ISSOL '02 報告


横浜国立大学大学院工学研究院 小林憲正

(kkensei@ynu.ac.jp)


 2002年6月30日から7月5日まで,メキシコのオアハカ(Oaxaca)市において第10回ISSOL会合および第13回生命の起源国際会議 (ISSOL '02) が開催された。メキシコは,メキシコ国立自治大学(UNAM)を中心に,生命の起源研究の盛んな国であるが,もちろんISSOLが開催されるのは今回が初めてである。  初日(30日)は登録とミキサーで,翌1日(月)から5日(金)まで,セッションが行われた。場所は,郊外のヴィクトリアホテルで,オーラル会場とポスター会場が設けられた。前回のサンディエゴ大会では,パラレルセッションが試みられたが,不評のためか,今回はオーラルは1会場のみである。オーラルは,毎日,テーマを決めて,そのテーマに関するプリーナリー講演,一般講演,さらに新しい試みとして,「ラウンドテーブル」が設けられた。これは,2時間程度の時間枠の中でひとつのテーマに関して数名が次々と発表するというものである。ただ,発表者同士のやりとりの時間はあまりなく,どちらかといえば,ミニシンポジウムという趣であった。  主要な討論テーマは,1日(月)が地球外有機物,原始地球環境,2日(火)が前生物合成,ポリマーと複製,RNAワールド,3日(水)が進化遺伝学,4日(木)が化石中の生命の記録,初期進化,歴史・哲学・教育,5日(金)がアストロバイオロジー(Astro-biology)などであった。また,ポスターは全体を2分して,1日と4日をコアタイムとして行われた。  印象に残ったのは,セッション初日の冒頭のL. Orgelによるオープニングレクチャーである。Orgelは,RNAワールドに関わる諸問題について45分にわたり講演した。まず,RNAワールドの重要性について前半で述べるとともに,後半では,その問題点,特に前生物的にRNAワールドが形成されるのがいかに大変かという点についてもはっきりと触れていた。「あまりありそうにない(marginally plausible)条件下での効率の悪い合成は,われわれの目標ではない」。そして結論として,RNAワールドの前の段階がまずあり,その後にRNAワールドが成立したというアイディアを述べた。翌日,J. P. FerrisがやはりRNAワールドに関連した内容のプリーナリー講演を行ったが,彼は同じような材料を用いて,RNAの合成がいかに容易かと述べるにとどまったのは,Orgelと好対照であった。  その他,4日には35億年前の「微生物」化石に関するJ. W. SchopfとM. D. Brasierとの対決などもあり,また, HCNポリマーに関するC. N. Matthewsのコメントや,R.Shapiroの毒舌なども毎回おなじみのものであった。最後は,ノーベル賞受賞者のC. deDuveの特別講演に対する大喝采で終了した。  2日〜4日の昼食時に,評議員会が開催され,種々の議題について議論が行われた。今後3年間のISSOLの会長として,メキシコのA. Lazcano, 副会長は,フランスのF. RaulinとアメリカのD. Deamer, 書記はドイツのG. Horneck(再選),会計はフランスの A. Brack,評議員はM. Chada他11名(日本からは小林)という陣容である。最大の議論は,次のISSOL 05の開催地である。フランス(Raulin),中国(Zhao),日本(小林)が招致演説を行い,その後の討論の結果,2005年7月に中国の北京で開催することに決した。ただし,中国での開催が政治的,経済的理由で困難になった場合は,1年以上前の通知により日本で開催することが付帯条件としてつけられた。その場合,日本の案である,新潟市での開催を考える必要がある。どのような形で備えるかについて,引き続き,ワーキンググループで議論していく予定である。  その他,新たな若手研究者に対する賞 (Miller Award)の創設が決まった他,会誌や学会名の変更などがの議題として上った。会誌や学会名に関しては,アメリカを中心とするAstrobiology*グループの取り込みをはかるため,Astrobiologyという語を入れる(例えば,Journal of Astrobiology and Origins of Lifeなど)の案が提示されたが,継続審議となった。また,会員数が500を越えたこと(内,日本からは44名),会誌のimpact factorが1999年は1.654と,1を越えたことが報告された。  最終日の夕刻には,恒例のBanquetが市内の歴史的なホテルで開かれた。この席で,種々の賞の授賞が行われた。ISSOL Fellowには,J. Kasting,D. Demarais,D.Deamer,F. Raulinの4会員が選ばれた。また,学会のベストポスター賞は,宮川伸さん(現在,アメリカのRensselaer Polytechnic Instituteに在籍)に与えられた。最後に,Oparin AwardがスイスのA. Esschenmoserに授与された。  今回の学会は,前回(サンディエゴ),前々回(オルレアン)の参加者が約350名だったのと比べると200名台と,かなり参加者は少なくなった。これはメキシコおよびアメリカ(トランジット)のビザの問題もあったようだ。日本からの参加者も,これまでの常連の方々が大幅に減り,若手中心の13名(同伴者は除く)にとどまった。生命の起原および進化学会員を中心にISSOLへの入会とISSOL 05への参加を呼びかけていきたい。(入会希望者は,小林までご連絡下さい。) *Astrobiologyについて Astrobiology(アストロバイオロジー)は、1990年代後半にNASAにより創案された新語であり,地球および地球外における生命の起源・進化・分布と未来を研究する学問領域と定義されている.NASAはこのAstrobiologyを今後の活動の大きな柱として打ち出した.これは,惑星探査の主要な目的が,宇宙・惑星・生命といったわれわれのルーツを探ることであり,また納税者への説明にも「宇宙生命」のキーワードが有効と考えられるためと考えられる.そして1998年より,建物のない新方式の「バーチャル研究所」,NASA Astrobiology Institute (NAI)を設立し,11の研究グループを選定した.現在は,15の研究グループに拡大され,バジェットも当初の4倍にふくれている. Astrobiologyの研究範囲は極めて広く,生命の起源・進化に直接関わる研究に加え,初期地球や火星・エウロパなどの惑星環境の変遷といった惑星科学的課題,さらには極限環境生物学など多岐にのぼる. NAIは米国内の組織ではあるが,1999年以降,海外の機関との連携も始まった.現在は、フランスのGroupement de Recherche en Exobiologie,イギリスのUK Astrobiology Forum and Network,スペインのCentro de Astrobiologia,オーストラリアのAustralian Centre for Astrobiology が公式の連携機関であるが,他のヨーロッパ諸国でも,ESAの音頭により創立したEuropean Network of Exo/Astrobiologyを通して連携が始まっている.しかし,日本では宇宙研やNASDAなどにもアストロバイオロジーの受け皿がない。生命の起源研究の活性化・国際化のためにも,生命の起原および進化学会が中心となり何らかの対策を講じる必要がある。

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