HELICAL STRUCTURES OF HETEROCHIRAL ADENYLYL-(3'-5')-ADENOSINES AND THEIR ABILITY TO FORM TRIPLE HELIX WITH POLY(U)

Hidehito Urata*, Makiko Go, Norihiko Ohmoto and Masao Akagi*

Osaka University of Pharmaceutical Sciences, 4-20-1 Nasahara, Takatsuki, Osaka 569-1094, Japan
Email: urata@gly.oups.ac.jp, akagi@gly.oups.ac.jp

(Abstract)

   We synthesized four optical isomers [D-(ApA), ADpAL, ALpAD, L-(ApA)] of adenylyl-(3'-5')-adenosine (ApA) and investigated the chemical and helical structures of the dimers by means of enzymatic digestion, circular dichroism (CD) and UV melting experiments. The results of enzymatic digestion experiments with nuclease P1, snake venom phosphodiesterase (SVPD) and RNase T2 confirmed the chemical structures of the dimers. It is known that D-(ApA) and L-(ApA) form right- and left-handed helical structures, respectively [P. O. P. Ts'o et al. Biochemistry, 9, 3499-3514 (1970)]. The CD spectra of the heterochiral dimers suggested that ALpAD has a right-handed helical sense whereas ADpAL has a left-handed helical sense. This result was also confirmed by UV melting experiments of the triple helices formed by the dimers with D-poly(U), which showed that the thermal stability of D-(ApA)・2poly(U) and ALpAD・2poly(U) is much higher than that of L-(ApA)・2poly(U) and ADpAL・2poly(U). Thus, the propensity of ALpAD to form the right-handed helical structure is similar to that of D-(ApA), whereas L-(ApA) and ADpAL have the similar propensity of resisting the formation of the right-handed helical structure. These results indicate that the chirality of the 3'-end residue is the primary factor for determining the helical sense of ApA. On the basis of the above results, the chemical evolution of RNA and the origin of the homochirality of RNA were discussed.
   (Keyword) homochirality of RNA, adenylyl-(3'→5')-adenosine (ApA), structure of heterochiral RNA, chemical evolution of RNA, RNA world

ヘテロキラルADENYLYL-(3'-5')-ADENOSINEのらせん構造 およびPOLY(U)との三重鎖形成能

浦田秀仁*,郷真貴子,応本憲彦,赤木昌夫*

大阪薬科大学 機能分子創製化学研究室 〒569-1094大阪府高槻市奈佐原4-20-1

要旨

リボ核酸(RNA)のホモキラリティーの確立という問題に対するモデルを構築する一環として,adenylyl-(3'-5')-adenosine (ApA)の4種の光学異性体 [D-(ApA), ADpAL, ALpAD, L-(ApA)]を合成し,これまで明らかにされていないヘテロキラルなApAの構造を解析する目的で以下の検討を行った.幾つかの核酸分解酵素による分解反応で,D-(ApA)は完全に分解されるが,L-(ApA)は分解反応を受けなかった.一方,ヘテロキラルなダイマーの酵素分解反応はL型アデノシンの位置および酵素の種類に依存した.円二色性 (CD) スペクトルからD-(ApA)とALpADは右巻きらせんを,L-(ApA)とADpALは左巻きらせんを形成することが明らかになり,これらのpoly(U)との三重鎖形成能はダイマー単独でのらせんの巻き方に強く依存しており,左巻きらせんを形成するL-(ApA)とADpALはpoly(U)との三重鎖の熱安定性は大きく低下した.以上の結果から,ApAの3'-末端側残基のキラリティーがApAのらせんの巻き方やpoly(U)との三重鎖形成能を強く支配していることが明らかになった.今回得られた知見を基に,RNAの化学進化とホモキラリティーの起源について考察した.

1. 緒言

RNAが生命の前駆物質であったとするRNAワールド仮説[1]は,RNAに触媒能が見出されて以来主流となってきたが,このRNAワールド仮説にも幾つかの問題がある.その第1点は,触媒活性を持つような比較的長鎖のRNAがどのようにして生成したかという問題であり,第2点はRNAのホモキラリティーがどのようにして達成されたかという問題である.糖やアミノ酸は不斉炭素を有し,D,L2種の光学異性体が存在可能で,原始地球上で酵素のようなキラル触媒なしに生成したであろう生体分子は,D型とL型の1:1の混合物であるラセミ体であったと考えられる.RNAはD-リボースを構成糖としたD-ヌクレオチドが重合したポリマーで,DNAと同様D-ホモキラリティーを有している.このD-ホモキラリティーは核酸の高次構造形成や機能発現に不可欠なものと考えられており,ホモキラリティーの確立なしに現在の生命システムの出現はあり得なかったと考えられている.つまり,以上の2つの問題点をまとめると,ラセミ体ヌクレオチドからどのようにしてD-ホモキラルなRNAが生成したかということになる. JoyceらはRNAを鋳型に用いたラセミ体モノヌクレオチドの非酵素的重合反応を検討し[2],同様にD型モノヌクレオチドを重合させた場合と比べ,その重合効率が極端に低下することを報告しており,彼らはRNA以外の鋳型を用いてたとしてもこの問題を解決する手段は見いだせそうにないとまで言及している[3].著者らは,この「エナンチオ交叉阻害」の問題はRNAの化学進化を考える上で最も大きな問題の1つであり,またRNAのホモキラリティーの確立という問題とも関連している可能性もあると考え,ラセミ体モノヌクレオチドの非酵素的重合反応に着目した.FerrisらはD-モノヌクレオチドの重合反応の触媒として粘土鉱物であるモンモリロナイトが有効であることを報告しており[4],このモンモリロナイトを用いてラセミ体モノヌクレオチドの重合反応を行ったところ,顕著な重合効率の低下を引き起こすことなくRNAオリゴマーが生成することを,著者らおよびFerrisらのグループがそれぞれ独立に見出した[5].この反応では様々な結合異性体とともにホモキラルなオリゴマーと,D-ヌクレオチドとL-ヌクレオチドが混在するヘテロキラルなオリゴマーが生成することが判明し,またホモキラルなオリゴマーが幾分優先的に生成してくることもわかった.このようにRNAの化学進化の過程で存在したであろうヘテロキラルなRNAオリゴマーとホモキラルなRNAオリゴマーの構造化学的性質の相違が,ラセミ体モノヌクレオチドからD-ホモキラルなRNAへの化学進化を実現した可能性が考えられる.しかし,ヘテロキラルなRNAの構造や物性に関する報告は著者らが知る限り皆無で,RNAがホモキラリティーを獲得した過程を考察するためにはヘテロキラルなRNAの構造や物性に関する情報が必要である. 過去に,最も単純なRNAであるApAの両光学異性体 [D-(ApA), L-(ApA)] を合成し,天然型であるD-(ApA)は右巻きの,非天然型であるL-(ApA)は左巻きのらせん構造を形成することがTazawaらにより報告されているが[6],ヘテロキラルなApAに関する報告はなされていない.そこで本論文では,ホモキラルなRNAとヘテロキラルなRNAの構造化学的性質の差異を調べる一環として,最も単純なRNAであるダイマーApAの4種の光学異性体[D-(ApA), ADpAL, ALpAD, L-(ApA)]を合成し,それらの構造化学的性質について以下の検討を行った.

2. 実験

2−1 試薬

Nuclease P1, RNase 2および snake venom phosphodiesterase (SVPD) はそれぞれヤマサ醤油,シグマ,ベーリンガー社製を用いた.Poly(U)はアマシャムファルマシア社製を用いた.L-リボースは我々が開発した方法により合成し[7],D-リボースを出発原料とする天然型アデノシンの合成法[8]をL-リボースに適用してL-アデノシンを合成した.また,各ApA光学異性体 [D-(ApA), ADpAL, ALpAD, L-(ApA)] はアデノシン,L-アデノシンを出発原料としてリン酸トリエステル法[9]により合成した.

2−2 核酸分解酵素による分解反応

(a) Nuclease P1による分解
凍結乾燥した各ApA異性体(1 OD unit)にMilliQ水10 μl, 0.2 M 酢酸アンモニウム (pH 5.0) 4 μlを加え,nuclease P1 (1mg/ml) 2 μlを加え,37℃で3h反応させた後,30 mM EDTA 4 μlを加えた.
(b) Snake venom phosphodiestrase (SVPD) による分解
凍結乾燥した各ApA異性体(1 OD unit)に10 mM MgCl2, 50 mM Tris-HCl (pH 8.0) 14 μlを加え,SVPD (0.5mg/ml) 1 μlを加え,37ーCで3h反応させた後,30 mM EDTA 4 μlを加えた.
(c) RNase 2による分解
凍結乾燥した各ApA異性体(1 OD unit)にMilliQ水8 μl, 0.2 M 酢酸アンモニウム (pH 5.0) 4 μlを加え,RNase 2 (0.05 U/μl) 4 μlを加え,37℃で3h反応させた後,10 mM CuSO4 2 μlを加えた.
以上の酵素分解物をMillipore社製Ultrafree-MC (10,000 NMWL) を用いて限外ろ過後,島津製作所製LC-10Aシステムを用いた高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により分析した.カラムはWaters製μBondasphere 5C18 100Å(ø3.9 x 150 mm)を用い,溶出は50 mM KH2PO4 (pH 4.0)を含むアセトニトリルの直線濃度勾配(0-10%/20min)で行った.

2−3 ApA異性体のモル吸光係数の測定

L-(ApA)以外の各ApA異性体について,6本のポリプロピレン製試験管に正確に2.5 OD unitsずつ凍結乾燥し,そのうち3本は上記と同様にnuclease P1あるいは SVPDによる酵素反応に付し,アデノシンと5'-AMPに完全分解した.残りの3本は酵素を加えないこと以外はまったく同様に操作し,反応後0.1 M NaCl, 10 mM NaH2PO4 (pH 7.0) 3 mlに溶解し,260 nmにおける25℃での吸光度を測定した.アデノシンと5'-AMPのモル吸光係数に,分解によって生じるhyperchromicityを考慮して各ダイマーのモル吸光係数を求めた.D-(ApA)およびALpADはnuclease P1,ADpALはSVPDにより分解反応を行ったが,いずれの酵素にも完全分解されないL-(ApA)のモル吸光係数はD-(ApA)と同一と仮定した.各ApA異性体のモル吸光係数はD-(ApA); 25,500, ADpAL; 26,400, ALpAD; 26,200, L-(ApA); 25,500 [l/mmol・cm]であった.

2−4 CDスペクトルの測定

(a) ApA単独でのCDスペクトル
凍結乾燥した各ApA異性体に0.1 M NaCl, 10 mM NaH2PO4 (pH 7.0) を加え,ダイマー濃度40 μMとしたサンプル溶液を光路長1cmのセルで測定した.測定は日本分光社製J-820円二色性分散計により行った.
(b) Poly(U)との三重鎖のCDスペクトル
ApAおよびpoly(U)を凍結乾燥し,ヌクレオチド残基濃度がApA 40 μM, poly(U) 80 μMとなるよう10 mM MgCl2, 10 mM Tris-HCl (pH 7.5) を加え測定サンプルとした.

2−5 UV混合曲線

総ヌクレオチド残基濃度が120 mMとなるように各ApA異性体とpoly(U)を混合比0%から100%の範囲で適宜混合したサンプルを10 mM MgCl2, 10 mM Tris-HCl (pH 7.5)に溶解し,光路長1cmのセルを用いて-5℃で260 nmにおける吸光度を測定した.測定は日本分光社製Ubest-55分光光度計により行った.

2−6 融解曲線の測定

ヌクレオチド残基濃度がApA 40 μM, poly(U) 80 μMとなるよう10 mM MgCl2, 10 mM Tris-HCl (pH 7.5) に溶解したサンプルを光路長1cmのセルに加え,温度コントロール'ニットを装着した日本分光社製Ubest-55分光光度計により行った.温度は0℃から30℃まで0.5℃/minの速度で昇温し,0.2℃毎に260 nmにおける吸光度を測定した.融解温度(Tm値)は得られた融解曲線を1次微分して求めた.

3. 結果および考察

3−1 各ApA異性体に対する核酸分解酵素の反応性

合成した各ApA異性体の構造確認と,核酸分解酵素のL型核酸に対する基質認識特性を調べる目的でnuclease P1, SVPDおよびRNase 2による分解反応を行った.その結果をFig. 1に示した.天然型のD-(ApA)はいずれの酵素によっても完全に分解され,対応するアデノシンおよび5'-ないし3'-AMPを与えたが(Fig. 1A),その鏡像体であるL-(ApA)はいずれの酵素に対してもほぼ完全な抵抗性を示した(Fig. 1B).一方,ヘテロキラルなダイマーのうちADpALはnuclease P1, RNase 2により完全に分解されたが,SVPDには抵抗し(Fig. 1C),その鏡像体であるALpADは逆にSVPDにのみ分解された(Fig. 1D).この結果をFig. 2にまとめたが,3'-exonucleaseであるSVPDがALpADを分解し,ADpALを分解できなかったことはSVPDが加水分解するリン酸ジエステル結合の3'-末端側のヌクレオチド残基を認識していることを意味している.また,nuclease P1とRNase 2がともにADpALを分解したことは,これらが加水分解するリン酸ジエステル結合上の作用点が異なっているにもかかわらず,ともに加水分解するリン酸ジエステル結合の5'-末端側のヌクレオチド残基を認識していることを示している.以上の結果は各核酸分解酵素の基質認識特性を良く反映したもので[10],合成した各ApA異性体の化学構造の妥当性を支持している.


Figure 1. Reversed-phase HPLC profiles of D-(ApA) (A), L-(ApA) (B), ALpAD (C) and ADpAL (D) and their reactions with nuclease P1, RNase T2 and snake venom phosphodiesterase (SVPD). Asterisks represent a peak derived from EDTA. Elution was carried out on a column of μBondasphere C18-100Å(Waters) with a linear gradient of CH3CN (0-10%) for 20 min in 50 mM KH2PO4, pH 4.0.


Figure 2. Schematic presentation of the results for enzymatic digestion of heterochiral ApAs.

3−2 各ApA異性体のらせん構造

上述のようにApAは単独でらせん様構造を形成し,D-(ApA)は右巻きの,L-(ApA)は左巻きのらせん構造をそれぞれ形成することがTazawaらにより報告されており[6],ホモキラルなApAのらせん構造がヘテロキラル化することによってどのように変化するかを調べる目的でCDスペクトルの測定を行った.その結果をFig. 3に示した.D-(ApA)は270 nmと252 nmにそれぞれ正と負に分裂したほぼ同強度のCotton bandを有し,典型的な保存的(conservative)なCDスペクトルを示した.これはアデニン環がらせん軸に対しほぼ垂直であるなら,アデニンの遷移モーメントが右巻きのhelical twistを形成している,つまり2つのアデニン環が右巻きのスタッキング相互作用をしていることを意味する[11].また,L-(ApA)はD-(ApA)と全く対称的なスペクトルを示しており,D-(ApA)の鏡像となるらせん構造を形成していることから,Tazawaらの報告通りD-(ApA)は右巻き,L-(ApA)は左巻きのらせん構造を形成していることがわかる.一方,ヘテロキラルなApAでは,ALpADはCD強度はやや弱くなっているもののD-(ApA)と類似のスペクトルを示し,ADpALはALpADとは対称的でL-(ApA)と類似のスペクトルを示した.このことは,ヘテロキラルなApAはホモキラルなApAとはやや異なるスタッキング様式をとるものの,ALpADおよびADpALはそれぞれ右巻きおよび左巻きのらせん構造を形成していることを示唆している.また,以上の結果からApAのらせんの巻き方は3'-末端側残基のキラリティーに大きく依存していることが明らかになった[12].


Figure 3. CD spectra of homochiral ApAs (left) and heterochiral ApAs (right). Concentration of ApAs is 40 μM in 0.1 M NaCl, 10 mM sodium phosphate, pH 7.0. Measurements were carried out at 0℃.

3−3 各ApA異性体のpoly(U)との三重鎖形成能

D-(ApA)とL-(ApA)はpoly(U)と三重らせん構造を形成することが知られているが[6],ヘテロキラルなApAがどういった挙動を示すか検討を行った.Fig. 4に各ApA異性体とpoly(U)とのUV混合曲線を示している.核酸は二重鎖や三重鎖などの二次構造を形成するとUV吸収強度が低下する淡色化が認められる.D-(ApA)やL-(ApA)を様々な割合でpoly(U)と混合すると,AとUの残基モル比が約1 : 2のところで吸光度の極小値(淡色率の極大値)が認められ(Fig. 4A, B),Tazawaらが報告しているとおり三重鎖を形成していることがわかる.一方,2種のヘテロキラルなダイマーの場合(Fig. 4C, D)にも同様にA : U = 1 : 2の混合比で極小値が認められ,これらもやはり三重鎖を形成していることが明らかになった.


Figure 4. UV mixing curves of D-(ApA) (A), L-(ApA) (B), ADpAL (C) and ALpAD (D) with poly(U) in 10 mM MgCl2, 10 mM Tris-HCl, pH 7.5 at -5℃. Total nucleotide concentration is 120 μM.
次に,これらの三重鎖の熱安定性を評価したのがFig. 5で,各三重鎖の熱による融解に伴う吸光度変化を示している.また,この融解曲線から求めた融解温度(Tm値)をFig. 6に示している. ALpAD・2poly(U)はD-(ApA)・2poly(U)と類似のTm値(13.7℃, 14.7℃)を示し,ほぼ同等の安定性を有していることがわかる.しかし,ADpAL・2poly(U)とL-(ApA)・2poly(U)は大きく安定性が低下し,かつ両者はほぼ同等のTm値(6.6℃, 5.7℃)を有している.つまり,4種のApA異性体が,poly(U)との三重鎖の安定性において2つのグループに類別されたことになる.Fig. 7はこれら三重鎖のCDスペクトルであるが,D-(ApA)・2poly(U)は右巻きの三重鎖を形成することが知られているpoly(A)・2poly(U)と非常に良く似たスペクトルを示し[13],右巻きの三重鎖を形成していることがわかるが,他の3種の三重鎖も低温では本質的に同様のCDスペクトルを示したことから,これらはすべて右巻きの三重鎖を形成していることがわかる.
以上の結果から各ApA異性体の構造について考察すると,D-(ApA)・2poly(U)とALpAD・2poly(U)が同等の安定性を示したことからD-(ApA)とALpADは同程度の右巻きらせん形成能を有していることがわかる.これに対して三重鎖の安定性が大きく低下したL-(ApA)とADpALは,D-(ApA)とALpADと比べ右巻きらせん形成能が著しく低下している.これはダイマー単独でのCDスペクトルの結果を考慮すると,L-(ApA)とADpALは左巻きらせん構造を形成し,右巻きらせん構造をとりにくい性質を反映していると考えらる.また以上のことより,ヘテロキラルなApAではL-アデノシン残基の導入位置の違いで右巻きらせん形成能が大きく異なる,つまりALpADはD-(ApA)と同程度の右巻きらせん形成能を有し,一方ADpALはL-(ApA)と同程度の左巻きらせん形成能を有することから,3'-末端側残基のキラリティーがApAのらせん構造や(ApA)・2poly(U)の安定性を支配する主な要因であることが強く示唆された[12].


Figure 5. UV melting profiles of the triplexes of D-(ApA) (closed circles), L-(ApA) (open circles), ADpAL (closed triangles) and ALpAD (open triangles) with poly(U). Nucleotide concentration is 40 μM for ApAs and 80 μM for poly(U) in 10 mM MgCl2, 10 mM Tris-HCl, pH 7.5. The Tm values in the text and Figure 6 were determined from the first-derivative plots of the profiles.


Figure 6. Histogram of the melting temperatures of the triplexes formed by each ApA isomer with poly(U).


Figure 7. Temperature dependence of CD spectra of the triplexes of D-(ApA) (A), L-(ApA) (B), ADpAL (C) and ALpAD (D) with poly(U). Nucleotide concentration is 40 μM for ApAs and 80 μM for poly(U) in 10 mM MgCl2, 10 mM Tris-HCl, pH 7.5. Solid lines represent spectra at -5 and 30℃.

3−4 各ApA異性体のらせん構造とRNAの化学進化に関する考察

4種のApA異性体はそれ自身のらせんの巻き方によって右巻きのD-(ApA)とALpAD,および左巻きのL-(ApA)とADpALに類別できた.モノヌクレオチドの鋳型指示重合反応では鎖の伸長は5'→3'方向に進むと報告されているが[14],Joyceらは,モノヌクレオチドの鋳型指示重合反応のL型ヌクレオチドによる阻害は,伸長鎖の3'-末端へのL型モノヌクレオチドの取り込みによるもので,伸長鎖の3'-末端に取り込まれたL型ヌクレオチドはさらなる重合反応に立体的に不利となり,チェーンターミネーターとして働くためであると結論している[2].Joyceらが行ったpoly(C)を鋳型にしたラセミ体グアニンモノヌクレオチドの重合反応の系で生成するダイマーはpGpGであり,本研究でのpoly(U)とApAの系とでは,ダイマーの5'-リン酸の有無および塩基の種類に違いがあるためヘテロキラルなpGpGの構造化学的挙動がヘテロキラルなApAのそれとは異なる可能性がある.また,G-Cペアーでは二重鎖が,A-Uペアーでは三重鎖が最安定な二次構造として形成される点で重合反応の性質にも相違がある可能性もある[15].従って,本研究結果を用いてJoyceらの報告に対して直接的に言及することはできないが,ApAの系とpGpGの系の構造化学的特性が同様であるという仮定の基では,本研究結果から「エナンチオ交叉阻害」に関して次のような考察が可能である.
本研究で左巻きに類別されたL-(ApA)およびADpALの3'-末端はL型のアデノシンで,これらは相補鎖RNAとの三重鎖が非常に不安定になる.従って,鋳型指示重合反応で生成する3'-末端にL型ヌクレオチドを持つダイマーは鋳型との多重鎖形成にも大きく不利に働き,重合反応に適した反応場を形成できなくなることを示唆している.つまり,ラセミ体モノマーを用いた鋳型指示重合反応は,3'-末端に取り込まれたL型ヌクレオチドの立体的要因による重合活性の低下と,反応初期に生成するダイマーのプライマーとしての活性低下という2つの要因で相乗的に阻害されているものと考えられる.
また,ヘテロキラルなオリゴマーでも,そのすべてが鋳型鎖との多重鎖形成能が極端に低下するわけではなく,少なくともダイマーレベルでは3'-末端がD型であればD-ホモキラルなダイマーとほぼ同等の多重鎖形成能を有することから,3'-末端にD型ヌクレオチドを持つホモキラルおよびヘテロキラルなダイマーはより長鎖のオリゴマーへと伸長していく能力を有しているかもしれない.しかし,このようなダイマーも3'-末端にL型のモノマーが付加しトリマーになると,立体的要因およびプライマー活性の低下でさらなる伸長反応が阻害される可能性が考えられる.以上のことから,鋳型指示重合反応における「エナンチオ交叉阻害」の本質的な要因は,反応初期にD ,L双方のモノマーが水素結合を介して鋳型上にランダムに整列しL型モノマーを排除できないことにあると想像できる.従って,鋳型上への整列時にL型モノマーを排除する機構を見い出すことができれば「エナンチオ交叉阻害」の問題を解決できる可能性があると考えられる.

4 結論

ApAの4種の光学異性体を合成し,その構造を核酸分解酵素による分解反応およびCDスペクトルによる解析,さらにpoly(U)との三重鎖形成能の比較により,ApAのらせんの巻き方は3'-末端側残基のキラリティーによりほぼ一義的に決定されていることが強く示唆された.また,このらせんの巻き方が相補的なRNAであるpoly(U)との三重鎖の安定性に大きく影響していることから,モノヌクレオチドの鋳型指示重合反応における「エナンチオ交叉阻害」の問題について議論した.さらに詳細に「エナンチオ交叉阻害」の問題に言及するには,トリマー,テトラマーなどのより長鎖のヘテロキラルなオリゴマーの鋳型RNAとの多重鎖の安定性やモノマーとの反応性を評価していく必要がある.

参考文献

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