APPROACH TO PREBIOTIC SYNTHESIS OF RNA: NON-ENZYMATIC SYNTHESES OF RNA USING METAL ION OR CLAY MINERAL CATALYSTS

Hiroaki Sawai
Department of Applied Chemistry, Faculty of Engineering, Gunma University
Kiryu, Gunma 376-8515, Japan
Tel: +81-6-6850-5433, FAX: +81-6-6850-5442;
e-mail:sawai@chem.gunma-u.ac.jp
(Received 1 September 2004 Accepted 17 September 2004)

Abstract

    In the RNA world hypothesis of origin of life it is proposed that RNA could play the roles of information carrier and catalyst in an early life on primitive earth. RNA had to be formed during chemical evolution to realize the RNA world. In this article, I review approaches to the laboratory demonstration of prebiotic synthesis of RNA. Metal ion catalyst such as lead, zinc or uranyl ion works as a catalyst for polymerization of imizazole-activated mononucleotides in neutral aqueous solution or under eutechtic condition forming RNAs containing dimer to octadecamer. Montmorillonite clay also catlyzes the formation of RNA from the activated nucleotides forming the corresponding RNA with chain length from two to fourteen. Successive addition of the activated nucleotide to the montmorillonite catalyst resulted in chain-elongation of RNA as long as 50mer. The problem of the simulated model reactions of prebiotic synthesis of RNA will be also described.

(Key word) origin of life, RNA, RNA world, prebiotic synthesis, catalyst, metal ion, lead ion, zinc ion, uranyl ion, activated nucleotyide, imidazole, montmorillonite, polymerization


RNAの前生物的合成:金属イオン触媒あるいは粘土鉱物触媒を用いたRNAの 非酵素的合成

澤井宏明(群馬大学工学部応用化学科)

〒376-8515 群馬県桐生市天神町1-5-1
大阪大学 大学院 理学研究科 生物科学専攻
E-mail sawai@chem.gunma-u.ac.jp

1.はじめに

   核酸(DNA及びRNA)は生物の遺伝情報の保持、伝達、発現を担う生物にとって基本的な生体高分子である。生物が地球上で生まれるためには、まず核酸が前生物的に合成される事が必要不可欠である。核酸のうち、RNAが生命の起源の初期過程で生成し、情報伝達および触媒作用を担ったと言うRNAワールド説が広く受け入れられている [1, 2]。化学進化の過程で始めはRNAが非酵素的に生成し、たんぱく質からなる酵素が出現して初期の生物化学進化の過程で酵素的にRNA, DNAが合成されるようになったと考えられている。RNA及びDNAの構造式をFigure 1に示す。
Figure1. Structure of Nucleic Acid (DNA and RNA)

   RNAの前生物的合成を模したモデル実験として、1)オーゲル及び共同研究者が主として行ってきた、鋳型核酸を用いるRNA複製のモデル実験、2)筆者らが主として行ってきた金属イオン触媒を用いるRNA合成の実験、3)フェリスらが主として行ってきた粘土鉱物触媒を用いるRNA合成の実験がある。オーゲルらが行った、種々のタイプの鋳型核酸を用いるRNA合成の実験はRNAの複製が非酵素的に進行し得ることを実験的に示したものとしてこの分野の研究に大きく寄与した。しかし、それでは鋳型となる核酸はどうして出来たのであろうかという疑問が出てくる。本論文では鋳型となる核酸(RNA)あるいは酵素を用いないオリゴRNAの前生物的合成のモデル実験について概説する。始めに、我々が行ってきた金属イオン触媒を用いるRNA合成の実験について述べる。次いで、粘土鉱物触媒を用いた例について簡単に紹介する。最後に、RNAの前生物的合成についての問題点、及び今後の課題について述べる。
    生物系において、核酸は核酸合成酵素ポリメラーゼによって触媒され合成されていく。Figure 2にDNAポリメラーゼによるDNA合成の提唱されたメカニズムを示す [3]。DNAの伸長反応はプライマーの3’−末端のOHと導入してきた基質のヌクレオシド-5‘−三隣酸のα-位のりん酸が反応し、ピロリン酸が脱離基として作用して結合を形成して進行する。鋳型DNAは導入して来るヌクレオシド−5’−三りん酸をワトソン・クリック相補的塩基対結合で規制する。この結合形成の反応過程でMg2+, Mn2+あるいはZn2+などの金属イオンが触媒として作用する [3, 4]。RNAも同様に金属イオンを含むRNAポリメラーゼにより触媒され、金属イオンが結合形成に重要な役割を果たしている [5]。

Figure 2. Hypothetical mechanism of DNA synthesis by DNA-polymerase. Two divalent metal ions in the enzyme organize the substrate and catalyze the chain-elongation.

    生物系では核酸合成で用いられる基質はヌクレオシド-5'-三りん酸である。そこで、非酵素的なRNA合成反応でも、代表的なヌクレオシド-5'-3りん酸であるATPが基質として作用するかどうかを試みた。しかし、酵素が無い反応系では、ヌクレオシド-5'-三りん酸のピロリン酸結合が加水分解するのみで、重合反応は全く起こらなかった。そこで、非酵素的なRNA合成反応ではイミダゾールで活性化されたヌクレオチドであるヌクレオシド-5'-リン酸イミダゾリドを基質に用いることとした。この場合、イミダゾールがピロリン酸の代わりに脱離基として作用する事になる。なお、RNAの前生物的合成のモデル反応は多くの研究グループでなされているが、大部分がヌクレオシド-5'-リン酸イミダゾリドを基質として用いている。ヌクレオシド-5'-リン酸イミダゾリドの前生物的合成の可能性を示すモデル実験がLohrmannらにより報告されている [6]。例えば、アデノシン、尿素、マグネシウムイオンを含む水溶液を乾固加熱するとATPあるいはADPが生成する。さらに、ATPあるいはADP、イミダゾール、マグネシウムイオン及びを含む水溶液を蒸発乾固した後、加熱するとアデノシン-5'-リン酸イミダゾリド(ImpA)が生成する。しかし、前生物的なRNA合成の原料として考えると、収率あるいは安定性の点で問題があろう。
    ImpAはFigure 3に示すように、金属イオン触媒、粘土触媒あるいは鋳型poly(U)存在下で重合し、オリゴアデニル酸を生成する。

Figure 3. Plausible prebiotic formation and polymerization of ImpA. Metal ion catalyst, clay mineral catlyst or template nucleic acid promotes the polymerization yielding oligoRNA.

2.金属イオン触媒によるオリゴRNA合成反応

    筆者は以前、ポリメラーゼによる核酸合成反応における金属イオンの触媒としての役割に着目して、金属イオンのみでも核酸の非酵素的合成の触媒として作用しないかと考えて中性水溶液中でのImpAの重合反応を試みた。その結果、鉛イオン、亜鉛イオンあるいはコバルトイオンを触媒に用いると、ImpAの縮重合反応が進行し、オリゴアデニル酸が生成することを認めた [7, 8]。Figure 4にImpAからのオリゴアデニル酸生成反応の過程を示す。ImpAの2'- あるいは3'-OHが近接したImpAのリン酸イミダゾリドと反応してりん酸ジエステル結合を形成し、2量体が生成する。さらにリン酸ジエステル結合の形成が進むと、鎖長が順次延びたオリゴアデニル酸が生成することになる。金属イオン触媒が無い場合、ImpAのリン酸イミダゾリド結合の加水分解が進行する。中性水溶液中で、5量体までのオリゴマーが生成した。生成したオリゴアデニル酸のヌクレオチド間結合は主として非天然型の2‘−5’結合であった。他のヌクレオシド-5'-ホスホイミダゾリド(ImpU, ImpC, ImpG及びImpI)を用いた場合も、金属イオン触媒により同様のオリゴヌクレオチド生成反応が起こる事が認められた。鉛イオン触媒を用いた場合、いずれのヌクレオシド-5'-ホスホイミダゾリドを用いた場合でも、5量体までのオリゴヌクレオチドが40-50%の収率で得られた [9-11]。金属イオンは2分子のImpNを配位し、反応点の水酸基とリン酸部を近接させることによりヌクレオチド間結合の形成を促進するとともに、反応の位置選択性を制御すると考えられる。配位による水酸基の活性化とリン酸イミダゾリドのリン酸部のチャージの中和もまた結合形成を促進すると思われる。ある種の金属イオンはImpNの重合反応を触媒し、酵素ポリメラーゼ中の金属イオンが核酸の結合形成に果たすのと同様な役割を果たしている。

Figure 4. Oligomerization of nucleoside-5'-phosphorimidazolide. Divalent metal ion such as lead, zinc or uranyl ion works as a catalst. 2'-5' internucleotide linkage is preferentially formed against 3'-5'linkage in the internucleotide-bond formation.
(Reproduced by permission from the Chemical Society of Japan.)

    この金属イオン触媒によるオリゴヌクレオチド合成反応は、RNA系のリボヌクレオチドにおいてのみ特異的に進行する。例えば、Figure 5にあるような種々のヌクレオシド-5'-リン酸イミダゾリドを用いて、鉛イオン触媒、あるいは亜鉛イオン触媒で重合反応を行ったところ、何れの場合も得られたのは2量体がごくわずかで、大部分は単純にリン酸イミダゾリド結合が加水分解したのみであった [11]。核酸の前生物的合成のモデル反応で、RNA系が他のDNA系などと比べて、特に伸長反応が起こりやすいと言う事実はRNAワールド説を支持する結果とも言える。

Figure 5. ImpA and analogues containing modified ribose. A, ImpA; B,Imp(2'-dA), C, Imp(3'-dA); D, Imp(araA); E, Imp(aristeromycin); F, Imp(neplanocin)

    25年以上前に、江上は原始地球上の原始海水中に多く含まれる遷移金属イオンが前生物的合成反応の触媒として用いられ、化学進化の過程で含金属ム酵素として取り込まれて行き、現在のような金属イオン依存の酵素に至ったと言う考えを提唱した [12]。マグネシウム、鉄、亜鉛、モリブデン、マンガン、銅などの金属イオンは海水中に比較的多く存在し、すべての生物にとって必須の金属イオンである。コバルトやニッケルイオンはある種の生物のみに必要である。ウラニルイオンは海水中にはコバルトイオンなどより多く存在するが、生物にとっては不必要で毒性を示す。金属イオンはヌクレオチドとその核酸塩基部、リン酸部、リボースの水酸基で配位し得る [13]。アルカリ金属、アルカリ土類金属などのハードな金属イオンはヌクレオチドのリン酸部に配位する。一方、銀イオンや水銀イオンなどのソフトな金属イオンは核酸塩基部に配位する。中間的な性質を示す遷移金属イオンはリン酸部と核酸塩基部の両方に配位する傾向にある。ウラニルイオンはヌクレオチドのリン酸部とリボース水酸基に配位し、しかも多量体構造を形成するという特異な配位構造をとる。そこで、我々はウラニルイオンがImpNの重合反応の触媒としての作用を研究した [14]。Figure 6に中性水溶液中でのウラニルイオンを触媒とするオリゴアデニル酸生成反応の生成物のHPLCによる分析結果を示す。 室温、一日の反応で2量体から16量体までのオリゴマーの生成が認められた。主要なピークは2'-5' 結合を持ったオリゴマーであり、天然型の3'-5'結合を持ったオリゴマーの生成がサイドピークとしてして認められる。Figure 6(B)に示すようにウラニルイオン触媒量が10 ̲Mの場合、得られたオリゴマーの鎖長は5程度と減少する。1 ̲Mの触媒量でも弱いながら重合活性を示した。ImpNの重合反応にはpH 7.5の水溶液が最適であった。

Figure 6. HPLC profiles of polymerization products from ImpA by uranyl ion catalyst. Polymerization of ImpA (0.05 M) was conducted at room temperature for 1day in neutral aqueous solution in the presence of 1 mM (A) or 0.01 mM (B) uranyl-ion catalyst. (Reproduced by permission from the Chemical Society of Japan.)

    RNAはすべて、β-リボフラノシルヌクレオシドから成り立っている。しかし、化学構造上はa-リボフラノシルヌクレオシドも存在する (Figure 7)。ヌクレオシドの前生物的合成のモデル実験でも、α-アノマーと β-アノマーのヌクレオシドがほぼ等量生成することが報告されている [15]。そこで、我々はウラニルイオン触媒によるa-アノマーのImpAの重合反応を行い、天然型の β-アノマーの場合と比較検討した。最適条件でa-ImpAから6量体までのオリゴマーの生成が認められた [16]。しかし、a-ImpAから得られたオリゴマーの収率及び鎖長は βImpAの場合と比べて同一条件下で非常に低かった。a-ImpAの場合、核酸塩基部が反応する水酸基と同一方向にあるため、ヌクレオチド間結合形成反応に際して立体障害となり、反応が抑制されると考えられる。そこで、ヌクレオシドレベルでの前生物的合成のモデル実験では両アノマーとも同様に生成するのに対し、RNA鎖伸長の重合反応過程では βアノマーが有利となり選択されたと思われる。


Figure 7. Oligomerization of α-ImpA (A) and linkage isomers of oligoriboncleotide (B).

    我々はさらに、金属イオン触媒による重合反応に対するImpAのキラリティーの影響を調べるため、D-ImpA、L-ImpA及びラセミ体のDL-ImpAの重合反応を鉛イオン触媒、及びウラニルイオン触媒を用いて検討した [17]。鉛イオン触媒を用いたD-ImpA, L-ImpA及び DL-ImpAの重合反応の生成物のHPLCによる分析結果をFigure 8に示す。DL-ImpAから得られたオリゴアデニル酸は立体異性体の混合物であるが、D-ImpAあるいはL-ImpAから得られたオリゴアデニル酸の場合と比べ、収率及び鎖長はほぼ同じであった。DL-ImpAから得られた生成物のうち、2量体の立体異性体の割合を調べたところ、2'-5'結合を持ったDD-, LL-2量体が40%、DL-, LD-2量体が38%、3'-5'結合を持ったDD-, LL-2量体が5%、DL-, LD-2量体が8%であった。全体として、ホモキラルなDD-及びLL-体とヘテロキラルなDL-, LD-体の割合は54:46で、ややホモキラルな2量体の生成が優先していた。一方ウラニルイオン触媒を用いた場合、D-ImpAからは2‘−5’結合のオリゴアデニル酸が選択的に生成するのに対し、DL-ImpAからは多くの立体異性体の混合物であるオリゴマーが得られた。ウラニルイオン触媒を用いた場合,DL-ImpAから得られた2量体で、ホモキラルなDD-及びLL-体とヘテロキラルなDL-, LD-体の割合は65:35でやはり、ホモキラルな2量体の生成が優先していた。すなわち、金属イオン触媒による重合反応では、ホモキラルなオリゴマーが優先的に生成することが認められた。
    最近、モナードらはイミダゾールで活性化されたヌクレオチドの金属イオン触媒による重合反応を凍結した状態で行うと、得られるオリゴRNAの収率、及び鎖長が大きく向上することを報告した [18]。例えば、5 mMのImpUを5.2 mM のMg(II)イオン及び 0.6 mMの Pb(II)イオン触媒存在下、pH 6.6 - 6.9の水溶液とし、-18 °で凍結し27−38日間反応を行うと、2量体から20量体までのオリゴウリジル酸が全収率88%で得られた。この場合、生成したオリゴウリジル酸のヌクレオチド間結合を調べた結果、天然型の3'-5'結合を少なくとも一カ所を持つ割合は30%であった。前述の水溶液中での金属イオン触媒による反応で得られるオリゴマーでは3'-5'結合の割合は10%以下で大部分が非天然型の2'-5'結合であった。凍結状態での反応では形成するヌクレオチド間結合の選択性も大きく異なってくる事は興味深い。さらに、4種のImpA, ImpU, ImpC及びImpGの混合物を用いて、ImpU単独の場合と同様にMg(II)イオン及びPb(II)イオン触媒存在下、-18 °で凍結し、27−38日間反応をすると、U, A, C及びGが取り込まれた17量体までの混合配列のオリゴRNAが全収率86%で得られた。混合物の活性化ヌクレオチドを用いた場合も、得られたオリゴRNAは少なくとも1カ所3'-5'結合を持つ割合は40−47%であった。凍結状態の反応では、出発原料のモノマー及び触媒の金属イオンの濃度が低くても、凍結過程でモノマー及び触媒の濃縮が起こるため、ヌクレオチド間結合形成反応が促進される。一方、低温で凍結状態であるため、モノマーのリン酸イミダゾリド結合の単純な加水分解反応は抑えられる。このような凍結状態は原始地球上で広く存在し、RNAの前生物的合成に関与した可能性がある。季節により、凍結と融解さらに乾固を繰り返す過程でRNAの鎖長伸長反応が進行していき、鎖長が長くなった混合配列のRNAを基に、機能を持ったRNAが自然選択により生成して行ったとも考えられる。

3.粘土鉱物触媒によるオリゴRNAの合成反応

粘土鉱物は種々のタイプが地球上に広く分布するし、原始地球上でも多く存在したと考えられる。粘土鉱物は特定の構造をとっており、前生物的合成の過程でも触媒として作用して、生物構成有機化合物の生成に寄与したと考えられてきた [19]。粘土鉱物そのものが最初の生命の起源に直接関与したと言う仮説も立てられて来た [20]。しかし、粘土鉱物が生物有機化合物の生成に直接関与したと言う実験例はほとんど知られていなかった。ところが、フェリス及び共同研究者は1990年代前半に、RNAの前生物的合成反応のモデル反応として粘土鉱物であるモンモリロナイトを触媒に用いると、ImpNが重合してオリゴRNAを生成することを見出した [21]。その後、彼らにより粘土鉱物触媒によるオリゴRNA合成反応について一連の研究がなされた。ここでは、その主要な研究について簡単に紹介する。
    ImpAをMgCl2及び NaCl を含むpH 8.0の水溶液に溶解し、Na+-モンモリロナイト存在下、室温で3日間反応すると、10量体までのオリゴアデニル酸が全収率61%で得られた。この場合、生成するオリゴアデニル酸のヌクレオチド間結合は3'-5' が主であり、3量体では85%が3'-5'結合を持っていた [21, 22]。さらに,モノマーのImpAを連続して、この反応液に加えて行くと、RNAの鎖伸長反応が粘土鉱物の表面上で次々と進行するため、55量体までのRNAが得られた [23]。生物の遺伝情報伝達、発現あるいは触媒としての機能を持ちうるRNAは少なくとも30−60の鎖長が必要であると考えられるので、50量体のRNAが前生物的合成のモデル実験で得られた事は特筆すべき事である。ImpA以外のImpU, ImpC, ImpGあるいはこれらの混合物でも、粘土鉱物のモンモリロナイトを触媒とする重合反応は進行し、対応する10量体程度までのオリゴRNAが得られている。また、ラセミ体のDL-ImpAを用いて、モンモリロナイト触媒を用いて重合反応を行うと、生成するオリゴマーの鎖長は若干短くなるものの収率良くオリゴマーが得られた [24, 25]。しかし、得られるオリゴマーは多くの立体異性体の混合物である。しかし、DL-ImpAから生成した2量体の立体異性体の割合を調べると、ホモキラルなDD- 及びLL-2量体がヘテロキラルなDL- 及びLD-2量体よりも1.5倍多く生成していることが認められ、ホモキラルなオリゴマーが優先的に生成することが解った [24]。モンモリロナイトは層状構造を持つ粘土鉱物でイオン交換作用を持つ。 モノマーのImpNがモンモリロナイトの表面に並んで吸着するため、重合反応が進行していくと考えられている。

4.RNAの前生物的合成 - 問題点と今後の課題

RNAが触媒作用を持つことが発見された後、生命の起源の過程でRNAが重要な役割を果たしたと言うRNAワールド説が提唱されてから15年以上経た [1]。RNAの前生物的合成に関して多くのモデル実験がなされてきたが、これらのモデル実験は余りにも理想的な条件で行われてきたので問題点が多い。まず、構成成分であるD-リボースが前生物的にどう合成されたか未解決である。リボースはホルムアルデヒドの縮合反応で生成する。しかし、ホルムアルデヒドの縮合反応では多くの糖類が生成し、そのうちリボースの生成量はごくわずかでありしかもラセミ体である。また、リボースは不安定で分解していく。 最近、ベナーらは硼酸系の鉱物がグリコールアルデヒドとホルムアルデヒドの縮合反応を促進し、リボースなどの5単糖を生成するとともに、得られたリボースが硼酸エステルを形成することにより安定化されることを報告した [26]。このような、硼酸系鉱物がリボースの前生物的合成に関与した可能性があるが、これでも確定的なものとは言えない。
    次のヌクレオシドの前生物的合成の過程も問題である。リボースと核酸塩基を種々の金属イオンが含まれている海水溶液に溶解した後、加熱乾固するとヌクレオシドが得られることがオーゲルらにより報告されているが、収率は低くしかも、αアノマーとβアノマーの混合物であった [15]。また、ピリミヂン系の核酸塩基ではこのヌクレオシド生成反応は起こらない。また、ヌクレオシドも不安定な化合物であり、RNAワールドを形成するのに充分な量蓄積することが可能であったかと言う問題がある。
    また、前述のようにImpAの前生物的合成のモデル実験が報告されているが、その収率が低い点及び生成したImpAのリン酸イミダゾリド結合が非常に不安定で加水分解しやすい点を考えると、果たしてヌクレオシド-5'-ホスホイミダゾリド (ImpN) が前生物的なRNA合成に用いられるのは不可能ではないかという疑問がでてくる。しかし、今のところ、オリゴRNAの前生物的合成生成のモデル実験でモノマーとして有効に作用するのはこれ以外無い。
    前生物的合成の観点からすると、RNAの生成は非常に難しい事が解る。そこで、RNAワールドに先立つプレRNAワールドがあり、PNAのようなより簡単な物質がまず生成しRNAの役割を果たしたという説が出てきた [27]。しかし、これらの物質は有機化学的にいくつか合成されているが、前生物的な合成を模したモデル実験での合成はなされていない。RNAワールド説の見直しは必要かも知れない。さらに、RNA前生物的合成について新たな実験的な展開が望まれる。

引用文献

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