RNA WORLD TECHNOLOGY: ARTIFICIAL RNA INHIBITORS AGAINST A HIGHLY ACTIVE PROTEASE

Yo Kikuchi

Division of Bioscience and Biotechnology, Department of Ecological Engineering, Toyohashi University of Technology, Tempaku-cho, Toyohashi, Aichi 441-8580, Japan
E-mail: k i k u c h i @ eco.tut.ac.jp
(Received October 7, 2006 Accepted October 13, 2006)

Abstract

Here, I would like to propose the term “RNA world technology”. The RNA world is a hypothetical world that is believed to have been in a period of pre-biotic state. If this is true, the RNA should have various functions to lead the system in the creation of life. In the RNA world, RNAs expressed great versatility. However, not all these functions were brought into modern life. It may be impossible to find out such RNA potential from the modern organisms. “RNA world technology” is the technology that revives and utilizes the RNA functions those might have worked only in the RNA world. Therefore, RNA world technology is distinguished from usual biotechnology. In vitro selection or SELEX is an RNA world technology. Here I show our in vitro selection of subtilisin aptamer (inhibitor) as an example for RNA world technology. Versatility and plasticity of RNAs can be seen from this example. Expectation of “super SELEX” and definition of the term “RNA world” are also discussed.

Keyword:

RNA world; RNA world technology; in vitro selection; SELEX; subtilisin; non-coding RNA

RNAワールドテクノロジー:強力プロテアーゼ阻害剤の創製を一例として

菊池 洋

豊橋技術科学大学 エコロジー工学系 生物基礎工学
〒441-8580 愛知県豊橋市天伯町雲雀ヶ丘1-1
E-mail: k i ku chi @ ec o .t u t.a c.j p

1.はじめに−RNAワールドのこと

     2006年は、「RNAワールド」という言葉ができて丁度20年目に当たる。Cechらが、RNAの触媒的機能を発見し[1]、それがほとんどの科学者に十分認められてきた1986年、Gilbertは、生命の始まりはRNAであったという短い論説をNatureに発表し、そのタイトルが「Origin of life: The RNA world」であった[2]。それまで、生命の起原の最も悩ましい問題、「情報が先か機能が先か」、現在の生命を基にした物質的基盤に立てば、「核酸が先かタンパク質が先か」という「鶏と卵」の問題に、RNAが情報分子であり機能分子でもあるという実験的事実をもとに、「始めにRNAありき」という説を提唱したのである。RNAのみで切れたりつながったり複製したりする世界が生命の起原の最初にあり、それからRNAがアミノ酸をリクルートし次のステップである「タンパク質—RNAワールド」作ったというのである。生命のシステムは核酸とタンパク質の長い時間の相互作用から生まれてきたというそれまでのあまりすっきりしない説と較べると、「RNAワールド仮説」は、いかにも起こりそうで、RNAの触媒機能という新事実から多くの支持を得るものとなった。最初のRNAはどのようにして生成されたのかという大問題はあるものの、何よりも、RNAから生命への進化のシナリオの素過程が実証されるように作業仮説を立てられることが魅力的であった。
     RNAワールドという言葉は、Gilbertにより1986年に初めて提唱されたが、実は、この概念は、すでに、1968年、OrgelとCrickが遺伝暗号の起原についての論説の中で述べている[3,4]。彼らは、RNAのみからなる原始リボソームを想定し、最初のタンパク質は、このリボソームで合成されたのではないかということを記している。今にして思えば、この時代にRNAの触媒機能を示唆するこの仮説を提出した彼らの洞察力に舌をまくばかりだが、当時は、魅力的ではあったものの多くの仮説の一つに過ぎないと見られていた。1980年代初頭のCechらのRNAの触媒的機能の発見により、この論説は脚光を浴び「RNAワールド」という新語を生み出すことにつながったと言うことができる。

2.RNAワールドテクノロジーとは何か

     さて、「RNAワールド」についての説明が長くなったが、本稿の表題の「RNAワールドテクノロジー」とは何だろう。簡単に言えば、RNAワールド時代にあったであろうRNAの機能を何とか引っ張り出して、役に立つ技術を作れないかということである。RNAが進化して生命ができ上がったとすれば、RNAワールド時代のRNAは、多様な機能をもっていたと考えられる。その中から、現在の生命につながる(都合の良かった)RNAの機能のみが選択されたと考えられる。と言うことは、多くの捨て去られたRNAの機能があったのではないかと推測できる。現代の生命にはつながらなかったが、現代の我々が見たら様々な場面で応用可能な機能があったと考えてもおかしくはないであろう。このようなRNAの機能は、生命へと続く進化の中で捨て去られたので、現代の生物の中を探してもみつからない。このRNAテクノロジーは、現代の生物機能を利用しようとする「バイオテクノロジー」の範疇には入らないので、筆者は、新たに「RNAワールドテクノロジー」と呼びたいわけである。

3.現細胞にはないRNA型サチライシン阻害剤の創製

     1990年に発表されたin vitro selection[5]やSELEX(Systematic Evolution of Ligands by Exponetial Enrichment)[6]と言われる手法でアプタマーなどを取ることは、立派な「RNAワールドテクノロジー」である。ここでは、筆者らの研究室で取られたサチライシンアプタマーについて紹介したい[7]。サチライシンは枯草菌の生産する菌体外プロテアーゼである[8,9]。工業的にもよく利用されており、洗剤などの洗浄力強化にも利用されているように、その酵素活性と安定性は、非常に高い。このような強力プロテアーゼに立ち向かい活性を阻害するような能力がか弱く見えるRNAにあるのだろうか。このような単純な疑問からサチライシンアプタマーの創製を試みた。
     SELEXを始めるには、まずランダム配列をもつ核酸集団の調製をしなければならない。筆者らは、Figure 1に示すように、まずR-5、R-100、R-3と名付けた3種のDNAをDNA合成機により合成した。R-100は、3'側(Figure 1の左側)から17塩基のT7プロモーター配列、18塩基の既知配列(5'-known sequence = 5'KS)、47塩基のランダム配列、5'末端に18塩基の既知配列(3'-known sequence = 3'KS)をもち、100塩基の長さである。R-100の3’側を5’KS、5’側を3’KSと呼ぶのは、R-100を鋳型としてできるRNAを中心に考えているからである(Figure 1のRNA sequence参照)。このR-100にR-5をハイブリダイズさせ、T7プロモーターと5’KS部分を二重鎖とした。これにより、この部分がT7 RNAポリメラーゼで認識され、試験管内転写によりランダム配列をもつRNAの集団を合成できる。合成されるRNAは、5’GGGCGAAUU・・・(5’KS)から始まり、5'KS−ランダム−3'KSという配列をもつはずである(Figure 1のRNA sequence)。筆者らの使ったDNA量から、この集団には1兆種類の異なったRNA分子が存在すると計算される。このランダム配列(1兆種類)の中にサチライシンに結合する能力をもつものが存在することを期待しているわけである。次にFigure 2に示すように、このRNA集団をサチライシンを固定化したカラムに流し入れる。その後カラムを緩衝液により徹底的に洗浄しサチライシンに結合能力のないRNAを洗い流す。結合能力をもつRNAは、カラムに留まっており、それはサチライシン溶液にて溶出する。固定化サチライシンよりも溶液中のサチライシンのほうにより高い親和性を有するRNAがあれば、溶出されてくるはずである。ここに溶出されたRNAは3'KSに相補的なオリゴDNA(Figure 1のR-3)をプライマーとして逆転写酵素(Reverse transcriptase = RT)により、まず一本鎖DNAに変換され、さらにT7プロモーター−5'KSという配列をもつオリゴDNA(Figure 1のR-5)を加え、ポリメラーゼ連鎖反応(Polymerase Chain Reaction = PCR)(両方あわせてRT-PCRという)により二本鎖DNAとして増幅される。このDNAは次の世代のRNAのための鋳型となる。そして、一回目と同様に試験管内転写により第二世代のRNAを合成し、同様のカラム操作で選択を繰り返す。すなわち、少し手助けをしながら、多量の子供を作らせ、その子供達の中からサチライシン結合能を持つものだけを選択するということである。これを8回繰り返し、この第8世代のDNAを大腸菌にクローニングし、得られた各配列を精製した。



Figure 1. The template DNA for the preparation of the initial random RNA population and the primer DNAs. Partially double-stranded DNA consisting of R-5 and R-100 was used as template for preparation of the initial random RNA population using T7 RNA polymerase. The synthesized RNAs are shown at the bottom (RNA sequence). Selected RNAs were reverse-transcribed using R-3 as a primer, then the cDNAs prepared were amplified using R-5 and R-3 by the polymerase chain reaction.




Figure 2. Selection procedure for RNA aptamers to subtilisin. Selection was performed using the column containing immobilized subtilisin. After eight rounds of selection, RNAs were cloned for isolation of each molecule.


     クローニングにより得られたプラスミドから、それぞれのRNAを試験管内転写で得、サチライシンの酵素活性に及ぼすこれらのRNAアプタマーの影響を調べた。上述の筆者らの方法では、結合能のみでRNAを選択しているため、必ずしもすべてが酵素活性阻害能を持っているとは限らない。確かに、結合能は有するものの阻害能のない多くのRNAも得られた。一つ一つのクローンの阻害能を調べ、いくつかの阻害能を持つクローンが確認された。そのうち最も強い阻害を示すもの(RNA-1という)は、サチライシン活性を75%阻害した。Figure 3にその結果を示す。サチライシンは、塩基性タンパク質のため、酸であるRNAとはもともと若干の非特異的親和性があり、Figure 3に示すように0世代のランダムRNAや市販の酵母RNAでも若干の阻害が見られた。しかし、選択されたRNA-1は、明らかに有意な阻害能を示した(Figure 3)。従って、筆者らはここにRNAからなるサチライシン阻害剤を人工的に初めて創製したと言える。



Figure 3. Inhibitory effects of RNAs on subtilisin activity. Subtilisin was assayed using a chromogenic small peptide substrate. Selected, selected RNA-1. C, non-selected (random) RNA. Yeast, yeast RNAs.

4.単純に取ったアプタマーも分子を識別できる

       このRNA-1は、分子識別能力をもっていることも明らかになった。サチライシンと活性部位がよく似ており、同じセリンプロテアーゼに分類されるトリプシンとキモトリプシンに対してこのRNA-1はほとんど阻害効果を示さないことから(Figure 4)、RNA-1は、サチライシンだけを特異的に認識していると言える。選択の操作の中で、特異性を高める操作を特に加えたわけではないにも関わらず、このような特異性を獲得できることは、大変興味深い。一般にこの程度の特異性ならば、不要な結合能を排除するような特別な操作(counter SELEXと呼ばれる操作等)をしなくとも単純なSELEXで簡単に得られるものと思われる。この特異性から、RNA-1は、セリンプロテアーゼが共通にもつ活性部位(セリン-ヒスチジン-アスパラギン酸からなりcatalytic triadと言われる)に結合するわけではなく、サチライシンに特異的な部位(基質結合部位など)に結合し阻害しているものと推測された。このことは、酵素反応速度論的解析からも支持された。すなわち、Figure 5に示すようにRNA-1は、拮抗阻害剤であり(阻害定数Ki=2.5 μM)、基質結合部位への結合能を有し、基質の結合を阻害していると考えられる。サチライシンは、その立体構造が明らかになっており、基質結合部位は二つの壁に囲まれた溝になっている。その溝の片方の端にcatalytic triadが位置している。RNA-1は、基質が入るはずのこの溝を基質と奪い合いをすることで阻害していると推測される。Figure 6にRNA-1の塩基配列と推定二次構造を示す。詳しい説明は省略するが、いくつかの実験からFigure 6の塩基番号30から34(AACAC)の部分が基質結合部位に入り込むものと考えられている。


Figure 4. Effect of RNA-1 on proteolytic activities of various serine protease. RNA-1 (0-2.5 μM) was added to the reaction mixture for subtilisin, trypsin and chymotrypsin.


Figure 5. Lineweaver-Burk plot of subtilisin reaction with RNA-1 inhibitor. The inhibition was competitive.




Figure 6. Computer-generated secondary structure of RNA-1. Lower case letters show primer binding (known) sequences. Selected sequence was shown by upper case letters.

5.さらなるRNAワールドテクノロジーへ

     筆者らは、一種のモデルとして、サチライシンのRNAアプタマーの創製を行ったが、ここに得られたアプタマーも酵素の安定化剤やタンパク質分解のスイッチとして利用できる可能性がある。サチライシンは、タンパク質分解酵素であり自身もタンパク質であるため、溶液とした時お互いを食い合い自己分解してしまう。そのような溶液にこのRNA-1を加えれば酵素は安定に保たれると考えられる。酵素活性を発揮させたいときは、RNAを分解するリボヌクレアーゼを加えればサチライシン活性が復活すると考えられる。リボヌクレアーゼは、RNAアプタマーを分解後、活性回復したサチライシンによって分解されてしまうので、その後またサチライシンの活性を抑えたいときは再びRNAアプタマーを加えその阻害機能を発揮させることができるであろう。すなわち、以上のRNAアプタマー−リボヌクレアーゼ系は、反応のオン・オフを行える分子スイッチとして利用できる可能性がある。
     以上のことは、SELEXにより、生物にはない(厳密には、今のところ見いだされていない)新しい分子間相互作用(この場合サチライシン−RNA間相互作用)を創製でき、それがさらなるテクノロジーとして発展できることを示している。SELEXは、確かにバイオテクノロジーを超える技術として有効であることが期待される。ここで得られたRNAの新しい機能は、かつてRNAワールド時代にはそこここにあったRNAの機能かもしれない。生命誕生以降は、不要のものとなり捨て去られたが、今、このSELEXにより蘇ったのかもしれない。RNAワールド時代の遺物であるにせよ、そうでないにせよRNAの潜在的能力は大いに魅力的である。このような観点から、まだ手がかりはないがSELEXを超えるまったく新しいRNA創製法も未来技術として今後開発されることが期待される。

6.おわりに−再び「RNAワールド」あれこれ

     近年、現細胞内でタンパク質をコードしないRNA(ノンコーディングRNA)が遺伝子発現調節に大きな役割を果たしていることが明らかになってきた[10]。ヒトゲノムの98%ほどは、特に何もコードしていないと思われていたが、そのほとんどが転写されノンコーディングRNAとして遺伝子発現調節に関与しているらしいことが明らかにされつつある。この新しく明らかになったRNAが活躍する世界を研究者によっては「RNAワールド」と呼ぶ場合がある。このイノベイティブな世界をこう呼ぶのも悪くはないが、「RNAワールド」という言葉は、もともとは上述のように生命の起原に関係している言葉であることを意識していただきたいと筆者は考えている。もっとも、現在の細胞内のRNAに見いだされた様々な新機能は、生命の起原において様々な機能をもっていたであろうRNAの世界を彷彿とさせるようにも思える。RNAワールド時代の目ぼしい機能は、実は、ほとんど現細胞の中に取り入れられており、我々はそれをまだ解明できないでいるのかもしれない。生命の起原の「RNAワールド」と現細胞の「RNAワールド」との間に奇しくも共通性があるかもしれず、きちんと意味をわきまえて使いましょうという警告が、意味をなさなくなるのなら、RNA信奉者の筆者としては、これはこれでまたうれしいことではある。

文献

1. Cech, T. R., Zaug, P. J. and Grabowski, P. J. In vitro splicing of the ribosomal RNA precursor of tetrahymena: Involvement of a guanosine nucleotide in the excision of the intervening sequence, Cell 27, 487-496 (1981).
2. Gilbert, W. Origin of life: The RNA world, Nature 319, 618 (1986).
3. Crick, F. H. C. The origin of the genetic code, J. Mol. Biol. 38, 367-379 (1968).
4. Orgel L. E. Evolution of the genetic apparatus, J. Mol. Biol. 38, 381-393 (1968).
5. Ellington, A. D. and Szostak, J. W. In vitro selection of RNA molecules that bind specific ligands,
Nature 346, 818-822 (1990).
6. Tuerk, C. and Gold, L. Systematic evolution of ligands by exponential enrichment: RNA ligands to Bacteriophage T4 DNA polymerase, Science 249, 505-510 (1990).
7. Takeno, H., Yamamoto, S., Tanaka, T., Sakano, Y. and Kikuchi, Y. Selection of an RNA molecule that specifically inhibits the protease activity of subtilisin, J. Biochem. 125, 1115-1119 (1999).
8. Kraut, J. Subtilisin: X-ray structure. in The Enzyme (Boyer, P. D., ed.) Vol. 3, pp. 547-560, Academic Press, New York and London, 1971.
9. Markland, Jr., F. S. and Smith, E. L. Subtilisin: Primary structure, chemical and physical properties. in The Enzyme (Boyer, P. D., ed.) Vol. 3, pp. 561-608, Academic Press, New York and London, 1971.
10. Pang, K. C., Stephen S., Engström P. G., Tajul-Arifin, K., Chen, W., Wahlestedt, C., Lenhard, B., Hayashizaki, Y. and Mattick, J. S. RNAdb—a comprehensive mammalian noncoding RNA database, Nucleic Acids Res. 33, D125-D130 (2005)

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