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GENERATIVE GRAMMAR AND SCIENTIFIC REVOLUTION |
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Masanobu Ueda |
(Abstract)According to Chomsky (2000), the "mental" or "linguistic" aspect of the world can be investigated in the same way as any other aspects of the world, such as "electrical" or "chemical," which have been investigated in natural sciences. In this sense, generative grammar conducts the same type of rational, empirical inquiry as in any branch of natural sciences; it "seeks to construct intelligible explanatory theories, with the hope of eventual integration of the ヤcoreユ natural sciences." Chomsky refers to this thesis as "the methodological naturalism." However, Chomsky does not specifically show to what extent generative grammar shares methodological characteristics with natural sciences. The purpose of this paper is to show that generative grammar has the crucial methodological characteristics of modern science (more specifically, modern physics), which was founded in the Scientific Revolution of the 17th century Europe and has been developed into presentミday natural sciences.Key words: generative grammar, Scientific Revolution, methodological naturalism, cognitive revolution, idealization, deductive expalantion, experiment, computation, representation |
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生成文法と科学革命 上田 雅信 |
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チョムスキーは、言語は自然の一部であり、「精神的な」あるいは「言語的な」世界の側面と、たとえば、「化学的」あるいは「光学的」と呼ばれる世界の側面との間に本質的な違いはないと考える。したがって、言語は自然科学の研究対象となりうるものであり、「言語的な」側面を研究対象とする「生成文法(generative grammar)」と「化学的な」あるいは「光学的な」側面を研究対象とする化学や光学などの自然科学の分野とを質的に異なるものとして区別すべきではないと主張する。チョムスキーにとって、生成文法は、「自然科学の中核との最終的な統合を期待しながら、合理的な説明理論を構築する」ことを目的とする他の自然科学の分野と同様の合理的で経験的な研究なのである。チョムスキーは、この立場を「方法論的自然主義 (methodological naturalism)」と呼ぶ。[1] ところで、自然科学は、17世紀のヨーロッパで起こった科学革命(Scientific Revolution)において誕生した近代科学(modern science)―特に近代物理学―をその源としている。一方、生成文法は、「認知革命 (cognitive revolution)」と呼ばれる1950年代半ばに人間の行動の研究で起こった研究パラダイムの転換の一部として誕生したものである。Chomsky (2000:5)は、認知革命は、17世紀の科学革命の一部として17-18世紀に起こった「最初の認知革命」を新しい概念を導入することによって再形成したものであると説明している。[2] この意味では、認知革命は人間の行動の研究における「科学革命」に相当するパラダイムの転換として理解することができる。 しかしながら、チョムスキーは生成文法の方法と17世紀の科学革命で形成された近代科学の方法との共通性について詳しく論じてはいない。そこでこの論文では、17世紀の科学革命で形成された近代科学(近代物理学)と生成文法とを比較することによって、生成文法が近代科学(近代物理学)と本質的に同じ自然観と方法論的特徴を持つ言語研究であることを示し、生成文法が言語研究で起こった「科学革命」に相当するパラダイムの転換によって形成されたことを主張する。 この論文の構成は次のようなものである。まず2節で17世紀の科学革命において形成された近代科学(近代物理学)の自然観と方法論的特徴について説明する。次に3節で生成文法が近代科学(近代物理学)の自然観と方法論に対応する特徴を持つことを論じる。最後に4節で、3節の主張に基づいて生成文法と自然科学との統合に関わる問題について簡単に論じる。 2. 科学革命と近代科学科学革命というのは、17世紀のヨーロッパにおいてガリレオ(Galileo)、デカルト(Descartes)、ニュートン(Newton)が、アリストテレス(Aristotle)の自然学を意識的に解体して、アリストテレスの自然観と方法にかわる自然観と方法を用いて自然研究の新しい概念的枠組みを形成したことを言う。この結果、天体および地上の物体の運動を対象とした動力学においてはじめて近代科学(近代物理学)の枠組みが形成されたのである。では、この近代科学の自然観と方法論的特徴とはどのようなものであったのだろうか。この節では主として小林(1996)に基づいて近代物理学をモデルとした近代科学の自然観と方法論的特徴を説明する。[3]2.1. 自然観
自然観というのは、何が世界を構成する基本的な実在かということについての考え方のことである。では、アリストテレスの自然学から近代科学への変化の要因となった自然観の転換とはどのようなものであったのだろうか。小林(1996)に従って、アリストテレスの自然観とガリレオやデカルトの自然観の違いを見てみよう。
3. 生成文法の自然観と方法論的特徴まず、科学革命と本質的に同じ自然観と方法論の変化は、17世紀の科学革命以後、世界の他の側面の研究においても起こったことを確認しておこう。たとえば、Butterfield(1957)は、化学では、物理学より遅れて18世紀に科学革命が起こったことを論じている。[4] 生物学では、演繹的に生物種の進化を説明する進化論や理想化や理論を前提とした観察あるいは実験を行い、形質の遺伝を「要素」という直接知覚できない概念に基づく法則によって演繹的に説明する古典的遺伝学は、19世紀半ばを過ぎてから現われた。これらは近代科学と本質的に同じ自然観と方法論的特徴を持つ生物学の研究であった。[5] ,[6] 動物の行動のような、形質とは異なる生物の特質を対象とする研究においては、近代科学の枠組みが形成されるのはさらに遅れる。動物行動学あるいはエソロジー(ethology)とよばれる近代科学の枠組みでの動物行動の研究は、1930年代に始まり、1973年にコンラート・ロレンツ(Konrad Lorenz), ニコ・ティンバーゲン(Niko Tinbergen), カール・フォン・フリッシュ(Karl von Frisch)の3人がノーベル賞(生理学・医学賞)を受賞した時に、自然科学の分野として公式に認知されたと一般に理解されている。[7], [8]17世紀の科学革命において最初に物理学で起こった自然観と方法論の変化がどうして他の分野では上に述べたような順序で、遅れて起こったのかというのは面白い問題である。しかしここでは、この問題に立ち入ることをしないで、このような科学革命に相当するパラダイム転換の一つとして生成文法が誕生したと考えられるということのみを指摘するにとどめる。すなわち、第1節で述べた1950年代半ばの人間の行動に関する研究における「認知革命」とその要因の一つとなった生成文法の出現は、[9] 科学革命と同じ研究パラダイムの転換によって起こったものであると考えられるのである。 以下では、生成文法の出現は、言語研究という人間の行動の研究で起こった、いわば「遅れた科学革命」であったことを示し、この意味でChomskyの「方法論的自然主義」の立場が支持されることを主張する。 3.1. 言語観
Chomsky (1986)は、1950年代半ばの「認知革命」で行動の研究に起こった変化は、研究対象が「行動」或いは「行動の産物」から「行動の内的機構」へと転換したことであると述べている。これに対応して、言語研究においては、研究対象が「言語行動」あるいは、その結果として産出された「発話」から発話を生み出す時に働いている脳の中に内在化された機構へと変化した。チョムスキーの術語を用いると、言語の概念が、いわゆる「外在言語(externalized language)」から「内在言語(internalized language)」へと転換することによって生成文法が形成されたのである。外在言語(E-言語)というのは、言語行動によって産出された発話の集合としての言語の概念である。一方、内在言語(I-言語)というのは個別言語の母語話者の脳の中にあり、発話を産出する内部の機構の一部となっている、言語に特化された「認知システム(cognitive system)」のことであり、「言語知識(Knowledge of Language)」とも呼ばれるものである。[10] 3.2. 方法論
2節で近代科学は次の4つの方法論的特徴を持つことを説明した。すなわち、1)理想化、2)数量化による数学的な普遍的構造に関わる性質の抽出、3)理論仮説からの演繹的説明、4)理論を前提とした実験・観察の4つである。この節では、生成文法は、この4つの方法論的特徴に相当する特徴をすべて備えていることを示す。 |
| (1) | The man hit the ball. |
| (2) | a. 英語の単語が(1)のような順序で並んだ連鎖は,英語の文法的な文である。 |
| b. the は定冠詞,manとballは名詞,hitは動詞というように,単語はそれぞれ異なる統語範疇に属する。 | |
| c. the manは句を作り,the ballもそれと同じ種類の句を作る。 | |
| d. hit とthe ballは句を作る。 | |
| e. the man とhit the ballとは,文を形成する。 | |
| (3) | [S [NP [T the] [N man] ] [VP[Vhit [NP [T the] [N ball]]] |
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母語話者は,もちろん,定冠詞,名詞,動詞,句,文などという概念を意識的に知っているわけではないが, (1)について、これらの概念を用いて(2)のように表現することができる直観を持っている。言語学者は,この母語話者の直観をT(定冠詞),N(名詞),V(動詞),NP(名詞句),VP(動詞句),S(文)などの範疇記号を用いて表現し,(1)に(3)のような表示を与えるのである。これは文についての最も基本的な経験法則であると考えることができる。 第三に、チョムスキーは、生成文法の最初の研究であるChomsky (1975)(1955年に完成され、その一部を改訂して出版したもの)で、言語知識の理論としての「文法(grammar)」が言語現象を演繹的に説明する科学理論であることを明確に主張した。 チョムスキーによれば、「どのような興味深い科学理論も、仮説的な概念に基づいて一般法則を定式化し、観察可能な出来事がその法則の帰結として生じることを証明することによって観察可能な出来事を関係づけようとする」ものなのであり、生成文法の理論は、まさにそのような科学理論なのである。[15] たとえば、Chomsky(1957)で示された初期理論の一部を構成するものとして句構造規則(phrase structure rules)と呼ばれる規則があった。この規則は文の統語構造に関する理論仮説の一部を構成するものである。 句構造規則は,「XをYとして書き換えよ(Rewrite X as Y)」という形式を持つ書き換え規則(rewrite rule)である。この規則は,初期記号 Sentenceが与えられると,それを機械的に書き換え,文とその構造についての母語話者の直観(これは「構造記述(structural description)」と呼ばれる)を「生成する(generate)」ものである。句構造規則による文生成の過程(これは「派生(derivation)」と呼ばれる)は、物理学において理論仮説から数学的推論によって経験法則を演繹的に導出する過程に対応するものなのである。チョムスキー(Chomsky 1957: 26-27)が提示した英語の文法の句構造規則(4)が(1)の文をその構造記述とともにどのように生成するかを見てみよう。 |
| (4) | (i) | Sentence → NP + VP |
| (ii) | NP → T + N | |
| (iii) | VP → Verb +NP | |
| (iv) | T → the | |
| (v) | N → man, ball, etc. | |
| (vi) | Verb → hit, took, etc. |
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(4)は,「矢印の左側の記号を右側の記号(の連鎖)に書き換えよ」という指示と理解される。たとえば,(i)は,SentenceをNP VPという連鎖に書き換えよと解釈される。(4)の規則の適用の結果,(5)に示した派生の過程を経て、記号が次々と機械的に書き換えられて,最後は英語の語彙に至る。そうすると,もうそれ以上記号が書き換えられなくなる。hitやmanのような英語の語彙は,終端記号(terminal symbol)と呼ばれ,NP,T,VPのような記号は非終端記号(nonterminal symbol)と呼ばれる。 |
| (5) Sentence | |
| NP+ VP | (i) |
| T+N VP | (ii) |
| T N Verb NP | (iii) |
| the N Verb NP | (iv) |
| the man Verb NP | (v) |
| the man hit NP | (vi) |
| the man hit T N | (ii) |
| the man hit the N | (iv) |
| the man hit the ball | (v) |
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記号を書き換えて,(5)の一番下の行のような英語の語彙のみで構成された終端記号連鎖に至るこの派生の過程は,文法的な文の構造についての母語話者の直観(の一部)を初期記号からの派生として演繹的に導出するものである。しかし,上で説明したように、生成文法の理論は、運用システムを捨象するという理想化に基づくものであるので、派生は話者が脳の中で実際に文を産出する過程を説明するものではないことに注意する必要がある。 (5)の派生は,終端記号の連鎖と同時に(6)のような句構造標識(Phrase-marker)として表わすことのできる文の表示を与える。
(6)
(6)は文の構造に関わる母語話者の直観を記号を用いて表示したものである。
(7) a. 太郎がi自分のi車を運転した
このように、生成文法は再現可能な現象を対象としており、この点でも近代科学と同じ性質を共有しているのである。
4. 今後の展望この論文では、生成文法は、近代科学―特に近代物理学―と同じ自然観(言語観)と方法論的特徴を持つことを示した。しかしながら、同時に、生成文法は言語運用を捨象した高度に理想化された言語研究でもある。このために、生成文法の理論は、脳の中で起こっている文の産出のプロセスに関わる因果的法則を説明する理論仮説とはなっていない。近代物理学と対応させて考えると、生成文法の理論は、物体の運動の「位置変化」に関わる特性のみを対象としたガリレオの「自由落下の法則」のような運動論的な法則やあるいは「ボイル・シャールの法則」のような現象論的な法則の段階にとどまっていると考えられる。 一方で生成文法は、近代科学と同じ方法論―特に計算という形式体系による記述と実験という方法―を言語学に取り入れることによって、それまで気づかれていなかった個別言語および個別言語を越えた言語の普遍性に関わる膨大な量の経験法則を発見し、その精密な記述を行ったことは確かである。 しかし、また一方で、生成文法の言語研究と自然科学の中核との統合(unify)という問題―いわゆる「統合問題(unification problem)」―は、チョムスキーが繰り返しその可能性を主張しているにもかかわらず、現在のところ、原理的な見通しを述べるのみにとどまっている。その理由の一つは、上で述べたように、生成文法の理論が話者の脳の中での実際の文の形成と産出に見られる因果法則に関わるものではないことである。この意味で、生成文法の理論は、文の構造についての形式的な特徴を脳の中での文の産出とは独立に説明する現象論的な法則を述べたものであるということになる。すなわち、生成文法の言語理論は、統合の対象となる脳科学、遺伝学、化学、物理学などの自然科学の分野の因果法則を説明する理論とはこの点に関して質的に異なっているのである。したがって、生成文法の今後の課題の一つは、生成文法と他の自然科学の分野との間に存在しているこの溝を埋めるための具体的な研究方略を発見することであると思われる。 * * (1)〜(6)およびそれに関わる説明は、中井悟・上田雅信編『生成文法を学ぶ人のために』(世界思想社、出版予定)第一章から、出版社の許可を得て、一部字句を修正して転載しました。ここに記して、世界思想社のご厚意に感謝いたします。また、この原稿に対して上智大学外国語学部の加藤泰彦氏、福井直樹氏から有益なコメントをいただきました。あわせて感謝いたします。 参考文献1. Chomsky, N. Language and Nature, Mind 104,1-61 (1995).2. Chomsky, N. New Horizons in the Study of Language and Mind, Cambridge University Press, Cambridge, UK, 2000. 3. 小林道夫『科学哲学』産業図書, 東京, 1996. 4. Butterfield, H. The Origins of Modern Science 1300-1800 Revised Edition, The Free Press, New York, 1957. 5. Futuyma, D. J. Evolutionary Biology, Second Edition, Sinauer Associates, Sunderland, Mass., 1986. 6. Prtugal, F. H and Cohen, J.S. A Century of DNA: A History of the Discovery of the Structure and Function of the Genetic Substance, The MIT Press, Cambridge, Mass., 1977. 7. Thorpe, W.H. The Origins and Rise of Ethology, Praeger Publishers Division of Greenwood Press, Westpoint, Conn., 1979. 8.日高敏隆『エソロジーはどういう学問か』思索社, 東京, 1976. 9.Miller, G. A Very Personal History, Talk to Cognitive Science Workshop, MIT, Cambridge, Mass. 1 June 1979. 10.Chomsky, N. Knowledge of Language: Its Nature, Origin, and Use, Praeger Publishers, New York, 1986. 11.Chomsky, N. Rules and Representations, Columbia University Press, New York, 1980. 12.Chomsky, N. Aspects of the Theory of Syntax, The MIT Press, Cambridge, Mass., 1965. 13.Chomsky, N. The Minimalist Program, The MIT Press, Cambridge, Mass., 1995. 14.Chomsky, N. Syntactic Structures, Mouton, The Hague, 1957. 15.Chomsky, N. Logical Structure of Linguistic Theory, Plenum, New York, 1975. 16.Chomsky, N. Language and Human Mind, in Otero, C. P Language and Politics, 253-276, Black Rose Books, Montréal, Quebéc, 1988. 17.Bolinger,D.Judgment of Grammaticality,Lingua 21, 34-40 (1968). 18.Muller, H. J. Artificial Transmutation of the Gene, Science 66, 84-87 (1927).
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