ORIGIN OF GENOMIC DNA: DISCUSSION FROM REVERSE-TRANSCRIPTION AND EXPANSION OF REPETITIVE OLIGONUCLEOTIDES

Takanori Miura

Taiko Pharmaceutical Co., Ltd.,
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(Received 25 October, 2002 Accepted 3 February 2003)

(Abstract)

Genetic information of organisms is preserved within sequences of nucleotides in genomic DNAs, which are possible to be replicated by DNA polymerase semiconservatively. The sequences of the DNA molecules in organisms are variant, but long. Even the DNA of Mycoplasma genitalium, which has a smallest DNA among all types of organisms, is of 580-kilobase pairs in length. However, the long DNA can be synthesized with neither some prebiotic experiments nor the present DNA synthesizing techniques. Only oligoribonucleotides 55mer are possible to be synthesized in the presence of a montmollironite clay under prebiotic conditions. How is the long DNA synthesized in the primordial environment? Ohno proposed the model that genes of the present organisms emerged from short repetitive oligoribonucleotides. Several types of DNA polymerase are capable to synthesize long repetitive DNAs with more than 50-kilobase pairs in length from short oligonucleotides such as (TA)n, (TG)n, (CAG)n, (TAGG)n, (TTAGGG)n, (TACATGTA)n, and (AGATATCT)n by conventional enzymatic reactions. Furthermore, telomerase, which catalyzes the synthesis of the telomere of eucaryotic genome ends, can synthesize the complementary repetitive DNA (TTGGGG)n in the presence of a RNA template by the reverse-transcriptional activity. There are various repetitive sequences such as (GT)n, (CAG)n, (GGAAT)n, and (TTAGGC)n in the genomic DNA of different organisms containing Bacteria and Eucarya. Based on these examples, it is deduced that short repetitive DNA should have been synthesized from short RNA in the presence of oligopeptides catalysts or ribozymes, which have primordial reverse transcriptase-like activity; genomic DNA should have emerged from long repetitive DNAs elongated from the short repetitive DNA in the presence of primordial DNA polymerase-like oligopeptides or ribozymes. I discuss the plausibility of these ideas, proposing a model for the origin of genomic DNA from the reverse-transcription and expansion of repetitive oligonucleotides.
(Keyword) repetitive oligonucleotide, tandem repeat, DNA polymerase, telomerase, genomic DNA, DNA elongation chemical evolution of DNA

ゲノムDNAの起源 :短鎖反復核酸の逆転写および伸長合成からの考察

三浦孝典 大幸薬品株式会社 〒564-0032 吹田市内本町3-34-14
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(要旨)

現存生物の遺伝情報のほとんどはゲノムDNAに記録されており,これはDNAポリメラーゼにより半保存的に複製されている.その長さは,最小ゲノムDNAを有するマイコプラズマ・ゲニタリウムでさえ,58万塩基対と非常に長い.このような長鎖DNAは,現在のDNAの化学合成技術をもってしても合成できないが,ましてや生命誕生以前の環境を模倣した化学進化モデル反応では実現されていない.唯一,55塩基長のオリゴリボヌクレオチドが粘土鉱物存在下で無生物的に生成することが見いだされたのみである.はたして,ゲノムDNAはどのようにして無生物的に非常に長いDNAとなったのであろうか? 大野は,現存生物の遺伝子は短鎖反復核酸が伸長した反復RNAから誕生したモデルを提唱した.DNAポリメラーゼは,短鎖反復DNAを,たとえば(TA)n,(TG)n,(CAG)n,(TAGG)n,(TTAGGG)n,(TACATGTA)n,(AGATATCT)nなどの長鎖反復DNAへ伸長することが知られている.また,テロメラーゼは鋳型RNAに相補的な反復DNA(TTAGGG)nを逆転写的に合成することが報告されている.そして,細菌や真核生物を含む現存生物のゲノムDNA中には,たとえば(GT)n,(CAG)n,(GGAAT)n,(TTAGGC)nなどの反復DNAが多数存在している.これらの知見から筆者は,まず,オリゴリボヌクレオチドとオリゴペプチドが無生物的に合成され,それらの分子の中で逆転写活性を持つオリゴペプチドかまたはオリゴヌクレオチド(リボザイム)が反復オリゴリボヌクレオチドを鋳型として反復オリゴデオキシリボヌクレオチドを逆転写し,反復DNAを合成したのではないかと仮説をたてた.そして,この反復DNAが,DNAポリメラーゼ活性を持つ短鎖ペプチドまたはリボザイムにより,長鎖反復DNAに伸長し,ゲノムDNAの起源になったのではないかと考えた.筆者は,これらの考えを検証した上で,反復核酸の逆転写と伸長を元にしたゲノムDNAの起源のモデルを提唱する.

1. はじめに

地球の誕生は約46億年前と推定されており,生物の誕生は最古の微生物化石の発見から38億年前と推定されている[1, 2].誕生後間もない原始生物は,現在の生物と同様にデオキシリボ核酸(DNA),リボ核酸(RNA),タンパク質を有しており,その後突然変異と自然淘汰の繰り返しにより,現在の生物種へと進化してきたであろうという考えが主流であった [1].しかし,RNAが酵素活性(なお,酵素活性をもつRNAをリボザイムと呼ぶ)と遺伝情報の担い手の両方を兼ね備えていることが発見され, RNA単独で生命活動が行われていたというRNAワールド仮説が最近広まっている[3].いずれにせよ,現存生物は遺伝情報としてゲノムDNAを有しており,ある段階で合成されたことは疑いない.多くの生物のゲノムDNAは,それぞれのゲノムプロジェクトにより急速に塩基配列解読が進んでおり,その正確な塩基長も解明されてきている.Table 1にいくつかの例を示す.細菌,動物,および植物の一例である大腸菌(Escherichia coli)[4],ヒト(Homo sapiens)[5],およびシロイズナズナ(Arabidopsis thaliana)[6]のゲノムDNA長は,それぞれ約400万塩基対,約31億塩基対,および約1億塩基対であり,また,現存する生物の中で最小ゲノムを有するマイコプラズマ・ゲニタリウム(Mycoplasma genitalium)でさえ,58万塩基対と非常に長いゲノムDNAを持っている[7].なお,生命誕生に必要な最小のゲノムDNAの長さは必須遺伝子の数(517個)からおよそ40万塩基対である,と推定した報告もある[8].そこで,このような長大なゲノムDNAは,どのような機構で合成されたのか,という疑問を感じるのは著者だけではないであろう.
 リボヌクレオチド類似体を出発材料として短鎖リボヌクレオチド(RNA)が無生物的に合成されることは,Orgel[9],澤井[10],Ferris[11]らにより多数報告された.合成された短鎖RNAの長さは,Ferrisらの粘土存在下での無生物的合成反応の55塩基長が最長であり[12],長大な核酸の無生物的な合成はいまだ観察されていない.長大な核酸合成のモデルとしては,単純な短鎖反復RNAの無生物的な伸長合成による長鎖RNA生成が大野乾により提唱されており[13],長鎖DNAの前生物的合成モデルは提示されていなかった.そこで筆者は,ゲノムDNA誕生における長鎖DNAの前生物的合成モデルを考えた.
 本稿は,まず第2章でリボヌクレオチド類似体から短鎖RNAの無生物的合成についての過去の知見を分析し,ゲノムDNA 誕生における問題点を述べる.続く第3章では,大野が提唱した単純な短鎖反復RNAの無生物的な伸長合成による長鎖反復RNA遺伝子の誕生仮説[13]を分析し,ゲノムの誕生における補足事項を考察する.第4章では,現存生物の酵素が有しているRNAからDNAへの逆転写反応,短鎖DNAから長鎖DNAの伸長合成反応を分析し,ゲノムDNA誕生におけるこれらの反応の重要性を考える.そして第5章では,第2章から第4章の知見から導き出される事柄を記載し,短鎖RNAから長鎖反復DNAの無生物的合成反応による初期ゲノムDNA誕生モデルを提案する.
Table 1. Typical genome sizes and gene amounts of some organisms
Spiecesgenome sizegene number
Bacteria

Mycoplasma genitalium 580 kb 484
Buchnera sp. 640 kb 564
Escherichia coli K12 4.64 Mb 4289
Bacillus sabtilis 4.21 Mb 4100
Pseudomonas aeruginosa 6.3 Mb 5565
Synecocystis sp. PCC6803 3.57 Mb 3169
Archaea

Methanococcus jannaschii 1.66 Mb 1715
Pyrococcus harikoshii 1.74 Mb 1979
Aeropyrum pernix 1.67 Mb 2694
Halobacterium sp. 2 Mb 2058
Eucarya

Saccharomyces cerevisiae 12 Mb 6286
Caenorhabditis elegans 97 Mb 18000
Drosophila melanogaster 120 Mb 13000
Arabidopsis thaliana 125 Mb 25498
Homo sapiens 3 Gb 30000


2. 核酸およびタンパク質の前生物的合成モデルの概観とその問題点の分析

 短鎖核酸の前生物的合成モデルとして1960年代後半から現在に至るまで積極的に行われている.本章では,モノヌクレオチドおよび短鎖核酸の無生物的合成実験を分析し,その問題点を述べる.
 DNAやRNAのような核酸は,糖,塩基,リン酸から構成されている.糖の一種,リボースは,ホルムアルデヒドから無生物的に合成され [14],塩基の一種,アデニンは,シアン酸水素とアンモニアから無生物的に合成された[15].糖とアデニンの重合体,アデノシンとデオキシアデノシンに関しても無生物的に重合できることが示された[16].ヌクレオシドのリン酸化は,尿素と無機リン酸の存在下でおこり[17],さらに反応を進めると,ヌクレオシド 環状2', 3'-リン酸(nucleoside cyclic 2', 3'-phosphate, cpNp)やヌクレオシド 2リン酸,ヌクレオシド 5'-ポリリン酸(nucleoside 5'-polyphosphate, polypN)が合成された[18].このpolypNとアミンを乾燥固化させるとImpNが無生物的に合成され [19],これは次段落以降に示す核酸モノマーからの無生物的重合反応に多用された.以上の研究結果から,モノリボヌクレオチドは前生物的に存在していたことが推定された.
 続いてモノリボヌクレオチドの重合による短鎖RNAの無生物的合成について述べる.cpNpの一種,アデノシン 環状2', 3'-リン酸(adenosine cyclic 2', 3'-phosphate, cpAp)は,固相反応条件下で反応させると2塩基長以上の短鎖RNAを生じた[20].水溶液の反応条件では,ImpNの一種,アデノシン 5'-リン酸イミダゾリド(adenosine 5'-phosphorimidazolide, ImpA)が2価金属イオンの存在する中で5塩基長まで無生物的に重合することや [10,21],同様の重合反応でシチジン 5'-リン酸イミダゾリド(cytidine 5'-phosphorimidazolide, ImpC)が6塩基長まで合成できることが示された[22].これらの結果から,核酸モノマーを出発材料として6塩基長までではあるが短鎖RNAが前生物的に合成されていたことが推定された.
 次に鋳型RNAを加えた反応条件でのモノリボヌクレオチドから短鎖RNAの無生物的合成についてまとめる.鋳型RNAとしてポリヌクレオチド(C)nを加えたとき,グアノシン5'-リン酸イミダゾリド(guanosine 5'-phosphorimidazolide, ImpG)が30塩基長の(G)30まで無生物的に重合でき,飛躍的に短鎖核酸の鎖長が増加した [9].活性化ヌクレオチドをImpNからヌクレオシド 5'-リン酸-2-メチルイミダゾリド(nucleoside 5'-phosphor-2-methylimidazolide)に変更したとき,合成量の増加,3'-5'リン酸ジエステル結合の短鎖RNAが合成される割合の増加,短鎖RNAの塩基長の増加がみられた.例えば,ポリヌクレオチド(C)nの鋳型に対して,グアノシン 5'-リン酸-2-メチルイミダゾリド(guanosine 5'-phosphor-2-methylimidazolide,MeImpG)を用い,縮合剤は用いずに,Mg2+の存在下で反応させたとき,3'-5'リン酸ジエステル結合をもつ最長50塩基長の短鎖RNAが合成された[23].その他には,鋳型RNA (C, U)nに対するAとGを含有する13塩基長のオリゴヌクレオチドの複製[24],ランダムポリヌクレオチド(C,G)nによる12塩基のGとC含有オリゴヌクレオチドの複製[25]などの報告もある.これらの実験より,50塩基長までの短鎖RNAが無生物的に合成可能なことが示されたが,鋳型RNAがどのようにして生成されたかという疑問が依然残る.
 Ferrisのグループは,鋳型RNAの代わりに粘土鉱物の一種モンモリロナイトを添加して,ImpAから無生物的に短鎖RNAが合成できることを示した[11].さらに研究を重ね,最長55塩基長の3'-5'リン酸ジエステル結合を持つ短鎖RNAが無生物的に合成できた [12].反応論的解析より,このモンモリロナイトを添加した短鎖RNAの無生物的合成系は,(C)nの鋳型に対するMeImpG重合による短鎖RNAの無生物的合成系よりも反応速度定数が大きかった[26].鉱物はImpA吸着と反応の場を提供しており,太古の地球上にも存在したと思われる.したがって,前生物的に55塩基長までの短鎖RNAの合成が原始地球条件下で可能なことが支持される.
 次にモノデオキシリボヌクレオチドの重合による短鎖DNAの無生物的合成に関して考察する.DNAの糖を構成するデオキシリボースは,無生物的には合成しにくいことが報告された[27].また,デオキシリボヌクレオチドの類似体デオキシアデノシン 5'-リン酸イミダゾリド(deoxyadenosine 5'-phosphorimidazolide, ImpdA)は無生物的な重合反応がほとんどおこらないことも示された[22].一方で,高温乾燥という特殊な条件下でデオキシチミジン 5'-3リン酸(dTTP)が縮合剤[cyanamideか4-amino-5-imidazole carboxamide (AICA)]を用いて4から8塩基長まで重合でき [28,29],潮だまりを連想させる固化溶解繰り返しシステムで,縮合剤存在下で4塩基長の短鎖DNAが合成できることも報告された[30].しかし,縮合剤が特殊な点など前生物的合成モデルとしては受け入れがたく,なおこれら一連の研究は以後報告がない.したがって,短鎖DNAの無生物的合成は特殊なケースでは可能であるが,前生物的合成モデルとしての現実性は乏しいことが示唆された.
 以上まとめると,短鎖核酸の無生物的合成に関して,溶液中ではない特殊な条件下で短鎖DNAの合成もおこるが,しかし,前生物的核酸合成モデルとして有望な活性化デオキシリボヌクレオチドをもちいた条件では短鎖DNAの合成はほとんどおこらない.短鎖RNAの合成は粘土鉱物を加えると比較的長い55塩基長の短鎖RNAの合成が可能であった.鋳型RNAの存在下においても,縮合剤を使わない極めて単純な反応系で50塩基長の短鎖RNAが合成されており,短鎖RNAの無生物的合成は容易である.したがって,短鎖核酸の前生物的合成モデルとしては,短鎖RNAが最初に合成されたと考えられる.

3. 大野乾が提唱した短鎖反復核酸の伸長による遺伝子誕生モデルとそのモデルの分析

 1980年代に入り,遺伝子の塩基配列が蓄積される中,大野乾は,遺伝子およびその翻訳後のタンパク質の中に繰り返し出現する(周期性のある)塩基配列とそれを翻訳したアミノ酸配列が多く存在することを見つけた.そこで,異なる生物種の血清アルブミン属のタンパク質,ウシ血清アルブミンとマウスα-フェトプロテインの塩基配列とアミノ酸配列を比較し,繰り返し出現する配列が2種類あることを突き止め,これらを原始配列であると推論した [31].その後,主要組織適合抗原遺伝子 [32],ヒトのガン遺伝子c-mycとニワトリのv-myc遺伝子[33],マウス免疫グロブリンIg CµH 遺伝子[34],β2-ミクログロブリン遺伝子[35],ニワトリのガン遺伝子c-srcとウイルスの相同遺伝子v-src [36],マラリア原虫のスポロゾイド抗原遺伝子[37],ブタのムスカリン・アセチルコリンレセプター遺伝子[38],マスのH1ヒストン遺伝子[13]でそれぞれ個別に原始配列を推定し,報告している.例えば,スポロゾイド抗原の場合, 36塩基長GGACAACCACAAGCACAAGGAGA- TGGAGCAAATGCAが12回反復しており,原始配列と推定された.しかし,この配列の前半は,さらに6塩基長の類似配列ACAACC,ACAAGC,ACAAGGを含み,短い原始配列に分割できることがわかる.すなわち,長い反復配列の内部に短い反復配列を含む構造であった.このような観察結果から,大野は反復配列に着目し,遺伝子の誕生および進化に関して優れた考察を残した[13,37].
 大野は,遺伝子が誕生するために必要な3つの要件として,(1)長い読みとり枠(open reading frame)を容易に形成できる,(2)αへリックスやβシートなどの2次構造を容易に形成できる,(3)塩基配列の欠失,挿入,置換などの突然変異に対して強い読みとり枠を有している,ことを考えた.まず,彼は(1)の要件に関して300塩基長のRNAの翻訳できる確率,つまり100アミノ酸残基のタンパク質遺伝子を生成できる確率をランダム配列からの場合と反復配列からの場合で算出し,比較を行った.現存生物の遺伝暗号は,1開始コドン,3終止コドン,61アミノ酸コドンである.そこで,ランダム配列から遺伝子を生成できる確率は,(1/64)×(61/64)99 = 1.35×10-4,9塩基長の反復配列からの確率は,(3/64)×(61/64)2= 4.23×10-2と算出した[39].この計算結果より彼は,反復配列が(1)の要件においてランダム配列より勝っていると考えた.しかし,長い読みとり枠が形成されただけで,機能のあるタンパク質を作る遺伝子となるわけではない.αへリックスやβシートなどの2次構造を形成できるアミノ酸配列になりうる塩基配列が必要となる.例えば,アルギニン(Arg),アスパラギン(Asn),グルタミン(Gln),グルタミン酸(Glu)などが規則性を持ち重合したペプチド断片は,αへリックス構造を形成しやすい.そこで彼は,10塩基長のDNA鎖ATCAGGAGGAを基本単位として持つ反復配列は,3回反復させた30塩基長のDNA (ATCAGGAGGA)3から12残基長のペプチド鎖 Ile-Arg-Arg-Asn-Gln-Glu-Glu- Ser-Gly-Glyが翻訳でき,αへリックス構造を形成しやすくなると考えた.これは,ランダム塩基配列から2次構造を形成するより明らかに容易であり,(2)の要件においても反復配列が優れていることを主張した.また大野は,反復DNA配列の反復単位が3の倍数でない方が長いペプチド鎖を形成できると考えた.つまり,3塩基で1アミノ酸をコードするので,12塩基長の反復単位を持つ短鎖DNAが3回反復しても,4残基長の反復単位のオリゴペプチドが3回反復したタンパク質しか形成できない.しかし,上の例のように10塩基単位長の反復配列の場合,3回反復すると12残基長のタンパク質が形成でき,タンパク質残基の反復単位長の増加がみられる.この反復配列は塩基の欠失,挿入,置換による突然変異により終止コドンが発生しても,残り2つの読みとり枠が開かれ,長い読みとり枠が再び現れる可能性があり,読みとり枠の短小化の影響を受けにくいと大野は考えた.そこで彼は,(3)の要件においても反復配列が優れていると主張した[37].
 次に大野は,遺伝子の誕生と進化に関して考察した.核酸の前生物的合成モデルは,第2章で詳細に解説した.おおかた受け入れやすいモデルとしては,活性化リボヌクレオチドがモノマーからオリゴマー(短鎖リボ核酸)へ重合するOrgelと澤井によるモデル[10],短鎖リボ核酸を鋳型として先ほどの類似体が相補的に重合するOrgelらによるモデル[9]がある.そこで彼は,5塩基長短鎖リボ核酸GCCAAが前生物的に合成され,連結した後10塩基長の反復短鎖リボ核酸GCCAAGCCAAが合成したと仮定した.Orgelらのモデルに従えば,この短鎖リボ核酸が鋳型となり,無生物的に相補鎖UUGGCUUGGCが合成できる.この  10塩基対の2本鎖リボ核酸GCCAAGCCAA/UUGGCUUGGCが解離して,あらためて各3'末端側の5塩基ずつだけで水素結合すると,各5'末端側が5塩基それぞれはみ出る.これら突出した部分を鋳型として相補鎖が複製されれば,塩基長は伸長する.この解離,再結合,複製を繰り返すことで長鎖リボ核酸が合成できると大野は考えた.この15塩基長GCCAAGCCAAGCCAAは5残基長Ala-Lys-Pro-Ser-Glnのオリゴペプチドに翻訳され,終止コドンを含まない.読みとり枠が1塩基ずつずれても,CCAAGCCAAGCCAAGからPro-Ser-Gln-Ala-Lys,CAAGCCAAGCCAAGCからGln-Ala-Lys-Pro-Serが翻訳され,アミノ酸配列は同じとなり,突然変異に強い.この塩基配列は,前段落冒頭の遺伝子誕生の要件を満たす.そこで大野は,単純な直列型反復配列を有する短鎖リボ核酸が無生物的に伸長合成して長鎖リボ核酸となりこれがタンパク質の遺伝子となったのではないかと仮説を唱えた[13].
 しかし,筆者はこの仮説には実験的に示されていない多くの問題があると考える.例えば,(1)鋳型非依存的短鎖リボ核酸の連結が可能であるか,(2)数十塩基長以上のリボ核酸を無生物的に合成可能であるか,(3)原始翻訳系のモデルがない,などがそれである.なお,この説は遺伝子の誕生という観点でRNAとタンパク質を基本とした世界(RNA・タンパク質ワールド)では通用するが,現在のDNAおよびRNAとタンパク質の世界(DNA・RNA・タンパク質ワールド)における長鎖ゲノムDNAの誕生は示していない.そこで以後の章では,大野仮説を前提としてRNA・タンパク質ワールドからDNA・RNA・タンパク質ワールドへの道筋および長鎖ゲノムDNAの誕生について考察する.

4. 短鎖ヌクレオチドから長鎖DNAの試験管内伸長合成

 現存生物のゲノムDNAは,DNAポリメラーゼにより半保存的に合成されている[40].つまり,通常は2本鎖となっているゲノムDNAがそれぞれほどけて鋳型となり,DNA ポリメラーゼが鋳型に相補的なプライマーの3'-OH末端から相補的なモノヌクレオチドが重合することで,2本鎖ゲノムDNAがコピーできる(Fig. 1a).したがって,DNAポリメラーゼは,通常のDNA複製においては,あらかじめ存在する鋳型DNAの塩基配列に納められている遺伝情報を忠実に複製するのみで,この鋳型DNAの長さを超えるDNAは合成できないことになる.しかし,反復配列という限定された配列を持つDNAにおいて,DNAポリメラーゼが短鎖から長鎖へと伸長合成する試験管内実験結果が,多くのグループにより報告された(Table 2).
Table 2. Summary of repetitive DNA elongation with some DNA polymerase.
Short DNA sequenceReactionDNA lenghth DNA polymeraseReference
(5'-> 3')temperatureelongation



beforeafter


(℃)(bp)(bp)

(TA)3-70-456-14NDE. coli pol I42
(TG)2-6/(CA)2-6374-12NDE. coli pol I44
(TTC)3-4/(AAG)3-5 37 9-15 ND E. coli pol I 45
(TAC)3/(TAG)4-5 37 9-15 ND E. coli pol I 45
(TAG)4/(TAC)3-4 37 9-15 ND E. coli pol I 45
(ATG)3/(ATC)3-5 37 9-15 ND E. coli pol I 45
(TATC)3/(TAGA)2 37 8-12 ND E. coli pol I 46
(TAAG)2/(TTAC)3-4 37 8-16 ND E. coli pol I 46
(GT)15/(CA)9 37 18, 30 460 E. coli pol I 47
(AG)15/(TC)9 37 18, 30 700 E. coli pol I 47
(ATT)15/(AAT)9 37 27, 45 400 E. coli pol I 47
(GTT)15/(ACA)9 37 27, 45 120 E. coli pol I 47
(TCT)15/(AGA)9 37 27, 45 250 E. coli pol I 47
(TCA)15/(ATG)9 37 27, 45 110 E. coli pol I 47
(TAC)15/(TAG)9 37 27, 45 350 E. coli pol I 47
(TCC)15/(GGA)9 37 27, 45 200 E. coli pol I 47
(CCA)15/(GGT)9 37 27, 45 100 E. coli pol I 47
(TCG)15/(ACG)9 37 27, 45 50 E. coli pol I 47
(TGC)15/(GCA)9 37 27, 45 50 E. coli pol I 47
(GCC)5/(GCC)5 37 15 250 Taq pol 48
(GCC)5/(GCC)5 37 15 80 Klenow 48
(GCC)5/(GCC)5 37 15 32 Sequenase 48
(GCC)5/(GCC)5 37 15 45 HIV-RT 48
(GCC)5/(GCC)5 37 15 30 Calf pol a 48
(GCC)5/(GCC)5 37 15 40 mouse pol b 48
(AT)8 65 16 20000 Taq pol 49
(TA)9 65 18 20000 Taq pol 49
(AAT)3/(ATT)5 47 9, 15 20000 Klenow 50
(AAT)3/(ATT)5 47 9, 15 2200 Taq pol 50
(CAG)3/(CTG)5 47 9, 15 2000 Taq pol 50
(TACATGTA)6 74 48 10000 Tth pol 52
(TACATGTT)6 74 48 ND Tth pol 52
(TACATGAA)6 74 48 ND Tth pol 52
(TACATCTA)6 74 48 ND Tth pol 52
(TACAAGTA)674 48 10000 Tth pol 52
(TACATGAT)6 74 48 ND Tth pol 52
(TACATCAT)6 74 48 ND Tth pol 52
(TACAACAT)6 74 48 ND Tth pol 52
(AGGTACCT)6 74 48 10000 Tth pol 52
(AGATATCT)3 74 24 20000 Tli pol 53
(AT)24 74 48 ND Tli pol 53
(AGGTACCT)674 48 ND Tli pol 53
(TGATATCA)6 74 48 ND Tli pol 53
(ACATATGT)6 74 48 ND Tli pol 53
(TCATATGA)6 74 48 ND Tli pol 53
(ACTTAAGT)6 74 48 20000 Tli pol 53
(TATTAAGA)6 74 48 ND Tli pol 53
(AAAGCTTT)6 74 48 20000 Tli pol 53
(TCTATAGA)6 74 48 ND Tli pol 53
(TACATGTA)6 74 48 ND Tli pol 53
(AACATGTT)6 74 48 ND Tli pol 53
(TTCATGAA)6 74 48 ND Tli pol 53
(TAGATCTA)6 74 48 ND Tli pol 53
(TACTAGTA)6 74 48 ND Tli pol 53
(TAAGCTTA)6 74 48 ND Tli pol 53
(TATGCATA)6 74 48 ND Tli pol 53
(AGATATCA)6 74 48 ND Tli pol 53
(AGATTTCT)6 74 48 ND Tli pol 53
(AGGGCCCT)6 74 48 ND Tli pol 53
(GC)24 74 48 ND Tli pol 53
(TAGG)10/(CCTA)10 70 40 10000 Taq pol 54
(TTAAGGGG)5/(CCCCTTAA)5 75 40 10000 Taq pol 54
(TTAGGG)5/(CCCTAA)5 75 30 10000 Taq pol 54
(TTGGAG)5/(CTCCAA)5 75 30 10000 Taq pol 54
(TGTGAG)5/(CTCACA)5 75 30 10000 Taq pol 54
(ACGTCA)5/(TGACGT)5 75 30 10000 Taq pol54

ND: Not determine, bp: base pair
E. coli pol I: Escherichia coli DNA polymerase I, Taq pol: Thermus aquaticus DNA polymerase,
Klenow: Klenow fragment of E. coli pol I, Sequenase: modified T7 DNA polymerase,
HIV-RT: HIV reverse transcriptase, Calf pol a: Calf thymus DNA polymerase a, mouse pol b: mouse DNA polymerase b, Tth pol: Thermus thermophilus DNA polymerase,
Tli pol: Thermococcus litoralis DNA polymerase

 1964年のKornbergとKhoranaらは,Escherichia coli のDNAポリメラーゼI[41]が,2塩基(TA)の反復単位を持つ6,8,10,12,14塩基長の(TA)3 (下付きの数字は反復単位数を表す),(TA)4,(TA)5,(TA)6,(TA)7短鎖反復合成DNAを,長鎖反復DNA(TA)nへ伸長合成できること報告した[42].彼らは,この短鎖DNAから長鎖DNAへの伸長反応モデルとして,DNAポリメラーゼのスリップ合成を提案している (Fig. 1b)[43].この時代には電気泳導法が確立されていなかったため,伸長したDNAの長さは確かめられていないが,粘度変化からはかなり長いDNA が生成したと推測された.その後Khoranaのグループは,(TG)2-6/(AC)2-6 [44],(TAG)4/(TAC)3-4 [45],あるいは(TATC)3/(TAGA)2 [46]などの2,3,4塩基長の反復単位からなる反復配列が,同DNAポリメラーゼによって伸長することを確かめた.これらの反応もスリップ合成と考えられている.なお,伸長したDNAの長さは,短鎖(TA)反復DNA から長鎖(TA)反復DNA伸長実験と同様に確認されていない.
 1992年にSchlöttererとTautzは,2塩基および3塩基反復単位を有する多様な反復DNAが,37℃でスリップ合成することをアガロースゲル電気泳導法で解析し,最長700塩基対まで伸長することを示した[47].なお, PCRに使用するTaq DNAポリメラーゼを用いても,短鎖反復DNAがスリップ合成で伸長することも記載している.このTaq DNAポリメラーゼによる短鎖DNAから長鎖DNAへの伸長合成は,E. coli DNAポリメラーゼIとともに,複数のグループが解析をおこなった[48,49,50].それぞれ,Taq DNAポリメラーゼとKlenow断片[51]を用いて,(AT)8と(AAT)3/(ATT)5という16および9塩基の短鎖DNAが,それぞれ20000塩基対を超える長鎖DNAまで伸長した.
 その後緒方らは,反復単位長が4塩基以上の反復DNAの伸長例として2種類のDNAポリメラーゼによって8塩基の反復単位を持つ短鎖DNAが長鎖DNAへと伸長することを報告した[52,53].これらポリメラーゼの内の一方は,Taq DNAポリメラーゼと同属の好熱性真正細菌Thermus thermophilusから単離されたTth DNAポリメラーゼで,E. coli DNAポリメラーゼIを含むファミリーAに属する酵素である.他方は,超好熱性古細菌Thermococcus litoralisから単離されたTli DNAポリメラーゼで,真核細胞のゲノムDNAを複製するpol aを含むファミリーBに属する酵素である.したがって,ポリメラーゼのタイプが異なっても短鎖DNAから長鎖DNAへの伸長合成がおこるようである.前者の研究では,8塩基の反復単位長の6回繰り返しからなる48塩基の回文反復DNA (TACATGTA)6が,74℃で10000塩基対の(TACATGTA)nまで伸長することが示された[52].後者では,さらに短い24塩基長の(AGATATCT)3Tli DNAポリメラーゼにより74℃で20000塩基対以上の(AGATATCT)nに伸長することが示された [53].両方の伸長合成ともに,反復単位の回文配列を1塩基崩した擬回文反復配列でも,DNAの合成量は減少するが伸長合成が観察されている.なお,(AGATATCT)3 や(TACATGTA)6を含む多くの8塩基回文反復DNAは74℃ではヘアピン構造とランダムコイル構造の中間状態となっていることが分光光度計による熱解離特性の解析によって示唆された.ここで,従来のスリップ伸長モデルとは違うヘアピン伸長モデルが提唱された(Fig. 1c).
 最近,反復単位長が4,6,8塩基からなる30から40塩基対の非回文反復DNAが,Taq DNAポリメラーゼにより70℃ で10000塩基対以上に伸長することが報告された[54].伸長させた短鎖DNAは(TAGG)5/(CCTA)5や(TTGGAG)5/(CTCCAA)5,(TTAAGGGG)5/(CCCCTTAA)5などの2本鎖を形成するDNAで,ヘアピン構造は実験条件下では形成しないことが確認された.なお,Klenow断片でも37℃でこれら短鎖DNAが約100塩基対まで伸長することも確かめられている.注意深く伸長反応機構を解析したところ,スリップ伸長やヘアピン伸長とは異なり,鋳型DNAの乗り換え(template switching)[55]と置き換え(strand displacement)[56]を利用して伸長することが示唆された(Fig. 1d).この報告は,試験管内での反復DNAの伸長反応において,現在のゲノムDNA中での反復配列の増減に関係する不均等交叉(unequal crossing over)[57]と根本的に類似した鋳型DNAの乗り換え現象が観察されたことで大変興味深い.
 以上の報告から,短鎖反復DNAを出発材料として,DNAポリメラーゼはデオキシリボヌクレオチドモノマーを重合し,最長20000塩基長の長鎖反復DNAへと伸長合成できることがわかった.しかし,デオキシリボヌクレオチドの無生物的合成については,第2章でもふれたがかなり困難なようである[17].無生物的に比較的容易に合成できるリボヌクレオチドとその重合体が出発材料となり,後に合成されたデオキシリボヌクレオチドを用いてDNAが逆転写されれば,核酸の無生物合成と長鎖DNA合成とはうまく結びつく.そこで次に,短鎖RNAから長鎖DNAへの試験管内合成に関して示す.



Figure 1. Several models for the repetitive DNA elongation by DNA polymerases (a) Standard DNA replication mechanism: DNA duplex is melted, and then each single stranded DNA (ssDNA) is annealed with each primer DNA. Complementary DNA is replicated from 3'-OH end of the primer DNA. (b) DNA slippage synthesis model: Newly synthesized stretch of repetitive (TA) DNA is replicated with template (TA) ssDNA. The newly synthesized DNA is "slipped" to the direction of the 3'-OH end of the template. Newly generated ssDNA is replicated by DNA polymerase. Next slippage synthesis goes on until large DNA is made. (c) Hairpin elongation model: Short palindrome repetitive DNA forms a hairpin structure by folding back, and then its end melt partially. The 3'-end arm of the hairpin locally forms a small hairpin, and DNA polymerase elongates the DNA from the 3'-OH end. The small hairpin is next incorporated into the large hairpin by slippage. These cycles of hairpin formation, elongation and slippage are repeated until large DNA is made. (d) Template switching and strand displacement model: Fraying at the ends of duplexes can occur. Due to end fraying, there is transition intermolecular base pairing between duplexes in solution. The strand-displacement activity of the polymerase is then responsible for extending the complementary strands of the DNA duplexes in these intermolecular complexes (Left). At reaction temperatures near the melting point of the duplex, repeated melting and staggered reannealing leads to more efficient extension of the two DNA strands (Right). As the DNA increases in length, bulges form in the duplex at elevated temperature. SsDNA in bulged regions serves as templates for the extension of other duplexes.

 真核生物は,ゲノムDNAの末端に反復配列を合成するテロメラーゼを持っている[58].この酵素は,タンパク質のほかにRNA(テロメラーゼRNA)を有する核酸タンパク質(ribonucleoprotein)で,テロメラーゼRNAの一部の塩基配列を鋳型として利用し,ゲノムDNAの末端に(TTGGGG)nや(TTAGGG)nなどの反復配列を逆転写的に重合する逆転写酵素である[59].なお,テロメラーゼは,生体内ばかりでなく試験管内においても,短鎖DNAや短鎖RNAを出発材料として長鎖DNAを合成できる逆転写活性を有している.
 24塩基反復配列(TTGGGG)4をプライマーとして,テロメラーゼが,この短鎖DNAを5200塩基長まで伸長することが明らかとなった[59].テロメラーゼは,プライマーとして,反復配列以外の20塩基長短鎖DNA(TTTATTTTTTATAAAAATTA)や24塩基長のランダム配列を有する短鎖DNA (AGCCACTATCGACTACGGATCAT)を用いることができ,3'末端に(TTGGGG)nを重合し,元のDNAを伸長することもできる [60].テロメラーゼのプライマーは,通常,DNAであるが,r(GUUGGG)3およびr(GGGUUG)3の短鎖RNAをプライマーとして用い,鋳型RNAをDNAへ逆転写できるという報告もある[61].このことは,テロメラーゼの反応液中にDNAが存在しなくても,RNAを鋳型としてデオキシリボヌクレオチドから反復DNAを合成できる活性を有することを示す.このDNA非存在下でのRNA鋳型に対する反復DNA合成の逆転写活性はテロメラーゼ以外にも見つかっており,Taq DNAポリメラーゼやTth DNAポリメラーゼが20塩基長反復RNA(r(AU)10)を鋳型およびプライマーとして反復DNA(AT)nを伸長合成することができる[62].
 以上の報告から,短鎖RNAを出発材料として,テロメラーゼの逆転写活性により反復DNAが合成できることがわかった.この反復DNAは,DNAポリメラーゼにより最長20000塩基長の長鎖反復DNAへと伸長合成できることもわかった.短鎖RNAの無生物的合成については,第2章で言及したように可能である.したがって,短鎖RNAプールの中にデオキシリボヌクレオチドモノマーが存在していれば,テロメラーゼやDNAポリメラーゼ活性を持つタンパク質などによりDNAを合成できる可能性は十分考えられるであろう.

5. ゲノムDNAの起源における反復配列の役割

 ここまで,(1)核酸の前生物的合成モデルの分析,(2)短鎖反復核酸伸長による遺伝子誕生モデルの分析,(3) DNAポリメラーゼによる短鎖反復DNAの長鎖反復DNAへの試験管内伸長合成の分析,(4)逆転写活性を有するタンパク質による短鎖RNAから長鎖DNA伸長合成の分析をおこなった.そこで本章では,(1)から(4)により導き出された知見を用い,ゲノムDNAの起源における反復配列の役割に関して言及する.
 核酸の無生物的合成実験から,短鎖DNAよりもむしろ短鎖RNAが前生物的に存在した可能性はかなり高くなっている(第2章).最近の縮合剤を使用しない短鎖ペプチドの無生物的合成実験から,前生物的に短鎖ペプチドも存在していた可能性がかなり濃厚になってきている[63,64].しかし,現存生物中で最小ゲノムを有するマイコプラズマ・ゲニタリウム(Mycoplasma genitalium)でさえ,58万塩基対と非常に長いゲノムDNAを持っている[7](第1章参照).ここまでの知見を用いて生物のゲノムDNA誕生を考える上で2つの問題点がある.それは,この現存生物のゲノムDNAの長さと核酸の前生物的合成モデルで生成できる核酸の長さにあまりにも大きなギャップがある点と,核酸の前生物的合成モデルでは現存生物のゲノムを形づくるDNAの合成が困難な点である.最初の問題点に関しては,大野が提唱した短鎖反復RNAが伸長することで長鎖反復RNAとなり,そこから機能を持つタンパク質の情報となる遺伝子(RNA)が誕生したモデル(第3章参照)が非常に魅力的である.しかし,これはあくまでもモデルにすぎず,実際の試験管内ではモデルは実証されていない.その上,ゲノムDNA誕生に必要な,RNAからDNAの変換が説明できていない.そこで筆者は,RNAからDNAを試験管内で合成できるテロメラーゼに注目し,短鎖RNAからDNAへの逆転写的な合成を紹介した(第4章).さらに,DNAポリメラーゼに本来備わっている短鎖反復DNAを20000塩基長以上の長鎖反復DNAに伸長できる活性に着目し,第4章で紹介した.大野のモデルによれば,反復配列はランダム配列よりも機能を有する遺伝子を生成しやすい.したがって,反復配列が初期のゲノムDNAであった可能性は十分考えられる.これらの知見から筆者は,RNAとタンパク質からなる世界(RNA・タンパク質ワールド)において,第2章の前生物的核酸合成モデルにより無生物的に合成された短鎖RNAが,短鎖ペプチドかまたはリボザイム(触媒活性をもつRNA)により,短鎖反復DNAに逆転写的され,これが反復DNAの起源になったのではないかと考えた (Fig. 2).さらに,この短鎖反復DNAが,短鎖ペプチドかまたはリボザイムの重合活性により,2万塩基以上の長鎖反復DNAに伸長し,ゲノムDNAの起源になったのではないかと考えた(Fig. 2).筆者が提案するこのモデルにおいて,依然,DNAやその部品であるデオキシリボヌクレオチドがどのようにして無生物的に合成されたのかという疑問が残る.現存生物中でのデオキシリボヌクレオチドはリボヌクレオチド還元酵素のラジカル反応でリボヌクレオチドの2'-OHを2'-Hに還元することにより生合成される[65].そこで,デオキシリボヌクレオチドの前生物的合成も短鎖ペプチドかまたはリボザイムの還元反応で,リボヌクレオチドから合成したのではないかと考えた(Fig. 2).


Figure 2. A model for the origin and evolution of genomic DNA Oligoribonucleotides was synthesized from monoribonucleotides in the presence or absence of catalytic molecules such as a montmorillonite clay under the prebiotic conditions. Some molecules of the oligoribonucleotides synthesized became to the templates of primordial telomerase-like oligopeptides and the catalysts for the synthesis of oligodeoxyribonucreotides (Right). On the other hand, the oligopeptides was synthesized from amino acids under the prebiotic conditions. Some molecules of the oligopeptides synthesized became to the primordial telomerase-like oligopeptides and DNA polymerase-like ones (Left). The catalytic oligoribonucleotides and/or oligopeptides synthesized short repetitive oligodeoxyribonucreotides on the oligoribonucleotide templates by the reverse transcriptional activity. The short repetitive oligodeoxyribonucreotides was elongated to long repetitive DNAs by primordial oligopeptides which have the DNA polymerase-like activity. The long repetitive DNA was evolved to genomic DNA through nucleotide substitution, deletion, and insertion (Center).
 最近のゲノムプロジェクトにより,生物のゲノムDNAの塩基配列が多数解析され,ゲノムDNA中に反復配列が多数存在することが次第に明らかにされてきた.たとえば,ヒトのゲノムDNAには,ゲノム末端に存在する6塩基反復配列 (TTAGGG)nのテロメア[58],ゲノムの中心付近に存在するセントロメア中の5塩基反復配列(GGAAT)n[66],およびハンチントン舞踏病などの神経変性疾患の原因となる(CAG)n/(CTG)nの3塩基単位が反復したトリプレットリピート[67,68]などの反復配列が多数含まれる.また,出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae),ショウジョウバエ(Drosophila melanogaster),および線虫(Caenorhabditis elegans)のゲノムDNAにも,2塩基反復配列(GT)n/(AC)n[72,73],(GA)n/(TC)n,あるいは(TA)n[69]や,ゲノムDNA末端にはテロメア配列として2から4塩基反復配列(TG1-3)n(出芽酵母)あるいは 6塩基反復配列(TTAGGC)n(線虫)などの反復配列が存在する.真核生物以外の細菌,マイコプラズマ・ゲニタリウムのゲノムDNAにも3塩基反復配列(TAG)n,(CTT)n,(TGT)n,(CTA)8,あるいは(TAC)5が存在する [70].このように,真核生物から真正細菌までの幅広い生物において,反復配列が多数存在することがわかった.
 これらのゲノムDNA中に存在する反復配列は,DNAポリメラーゼのスリップ合成や不均等交叉(unequal crossing over),遺伝子変換(gene conversion)により高頻度に反復単位数の増減をおこす[57].DNAのスリップ合成は第4章で説明した通り,短鎖DNAの伸長合成に対してもっとも有望であると考える.しかし,不均等交叉がおこるために必要な鋳型DNAの乗り換え反応は,単純な試験管内での短鎖反復DNA伸長合成でもみられ,長鎖反復DNAの伸長へ一役かっていたかもしれない.反復DNAが伸長した後に遺伝子が誕生し,ゲノムDNAとなるために,不均等交叉や遺伝子変換が遺伝子の再構成するあるいは遺伝子かその近傍の配列が突然変異した経路があったかもしれない.生物のゲノムDNA中には反復配列が多数散在している.線虫においてはゲノムDNA末端に通常は存在するテロメア配列が,タンパク質の情報をコードしていないイントロン中にも存在し,ゲノムDNA中に散在している[71].したがって,これら反復配列の散在化は,ゲノムDNAの起源と何か関連しているかしれない.
 現在までのところ残念ながら,テロメラーゼの逆転写活性やDNAポリメラーゼ活性を有する短鎖ペプチドや短鎖RNAの発見には至ってない.しかし,in vitro選択法[72]などの進化工学的手法により,この種の活性が発見される可能性は十分あるだろう.なお,反復DNAから現在のゲノムDNAの多様な塩基配列への進化に関しては残念ながら論ずることができなかった.この問題に関しては,反復DNAへの伸長合成時の合成エラーの追跡やその系統進化的解析により解決できるかもしれない.

6. まとめ

 核酸の無生物的合成に関する実験からは,初期に誕生した核酸は短鎖RNAである可能性が示唆された.RNAワールドの視点で考えると,この短鎖RNAが未だ発見されない方法で伸長して長鎖RNAとなり,初期生命体のゲノムとなっていた可能性が考えられる.そこで,大野が提唱した短鎖反復RNAが無生物的に生成し,それが伸長することで長鎖反復RNAとなり,そこから遺伝子(RNA)が誕生したモデルは,ゲノムの誕生においても十分検討に値する.しかし,現存生物のゲノムはDNAである.ゲノムDNAの誕生を考える上で,RNAからDNAへの変換が必要となる.大野のモデルでは長鎖DNAの無生物的合成は説明できず,ゲノムDNA誕生においては別なモデルを提唱しなければならない.そこで筆者は,RNAからDNAを試験管内で合成できるテロメラーゼに注目し,短鎖RNAからDNAへの逆転写活性がRNAからDNA生成の役割を演じた考えを述べた.さらに,DNAポリメラーゼにより試験管内で多く実証されている短鎖反復DNAから長鎖反復DNAの伸長合成に着目し,長大なゲノムDNAの誕生に至る十分な長さの生成過程と反復配列の増幅による遺伝情報の誕生過程のモデルを提案した.この考えはゲノムDNA誕生におけるまったく新しい考えである.今後は,単純なRNAやポリペプチドによる逆転写活性やDNAポリメラーゼ活性の創製やこれら活性分子と短鎖反復RNAからなる長鎖反復DNAの合成,長鎖反復DNAを試験管内で進化させることによる遺伝子DNAの誕生を検討する必要がある.

(謝辞)

本報の内容に関して,貴重な御意見をいただいた,市立豊中病院 柴田高氏,大幸薬品株式会社 森野博文氏,京都大学原子炉研究所 齊藤剛氏に感謝いたします.本報の修正に関して,多くのご助言をいただいた,編集責任者の川村邦男氏に深く感謝いたします.

参考文献および注釈

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39. 3塩基で1コドンとなる.大野は,300塩基長の遺伝子断片,つまり100アミノ酸残基のコドン断片について,停止コドンを含まない断片となる確率を考えた.ます,ランダム配列の場合,開始のコドンがAUGとなる確率は1/64,それに続くコドンがアミノ酸コドンとなる確率は61/64となる.このアミノ酸コドンが99回繰り返すので,99アミノ酸残基のコドン断片を生成できる確率は(61/64)99となる.そこで,彼は(1/64)×(61/64)99 = 1.35×10-4がランダム配列から遺伝子を生成できる確率と考えた.次に彼は,9塩基長の反復単位を有する300塩基長の遺伝子断片(100アミノ酸残基のコドン断片)中に停止コドンを含まない断片となる確率を考えた.反復配列の場合,基本反復単位である9塩基長の塩基配列に停止コドンが入らなければ,鎖長が伸びても停止コドンが入らない.そこで9塩基長の遺伝子断片,つまり3アミノ酸残基のコドン断片中に停止コドンを含まない断片となる確率からコドン配列を生成できる確率を求めればよい.彼は,9塩基反復単位の中で,開始コドンのくる場所は3カ所あると考え,3×1/64を開始コドンとなる確率とした.アミノ酸コドンは,残り2カ所となるので(61/64)2が9塩基反復単位の中でのアミノ酸コドンとなる確率である.そこで(3/64)×(61/64)2 = 4.23×10-2が300塩基長の反復配列から遺伝子を生成できる確率と考えた.
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43. 通常のDNA複製は反応が終了すると両端が平滑末端となりそれ以上合成が進まないが,TA反復DNAは配列の性質上2塩基ずれても再び相補鎖となるため合成が再開できる.つまり, (1) 添加したTA反復DNA が鋳型となりDNAポリメラーゼが相補鎖を合成する,(2) 相補鎖が5'末端側に2塩基スリップすることで3'末端側に2塩基の突出が形成される,(3) 相補鎖の3'突出末端をDNAポリメラーゼが複製する,(4) (2)と(3)を繰り返すことで短鎖DNAが伸長することができる.
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51. E. coli DNAポリメラーゼIは3種類の酵素活性(DNAポリメラーゼ活性,3'-5'エキソヌクレアーゼ活性,5'-3'エキソヌクレアーゼ活性)を有している.そのうちの5'-3'エキソヌクレアーゼ活性断片を取り除いた酵素断片をKlenow断片とよぶ.つまり,DNAポリメラーゼ活性と3'-5'エキソヌクレアーゼ活性を有する酵素断片である.
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55. 類似した配列をもつ2種類以上のDNAをDNAポリメラーゼが個別に複製しているとき,類似したDNAが近接すると,複製途中のDNAが近接の鋳型DNAを利用して複製する現象がおこる.この現象を鋳型DNAの乗り換え(template switching)という.
56. M13ファージのDNAの様な1本鎖環状のDNAに相補的なプライマーをアニーリングさせ,DNAポリメラーゼにより複製を開始すると,元のプライマーの5'末端で複製が停止する.しかし,ポリメラーゼの種類により,プライマーや前に複製したDNAをはがしながら複製が再開する場合がある.これを置き換え(strand displacement)という.
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