Session 8 : COEVOLUTION OF EARTH AND LIFE
(地球と生命の共進化)

Eiichi Tajika, (School of Science, University of Tokyo,7-3-1 Hongo, Bunkyo-ku, Tokyo 113-0033 Japan)
Akihiko Yamagishi, (Department of Molecular Biology, Tokyo University of Pharmacy and Life Science, 1432-1 Horinouchi, Hachioji-shi, Tokyo 192-0392 Japan)

Abstract
The symposium "Coevolution of earth and life" held in 30th SSOEL-Japan meeting- ISOLAB'05 is reported. In the symposium, keynote lecture was provided by Prof. J. L. Kirschvink, who reported on the Paleoproterozoic snowball earth hypothesis. He explained the possibility that the climate disaster is triggered by the evolution of oxygenic photosynthesis. Prof. A. Yamagishi reported his recent experimental results of the last common ancestor of all the living organisms, which he named Commonote. His experimental results supported the hypothesis that the common ancestor was hyperthermophilic. Prof. S. Itoh reported the significance of the photosynthesis on the early evolution of life and earth. He proposed that the photosynthetic system has much more variation than recognized earlier. Prof. T. Hashimoto reported on his resent results of the analysis of 22 genes of eukaryotic species. He emphasized that the deep branching of three amitochondriate lineages, Microsporidia, Diplomonadida and Parabasalia are caused by the long-branch attraction, and is misleading. Prof. Y. Isozaki reported the mass extinction events in the Paleozoic. He explained the possible relation of mantle plume and Paleozoic-Mesozoic extinction. These reports illuminated the ever-increasing knowledge in each of earth science and life science, though there are still many unsettled controversial issues. However, every audience have noticed that these two fields of science can't proceed ignoring the other and that the clearer picture of early history of earth and life is now emerging by the concomitant progress of the two sciences.

Key words: Snowball earth, methane greenhouse, common ancestor, hyperthermophile, cyanobacteria, photosynthetic bacteria, amitochondriate, eukaryotes, mass extinction, Paleozoic-Mesozoic Boundary.
   地球史を通じて,地球環境と生命の進化は密接な関係にあった.生命の誕生もまた,当時の地球環境の強い影響下で生じた出来事のはずである.地球環境の変動は生物の活動やその生存に大きな影響を及ぼす.たとえば,環境の激変は生物の絶滅をもたらし,生物の絶滅は生物の進化と多様化を促進する要因であったとも考えられる.また,気候状態や酸化還元環境など,地球史を通じた環境条件の変化も,新しい環境への適応を通じて,生物進化の重要な要因であったと思われる.
   古生物学的な研究によれば,過去約5億4千万年間(顕生代)において生物の大量絶滅現象が5回生じ,そのつど生物種が大幅に入れ替わってきた.いまから約2億5千万年前のペルム紀と三畳紀の境界(P/T境界)では,顕生代史上最大の大量絶滅イベントが生じた.P/T境界においては,大規模火成活動によって地球環境の大変動が引き起こされた可能性が議論されている.このとき,三葉虫やフズリナ,四射サンゴなど,海棲生物種の(最大見積もりで)95%が絶滅したとされている.あるいは,いまから6500万年前の白亜紀と第三紀の境界(K/T境界)イベントでは,直径約10km程度の地球外天体が現在のメキシコ・ユカタン半島付近に衝突し,それによって引き起こされた地球環境変動によって,恐竜やアンモナイトを初めとする多くの生物種が絶滅したとされている(ただし,最もよく議論されているK/T境界においてさえ,生物の大量絶滅メカニズムそのものは,まだ必ずしもよく理解されているわけではない).
   一方,生命の進化が地球環境に影響を与えてきた可能性も議論されている.たとえば,メタン菌の活動によって,23億年前以前の地球大気中にはメタンが高濃度で存在し,その強い温室効果によって当時の地球が温暖な気候状態に維持されていた可能性が考えられている.そして,酸素発生型光合成生物(シアノバクテリア)の誕生によって,地球では本来安定に存在し得ないはずの酸素分子が大気の主成分になるという,驚くべき環境変化がもたらされた.これによって,地表付近の酸化還元環境は大きく変わり,物質循環はより複雑なものになった.また,シアノバクテリアの出現は,大気組成を変えるにとどまらず,大規模地球環境変動を引き起こした可能性も指摘されている.約23億年前まで大気の温室効果を担っていたメタンが,酸素濃度の増加とともに急激に酸化されたために,地球が全球凍結したのではないか,という可能性である.その後,いまから4〜5億年前の植物の陸上進出は,陸地を覆う土壌を安定化させ,地表鉱物の化学風化作用の効率化を通じて,地球の平均的な気候を寒冷化させたと考えられている.
   このように,地球と生命は互いに影響を及ぼしあって進化してきたのではないかという見方ができる.このような理解から,地球と生命の「共進化」という概念が提案され,その具体的な事例についての研究が行われている.本セッションでは,この「地球と生命の共進化」というテーマを取り上げ,地球史における地球環境変動と生命進化の関わりについての議論を行った.本セッションでは,1つの招待講演と4つの一般講演が行われた.以下では,それぞれの概略をごく簡単に紹介する.
   まずはじめに,カリフォルニア工科大学のJoeseph L. Kirschvink教授によって"The Paleoproterozoic snowball Earth: A climatic disaster triggered by the evolution of oxygenic photosynthesis"と題する招待講演が行われた.Kirschvink教授は,過去の地球が全球凍結を経験したという,いわゆるスノーボールアース(全球凍結)仮説の提唱者である.彼は約23億〜22億年前においても,全球凍結が生じたという古地磁気学的証拠を発見した.興味深いことに,南アフリカ共和国にみられるこの時代の氷河堆積物の直上には,地球史上最初のマンガン鉱床が形成されている.マンガンは酸化還元電位がきわめて高い元素であるため,マンガン鉱床の形成は当時酸素分子が確実に存在していたことを意味する.彼は,この時期に遺伝子の水平伝搬によって光化学系IとIIが結合し,最初の酸素発生型光合成生物であるシアノバクテリアが出現したことが,全球凍結の直接の引き金になったのではないかと考えている.前述のように,酸素分子の放出によって当時の温室効果を担っていたメタンが急激に酸化された結果,地球全体が凍結したのではないか,というのである.バクテリアの成長速度を考慮した簡単なモデル計算によれば,その時間スケールは100万年足らずだという.最古の真核生物と考えられる化石が,このすぐ後の時代の地層から発見されている.生物進化が破局的な地球環境変動を引き起こし,その後の地球環境を大きく変え,その結果,さらなる生物進化(真核生物の誕生)が促された,という壮大なストーリーが語られた.
   ついで東京薬科大学の山岸明彦教授が”Thermophiles and early evolution of life”というタイトルで講演を行った.現存する遺伝子の解析から現在地球上に生息している生物がどのように進化してきたかということはかなり明らかになってきている.とりわけ16SrRNA遺伝子の解析を元にした系統樹から,全生物の共通の祖先(山岸教授はこれをCommonoteと名付けている)から,生物はまず古細菌と真正細菌の二つに分岐した.その後,古細菌から真核生物が誕生した.全生物の共通の祖先に関しては超好熱菌であるという説が日本では広く知られているが,世界的にみるとこの説には多くの反論がでており必ずしも定説とはいえない.そこで,山岸教授は全生物の共通の祖先の持っていた遺伝子の配列を推定し,その配列を部分的に持つ蛋白質を作成して,その耐熱性を調べた.その実験結果は,全生物の共通の祖先が超好熱菌であるという説を支持するものであった.ただし,最後に全生物の共通の祖先と生命の起源(あるいは最初の生物)は区別して議論すべきであると付け加えた.
   次の名古屋大学の伊藤繁教授は”Evolution of photosyntehhsis on the planet earth”というタイトルで講演した.伊藤教授は太陽光のエネルギーを生命に供給し進化を支えてきた光合成の重要性を強調した.光エネルギーは,分子の中心にMgをもつ”クロロフィル”色素により変換され電子の流れに変換される.初期光合成はH2Sなどの硫黄化合物を電子源として使っていたが,やがてH2Oを電子源として酸素を出すシアノバクテリアが27億年前頃に生まれた.シアノバクテリアの発生した酸素は大気を変え,地球表層環境の大変革をもたらした.その後シアノバクテリアの大型細胞内への共生で植物がうまれ,生物は陸上に進出した.光合成系には大きな多様性がみられ,その進化,特に酸素発生の起源には謎が多い.伊藤氏は,従来知られていなかった「Mgではなく,Znを持つクロロフィルで光合成をする細菌」や,「新型の近赤外光で酸素をだすクロロフィルdをつかうシアノバクテリア」などの新型光合成系を発見した.講演では伊藤教授はこうした発見に基づき,光合成と生命の進化の道筋,多様性の意味を議論した.
   筑波大学の橋本哲男教授は“Early evoutuion of Eukaryota as inferred from the combined phylogeny of multiple molecular sequence data”というタイトルで講演を行った.真核生物は核を持つ大型の細胞からなる生物である.真核生物の細胞は古細菌と共通の祖先を持つ未知の生物にミトコンドリアが共生して誕生したと考えられている.しかし,真核生物の初期進化に関する定説はない.広く用いられている16SrRNA遺伝子に基づく系統樹では,ミトコンドリアを持たない3つの生物群(Microsporidia, Diplomonadida, Parabasalia)が真核生物の根本付近に固まっている.しかし,橋本氏は22 の遺伝子の詳細な解析をおこなった.その結果これらの遺伝子が真核生物の根本にくるのは,ミトコンドリアを持たない生物の進化速度が非常に速いことに起因する系統樹作成上の誤りであり,これらの生物群はむしろ二次的にミトコンドリアを消失したと指摘した. 最後に,東京大学の磯崎行雄教授が"Mass extinction events in the Phanerozoic"というタイトルで講演を行った.生物進化は,大局的には,単純で小さな生物から徐々に複雑で大型の生物へと進んできたと考えられるが,新しい分類群の出現は時間の流れに沿って順調に進んだわけではない.なぜならば,地球史を通じて強制的な環境激変と既存分類群の絶滅が起きてきたからである.前述のように,化石記録が豊富な顕生代を通じて,5回の大量絶滅イベントが知られている.顕生代でおきた大量絶滅イベントで最大規模のものが,いまから約2億5千万年前のP/T境界で生じた.こうした絶滅境界では,原因を問わず,絶滅時のグローバル環境ストレスを反映して,生物の個体サイズが矮小化する“Lilliput現象”が起きた,ということが紹介された.顕生代の絶滅研究は化石記録に基づいたものであるが,化石が残りにくい顕生代以前(先カンブリア時代)においても,同様の現象が観察されることが予想されると指摘した.
   こうした講演で,地球と生命の進化における関係に関する最近の研究成果が地球科学と生物学の両面から報告された.報告者は地球科学あるいは生物学の研究者であるが,その講演はどれも地球と生命という相互に密接な関係に踏み込む深い内容のものであった.最近の研究から地球と生命の深い関わり合いがより具体的な形で明かになってきている.しかし,地球科学と生物学のそれぞれの分野でも地球進化史初期の理解はほとんど進んでないといってよく,それぞれの分野内での解釈の相違が多く残されている.さらに二つの分野の結合はさらに多くの研究を必要としていることも明らかである.しかし,二つの分野の研究の進展によって少しずつ重なりあう部分ができ始めており,今後のより密接な情報交換の必要性を実感させるシンポジウムであった.


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