学会報告Workshop: "Alternative Evolutionary Theories in the 20th and 21st Centuries in the International and Interdisciplinary Perspective, Herzen State Pedagogical University of Russia, St.-Petersburg, June 3-4, 2004.
大阪府立大学大学院工学研究科 川村邦男

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はじめに

 2004年6月3〜4日に,ロシア,サンクトペテルブルグ市 で表記の国際会議が開催された.非ダーウィン進化論に関する研究集会であり本学会に関連があると思われるので,この場をおかりして紹介するとともに感じたことを述べさせていただきます. そもそもこの会議に参加したきっかけは,2000年にイタリアのモデナ市で開催された国際会議(Workshop on Life)に参加したことにはじまる.この会議で知り合ったロシア人生命科学哲学者のGeorge S. Levit博士に依頼されてこのたびの会議に参加した.すでに会議の内容に関係する研究論文を収録した単行本が発行され,Viva Origino(Vol. 31, No. 4, pp. 272, 2003)で紹介させていただいた.
 ドイツのJena大学では非ダーウィン進化論(反ダーウィニズムではない)に関する研究が組織的に進められており,Prof. Dr. Vasily Strelchenko (St. Petersburg), Dr. Sergey Polatayko (St. Petersburg), Dr. G. Levit (Jena), Dr. U. Hoァfeld (Jena)らによってサンクトペテルブルグ市でこの会議が行われた.このような研究が政府によって支援されることはドイツでも異例のことらしい.会議では非ダーウィン進化論に関する11件の講演があった.ダーウィンは偉人である.従ってその理論を批判したり問題点を吟味することには抵抗があり,この種の研究を進めていくためには既成勢力からの圧力に耐えなければならない.この点で欧米では日本の場合よりも強い障害がありそうなので,非ダーウィン進化論を熱心に議論する姿勢には印象づけられた.ダーウィン進化論の自然科学における重要性は述べるまでもないが,生命の起原を考えるときには化学進化と生物進化のつながりを説明しなければならないので,この種の議論は化学進化の研究者にとっても必要であると思う.またこのような分野に入るとき,私のような化学を背景とするものは勉強不足のため重大な間違いを起こす危険性もあるが,先入観がないので既存の進化論の体系にとらわれることなく自分の考えを形にするチャンスがあるように思われる.
 ドイツおよびロシアの科学者を中心とするこの会議の参加者が共有した問題点は,ダーウィン進化論において説明困難な部分をどのように科学的にとらえるべきかということだった.具体的には,ラマルク進化論,ホリズム,定向進化などの考え方はダーウィン進化論と対立するものではなく,むしろそれらが進化論を発展させてきたことに注目すべきであるし,そのような貢献自体が正しく評価されていない.この状況は日本での今西錦司の進化論に対する評価とも相通ずるところがある.また,これらの非ダーウィン的な進化論を観測結果と照らし合わせて,その科学的な位置付けを明確にする作業は簡単ではない.しかし,非ダーウィン進化論を確立するためにはこのような困難を乗り越えなければならない.これらの理論は「反」ではなく「非」ダーウィン進化論の立場であるので,進化論を今後も進歩・発展させることに貢献するだろう.例えば,このような非ダーウィン進化論の立場は,生命の起原を含む広い意味での生物世界の発展を研究するときには,とりわけ有効ではないだろうか.化学進化においては化学反応の特徴の方が自然選択による生物系の変形・改良効果よりも重要である.従って,遺伝情報がある系の中に保存される仕組みができつつあった“生命の起原へと発展する中間段階”でも,ある化学系が一足飛びにダーウィンの進化機構が働くような系へと移行したのではなく,自己組織化のような化学反応独特の制約による支配を受けながら移行したであろう.一方,人間の社会は非常に多様な文化を含むが,このような現象は「突然変異・自然選択」では説明しにくい.このような多彩な生命現象を包括して理解するために,非ダーウィン進化論はダーウィン進化論の不十分な点を補っていくものと期待される.
 このような研究を進めることになって最近では次のようなことを考えている.実験科学は理論の上に成り立っている.また理論の背景には思想や哲学がある.私の専門は実験化学であるが,どのような方向で生命の起原の研究を進めるべきかを考えるためには,自分なりの理論や仮説が必要である.そしてその背景として生命とは何かを感じ・理解することを含めた生命観を持たなければならない.自分の頭の中にある生命観を整理し,それを理論化し,さらにそれを検証する実験を組み立てることは,理想的な研究の進め方のように思われる.本会議に参加して,化学進化の研究を進めていくためには進化についてもっと勉強し,根本的なことについて考えるべきだと改めて思った.

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