ASYMMETRIC AUTOCATALYSIS AND HOMOCHIRALITY OF BIOMOLECULES

Kenso Soai* and Itaru Sato

Department of Applied Chemistry, Faculty of Science, Tokyo University of Science, Kagurazaka, Shinjuku-ku, Tokyo 162-8601, Japan
Fax: +81-3-3235-2214
E-mail: soai@rs.kagu.tus.ac.jp

Abstract

Asymmetric automultiplication of chiral compounds by asymmetric autocatalysis is realized for the first time where a chiral product acts as a chiral catalyst for its own production. We disclosed chiral 3-pyridyl alkanol, 3-quinolyl alkanol, and 5-pyrimidyl alkanols operate as asymmetric autocatalysts in the enantioselective additions of i-Pr2Zn to pyridine-3-carbaldehyde, quinoline-3-carbaldehyde and, pyrimidine-5-carbaldehyde, respectively. Especially, practically perfect asymmetric autocatalysis (>99%, >99.5% ee) is attained using 2-alkynyl-5-pyrimidyl alkanol as an asymmetric autocatalyst in the enantioselective addition of diisopropylzinc to corresponding pyrimidine-5-carbaldehyde. In addition, asymmetric autocatalysis with amplification of ee is realized. Asymmetric autocatalyst with very low ee enhances its ee significantly up to >99.5% ee during the asymmetric autocatalysis without the assistance of any other chiral auxiliaries.
Moreover, various chiral compounds with very low ee act as chiral initiators in the reaction of pyrimidine-5-carbaldehyde and diisopropylzinc to give 5-pyrimidyl alkanol with high ee in combination of asymmetric autocatalysis. Amino acids and [6]helicene with very low ee which are produced by asymmtric photolysis and photosynthesis using circularly polarized light (CPL) serve as chiral initiators of asymmetric autocatalysis, and 5-pyrimidyl alkanol with high ee is obtained. Inorganic chiral crystals such as quartz and sodium chlorate also work as chiral initiators. These results correlate for the first time the proposed origins of chirality of organic compounds such as CPL and quartz with the chirality of organic compounds with very high ee.
Key words: chirality, asymmetric autocatalysis, amplification, enantioselective addition, 5-pyrimidyl alkanols, chiral initiator, circularly polarized light, amino acids, quartz, sodium chlorate

不斉自己触媒反応と生体関連化合物のホモキラリティー

そ合憲三*、佐藤 格
東京理科大 理学部応用化学科
〒162-8601 東京都新宿区神楽坂1-3
FAX 03-3235-2214
E-mail: soai@rs.kagu.tus.ac.jp

はじめに

生命の起源の探求に際し、生体関連化合物における不斉の起源の解明は不可避の問題であると考えられている。生命を形づくり、細密な機構をもって生命活動を維持している生体関連化合物の多くは、可能な2つの鏡像異性体のうち一方のみが存在することが知られている。例えばDNAを構成するデオキシリボヌクレオシドの糖部分は、D-2-デオキシリボースであり、タンパク質は基本的にL-a-アミノ酸によって構成されている。もしD型とL型両方の糖からなるヌクレオシドが混在したDNAでは、3次元構造が変化し、二重らせんの形成や正常な遺伝情報の伝達を行うことはできなくなるだろう。一方、L型とD型アミノ酸が混在したタンパク質では、酵素作用等が正常に発現しなくなり、生命活動を維持することはできないであろう。
これまでに地球上の生体関連有機化合物がこのような単一の不斉(ホモキラリティー)という形質を獲得した要因として、右および左円偏光や水晶などの不斉な無機結晶が提唱されてきた。しかし、これらの要因が有機化合物に誘起する不斉の偏りは一般に極微小に過ぎないとされている。したがって、これらの要因により得られた化合物の極微小の鏡像体過剰率と、生体関連有機化合物のきわめて高い鏡像体過剰率には大きな隔たりがあるといえる。つまり、わずかな不斉の偏りからほぼ完全な鏡像体過剰率へと導く化学プロセスの実現なくして両者を関連付け、これらを同義のものとして扱うことは困難であろう。
 最近、われわれは、極微小鏡像体過剰率の化合物が自己を合成する不斉自己触媒として作用し、その自己増殖過程で鏡像体過剰率を著しく向上させ、最終的にほぼ一方のみの鏡像異性体になる不斉自己触媒反応を見出した [1-15]。さらに、不斉の起源とされる諸力により誘起される程度の極微小な鏡像体過剰率の化合物をもとに、不斉自己増殖反応によりきわめて高い鏡像体過剰率の有機化合物に至る化学プロセスを具現することができた。以下にその内容を紹介する。

1. 不斉自己触媒反応

 不斉触媒反応 (asymmetric catalysis) は少量のキラルな触媒(C)の存在下に反応を行ない、キラルな生成物(P)を得ようとする反応であり、少量の不斉源から多量のキラル化合物が得られる(図1)。しかし、一般に得られた生成物がさらに反応を促進することはない。もし生成物自身が不斉触媒として作用し、自己と同一構造かつ同一絶対配置を持つ化合物を合成する反応が実現できれば、きわめて効率的かつ直接的な合成反応になる。これはキラルな生成物自身の自己増殖反応であり、例えば生命系の自己再生産過程などと比較しても極めて興味深い。この不斉自己触媒反応 (asymmetric autocatalysis) の概念については1953年にFrankが数式により提唱しているが、実験的にこれを実現するものではなかった [16]。


Figure 1. Principle of asymmetric catalysis and asymmetric autocatalysis.


Figure 2. The first example of asymmetric autocatalysis.

 我々は、アルデヒドの不斉アルキル化反応 [17-19]の研究において、ピリジン-3-カルバルデヒドのジエチル亜鉛による不斉エチル化反応が極めて迅速に進行することを観察し、これを生成物自身の触媒能によるものではないかと考えた [20]。そこで1990年に3-ピリジルアルカノール (S)-2を不斉触媒としてピリジン-3-カルバルデヒド 1 とジイソプロピル亜鉛の反応を試みたところ、不斉触媒として用いた3-ピリジルアルカノール (S)-2と同じ絶対配置をもつ生成物3-ピリジルアルカノール (S)-2を得ることが出来た(図2)。これが不斉自己触媒反応の初めての実験例である [21]。


Figure 3. Highly enantioselective asymmetric autocatalysis of 3-quinoly and 5-pyrimidyl alkanols.


 さらに、3-キノリルアルカノール、5-ピリミジルアルカノールを不斉自己触媒として用い、対応するアルデヒドとジアルキル亜鉛の反応を行うと、いずれの場合も極めて高エナンチオ選択的に反応が進行することが明らかになった(図3)。すなわち、94%eeの(S)-3-キノリルアルカノール4を不斉自己触媒として用いてジイソプロピル亜鉛のキノリン-3-カルバルデヒド3への付加反応を行うと94% ee の(S)-3-キノリルアルカノール 4が生成物として得られた [22]。また、5-ピリミジルアルカノール 6aを用いた場合、93% eeの不斉自己触媒 (S)-6aからは90% eeの(S)-6aが、2位の置換基がメチル基である不斉自己触媒、>99.5% eeの(S)-6bからは98% eeの(S)-6bがそれぞれ生成物として得られた [23]。 
 さらに置換基について精査した結果、2位にアルキニル基を導入した5-ピリミジルアルカノールの不斉自己触媒としての自己複製能力は向上し、特に3,3-ジメチル-1-ブチニル基を導入した5-ピリミジルアルカノール6cにおいて事実上完全な自己複製能力を持った不斉自己触媒とすることが出来た(表1)[24]。すなわち99.5% ee以上の(S)-6cを不斉自己触媒として用い、対応するピリミジン-5-カ ルバルデヒド 5cへのジイソプロピル亜鉛の付加反応による不斉自己触媒反応を行うと、収率99% 以上、鏡像体過剰率99.5 % 以上で(S)-6cが得られた。得られた生成物が不斉自己触媒と同じ構造を持ち、生成物自身も触媒活性を発揮する不斉自己触媒の原理から、得られた生成物を用いて連続的な不斉自己触媒反応を行うことが出来る。1回目の反応で得られた鏡像体過剰率99.5 % ee以上の生成物 (S)-6cを不斉自己触媒として用いて次の反応を行うと、 鏡像体過剰率99.5% ee以上の(S)-6cが99%以上の収率で得られた (entry 2)。さらに生成物を次の反応の不斉自己触媒として用いる不斉自己触媒反応を繰り返し行うと、10回目の反応においても鏡像体過剰率99.5% ee以上の5-ピリミジルアルカノール(S)-6cが収率99%以上で得られた。すなわち、不斉自己触媒としての反応性およびエナンチオ面選択性は全く損なわれることなく不斉自己増殖が進行したことを意味する。この間にはじめに用いた5-ピリミジルアルカノール (S)-6cの増大量は約6千万倍に相当する。





2. 不斉の増幅を伴う不斉自己触媒反応

一般の不斉触媒反応で低鏡像体過剰率の触媒を用いた場合の生成物の鏡像体過剰率はどうなるのであろうか。分子間の相互作用を考慮した場合、触媒分子の鏡像体過剰率と生成物の鏡像体過剰率との間の関係は必ずしも比例関係にはならず、触媒分子の鏡像体過剰率よりも生成物の鏡像体過剰率の方が高い場合もあり得ると考えられる。実際、非自己触媒反応で生成物の鏡像体過剰率が不斉触媒のそれを上回る非線形的増幅を示す例がKaganらにより不斉酸化反応で見出され[25]、その後、アルデヒドの不斉アルキル化反応 [26-28]、カルボニル-エン反応 [29]などで同様の現象が報告されている[30-33]。しかし、触媒と生成物の構造が異なる非自己触媒反応では得られた生成物がさらに触媒として働くことはない。そのため、例えば2% eeの不斉触媒を用いて10% eeの生成物が得られたとしても、その鏡像体過剰率をさらに向上させることは原理的に出来ない。
 一方、不斉自己触媒反応においては、その原理から生成物をさらに次の反応の不斉自己触媒として用いることが可能である。もし鏡像体過剰率が向上す る不斉自己触媒反応を実現できれば、生成物を次の不斉自己触媒反応の触媒として用いることにより、さらにその鏡像体過剰率を高めることが出来ると期待でき、極めて低鏡像体過剰率の化合物から高鏡像体過剰率を持った分子を得ることが可能であると考えられる。われわれは、5-ピリミジルアルカノールを用いた実験により、まさにこれが可能であることを示すことが出来た[34]。すなわち、わずか2% eeの(S)-5-ピリミジルアルカノール6aを不斉自己触媒としてピリミジン-5-カルバルデヒド5aとジイソプロピル亜鉛の反応を行ったところ(図4)、得られた5-ピリミジルアルカノール (S)-6aの鏡像体過剰率は10% eeに向上した(図5)。この5-ピリミジルアルカノールを不斉自己触媒として反応を行うと5-ピリミジルアルカノールの鏡像体過剰率はさらに向上し、57% eeの (S)-6aが得られた。さらに連続的な反応を繰り返すことで (S)-5-ピリミジルアルカノール6aの鏡像体過剰率は81%、さらには88%eeに向上した。
 種々の不斉自己触媒を用いた反応の検討により、5-ピリミジルアルカノール6aの他に、2-アルキニル [24]および2-アルケニル-5-ピリミジルアルカノール [35]、3-キノリルアルカノール [36]や5-カルバモイル-3-ピリジルアルカノール [37]を用いた場合にも不斉の向上を伴う不斉自己触媒反応が進行することが明らかになった。
 2-アルキニル-5-ピリミジルアルカノール6cを用い、極微小の鏡像体過剰率の不斉自己触媒の不斉自己触媒反応を試みたところ、生成物の鏡像体過剰率は極めて大幅に増大することを見出した。わずか0.6% eeの(S)-6cを不斉自己触媒として用い、1回の反応で得られた化合物(S)-6cを次の反応の不斉自己触媒として用いる連続的不斉自己増殖反応を4回行っただけで、5-ピリミジルアルカノール(S)-6cの鏡像体過剰率は>99.5% eeに達した(図6) [38]。この連続反応において、最初に用いた5-ピリミジルアルカノール(S)-6cに含まれていた主鏡像異性体であるS体の増殖率が約2,500倍であるのに対し、R体の鏡像異性体のそれはわずか5倍程度に過ぎない。反応の進行とともに系中でも触媒の鏡像体過剰率自体が向上する不斉自己触媒反応であることが極めて顕著な不斉の向上に寄与しているものと考えられる。これに対し、非不斉自己触媒反応においてこのように極めて微小な鏡像体過剰率を持った不斉触媒を用いて99.5% ee以上のキラルな生成物を得た例はわれわれの知る限りではない。
 以上のように鏡像体過剰率の向上を伴う不斉自己増殖反応は、きわめて低い鏡像体過剰率から出発しても他の不斉源の力を借りることなく自己増殖しつつ、その鏡像体過剰率を向上させ、やがてはほぼ一方のみの鏡像異性体になるものであり、極微小の不斉の偏りをもつ化合物がホモキラリティーに至るプロセスの一つのモデル反応を提供するものである。

Figure 4. Consecutive asymmetric autocatalysis of pyrimidyl alkanol (S)-6a with amplification of ee.


Figure 5. Change of the amount of S- and R-isomers of 6a in consecutive asymmetric autocatalysis.


Figure 6. Change of the amount of S- and R-isomers of 6c in consecutive asymmetric autocatalysis.


3. 低鏡像体過剰率の有機化合物存在下の不斉自己触媒反応

 前節では低鏡像体過剰率の5-ピリミジルアルカノールを不斉自己触媒とした場合、初めに添加した低鏡像体過剰率の不斉自己触媒中の両鏡像異性体の存在比のわずかな差異が認識され、過剰な鏡像異性体が選択的に自己増殖することを述べた。ここでは5-ピリミジルアルカノール以外の他のキラル化合物を不斉開始剤として用い、その存在下でピリミジン-5-カルバルデヒドとジイソプロピル亜鉛の反応を行った結果について以下に述べる。不斉開始剤の存在により、初期に生成する5-ピリミジルアルカノールの鏡像異性体比にわずかな偏りが生じ (図7)、これを不斉自己触媒とする不斉自己触媒反応によって、その偏りは急速に増大し、不斉開始剤の絶対配置に対応した絶対配置を持つ5-ピリミジルアルカノールが高い鏡像体過剰率で得られるものと考え、以下検討を行った。
 不斉開始剤として低鏡像体過剰率のマンデル酸エステル 7 (約0.1% ee)の存在下、ピリミジン-5-カルバルデヒド5bとジイソプロピル亜鉛の反応を検討した(表2) [39]。その結果、(S)-マンデル酸エステル7存在下では、5-ピリミジルアルカノール (R)-6bが、逆に(R)-7存在下では、(S)-6bがそれぞれ高い鏡像体過剰率で生成した(entries 1, 2)。これらの結果は、予期した通りマンデル酸エステルのわずかな鏡像異性体比の偏りが、はじめに生成する5-ピリミジルアルカノールの鏡像異性体比の偏りを誘起し、続く不斉自己触媒反応により偏りが著しく増大したものであると考えられる。さらに低い鏡像体過剰率(約0.05% ee)のマンデル酸エステル7を用いた場合でも、同じ立体相関性で反応が進行した (entries 3, 4)。このようにして得られた5-ピリミジルアルカノールは不斉自己触媒反応を繰り返すことにより、さらにその鏡像体過剰率を向上させることが出来ることは明らかである。キラルなカルボン酸8、アミン9も不斉開始剤として有効に作用し、それぞれ対応する絶対配置を持つアルカノールが高い鏡像体過剰率で得られた(entries 5, 6 及び7, 8)。さらに、極めて小さな違い、すなわちメチル基とエチル基の違いによる不斉を持ったアルコールである2-ブタノール10も不斉開始剤として用いることが可能であり、約0.1% eeのS体の2-ブタノールからはS体の5-ピリミジルアルカノール6bが73% eeで得られ、逆の絶対配置であるR体の2-ブタノール10を用いた場合には、逆の絶対配置であるR体の5-ピリミジルアルカノール6bが76% eeで得られた。
 


Figure 7. Schematic representation of asymmetric autocatalysis initiated by various chiral initiators with low ee.




4. 円偏光の不斉と高鏡像体過剰率のキラル有機化合物との関連づけ

 生体関連化合物がなぜ現在の鏡像異性体を選択したかについて活発に議論されているが[40-45]、その中で不斉源となったと考えられている要因として不斉無機結晶と並び円偏光が挙げられている[46, 47]。実際、ラセミ体のアミノ酸に円偏光を照射すると、その光分解はわずかながらも一方のエナンチオマーを選択的に分解し、不斉なアミノ酸が得られることは実験的に証明されている[48, 49]。しかし、ここで得られるアミノ酸の鏡像体過剰率は微小(約2% ee)であり、多くの天然の有機化合物が持つ極めて高い鏡像体過剰率とは明確な隔たりがある。われわれは不斉自己触媒反応によって実験的にこの間隙を埋め、これらを関連づけることが可能であると考えた(図8)。
 ラセミ体のロイシン 11に対し右円偏光照射により約2%eeのL-ロイシン 11が得られることはBonnerらが報告している [48]。そこで低鏡像体過剰率 (約2%ee)のL-ロイシン11を不斉開始剤としてピリミジン-5-カルバルデヒド5bとジイゾプロピル亜鉛の反応を行った。その結果23% eeの(R)-5-ピリミジルアルカノール6bが得られることが明らかになった [39]。このように、はじめに用いたL-ロイシンの鏡像体過剰率が極めて小さいにも関わらず、得られる5-ピリミジルアルカノール(R)-6bの鏡像体過剰率は予期した通りに著しく向上した。これをさらに不斉自己触媒反応により向上させることは極めて容易であり、したがって本結果は、物理的な不斉(Chirality)である円偏光と高い鏡像体過剰率のキラル化合物を初めて関連付けたことになり、円偏光のみを不斉源として、きわめて高い鏡像体過剰率のキラル有機化合物が生成する化学的過程を実現したことになる。 さらに、円偏光による光合成により低鏡像体過剰率 (<2% ee)ながら不斉合成できることが知られている[50, 51]、 [6]ヘリセン(ヘキサヘリセン)を不斉開始剤とする反応についても検討を行った。[6]ヘリセン12は、ベンゼン環6個が縮環したらせん状のキラルな炭化水素であり、金属への配位能力があるヘテロ原子を全く持たないキラルな化合物を不斉源として用いる不斉合成の点からも興味が持たれる。 (P)-(+)-[6]ヘリセン12 (>95% ee)を不斉開始剤として用い、ピリミジン-5-カルバルデヒド5cとジイソプロピル亜鉛を反応させたところ、95% eeの(S)-5-ピリミジルアルカノール6cが収率95%で生成した(図9) [52]。一方、逆の絶対配置である(M)-(-)-12 (>95% ee)存在下では、(R)-6cが93% eeで得られた。そこで、光不斉合成 [50]で生成するよりも低い鏡像体過剰率であるわずか0.13% eeの(P)-(+)-12を用いたところ、この場合も立体相関性良く(S)-ピリミジルアルカノール6cがより高い鏡像体過剰率 (56% ee)で生成した。一方、0.54% eeの(M)-(-)-12を用いると(R)-6c (62% ee)が得られた。以上、円偏光により得られる不斉よりも微小な鏡像体過剰率をもとに、高鏡像体過剰率の有機化合物を得ることが出来た[52]。


Figure 8. Asymmetric autocatalysis of pyrimidyl alkanol 5b in the presence of L-leucine with low enantiomeric excess: the first correlation between the chirality of circularly polarized light (CPL) and an organic compound with high enantiomeric excess.


Figure 9. Asymmetric autocatalysis of pyrimidyl alkanol 6c using [6]helicene as a chiral initiator.


5. 不斉無機結晶を不斉源とする不斉合成

 水晶(SiO2)は、互いに鏡像関係にある右水晶または左水晶として天然に存在する不斉無機結晶であり、有機化合物の不斉の起源とする説もある。しかし、水晶を不斉源として反応に用いた低い不斉収率の不斉合成の報告は[53, 54]、その再現性が否定されている[55]。不斉吸着現象によりわずかな不斉が得られることは報告されているものの[56]、高鏡像体過剰率の有機化合物が生成する不斉合成反応は、筆者らの研究以前には全く知られていなかった。そこで右および左水晶を不斉開始剤として用いてピリミジン-5-カルバルデヒド 5cとジイソプロピル亜鉛との反応を行った(図10) [57]。
 右水晶の粉末(平均粒径3-8 mm)存在下、ピリミジン-5-カルバルデヒド 5cとジイソプロピル亜鉛との反応を行ったところ、 (S)-5-ピリミジルアルカノール 6cが高収率 (95%)かつきわめて高い鏡像体過剰率 (97% ee)で生成した。逆に、左水晶の粉末存在下では97% eeの(R)-6cが生成した[57]。これらの結果は無機結晶である水晶が不斉源となり、高い鏡像体過剰率のキラルな有機化合物が生成することを示した初めての実験例である。
 つぎに、不斉無機イオン結晶である塩素酸ナトリウム(NaClO3)を不斉開始剤とする不斉自己触媒反応を検討した[58]。なおNaClO3はその飽和水溶液をかく拌条件下で冷却すると、 d体あるいは l体のみのキラリティーをもつ結晶が析出することが知られている[59]。
 まずd-NaClO3結晶 (粒径5-12 μm)存在下、ピリミジン-5-カルバルデヒド5cとジイソプロピル亜鉛の反応を行ったところ、(S)-6cが98% eeで生成した[58]。逆にl-NaClO3結晶の存在下では、 (R)-6cが98% eeで得られた。さらに、d-NaClO3とl-NaClO3の混合物(d/l = 3/1)存在下で反応を行ったところ、過剰に存在するd-NaClO3が生成物の絶対配置を制御した結果、(S)-6cが得られることを明らかにした。
 以上の結果は、右および左水晶や塩素酸ナトリウムなどの不斉無機結晶が不斉源として作用し、高鏡像体過剰率のキラル有機化合物が生成することを初めて実証したものである。また、不斉無機結晶が有機化合物の不斉の起源として有効に作用する例を示したことになり、科学的に重要な意義を持つと考えられる。


Figure 10. Asymmetric autocatalysis induced by chiral inorganic crystals: quartz and sodium chlorate.

おわりに

 以上、極めて効率的なキラル化合物の増殖機構である不斉自己触媒反応について、また極微小鏡像体過剰率の不斉自己触媒が鏡像体過剰率を著しく向上させ、最終的にほぼ一方のみの鏡像異性体になる反応について述べた。さらに、不斉の起源とされる諸力により誘起される微小な不斉をもとに不斉自己触媒反応を行ない、きわめて高い鏡像体過剰率の有機化合物に至る不斉進化の化学プロセスを具現することができた。

引用文献

1. Soai, K. and Shibata, T. Asymmetric autocatalysis and biomolecular chirality. In Pyi, G., Zucchi, C. and Caglioti, L. Ed., Advances in biochirality; pp 125, Elsevier, Amsterdam, 1999
2. Soai, K., Shibata, T. and Sato, I. Enantioselective automultiplication of chiral molecules by asymmetric autocatalysis, Acc. Chem. Res. 33, 382-390 (2000)
3. Soai, K. Rational design of chiral catalysis for the enantioselective addition reaction of dialkylzincs, Enantiomer 4, 591-598 (1999)
4. Soai, K. and Shibata, T. Design of chiral catalysis and asymmetric autocatalysis for the enantioselective additions of organozinc reagents, J. Synth. Org. Chem. Jpn. 55, 994-1005 (1997)
5. Soai, K. and Shibata, T. Asymmetric amplification and autocatalysis. In Ojima, I. Ed., Catalytic asymmetric synthesis, 2nd ed; pp 699, Wiley-VCH, New York, 2000
6. Soai, K., Shibata, T. and Sato, I. Asymmetric autocatalysis - discovery and development. Nippon Kagaku Kaishi (J. Chem. Soc. Jpn. Chem. Ind. Chem.) 141-149 (2001) 7. Soai, K., Sato, I. and Shibata, T. Asymmetric autocatalysis and the origin of chiral
homogeneity in organic compounds. Chem. Rec. 1, 321-331 (2001)
8. Soai, K. and Sato, I Asymmetric automultiplication of organic compound and origin of chirality. Kagaku to Kyoiku (Chemistry and Education) 48, 444-447 (2000)
9. Soai, K., Sato, I. and Shibata, T. Asymmetric automultiplication. Gendai Kagaku 359, 16-23 (2001)
10. Soai, K. and Sato, I. Asymmetric autocatalysis and its application to chiral discrimination. Chirality 14, 548-554 (2002)
11. Soai, K., Sato, I. and Shibata, T. Asymmetric automultiplication of chiral compounds by asymmetric autocatalysis. Yuki Gosei Kagaku Kyokai Shi (J. Synth. Org. Chem. Jpn.) 60, 668-678 (2002)
12. Soai, K. Asymmetric autocatalysis and the origin of chiral homogeneity of biologically relevant molecules In Pyi, G., Zucchi, C. and Caglioti, L. Ed., Fundamentals of life; pp 427, Elsevier, Paris, 2002
13. Bolm, C., Bienewald, F. and Seger, A. Asymmetric autocatalysis with amplification of chirality. Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 35, 1657-1659 (1996)
14. Avalos, M., Babiano, R., Cintas, P., Jim始ez, J. L. and Palacios, J. C. Chiral autocatalysis: where stereochemistry meets the origin of life. Chem. Commun. 887-892 (2000)
15. Buschmann, H., Thede, R. and Heller, D. New developments in the origins of the homochirality of biologically relevant molecules. Angew. Chem. Int. Ed. 39, 4033-4036 (2000)
16. Frank, F. C. On spontaneous asymmetric synthesis. Biochim. Biophys. Acta 11, 459-463 (1953)
17. Soai, K. and Niwa, S. Enantioselective addition of organozinc reagents to aldehydes. Chem. Rev. 92, 833-856 (1992)
18. Noyori, R. and Kitamura, M. Enantioselective Addition of Organometallic Reagents to Carbonyl Compounds: Chirality transfer, multiplication, and amplification. Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 30, 49-69 (1991)
19. Pu, L. and Yu, H.-B. Catalytic asymmetric organozinc additions to carbonyl compounds. Chem. Rev. 101, 757-824 (2001)
20. Soai, K., Hori, S. and Niwa, S. Enantioselective addition of dialkylzincs to pyridinecarbaldehyde in the presence of chiral aminoalcohols: asymmetric synthesis of pyridylalkyl alcohols. Heterocycles 29, 2065-2067 (1989)
21. Soai, K., Niwa, S. and Hori, H. Asymmetric self-catalytic reaction. Self-production of chiral 1-(3-pyridyl)alkanols as chiral self-catalysts in the enantioselective addition of dialkylzinc reagents to pyridine-3-carbaldehyde. J. Chem. Soc. Chem. Commun. 982-983 (1990)
22. Shibata, T., Choji, K., Morioka, H., Hayase, T. and Soai, K. Highly enantioselective synthesis of a chiral 3-quinolylalkanol by an asymmetric autocatalytic reaction. Chem. Commun. 751-752 (1996)
23. Shibata, T., Morioka, H., Hayase, T., Choji, K. and Soai, K. Highly enantioselective catalytic asymmetric automultiplication of chiral pyrimidylalcohol. J. Am. Chem. Soc. 118, 471-472, (1996)
24. Shibata, T., Yonekubo, S. and Soai, K. Practically perfect asymmetric autocatalysis using 2-alkynyl-5-pyrimidylalkanol. Angew. Chem. Int. Ed. 38, 659-661 (1999) 25. Puchot, C., Samuel, O., Du紡ch, E., Zhao, S., Agami, C. and Kagan, H. B. Nonlinear effects in asymmetric synthesis. Examples in asymmetric oxidations and aldolization reactions. J. Am. Chem. Soc. 108, 2353-2357 (1986)
26. Oguni, N., Matsuda, Y. and Kaneko, T. Asymmetric amplifying phenomena in enantioselective addition of diethylzinc to benzaldehyde. J. Am. Chem. Soc. 110, 7877-7878 (1988)
27. Kitamura, M., Okada, S., Suga, S. and Noyori, R. Enantioselective addition of dialkylzincs to aldehydes promoted by chiral amino alcohols. Mechanism and nonlinear effect. J. Am. Chem. Soc. 111, 4028-4036 (1989)
28. Bolm, C., Schlingloff, G., Harms, K. and Felder, M. Catalyzed enantioselective alkylation of aldehydes. Chem. Ber. 125, 1191-1203 (1992)
29. Terada, M., Mikami, K. and Nakai, T. Remarkable positive nonlinear effect in the enantioselective glyoxylate-ene reaction catalyzed by a chiral titanium complex J. Chem. Soc., Chem. Commun. 1623-1624 (1990)
30. Girard, C. and Kagan, H. B. Nonlinear effects in asymmetric synthesis and stereoselective reactions: Ten years of investigation. Angew. Chem. Int. Ed. 37, 2922-2959 (1998)
31. Fenwick, D. R. and Kagan, H. B. Asymmetric amplification. Top. Stereochem. 22, 257-296 (1999)
32. Avalos, M., Babiano, R., Cintas, P., Jim始ez, J. L. and Palacios, J. C. Nonlinear stereochemical effects in asymmetric reactions. Tetrahedron: Asymmetry 8, 2997-3017 (1997)
33. Mikami, K., Terada, M., Korenaga, T., Matsumoto, Y., Ueki, M. and Angelaud, R. Asymmetric Activation. Angew. Chem. Int. Ed. 39, 3532-3556 (2000).
34. Soai, K., Shibata, T., Morioka, H. and Choji, K. Asymmetric autocatalysis and amplification of enantiomeric excess of a chiral molecule. Nature(London) 378, 767-768 (1995)
35. Sato, I., Yanagi, T. and Soai, K. Highly enantioselective asymmetric autocatalysis of 2-alkenyl- and 2-vinyl-5-pyrimidyl alkanols with significant amplification of enantiomeric excess. Chirality 14, 166-168 (2002)
36. Shibata, T., Choji, K., Hayase, T., Aizu, Y. and Soai, K. Asymmetric autocatalytic reaction of 3-quinolylalkanol with amplification of enantiomeric excess. Chem. Commun. 1235-1236 (1996)
37. Tanji, S., Kodaka, Y., Ohno, A., Shibata, T., Sato, I. and Soai, K. Asymmetric autocatalysis of 5-carbamoyl-3-pyridyl alkanols with amplification of enantiomeric excess. Tetrahedron: Asymmetry 11, 4249-4353 (2000)
38. Urabe, H., Yonekubo, S., Sato, I., Shibata, T. and Soai, K. Asymmetric autocatalysis using 2-tert-butylethynyl-5-pyrimidyl alkanol with significant amplification of enantiomeric excess. The 77th annual meeting of Chemical Society of Japan, Funabashi, Japan, March, 2000; 1F237
39. Shibata, T., Yamamoto, J., Matsumoto, N., Yonekubo, S., Osanai, S. and Soai, K. Amplification of a slight enantiomeric imbalance in molecules based on asymmetric autocatalysis. -The first correlation between high enantiomeric enrichment in a chiral molecule and circularly polarized light-. J. Am. Chem. Soc. 120, 12157-12158 (1998)
40. Bonner, W. A. The origin and amplification of biomolecular chirality. Orig. Life Evol. Biosphere 21, 59-111 (1991)
41. Mason, S. Biomolecular homochirality. Chem. Soc. Rev. 17, 347-359 (1988) 42. Eschenmoser, A. Chemical etiology of nucleic acid structure. Science 284, 2118-2124 (1999)
43. Keszthelyi, L. Origin of the homochirality of biomolecules. Q. Rev. Biophys. 28, 473-507 (1995)
44. Avetisov, V. and Goldanskii, V. I. Mirror symmetry breaking at the molecular level. Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 93, 11435-11442 (1996)
45. Podlech, J. Origin of organic molecules and biomolecular homochirality. Cell Mol. Life Sci. 58, 44-60 (2001)
46. Bailey, J., Chrysostomou, A., Hough, J. H., Gledhill, T. M., McCall, A., Clark, S., M&#eacute;nard, F. and Tamura, M. Circular polarization in star-formation regions: Implications for biomolecular homochirality. Science 281, 672-674 (1998)
47. Feringa, B. L. and van Delden, R. A. Absolute asymmetric synthesis: The origin, control, and amplification of chirality. Angew. Chem. Int. Ed. 38, 3418-3438 (1999)
48. Flores, J. J., Bonner, W. A. and Massey, G. A. Asymmetric photolysis of (RS)-leucine with circularly polarized ultraviolet light. J. Am. Chem. Soc. 99, 3622-3625 (1977)
49. Nishino, H., Kosaka, A., Hembury, G. A., Shitomi, H., Onuki, H. and Inoue, Y. Mechanism of pH-dependent photolysis of aliphatic amino acids and enantiomeric enrichment of racemic leucine by circularly polarized light. Org. Lett. 3, 921-924 (2001)
50. Moradpour, A., Nicoud, J. F., Balavoine, G., Kagan, H. and Tsoucaris, G. Photochemistry with circularly polarized light. The synthesis of optically active hexahelicene. J. Am. Chem. Soc. 93, 2353-2354 (1971)
51. Bernstein, W. J., Calvin, M. and Buchardt, O. Absolute asymmetric synthesis. I. On the mechanism of the photochemical synthesis of nonracemic helicenes with circularly polarized light. Wavelength dependence of the optical yield of octahelicene. J. Am. Chem. Soc. 94, 494-498 (1972)
52. Sato, I., Yamashima, R., Kadowaki, K., Yamamoto, J., Shibata, T. and Soai, K. Asymmetric induction by helical hydrocarbons: [6] and [5]Helicenes. Angew. Chem. Int. Ed. 40, 1096-1098 (2001)
53. Schwab, G. M. and Rudolph, L. Catalytic cleavage of racemates by d- and l-quartz. Naturwissenschaften 20, 363 (1932)
54. Terentユev, A. P. and Klabunovskii, E. I. Catalytic asymmetric synthesis. I. Asymmetric decomposition of racemic 2-butanol by quartz catalysts. Sbornik Statei Obshchei Khim. 2, 1598-1604 (1953); Chem. Abstr. 49, 5262g (1955)
55. Amariglio, A., Amariglio, H. and Duval, X. Essais de r斬ctions dissym師riques sur quartz optiquement actif. Helv. Chim. Acta 51, 2110-2132 (1968)
56. Bonner, W. A., Kavasmaneck, P. R., Martin, F. S. and Flores, J. J. Asymmetric adsorption of alanine by quartz. Science 186, 143-144 (1974)
57. Soai, K., Osanai, S., Kadowaki, K., Yonekubo, S., Shibata, T. and Sato, I. d- and l-Quartz promoted highly enantioselective synthesis of a chiral organic molecule. J. Am. Chem. Soc. 121, 11235-11236 (1999)
58. Sato, I., Kadowaki, K. and Soai, K. Asymmetric synthesis of an organic compound with high enantiomeric excess induced by inorganic ionic sodium chlorate. Angew. Chem. Int. Ed. 39, 1510-1512 (2000)
59. Kondepudi, D. K., Kaufman, R. J. and Singh, N. Chiral symmetry breaking in sodium chlorate crystallization. Science 250, 975-977 (1990)

[Note Added in Proof]
約0.00005% eeという超極微小不斉の5-ピリミジルアルカノール 6c から出発する3回の連続的不斉自己触媒反応で鏡像体過剰率は99.5% ee以上に達する。
60. Sato, I., Urabe, H., Ishiguro, S., Shibata, T. and Soai, K. Amplification of chirality from extremely low to greater than 99.5% ee by asymmetric autocatalysis. Angew. Chem. Int. Ed., in press.
また不斉源を加えずに、ピリミジンカルバルデヒド 5 とジイソプロピル亜鉛を反応させると検出限界以上の鏡像体過剰率を持つR体またはS体の5-ピリミジルアルカノール 6 が生成する。
61. Soai, K., Shibata, T. and Kowata, Y. Japan Kokai Tokyo Koho 9-268179 (1997)
62. Soai, K., Sato, I., Shibata, T., Komiya, S., Hayashi, M., Matsueda, Y., Imamura, H., Hayase, T., Morioka, H., Tabira, H., Yamamoto, J. and Kowata, Y. Asymmetric synthesis of pyrimidyl alkanol without adding chiral substances by the addition of diisopropylzinc to pyrimidine-5-carbaldehyde in conjunction with asymmetric autocatalysis. Tetrahedron Asymmetry., in press.

Return to Japanese Contents



Return to English Contents