Structural and Functional Whole-Cell Project of Thermus thermophilus HB8

Seiki Kuramitsu
Department of Biology, Graduate School of Science, Osaka University
1-1 Machikaneyama-cho Toyonaka, Osaka 560-0043, Japan
Tel: +81-6-6850-5433, FAX: +81-6-6850-5442;E-mail kuramitu@bio.sci.osaka-u.ac.jp
(Received 8 September 2004 Accepted 15 September 2004)

Abstract

    One of the long-range goals of structural and functional genomics is the interpretation of all fundamental biological phenomena at the atomic level. We expected to accomplish this by identifying the structure and function of all biological molecules making up the human body. However, Homo sapiens contains more than 30,000 proteins, and these proteins are rather unstable for structural and functional analyses. It is estimated that the minimum gene set essential for a free living organism is about 1,000. Microorganisms living in extreme environments often have approximately this number of genes. Therefore, in 1995 (Kuramitsu et al. (1995) Protein Eng. 8, 964-964; Yokoyama et al. (2000) Nature Struct. Biol. 7, 943-945; http://www.thermos.org), we proposed that one such organism should be selected and an attempt made to understand the mechanisms of all the biological phenomena occurring in it by investigating the componentsユ molecular functions at the atomic level on the basis of their three-dimensional structures. The organism had to be selected on the basis of two criteria: (a) the organism has a "gene manipulating system", and (b) it is "the most thermophilic" organism among organisms that meet criterion (a). These criteria led us to select the extreme thermophile Thermus thermophilusHB8, which is a Gram-negative eubacterium about 5 µm in length and capable of growing at 85°. We named the project "The Structural and Functional Whole-Cell Project for Thermus thermophilusHB8." This project is intended to be carried out in four steps: (1) structural genomics step; (2) functional genomics step; (3) detailed analysis step of each molecule; and (4) system biology step (simulation of whole biological phenomena). This "Structural and Functional Whole-Cell Project" represents the first step toward the "atomic biology" of the 21st century, following on the heels of the "molecular biology" that characterized the 20th century.

Key words: structural genomics, functional genomics, extreme thermophile, Thermus thermophilusHB8, system biology, atomic biology


高度好熱菌丸ごと一匹プロジェクト Structural and Functional Whole-Cell Project of Thermus thermophilus HB8

倉光成紀(大阪大学大学院理学研究科)

〒560-0043 大阪府 豊中市 待兼山町1-1
大阪大学 大学院 理学研究科 生物科学専攻
Tel.:06-6850-5433, FAX:06-6850-5442
E-mail kuramitu@bio.sci.osaka-u.ac.jp

はじめに

   あらゆる生物に共通で、基本的な、一つの細胞全体の全生命現象を、原子レベル(物理化学的レベル)で理解することを目指しているのが「高度好熱菌 丸ごと一匹 プロジェクト」(http://www.thermus.org)である。その目的に最も適したモデル生物として、(1) 遺伝子操作系が存在する生物の中で、(2) 最も高温で生息する、という2つの条件を満たす高度好熱菌Thermus thermophilus HB8 を選んだ。その理由は、(a) タンパク質の耐熱性が高く、立体構造解析や分子機能解析などにも適しているためと、(b) そのゲノムサイズは約2Mbpと小さいが、ヒトを含めたあらゆる生物に共通で基本的な生命現象がこれまでの進化の過程で "濃縮" されているので、全生物の基本的生命現象の解明にはもっとも適した生物であると考えたためである[1-4]。その最終目標を達成するまでに、研究は以下の4段階で進行すると考えている(Fig. 1)。
Fig. 1 高度好熱菌 丸ごと一匹プロジェクトの進行

研究段階の概要

(1) 第1段階 は、ゲノムワイドにタンパク質の立体構造解析を行うステップで、立体構造解析の理解に最低限必要な分子機能を解析も含む。
 そのためにまず、T. thermophilus HB8 のゲノム解析を行ったところ、そのゲノムサイズは約2Mbp で、約2200種類のタンパク質をコードしていた。コードされていたタンパク質については、本高度好熱菌がグラム陰性であるにもかかわらず、グラム陽性の生物種のタンパク質との相同性が高かった他、多くの生物種のタンパク質と広く相同性が認められた。これらの結果は、進化上、好熱菌が生命の起原により近くに位置するという説を支持するように思われる。
 ゲノム解析の結果をもとにして、現時点までに、タンパク質量産用のプラスミドを、1960種類(全体の89%)について作製し、タンパク質精製が完了したタンパク質は約800種類、結晶化まで進行したタンパク質は460種類、立体構造解析が完了したタンパク質は約180種類である。立体構造解析によって、機能未知タンパク質の機能が推定される場合も多い。
 この立体構造解析の段階は、多くの研究者の協力により、順調に進展しつつある(Fig. 2)[1]。
Fig. 2 系統的蛋白質立体構造解析の進行状況

(2) 第2段階 は、 ゲノムワイドにタンパク質の機能を解析するステップ である。この段階では、mRNAの発現(トランスクリプトーム)、タンパク質の発現(プロテオーム)、代謝生成物の増減(メタボローム)、分子間相互作用(インターラクトーム)、遺伝子破壊株や温度感受性株の表現型(フェノーム)などの解析データを系統的に収集する。遺伝子破壊株やトランスクリプトーム解析は、T. thermophilus HB8 の機能未知タンパク質の機能同定に際して、第1段階の立体構造解析とともに、威力を発揮している。(3) 第3段階 は、ゲノムワイドな研究が始まる遥か以前から、各研究者によって行われてきた メ各論的モ 分子機能解析 を含んでいる。この段階では、新規な分子・細胞機能解析法を開発しつつ、第4段階に必要な各論的データを系統的に収集することが必要となる。
 さらにこの第3段階では、タンパク質のみならず、すべての生体成分の物性を 研究者間で共通した一定の条件下で解析し、それら「どのような構造をした、どのような機能をもった」生体分子が「細胞内のどの場所に」「どれだけの分子数」存在するかなどを調べるとともに、それらの「時間依存性」をも調べる必要がある。
(4) 第4段階 は、第3段階までの膨大な情報を、グリッドコンピューターの技術なども駆使して統合し、細胞全体を原子レベルで理解するために、シミュレーション結果と比較しつつ研究を進めることになる(システム生物学)。そして、単なる説明ではなく、予測可能なシステム生物学を目指す ことになる。そのためには、例えば、高濃度で不均一な細胞内生体分子を理解するための学問領域のように、新たな学問基盤の確立も必要となってくる。そのような学問基盤は、ヒトを含めたあらゆる生物の研究にとっても不可欠であるとる。
 また、そのような研究過程を通して、ヒトを含めたあらゆる生物に共通で、基本的生命現象に関与する 機能未知タンパク質(遺伝子)数百種類の機能解明が期待される。

おわりに

 このようにして、高度好熱菌でシステム生物学の学問基盤が整備でき、シミュレーションが生命現象の単なる説明ではなく、生命現象を予測できる段階に達すれば、「我々人類は、生命現象を理解できた」と言える時代に一歩近くことになる。ヒトなどの場合には、さらに、組織レベル、個体レベルでの理解が必要となりますが、高度好熱菌研究を利用した学問基盤の整備によって、ヒトの病気の治療や予防なども大きく様変わりすると期待される。

 我々の「高度好熱菌 丸ごと一匹 プロジェクト」(http://www.thermos.org)では、上記の第1〜第2段階を行うとともに、第3、第4段階に携わる多くの研究者へ、種々のサンプルや情報等に関する支援も行っている。

引用文献:
[1] 倉光成紀、増井良治、中川紀子、生物学が変わる! ポストゲノム時代の原始生物学、大阪大学出版会、大阪、2004.
[2] Kuramitsu, S., Kawaguchi, S., and Hiramatsu,Y. Database of heat-stable proteins from Thermus thermophilus HB8, Protein Eng. 8, 964-964 (1995).
[3] 倉光成紀、河口真一、好熱菌丸ごと一匹プロジェクト、バイオサイエンスとインダストリー, 54,バイオインダストリー協会、東京,pp.644-646, 1996.
[4] Yokoyama, S., Hirota, H., Kigawa, T., Yabuki, T., Shirouzu, M., Terada, T., Ito, Y., Matsuo, Y., Kuroda, Y., Nishimura, Y., Kyogoku, Y., Miki, K., Masui, R., and Kuramitsu, S. Structural genomics projects in Japan, Nature Struct. Biol. 7, 943-945 (2000).

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