭部に推定:第3番目のピークの応答)



Fig. 8 Estimation of a source of the second MEG taste response in the brain for the stimulation of Sucrose (Peak latency : about 1150ms)
蔗糖の味刺激によるMEG味覚2次応答の信号源推定(潜時:約1150ms)(図中のダイポールの信号源位置は,前頭眼窩野部に推定された.)



Fig. 9 Common active brain areas both taste stimuli(Sucrose and Nacl) and olfactory stimuli by fMRI experiments (Estimated area: frontal association area, limbic system, thalamus, insula and etc.)
味覚基本味(蔗糖,NaCl)刺激と匂い刺激に対するfMRI応答で共通の賦活が認められた脳応答部位 (A: 前頭連合野,B: 辺縁系,C: 視床,D: 島皮質 等の部位)

5.討論

   我々が,外界を知覚・認識できるのは五感を通じて世界を把握し,その感覚情報を脳で情報処理しているからである.これまで,生理学的研究や脳神経科学研究において,これらの感覚情報処理に対する多くの研究が行われそのメカニズムの解明が行われてきた.しかしながら,ヒトのこれらの感覚機能を脳の進化・発達の観点から,統合的・総合的に研究されてきた例は少ない.これまでの多くの研究は殆んどの研究が,ある感覚器の固有の研究であったり,単一の感覚に対する脳中枢応答の研究の場合で,分析的・理想化された実験系での研究が主流であった.この方法論では,種々の感覚情報に関する脳内の統合的なメカニズムを解明するのは困難である.
   そこで我々は,感覚情報を個別に単独に捉えるのでなく,複数感覚間の相互作用,複数同時感覚刺激に対する感覚の統合的な脳内の情報処理の解明に焦点をあてる研究を新たに実施してきた.
   近年,このように脳内の種々の感覚情報処理の解明が現実に可能になったのは,実は,脳磁図(MEG)計測法や,fMRI計測法などの最先端技術の発展があったからである.人間の脳神経の様子を,活動しているそのままの生きた状態で,画像化して表せる非侵襲的計測法による脳イメージング技術の著しい発展によって,初めてこのように,生きた人間の脳内神経活動の機能が明らかにできるようになったのである.
   我々は,いち早く,これらの最先端技術を人間の諸感覚の脳内における統合的機能解明の研究に適用した.また人間の脳を進化・発達の観点から捉えて,Richard E. Cytowicによって紹介された「共感覚者」の実態を詳しく調査した.その結果,少ない割合ではあるが,現実に「共感覚者」が実在しており,彼らの複合感覚のタイプとその特性についての調査から,進化過程を経てきたヒトの脳の構造と機能を解明する重要な手掛かりが得られた.
   これらの予備的考察を踏まえて,我々は,脳磁図計測法やfMRI計測法を駆使し,複数同時感覚刺激実験によって脳内の感覚情報処理をイメージング化し,五感の感覚の統合機能を解明する研究を実施した.この結果,本論文の実験と解析で述べたように,複数感覚間の注意の分割,選択的注意のメカニズムや,味や匂いによる食物の知覚と認知機能に関する統合的な仕組みの一端を捉えることができた.
   しかし,これらの研究はようやく始まったばかりである.脳内の感覚間の統合的な機能をより効果的に計測・解析するさらに新しい実験,方法論の開発,脳内の感覚統合モデルの構築などが今後,一層不可欠である.

今後の課題 :脳における五感の感覚統合認知モデル
   最近,E.T.Rollsは,アカゲザルやヒトの脳の神経生理・科学的研究から,五感の感覚情報の総てが最終的には前頭葉眼窩野に送られ,ここで感覚が統合化されて認識されるという「五感ゲート仮説」を提唱している[11].五感の感覚情報の統合化と前頭葉脳機能の解明は今後の極めて重要な課題である.

謝辞
   本研究の遂行にあたり,五感情報通信の提唱者であり,五感のVR(人工現時感)技術を積極的に推進されている東大先端研の廣瀬通孝教授,私が産総研関西センター在籍中に共に研究を推進してきた研究仲間の岩木直氏,中川誠司氏,山口雅彦氏,並びに現在,脳磁界計測でお世話になっている東京歯科大学の新谷益朗博士,fMRI計測などで種々お世話になっている東京電機大学先端科学センターの根本幾センター長,王力群博士,大学院博士課程の宇野富徳氏,また人の脳思考について共同研究を行っている京大経済研究所の西村和雄教授,Elegaphy(株)の飛永芳一博士,さらに脳研究でご指導ご鞭撻を賜っている早稲田大学教授・台湾大学教授の吉岡亨先生に心から感謝申し上げます.

引用文献

1. Richard E. Cytowic:The implicit made explicit(香り(アロマ)の潜在的な入り口),産業技術総合研究所関西センター講演論文集,http://Cytowic.net/
2. Richard E. Cytowic:香りで五感の活性化はどこまで可能か,第5回アロマ・サイエンスフォーラム2004, フレグランスジャーナル社, アルカディア市ヶ谷,講演要旨集,2004年9月3日.
3. Richard E. Cytowic: 共感覚と香りの潜在的な入り口,Aroma Research 24, 384-393 (2005).
4. Tonoike M., Maeda A., Kawai H. and Kaetsu I. Measurement of olfactory event-related magnetic fields evoked by odorant pulses synchronized with respiration, Electroenceph. Clin. Neurophysiol. Suppl. 47, 143-150 (1996).
5. 岩木 直,外池光雄..脳波・脳磁界計測における脳内信号源推定法,日本味と匂学会誌 9, 67-75 (2002).
6. Tonoike M., Yamaguchi M. and Kaetsu I. Olfactory cognitive responses using odorant odd-ball paradigm by magnetoencephalography ., Journal of Temporal Design in Architecture and the Environment 3, 43-53 (2003).
7. 宇野富徳,三分一史和,外池光雄,町好雄,小谷誠.機能的MRIを用いたヒト嗅覚と味覚の脳活動に関する研究,第22回日本生体磁気学会誌 20, 256-257 (2007).
8. 外池光雄,山口雅彦,山本千珠子,山村裕美,山本隆,永井元,須谷康.おいしさの感性情報処理,日本味と匂学会誌 11, 263-274 (2004).
9. 外池光雄.味とにおいの情報伝達に対する脳磁界計測,Aroma Research 7, 34-43 (2006).
10. 永井 元,高橋佳代,吉村眞一,山口雅彦,外池光雄.山本隆脳磁場計測によるヒト味覚関連中枢応答特性の解析,日本味と匂学会誌 5, 371-374 (1998).
11. Rolls, E. T. The orbitofrontal cortex, Phil. Trans. R. Soc. London B 351, 1433-1444 (1996).

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