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Racemerization of Alanine in a Simulating Submarine Hydrothermal Systems

Atsushi Nemoto, Ei-ichi Imai, Hajime Honda, Kuniyuki Hatori and Koichiro Matsuno

Department of BioEngineering, Nagaoka University of Technology, Nagaoka, 940-2188, Japan
TEL 0258-47-9421 FAX 0258-47-9453
E-mail: nemozi@stn.nagaokaut.ac.jp

Abstract
Enantiomeric excess in alanine molecules was examined with the use of a flow reacter simulating hydrothermal vents. Ten percent excess of D-enantiomer species was detected at 230oC under 23MPa. Biased racemization of amino acids under submarine hydrothermal environments should play a key role to biological homo-chirality.



海底熱水噴出口環境におけるアラニンのラセミ化

根本淳史、今井栄一、本多元、羽鳥晋由、松野孝一郎
長岡技術科学大学 生物系
〒940-2188 新潟県長岡市上富岡町1603-1
TEL 0258-47-9421 FAX 0258-47-9453
E-mail: nemozi@stn.nagaokaut.ac.jp


要旨

海底熱水噴出口環境を模倣した進化フローリアクターを用いて、アラニンのラセミ化を定量的に計測したところ、D-エナンチオマーの方が10%過剰となった。この反応におけるエナンチオマーの過剰率は溶液のpHにかかわらず、塩化ナトリウムに依存することが判明した。イオン強度が高くなると対掌体間偏りは減少した。この結果は、海底熱水噴出口環境においてはラセミ化反応に偏りが生ずることを強く示唆する。

1. 緒言

生体のタンパク質構成アミノ酸は特殊な場合を除いてL体で構成されているのに対し、生体が関与しない有機反応などではアミノ酸はD体とL体が等モルずつ生成される。従って、光学活性の起源と発展を考えることは化学進化の中で重要となる[1-14]。我々は、原始地球における海底熱水噴出口の環境は明らかにされていないが環境原始地球上での化学進化において重要な影響を及ぼしていたと考え、海底熱水環境下でのラセミ化反応に注目し特にそこでのアミノ酸のラセミ化反応を取り上げた。

2. 実験方法

2-1 進化フローリアクター

海底熱水噴出孔を開放・非平衡系の反応の場として捉え、実験室レベルで再現した装置である。進化フローリアクターは、Imaiら[3,4]によるものを用いた。この装置は、高温・高圧環境と低温・高圧環境がノズルを介して接触する。反応物質はポンプによって高温・高圧環境を想定した反応炉に送り込まれ、ノズルを介して低温・高圧環境下に噴出される。これによって持続的なエネルギーと物質の供給を可能とし、高温で生成された反応物を急冷することで分解の抑制が行われる。
2-2 実験手順

a. 試薬

実験に使用した水は蒸留水をイオン交換樹脂(オレガノ、G-5A)、純水製装置(ミリポア、Milli-Q SP)で処理したものを使用した。 アラニンはシグマ社の試薬特級を使用した。その他進化フローリアクターによる出発反応溶液のpH調整、イオン強度のための試薬および高速液体クロマトグラフィー関連試薬は和光純薬の特級試薬を用いた。

b. 進化フローリアクターの運転

(1) 出発溶液の調整

10mM L-アラニンまたはD-アラニンに対し、塩酸でpH=4.0、水酸化ナトリウムでpH=8.0に調整したもの、および塩化ナトリウムを加えた反応出発溶液600 mlを吸引フラスコ(PYREX, 1000ml)に入れ、アスピレーターおよび超音波処理(ヤマト科学、BRANSON 3200)を併用して脱気処理を行った。溶液の調整および脱気処理は進化フローリアクター運転の直前に行った。

(2) 進化フローリアクターの組み立て

進化フローリアクターの運転時の溶液はすべて500 mlに統一した。高温・高圧チャンバー(容積 15.7 ml)、低温・高圧チャンバー(容積 78.5 ml)に出発溶液を入れ、チャンバーの端にカラムジョイントを嵌めナットで締めた。低温・低圧容器(PYREX, 500ml三角フラスコ)には残りの容積 407 mlを入れた。チャンバー間のステンレスチューブ内の容積は全体の容積に比べ微量であるため無視した。溶液を充填したチャンバーをステンレスチューブで接続し進化フローリアクターを組み立てた。ステンレスチューブの接続はオシネジョイント(ジエールサイエンス、1 / 16OW)およびフェラル(ジエールサイエンス、 1 / 16FS)を用いた。

(3) 圧力調節

無脈流ポンプを稼動させ、無脈流ポンプの出口に設置した圧力計の表示が23MPaになるようポンプの流量を調整した。流量はポンプの流量設定つまみを調整し、モーターの回転数を変化させることで流量を調節する。運転時における反応溶液の流量は8〜12 ml/minであった。運転時においては、流量を変化させることで圧力一定を優先した。

(4) 高温・高圧チャンバーの加熱および測温

高温・高圧チャンバーを円筒形電気炉の中央部に保持し、高温・高圧チャンバー全体を加熱した。電気炉に印加する電圧は電圧調整器(CHINO DB-1000)で調整した。高温・高圧チャンバーの出口にK型シース熱電対を接触させ温度を測定した。熱電対の起電力は電圧調整器(同)を使用し、温度表示に変換した。加熱開始直後は95Vを印加して急速加熱し、15分後に150℃、20分後に230℃に達するように加熱条件を一定にした。

(5) 低温・高圧チャンバーの冷却および測温

低温・高圧チャンバー全体を冷却水槽に浸すことで、低温環境を実現した。氷を浮かべた冷却水槽に低温・高圧チャンバーを浸し、クールニクスサーキュレータで水槽内の水温を0.0℃から2.0℃に維持した。低温・高圧チャンバーの温度はクールニクスサーキュレータの循環液の水温を目安とした。なお進化フローリアクター運転時は冷却水槽の水面に絶えず氷を補給し、安定な冷却を実現した。

(6) 進化フローリアクターの生成物の採取
進化フローリアクターでは循環している反応溶液を一定時間間隔毎に低温・高圧チャンバー出口から採取した。通常運転時においては進化フローリアクター最下流部のSUS316チューブ先端を低温・低圧容器にいれることで循環を実現しているが、生成物の採取時においてはSUS316チューブ先端から排出される溶液を容量2 mlのバイアル容器(フナコシ、2 mlマルチスクリューバイアル自立型)に1 ml採取した。採取間隔は、運転開始後最初の30分は5分間隔、運転後30分からは15分間隔毎で行った。

2-3 分析方法

反応生成物の同定・定量はHPLCの吸光度からエナンチオマー過剰率(光学純度)ee[%]を以下の式により計算した[10]。

HPLCは送液ポンプがL-7100(日立製作所)、蛍光検出器RF-235(島津製作所)、データ処理装置D-2500(日立製作所)を用いた。ピークの時間および面積はデータ処理装置の演算結果を採用した。カラムはYMC社の逆相カラムODS-M80( 5μm / 4.6nm×250mm )を使用した。移動相はAswadら[14]の方法を参考にした。pHの調整には水酸化ナトリウムを加え、HORIBA pHメーターを使用した。移動相はポアサイズ 0.2μmのPTFEメンブランフィルター(ADVANTEC、直径47nm)による減圧濾過(ADVANTEC、減圧濾過用フィルターホルダー KG-47およびKGS-47)を行い、濾過および脱気を行った。サンプルインジェクターへの試料注入はマイクロシリンジ(HAMILTON、701RHEO SYR、10μl)を用い5μlを注入した。移動相の流量は0.5ml/min、蛍光検出器の励起波長は320nm、検出波長は440nmを採用した。

3. 結果

3-1 対掌体の生成

アラニンを純水に溶解しリアクターで反応させると光学純度は低下した。ラセミ化反応におけるエナンチオマー過剰率の減少をFigure 1に示す。反応時間120分ではL-対掌体を反応させた場合D-対掌体が5.8mM生じたが、D-対掌体の場合はL-対掌体が5.3mM生じた。即ち、D-アラニンから開始されたラセミ化反応は光学純度約15%で見掛けの定常状態に達したが、L-アラニンから開始した場合は、5%よりさらに減少した。反応溶液にHClを加え、pH=4.0にして反応させた結果をFigure 2 に示した。いずれの異性体から反応を開始しても優位な差は見られず、反応時間120分においても、減少傾向にあった。一方、アラニン溶液にNaOHを加えて、pH=8.0にした場合の結果をFigure 3に示した。この場合も、反応時間120分では、まだラセミ化反応が見掛けの定常状態に達していなかった。


Figure 1. Decay of optical purity at pH=5.3. L or D enantoimer of alanine was reacted with a flow reactor. pH was not adjusted but measured to be at pH=5.3. Symbols are the same as described in figure 1. Filled symbols indicate isomerization from D- to L-, open symbol from L- to D-.



Figure 2. Decay of optical purity at pH=4.0. L or D enantoimer of alanine was reacted with a flow reactor. pH was adjusted by adding HCl to the reaction medium. Change of pH was not monitored after the reaction was started. Symbols are the same as described in figure 1.



Figure 3. Decay of optical purity at pH=8.0. L or D enantoimer of alanine was reacted with a flow reactor. pH was adjusted by adding NaOH to the medium. Symbols are the same as described in figure 1.


3-2 イオン強度

DまたはLアラニンの溶液に0.5M のNaClを加えて同様の実験を行った。この時、pHは5.8であった。光学純度の時間変化をFigure 4に示した。イオン強度を上げると、L-対掌体とD-対掌体の間の差は消失した。


Figure 4. Decay of optical purity in the presence of 0.5M NaCl. L or D enantoimer of alanine was reacted with a flow reactor in the presence of NaCl. pH was not adjusted but measured to be at pH=5.3 before the reaction was started. Symbols are the same as described in figure 1.


3-3 温度・圧力

本実験で用いたフローリアクターは、運転開始後約20分で高温部の温度が一定になる。対掌体は進化フローリアクターを運転してから10~20分の間で急速に生成された。リアクター内の圧力は反応開始後1分以内に23 MPaに達した。

4. 考察

本実験で用いたフローリアクターは、運転開始後約20分で高温部の温度が一定になることがわかっている。この時間は対掌体が急速に生成する時刻と一致する。このことから、ラセミ化反応はリアクター内部の温度が200℃程度に上昇したときに起こると考えられる。
海底熱水噴出孔を模倣した環境下でのラセミ化反応は塩化ナトリウムの影響を強く受けた。pHの影響を受けるかどうかは本実験では明らかにされなかったが、ラセミ化反応はアルカリ性の方が起きやすいという熱平衡系の実験結果とは異なっていた。 反応経過に着目すると、対掌体が生じ始めてから最初の約20分間は光学純度が急速に減少するが、120分たっても徐々に減少を続ける傾向にあった。これは、素早く進行する反応とゆっくり進行する反応を含む二種類以上の異なる反応が関与している可能性を示している。本実験では、分析上の理由から、D-対掌体とL-対掌体のそれぞれについて重合度を考慮に入れていない。したがって、ラセミ化と重合反応とのかかわりで、さらに大きく対掌体に偏りが生じる可能性がある。

5. 結論

海底熱水噴出口環境は有機合成反応の適した場であると考え、熱水システムにおけるアミノ酸のラセミ化反応に注目して今回の実験を行った。その結果、光学純度で10%に相当する偏りが見られた。本研究は、原始地球上において行われた非平衡過程を伴うラセミ化反応により、対掌体の偏りが生じることを強く示唆した。


参考文献

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4 Imai, E., Honda, H., Hatori, K., K., Brack, A., and Matsuno, K.: Autocatalytic synthesis of oligoglycine in a simulated submarine hydrothermal system. Origins Life Evol. Biosphere 29, 249-259(1999)
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14 Kawamura, K. and Yukioka, M.: Kinetics of the racemization of amino acids at 225-275℃ using a real-time monitoring method of hydrothermal reactions. Thermochimica Acta 375, 9-16(2001)
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